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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第4章 死者の導き手編
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一人じゃない(代)[後編]

メイサが広場で自分とスケルトンとの関係(「救った」と「救われた」の関係)を話す。周囲の者達は彼女の話し方とその内容に違和感を覚える。しかし彼らはそこでメイサがあのスケルトンを救ったと思う。しかしそれは翔太による誘導。翔太は“声質変化”とテイルの力を使ってメイサの代わりに話していた。しかしその話をする前に彼らは、メイサがジレンマで苦しんでいるのを知って、街の人たちだけではなくメイサも守りたいと考え、この方法を選んだ。そこで最後の関門とも言える、メイサの感情的な問題を解決するためにアリスが彼女の説得に動いたのだった。

 説得に向かったアリスは俯いたままのメイサに、翔太の考えを伝えた。

 しかしそれを聞いたメイサの表情は先ほどと変わらず儚げなもののまま。


 アリスはそんなメイサに説得を続ける。


「やっぱり、私たちじゃ信用できない?」

「いえ、そんなことはありません。ただ……私が皆さんを巻き込んでしまったのがいけないんです。だからこの件も私一人(・・・)で解決しなきゃいけないんです」


 この時、アリスは表情すら変えないメイサの言葉に気になる箇所を見つけた。


「じゃあどうして私たちに本当の事を話したの?」

「……えっ?」


 アリスの唐突な追及に、メイサは思わず気の抜けた声が出てしまった。

 アリスが指摘したのは、メイサが十年前の真実を翔太たちに話した事である。それというのも、そもそもメイサは真実を話す必要性はなかったのだ。もちろん、話すきっかけが勘違いだったからとはいえ、誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化せたはずである。

 それではなぜ、メイサは翔太たちに真実を話したのか。


 それは彼女が心のどこかで誰かの助けを求めていたからである。もちろんメイサ自身、この街の人たちを守れるのは自分だけしかいないということは重々承知している。

 しかしそれと同時に「一人」の限界を感じていた。一つ間違えれば死人が出てしまうという重圧が重くのしかかり、それでも街の人たちに相談できず、彼らに嘘をつき続けなければいけないことが彼女を苦しめていたのだ。


「メイサだって心のどこかで誰かに助けてほしいと思っていたから、私たちに話してくれたんじゃないの?」

「ですが、私はこれまでずっと一人で……」

「今は、私や翔太がいる! あなたはもう一人じゃないのよ!」


 真剣な表情で見つめるアリスの眼差しは上っ面だけの軽い言葉ではなかった。

そこでようやくメイサは「もう一人じゃない」、手を伸ばしてくれる仲間がいることを認識することができたのだ。

 その時、メイサの中で重苦しくのしかかっていた何かが無くなったような感覚があった。


 アリスはそんなメイサに、さらに言葉を付け加える。


「それに、翔太もメイサさんの心境を理解していると思うから、それなりに(・・・・・)上手くやってくれると思うわよ?」


 アリスの余計な一言が含まれている言葉を聞いたメイサは、過去に翔太が覗きの冤罪を被らないために一芝居を打ったことを思い出し、失笑した。

 状況から考えうるに、翔太には良くも悪くも対応力があるのは明らかである。


 しかしそれでもメイサの中では、やはり言えない理由があるといえ結果的に自分の代わりに仲間に嘘をつかせることへの罪悪感がまだ残っていた。

 だからこそ彼女の口から出てきたのは謝罪の言葉だった。


「……すみません」

「水臭いわね。こんな時は『ありがとう』でいいのよ」


 俯きながら話すメイサの言葉に対して、アリスは笑顔でそう切り返した。

 だからこそ、メイサも笑顔で答えた。


「ありがとう……そして、宜しくお願いします!」


 力強く答えたメイサの目は先ほどのような弱々しいものではなく、明らかに強い覚悟が見えていた。


 そうしてメイサから了承を得たアリスはそのまま彼女の横に並んだ。これも翔太の指示である。

 翔太がアリスをメイサの近くに待機させたのは、アリスに注目を浴びせることで自分の存在に気づかせないためであると同時に、メイサの話の途中で彼女が魔獣を助けたことを咎めたりなど、乱入する者が現れた時のために、メイサの護衛をしてもらうためである。


 そしてアリスの説得によって完成したのが、メイサの口パクである。

 メイサは発していないはずの自分の声が出ていることに最初は違和感を感じつつも、次第に慣れていくと、翔太のそこそこ真実に近い話を聞いていた。そして心の中でその話にツッコミを入れていた。


 例えば、メイサと今問題となっているスケルトン、ジューハがこの街で再会したという部分である。確かに、彼女たちはこの街で再会している、再会してはいるのだが、それは十年前とつい先ほどの計二回というのが正しいのであって、翔太の話ではつい先ほど再会したというような口振りなのである。

 どちらも過去の出来事とはいえ、今と十年前では話にかなりの差異が生じるだろう。翔太はそこを綺麗に隠しているのだ。


 嘘はついていないが、真実を話しているわけでもない。

 よく言えば巧みな話術、悪く言えば姑息と言ったところだろうか。


 メイサはそんな翔太に呆れつつも、一周回って感心していた。不思議な感覚だが、自分一人ではこのような誰も傷つかない手立てを思いつかなかっただろうと感じたからである。

 その時、彼女の耳に翔太の指示が伝わってきた。


    ◇◆◇


 メイサがあのスケルトンとの物語を話し終えると、街の人たちは改めてメイサの優しさに感動していた。それは彼らがメイサの人柄を知っていたからか、はたまたメイサの熱烈なファンたちの涙にあてられたからなのかは定かではないが、とにかく感動していた。

 しかしそれと同時に、今回の事件はメイサが原因だということも理解した。


 そこで街の人たちがメイサにこの街から去ってくれないかと提案しようとした。そうすればあのスケルトンも彼女の後を追って、この街から離れていくだろうと考えたからである。

 しかし彼らがそう言う前に、メイサが話を切り出す。


「……今回の出来事は全て、私が原因で起こったことです。皆さんにご迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 メイサはそう言うと、街の人たちに深々と頭を下げた。そうして数秒頭を下げた後、頭を上げるとさらに言葉を続ける。


「私は今日でこの街を去ります。この街で過ごした日々は決して忘れません……今まで本当にありがとうございました」


 そう言うと、メイサは街の人たちに笑顔を向けた。しかしその笑顔は哀愁を帯びており、哀しい気持ちを必死に押し殺しているようなそんな表情だった。

 そしてその笑顔は街の人たち全員に、ある思いを抱かせていた。


 それは罪悪感。

 彼らはこの街を守るためとはいえ、か弱い女性一人を大の大人が寄ってたかって、まるで尊い犠牲と言わんばかりに責めようとしていたのだ。

 もしも自分が同じ立場だったら、果たして彼女のような自己犠牲ができるだろうか。そんな考えが、より一層彼らを自己嫌悪させていた。

 とくに先ほどまでメイサをあのスケルトンの手先じゃないかと疑惑の目を向けていた者達は、そんな発想をしてしまった自分を生涯の恥とさえ思っていた。


 そして多少の語弊があるとはいえ、メイサの事情を知った彼らは気づいた、そもそもこの事態は彼女が悪いのかと。

 確かに原因を作ったのはメイサであることは事実である。しかし彼女はただ、女神のような慈愛で助けただけであって、悪いのはこの街を攻めたのはあのスケルトンである。しかも攻めてきた理由は極めて独りよがりなもので、その気持ちに同情する余地はない。

 そうして街の人たちの中で、メイサはむしろ被害者なのではないかと考える人が増えていった。


 その時、メイサのファンであるガユハを筆頭に、熱狂的なファンたちが一斉に声を揃えて叫んだ。


「「「メイサさんは悪くない!」」」


 その声を聞いて、他の者達も彼らの言葉に賛同し、一斉にあのスケルトンの元に向かおうとしているメイサを引き留め始めた。もはや彼らにそんな彼女を蔑ろにできるはずがなかった。

 そしてそれは同時に、魔獣の軍団と戦う覚悟が決まった瞬間でもあった。


「……良いんですか? 私がここにいればあのスケルトンはこの街を襲ってくるんですよ? そしたら皆さんのうちの誰かが死んで……」


 盛り上がる街の人たちに対して、メイサは震えるような声で彼らに考えを改めるようになだめようとした。

 しかし彼らは彼女の言葉を途中で遮った。


「メイサさんのような優しい人が、あんな化け物の犠牲になることはないよ! あなたはこの街にいてもいいんだ!」

「そうだそうだ! メイサさんはいつも俺たちを助けてくれる、大切な人なんだ! だから行かないでくれ!」

「ずっとこの街に居てくれ!」


 そうして広場はメイサを引き留める声で溢れかえっていった。


 そんな状況になった時、物陰で笑みを浮かべる男がいた。

それはこのような状況になるように仕組み、メイサに街の人たちの罪悪感を煽るように儚い笑顔を向けるように指示した翔太である。


 人は良心に基づいた行動を好む。だから人を動かすにはその利点と良心に訴えかけるのが効果的である。

 ただし、これはもはや説得というよりも扇動である。しかしそれでも翔太は彼らに謝罪をすることはない。なぜなら、これは仲間であるメイサを守るためであり、決して「間違い」ではないと心の底から思っているからである。


 ただ、あえて付け加えるのならば、翔太はメイサに少しでもこの街の人たちの本音を聞かせてあげたかった。自分のせいで街の人たちがと考えている彼女に、ここが彼女の居場所だと伝えたかったのだ。

 そしてそれはメイサの心に届いていた。度重なる罪悪感と重圧から解放され、こんな自分でも居て良いという言葉が彼女の心の奥底に響いていた。


 その言葉を聞いたメイサは涙を流しながら深々と頭を下げて、翔太の“声質変化(ボイス)”ではない、自分の本当の声で「ありがとうございます」と述べた。

 その声は間違いなく、彼女の心の底から出た感謝の言葉だった。


「……計画通り」

「翔太様、これまでで一番悪い顔してますね」


 そんな彼女たちの姿を物陰から見ていた翔太は呟くと、テイルがそれにツッコミを入れた。

 そうして街の人たちの味方につけたメイサ、もとい翔太は再びメイサの声を使って話を続けた。


「本当にありがとうございます。ですが、皆さんはこの状況を打開しうる策があるのでしょうか?」


 メイサのその言葉に、街の人たちは一斉に困った表情をしていた。

 現状では、圧倒的な兵力差に加えて、疲労しない敵を相手に攻防戦をするのはあまりにも無謀である。


 その事実に、街の人たちが歯痒い思いをしている時、メイサが言葉を続ける。


「それでしたら、翔太さんの話を聞いてみるのはどうでしょうか?」


 メイサの言葉に動揺の声を上げる街の人たち。しかしそんな彼らなど気にすることなく、翔太は物陰からその姿を現し、メイサの隣に移動した。


 当然、最初は街の人たちもよそ者である翔太たちに疑いを持ったが、あのメイサの提案ならば、尚且つイエローフォレストを抜けてきたという翔太たちの噂は耳にしていたため、話を聞く価値はあると思っていた。

 ただそれ以上に、彼らは負けたくなかったのだ。大切な(メイサ)を守るために、このふりを覆す逆転の一手を求めているのだ。


 そんな期待と覚悟の眼差しを向けられているなか、満を持して翔太は口を開いた。


「賭けになりますが、一つだけ策があります」


    ◇◆◇


 約束の時間が経ち、ジューハはメイサのいる街へと視線を向けた。しかしその際、彼はイエローフォレストから姿を出さず、声だけを街に轟かせていた。


「メイサ! 約束の時間だ、我の元へ来い!」


 そう言うと、南の門が開き、そこからメイサが姿を現した。

 しかしそこにはメイサだけではなく、もう一人いた。それは翔太である。


 そして翔太はメイサと共に門の外へ出ると、誰かさんに見せつけるように、急にメイサの肩を抱き寄せて高らかに叫んだ。


「メイサは俺の女だ!!」


私用で一か月以上更新できず、すいませんでした。今は時期的に忙しいので次回の投稿も1~2日ほど遅れます。すいません(新年明けての初投稿なのに……)。

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