一人じゃない(代)[前編]
ジューハが去った後、メイサは兵士たちに追究される。そこでメイサは街に戻ったら話すと告げ、一人で街に戻る。その時彼女は、真実を話せば街の人たちを拒絶反応が起きてしまうことを危惧しながらも、だからと言ってこれ以上街の人たちを騙したくないというジレンマに苦しむ。そうして街に到着したメイサは広場で話す流れが出来ていた。その時、アリスと何らかの会話をしていた。その後、メイサのいつもとは違う雰囲気の声が広場に響く。
街の者達は困惑していた。それはこの街始まって以来の異常事態であるスケルトンの軍勢のこともそうなのだが、この場に限ってはそうではない。
彼らが気になっていたのは、メイサの調子が普段とはどことなく違うところである。
「え~、皆さん、この声が聞こえていますか?」
彼らの耳に届いたその声は間違いなくメイサのものだった。これはこの街の者なら誰でも分かることであり、間違うはずもない。
そんな彼らがどうして彼女を疑ったのかというと、それは彼女の声の抑揚に違和感を覚えたからである。
もちろん彼らも、たった一言聞いただけで「これは違う!」などと断言できるわけではない。
ただ、普段の彼女はもっと落ち着いた様子で物腰の柔らかい印象なのだが、さっきの言葉はどこか粗雑な印象がしたような、まるで男が女の話し方を真似したような。
とにかく、彼らはメイサの声の抑揚にどことなく普段とは違う印象を受けたのだ。
しかし目の前にいるのは正真正銘メイサ本人、それは疑いようのない事実。
だから彼らはその違和感に気づきながらも、何も言うことができずにいた。その結果、彼女の話を黙って聞くことになった。
「……私はあのスケルトンについて知っています」
既に周囲で疑いの空気が流れるなか、メイサの言葉で周囲の者たちはさらにざわめく。
そしてそこからメイサは話を続けた。
その内容はやけに物語チックで要約すれば、過去にメイサと街に届いた声の主であるスケルトンとが出会ったことがあり、その時にとある事件でメイサとあのスケルトンが「救われた」と「救った」という関係になったこと、そして彼女たちは偶然この街で再会したというもの。
ただ当然のことながら、この話を聞いた周囲の者達は彼女の話を疑った。
それでもこの街の者たちの中には、メイサのことを優しさにあふれた人物だと認識しているため、もしかしたら本当に彼女がスケルトンを助けた(・・・・・・・・・・・・)のかもしれないと考えていた。
しかし彼らがそう考えてしまった時点で既に彼の術中にはまっていた。
そしてこの街の者達がそう考えるように誘導した人物は今もなお近くの民家の陰で姿を隠している。
◇◆◇
これはメイサが街の広場に到着する少し前の話。
翔太とアリスはメイサの後をついていくように街へと戻っている道中で、自分たちはこの後どうするべきか考えていた。
ただここで結論を出すのはそう難しいことではない。
それでも翔太たちが頭を悩ませているのは、既にメイサが街の人たちを気遣って真実を話すのに抵抗があることを見抜いていたからである。メイサとは短い付き合いの彼らでも、それぐらいの事ならば見れば分かる。
否、見て分かるほどにメイサは苦しんでいたのだ。
だからこそ、翔太たちは今の自分たちに何ができるのかを考える。
翔太たちは、それはもう必死に考えた。そうして出てきた案というのが、街の人たちにメイサは敵ではないと認識してもらうためにそれらしい話をすることである。
もちろん、彼らもこの案がメイサの想いとは異なることだということは重々承知している。しかしこれ以外に街の人たちを守る手段が見つからなかったのだ。
ただそれでも、今この時もメイサが守りたい気持ちと今まで嘘をついていたという罪悪感とのジレンマで苦しんでいるからこそ、翔太たちは街の人たちだけではなく、メイサも守る(・・・・・・)ために尽力しようと考えを改めた。
ただ、この案には感情的な問題とは別に、物理的な問題が浮かび上がった。
それは話をするにあたって、その打ち合わせができないということである。
これはメイサがもうすぐ広場に到着してしまうから打ち合わせをする時間がないというのもあるが、それとは別の理由がある。
それは翔太たちだけで話し合いを始めると、周りの者達にあらぬ誤解を受ける可能性があるからである。例えば、口裏を合わせていると思われた場合では、何か後ろめたいことがあるから、そんなことをしていると思われてしまうだろう。
このような誤解から、疑いが生まれてしまう。そうなってはメイサの疑いを晴らすことはさらに困難なものになるだろう。
そこで翔太が思いついたのは、ぶっつけ本番で翔太が“声質変化”を使ってメイサのふりをして話すことだった。
当然、翔太も話すべき内容をある程度まとめる時間が必要なため、そこはアリスがその時間稼ぎとメイサに状況を伝えるという役回りになるだろうが、それでも打ち合わせをする時間の必要や余計な誤解を生むリスクが無くなる。
しかしここで新たな問題が浮上した。
それはどんなに頑張っても、周囲の者達に翔太が話していることがバレてしまうことである。
それもそのはず、いくらメイサが話している風に装っても翔太が口を動かしていれば誰だって翔太が声真似で話しているのではないかと怪しむだろう。
また、その事態を避けるために翔太がその場から遠くに離れて大きな声で話しても、その時点でメイサが話していないことがバレるだろう。
翔太が能力を使って話す以上、この問題はどんなに頑張っても避けられない。そのため翔太は再び頭を悩ませた。
するとその時ふと、見た目は子供、頭脳は大人の名探偵のことを思い出した。
それは麻酔針で眠らせた者を使って自分の正体を隠しながら、推理を披露して事件を解決するというもの。
もちろん、彼はふざけてなどおらず、そもそもこの世界でそんなネタをしても、分かる者などいるはずもなく、むしろ不審がられて余計な誤解が生まれるだけだろう。
ここで翔太が注目したのは、眠らせた相手に取り付けている小型のマイクのことである。
せめてマイクの代わりに声を届けるような何かがあれば良いのだ。しかしそう都合よくそんな便利なものを持っているはずもなく、翔太は何かないかと頭をフル回転させた。
するとここで、城壁の上にいた時の不思議体験の事を思いだした。
その不思議体験というのは、周囲の爆音の中でも翔太の耳にテイルの声がはっきりと聞こえたというもの。隣にいる人の声でさえ聞こえにくい状況だというのに、なぜあの時テイルの声だけ鮮明に聞こえたのか。
翔太はその疑問を解決するためにテイルに尋ねた。
「なぁ、テイル、一つ聞きたいんだが、城壁の上にいた時にテイルが俺にメイサが来たことを知らせてくれたよな? その時、何でテイルの声だけ周りの音に囚われずにはっきりと聞こえたんだ?」
「それは簡単ですよ。私の声を翔太様の耳元まで届けたからです」
「……はい?」
翔太の質問に笑顔で返答するテイル。しかし翔太は彼女の言っていることが全く分からなかった。
そこで詳しい説明をテイルに求めると、テイルは実演して見せた。
それを翔太なりの解釈で言うのならば、テイルは風の中に音を閉じ込めることで相手の耳元までその音を運ぶことができるとのこと。
だから聞こえにくい状況でも、耳元で話しているかのようにはっきりとテイルの声が聞こえたのだ。
これにより物理的な問題を見事に解決した。
後はメイサの感情の問題だけである。しかしこれに関しては、どんなに知恵を絞ってもメイサが了承しないとどうにもならない。
翔太がそれをどうしようかと考えていると、その説得役を買って出たのがアリスだった。
そうして、アリスがメイサの説得に向かったのだった。
訂正。前回の内容でジューハの一人称を「私」にしていましたが、プロローグでは「我」になっていました(いつか改稿した時に直します)。なので「我」に統一します。投稿した後に見直して「やっちまったぁ」と思いました(笑)。




