不気味な侵攻(軍)
イエローフォレストから大量のスケルトン登場。翔太たちはそれがメイサの身体を狙っているジューハの襲撃だと気づく。そこでメイサ意気消沈。翔太とアリスはそんなメイサに言葉を掛けることができず自己嫌悪。そんな翔太とアリスはギルドの要請に従い、南門に向かった。
ソールの街は、南と北に重厚な門と高く頑強な壁に囲まれている。
これらのおかげでこの街は魔獣の襲撃を受けても被害を最小に抑えることができていた。
実際、過去には百人以上の野盗たちがこの街を襲撃したことがあったのだが、どんなに火矢を打ち込もうとも屈強な壁は壊れず、彼らは街に侵入することさえできなかった。
そうして、その攻防戦はソールの兵士たちが高台から一方的に彼らを狙い撃ちにし、そのまま完勝という形で終結した。
こういった実績があるからこそ、ギルドもイエローフォレストにいるスケルトンたちが万が一ソールの方に向かって来ても、問題なく対処できると踏んでいたのだ。
しかし今回はその自信が仇になっていた。
今回の大量発生と侵攻はまさに予想外の出来事だった。この事態に関して、ギルドもすぐに行動に移したものの、彼らもこの街にいる兵士と冒険者を全員集めても撃退できるとは思っていなかった。
それほどまでに絶望的な兵力差に、兵士たちは心が折れかかっていた。
◇◆◇
南門に到着した翔太たちは梯子を使って壁の上に行って周囲を見渡すと、そこにいたのはフジツボのようにびっしりと壁にくっついている骨の群集たちだった。
スケルトンは自らの身体を踏み台にすることで後続のスケルトンたちの足場を作っていたのだ。
一方、既に到着していた冒険者やソールの兵士たちは、壁を伝って上ってくるスケルトンたちをひたすら落としていた。
幸いなことにスケルトンたちはそこまで俊敏に動けるわけではないため、二人一組で対処すればなんとか侵入を防ぐことができていた。
ただ問題なのは、その数である。
冒険者たちが何度骨を砕こうがスケルトンたちは文字通り、痛くも痒くもないためその動きを止めることはなく、さらには次から次へとイエローフォレストから新たなスケルトンが出てくるといった状況。
今はなんとか食い止めているが、疲れ知らずのスケルトン相手に持久勝負を挑むのはあまりにも無謀である。
しかしそれ以上に不気味なことがあった。それはスケルトンたちの動きがどこかおかしいことである。
具体的には、スケルトンたちが誰かの指示で動いているような節があるのだ。ただ、その動きも兵士たちを突破するというものではなく、兵士たちが手薄になった場所を向かわせるだけという、何の捻りもない動きをしていた。
もちろん、生じた隙をつくのは立派な戦法であり、今回の攻防でも有効な手段と言えるだろう。しかしその策があまりにも雑すぎるのだ。感覚で言えば、単純作業に近いだろう。
それでも兵士たちにとっては無視できない事態であるため、何度も場所を移動しながらスケルトンの侵入を防いでいた。
ただ彼らからしてみれば、まるで誰かに遊ばれているような、もしくは「群」のような動きをする「軍」を相手にしているような、とにかく言いようのない気持ち悪さを感じていたのは間違いない。
そのため、その場では「今度はこっちだ!」、「急げ、早くしろ!」などの呼びかけが多数飛んでいたため、かなり大声を出さないと意思疎通ができない状態だった。
現に、応援に来た翔太たちだったが、その場の指揮官らしき男の話を上手く聞き取ることができずにいた。
そんな時、翔太の耳にやけに(・・・)クリアなテイルの声が届く。
「翔太様!」
「ん? 今のはっきりとした声は、テイルのか?」
「そんなことよりも、あっちを見てください!」
「あっち?」
テイルに誘導された翔太は彼女が指差す方向を見ると、そこには息を切らしながら梯子を上ってきているメイサの姿があった。
「えっ、なんで!?」
「ん? どうしたの?」
予想だにしない出来事に驚きつつも、翔太はメイサの元に向かった。そんな翔太の動きに気づいたアリスも彼の後を追いかける。
そうして翔太たちが梯子の出口に到着するのと同時に、メイサも壁の上に到着した。
「あっ、翔太さん……」
「『あっ』じゃないですよ、メイサさん! どうしてここに……」
上るのに必死だったのか、メイサは翔太たちの存在に今ようやく気付いたような素振りを見せていた。
翔太はそんなメイサにどうしてここに来たのか問いただそうと、周囲の喧騒に掻き消されないように大声で彼女の名を呼んだ。
その時だった、突然この場に静寂が訪れたのは。
先ほどまで兵士たちの怒号や骨や鉄が擦れる音、鉄同士がぶつかり合う音など様々な音が飛び交っていたのにもかかわらず、今はなぜか完全に音が止んでいる。
翔太は何が起こったのか一瞬分からず、思わず「……えっ?」と間抜けな声を漏らすが、すぐにその答えに気が付く。
翔太が兵士たちの方を見た時、侵入しようとしていたスケルトンたちが一斉にメイサの方を見ていたのだ。
目がないにもかかわらず顔をメイサ一人に向け、行動を停止してるスケルトンたち。
ただ、その視線からはある感情が見て取れた。それは探し物を見つけた時に生じる感動のような、喜びに近いもの。
本来、魔獣に感情など存在しないはずなのに、目の前にいるスケルトンたちからは誰が見てもそう感じてしまうほどの感動が伝わってくる。
そのことがこの不気味さに、より一層拍車をかけていた。
兵士たちがあまりの異常事態に動けずにいるなか、メイサと翔太たちだけは真相に気づいていた。
すなわち、この侵攻が間違いなくジューハによるものだということを。
ギルドにいた時はジューハによる一件と結び付けられるような決定的な証拠がなかったため推察の域を出なかったのだが、この異様なまでの視線を見れば誰でも察しが付く。
ここまでのメイサへの執着を見せるのはたった一人、ジューハだけだと。
そうしてその場にいた者全員が異様な出来事の前に固まっていると、森の奥から声が聞こえてくる。
その声はひどく苦しんでいるようにも、何かに憤慨しているようにも聞こえるため、その場にいた者たちに未知の恐怖を感じさせる。
「メイサ……メイサ……」
何度も何度もメイサの名を呼ぶ声がだんだんと大きくなっていく。しかしそれと同時に、だんだんとその声が第三者でも分かるほどに歓喜なものに変わっていく。
翔太たちがそのことで疑問を覚えた時、森の奥から一体のスケルトンが出てきた。
それは他のスケルトンよりも一際大きく、人間だった頃の名残なのか黒い外套を身に纏っている。そして何を主張しているのかが一目でわかるような王冠を頭蓋の上にのせている。
その姿を見た兵士たちがそのスケルトンを死神だと勘違いしているなか、そのスケルトンが口を開く。
「会いたかったよ、メイサ。十年ぶりだね……」
その一声は誰が聞いても分かるほどに、再会を喜んでいる男のそれだった。もしもそのスケルトンに表情筋がついていたら、優しく微笑んでいただろう。
しかし人骨で構成されているスケルトンに表情筋なんてものがついているわけはなく、ただただ不気味さが増しただけだった。
ただし、翔太たちだけはその言葉から目の前に見えるスケルトンがメイサの話していたジューハだということをすぐに理解していた。
しかしだからといって、この状況で翔太たちができる事は何もない、というよりは何もできないと言った方が正しい。
今この瞬間、大量のスケルトンたちが動きを止めているのは間違いなくジューハの指示を受けているからである。この状況で親玉が出てくるということは少なくとも何か伝えることがあるということ。今は少しでも情報が欲しい翔太たちにとって動くメリットがないのだ。
それに加え、余計なことをしてジューハを刺激してしまった場合、彼が侵攻の指示を出してしまう可能性がある。そうなっては、この場にいる者達は圧倒的な兵力差に蹂躙されるだろう。
そうして翔太たちが黙っていると、予想通りジューハから話を切り出した。
「さて、再会を祝して色々と思うところはあるが、今回は単刀直入に用件だけを話そう。メイサよ、私の元に来い! そうすれば、この街への侵攻は止めてやろう」
今のジューハの見た目が完全にスケルトンなだけに、意気揚々と話す姿はまさに不気味そのものだった。
そんな彼の声はソールの街全体に響くように拡散されて届いた。しかもその声には明らかに、自分の勝利を確信しているような愉悦が含まれている。
「元よりお前に選択肢などないのだが、お前にはこの十年、実験動物たちの世話をしてもらったからな。だからせめてこの街の者達と心中するか、素直に私の元に来るかぐらいは選ばせてやろう。二時間後に答えを聞く! せいぜい後悔の無い選択をするんだな……」
勝ち誇ったような声でそう言うと、ジューハは森の奥へと姿を隠した。壁にへばりついていたスケルトンたちもその後を追って波のように引いていく。
しかしその光景はまさしく津波の前兆と同じく、圧倒的な力がやって来るという恐怖しか感じなかった。
そうして、その場に再び静寂が戻ったのだった。
今回は、10月30日の分を私用で投稿できなかったため、二話投稿です。




