フラグ回収(秒)
メイサは自分が人ではないこと不安を覚えていた。しかし「翔太はそんなメイサをすんなりと受け入れる。その事に彼女は救われた思いだった。そうして話が進むなか、翔太はアリスに、メイサが着替えてきた部屋から飛び出してきたことについて言及を求められ、怒られた。
話を終えた翔太たちは、思い出したかのように依頼達成の報告をしにギルドに向かっていた。
その途中で女性陣が女子トークに花を咲かせているなか、その中で足取りの重い者がいた。
それは言わずもがな、翔太である。
その理由は、翔太がこの中で唯一の男性だからということもあるが、それ以外にもあった。
まず、つい先ほどまで翔太は背後に鬼面が浮かび上がってそうな雰囲気のアリスに怒られていたのだ。メイサがあれは事故だったと証言してくれたからいいものの、それが無ければ翔太は今も怒られていただろう。
それにより、翔太は精神的にかなり疲労していた。
しかし、疲労していたのは精神だけではない。今の翔太は魔力欠乏状態なのだ。
事の始まりは、メイサは手の怪我を回復させるために翔太たちに魔力を分けてほしいと頼んだことである。彼女曰く、彼女は人ではないせいか、他者から魔力をもらうことで傷を回復できるとのこと。そして、翔太がその回復役に選ばれたのだ。
まぁ、メイサが手を怪我した原因を作ってしまったのが翔太であるため、これに関しては本人も了承している。
しかし問題はそこからだった。
それは翔太が想像していたよりも多くの魔力を吸われてしまったのだ。それにより、翔太は脱力感に襲われ、ちょっとした干物状態になっていた。
メイサ曰く、彼女にとって毒とも言えるポーションによる怪我を回復させるには大量の魔力が必要だとか。
翔太も一応、メイサから渡された魔力が回復するポーションを飲んだのだが、それでも体はだるいと感じており、心身共にかなりの疲労が見えている。
翔太がそんな調子のなか、一行はギルドに到着すると早速、受付嬢に依頼達成の報告をする。
この時間帯はどうやら多くの冒険者が集まる時間帯のようだったらしく、翔太たちは他の人を避けながら受付に向かい、受付嬢に話しかける。
「あの、倉庫での運搬作業が終わったんですけど……」
「そうですか! 結構な量があったはずですが、無事に終了したんですね」
「はい。メイサさんが手伝ってくれたので問題なく終わりました」
翔太がそう言ってメイサの方を見ると、受付嬢も納得した様子で奥の方へ行った。おそらく、依頼の報酬を取りに行ったのだろう。
しかしそんななか、翔太が報告をした時に言った「問題なく」という部分に反応したのか、アリスが翔太の方に疑惑の視線を向けていた。その目には疑いと少しの怒りが感じられる。
翔太もその視線に気づいていたが、あえて気づかぬふりをしてそれに触れないようにしていた。彼も地雷原にわざわざ踏み込んでいくほどの馬鹿ではないからである。
しかし改めて考えてみると、翔太にはこうなった心当たりがいくつもある。
まず最初に思いつくのは、メイサとの(ラッキー)ハプニングの件。ただ、この件に関しては既に謝ったのだから勘弁してほしいというのが彼の本音である。そして、また話をぶり返されるのは非常に面倒だと感じていた。
それとも、彼女はまだあの公平かつ不正無しのじゃんけんの件を恨んでいるのか。ただこれならば、翔太は自分に非がないと思っているため無視する方向で決めていた。しかし彼は気づいていない、あの状況で問題を挙げるのならば、それは最後の煽りだったということに。
もしくは両方か。それならば、面倒くさい事ここに極まれりと言ったところだろう。
翔太が「もし両方だったら、どうしよう」などと考えていると、受付嬢が奥から戻ってきた。その手には報酬が入っているであろう小袋が見える。
「では、こちらが今回の依頼達成の報酬となります」
「わ~い! これでお腹いっぱい食べれますね、翔太様!」
報酬が手に入った途端、話を切り出し、話題を食に持っていくテイル。それに待ったをかけたのは翔太だった。
「いや待て待て。これは今後の旅の資金にするんだから、そんな贅沢はできないからな? というか、テイルが満足するまで頼んだら、すぐに破産するだろ!」
「えぇ~!?」
「何でそんな驚いているんだよ……」
今までで一番リアクションをしているテイルをほっとき、翔太は受付嬢にいくつか尋ねる。
「あの~、すいません。この街から次の街までどれぐらいかかりますか?」
「そうですね。北側の門からですと、馬車で三日ほどですかね……」
受付嬢は翔太の質問に答えると、翔太たちの人数分の馬車代を示した。そこに記されていたのは、今回の報酬の半分ほどの金額。それを見た翔太は絶句した。今夜も節制決定である。
分かっていたこととはいえ、ショックを隠し切れなかった翔太はしょんぼりした様子で話を続ける。
「……え~と、北側の門というのは、イエローフォレストがある方ですか?」
「いえ、この街には北と南にそれぞれ一つずつ門が設置されているのですが、翔太さんたちがやって来た、イエローフォレストがある方に設置しているのは南の門です。どうでしたか、あの巨門は? すごかったでしょう?」
「はい、確かにあれならば、何があっても破られないだろうと思いました」
「ですよね! あの門は特別頑丈な造りになっているので、万が一スケルトンがこの街を襲いに来ても大丈夫です!……あれはこの街の象徴なんです」
南の巨門からどんどん話題を広げ、誇らしそうに語る受付嬢に、翔太は「この街はポーションを売りにしてるんじゃないのか?」というツッコミを内心で留めて、話を本題に戻す。
「あの、それでしたら、北側の方はどうなっているんですか?」
「え? あ、はい、北側は平坦な地形となっており、隣の街まではほぼ直線距離となっています。またあそこは魔獣が出ることもありませんので、ゆっくりと馬車での旅を満喫できると思いますよ。ですが……」
北側の状況を伝えた受付嬢はここで少し様子が変わった。その瞳には僅かな恐怖の色が見える。
「『ですが』、どうしたんですか?」
心配になった翔太は受付嬢に尋ねると、彼女は少し声を押さえて答える。
「いえ、あの、北側のほうで気味の悪い事がありまして……」
「気味の悪い事?」
「はい。実はここ最近、北側の方で何体かのスケルトンが目撃されたそうなんですよ」
「えっ? 北側って魔獣が出ないんじゃ……」
「はい。それでギルドは今まで確認されなかった魔獣の目撃証言が出たということで、複数の冒険者に北側の調査を依頼したんですよ。……しかし探しても徘徊しているスケルトンの姿はありませんした。その代わり、人骨らしきものが北側の門の近くに埋まっていたんです」
「……それは誰かがそこに埋葬したってことか?」
「いいえ、調べたところそういった事をした人も、そんな記録も見つかりませんでした……」
「謎の人骨か……」
「ですが、話はここで終わりではないのです」
そう言うと、受付嬢はここからが本題だと言わんばかりの見幕で翔太に語りかける。
「実は、その人骨が発見された場所にはスケルトンらしき足跡が複数見つかったので、それを辿ったところなんと、イエローフォレストにまで続いていたんですよ!」
「……つまり、その人骨はイエローフォレストからやってきたスケルトンだと?」
「私たちギルドはそう考えています」
「既に死んでいるはずのスケルトンがこの街の外壁を回って北の門の傍で息絶えた、か……でもそれだとその骨を埋めたのはいったい誰なんだ?」
「それに加えて、なぜイエローフォレストで息をひそめていたスケルトンたちが、南の門を襲撃するのではなく、わざわざ遠回りをして北側までやってきたのかという疑問が残ります。ですので、私たちもイエローフォレストを調査したいんですけど、大量のスケルトンに邪魔されて中断せざるを得ない状況に追い込まれたんです」
「なるほど……確かにそれは気味の悪いことですね。そういえば、北之門の近くで発見された人骨はどうしたんですか?」
「それでしたら、ギルドが確認して危険はないと判断したので、この街の墓地の一角に埋葬しました。実を言えば、ギルド内部でも僅かでも危険の可能性があるのならば、その骨を燃やして塵にしておくべきだという声も上がったのですが、これ以上死者を冒涜するのは良くないということでそうなりました」
「……そうですか」
受付嬢の話を聞いて、考え事をする翔太。そんな彼を見て、受付嬢は慌てて言葉を付け足す。
「あっ、でも北側でスケルトンが人を襲ったという報告はあがっていないので、今のところ大丈夫と思いますよ?」
受付嬢は最後の方でフォローを入れるが、翔太としては「今のところ」という部分がかえって気になり、より不安に感じてしまう。
だって、それこそフラグとしか思えないのだから。
そんな時だった、ギルドに慌てふためく職員が飛び込んできたのは。
「大変だ! イエローフォレストから大量のスケルトンが現れた!!」




