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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第4章 死者の導き手編
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メイサの正体(半)

メイサが着替えているシーンを偶然見てしまった翔太は一計を案じて、なんとかその場をやり過ごそうとした。しかし度重なるアクシデントで結局、彼女にバレてしまう。そしてアリスが彼らの元へやって来たのだが、メイサはこの部屋に翔太がいることを彼女に黙っていた。そうして、助けられた翔太はメイサに事情を説明すると、彼女は彼の言葉を疑わず、彼の行為を許した。翔太もそれに疑問を持つ。翔太はせめてもの贖罪のつもりで、メイサが持っていた木箱を運ぼうとすると、うっかり中のポーションをこぼしてしまい、それがメイサの手にかかってしまう。すると、彼女の手は火傷の痕のように爛れていた。その事に翔太が驚き、中に入っているのがポーションではなく何かの劇薬ではないかとギルドの職員に報告しようと部屋を飛び出ると、目の前にはなぜかアリスがいた。

 先に驚きの声を上げたのはどちらなのか。


 一方は、いるはずがないと思われた人物が壁に寄りかかり、部屋の前で待機していたことに。

 もう一方は、部屋にはメイサ一人だと思っていたのに、そこから思わぬ人物が出てきたことに。しかもどういうわけか、その人と共に部屋から出てきたメイサがその人に抱き着いているように見える。


 互いに「なぜ?」が交差する。


「「……えっ?」」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている両者からは、ほぼ同時に目の前の事実を疑い、間抜けな声が漏れ出た。

 そうして互いにいまいち状況が理解できずにいたなか、沈黙を破り、話の口火を切ったのは翔太だった。


「……何でアリスがここにいるんだ?」

「え、いや、私はメイサさんが『もう着替え終わる』って言ってたから、彼女を待っていて……って、そっちこそどうしてあんたが、メイサさんが着替えていた部屋から飛び出してくるのよ!?」

「それは……」


 翔太の質問に、至極まともな理由を答えるアリス。しかしそんな彼女に尋ねられた翔太はと言うと、事故とはいえ言い訳ができるような理由ではない。

 咄嗟の出来事で良い言い訳が思いつかず言葉に詰まってしまった翔太は仕方なく、「あの手」を使うことにした。


「……実はギルドに向かう途中で、行き先を口に出すだけでその場所に行くことができるという魔法のドアを……」

「ど〇でもドアなんて存在しませんよ?」


 翔太の言い訳を即座に斬って捨てたのは、アリスの方の上に座っているテイルだった。

 追い詰められた翔太が使った「あの手」とは、アリスには分からないであろう単語を並べることで、彼女の意識を削ぐというもの。異世界出身だからこそ使える手である。

 しかしテイルはそんな彼の考えを即座に看破し、間髪を容れずに彼の作戦を真っ向から斬って捨てたのだ。


「いきなり何を言ってるんですか、翔太様? そもそも、あれは魔法ではなく科学……」

「……かがく?」

「うぉおおい! お前がそれを言うのか!?」


 話を続けるテイルはここでうっかり口を滑らしてしまった。アリスはその言葉に疑問の表情を浮かべる。

 それに対して、翔太は大声をあげて、テイルの言葉を遮った。


 しかし彼が焦るのも無理はない。なぜならテイルが口走ったことは翔太がいた世界の、今の世界とは異なる世界の知識だからである。

 彼が恐れているのは、異世界の知識を話してしまったことが「神への試練に関することは他者には秘密」という部分に触れるのではないかということである。

 つまり何らかの罰が、言った本人(テイル)ではなく、自分に来るのではないかと翔太は危惧していたのだ。


 慌てた翔太は急いでテイルの口を塞ごうとするが、彼女はそれをひらりと躱す。


「テイルが言ったことで俺が怒られるのは納得いかないぞ!?」

「え~? ですが、翔太様の言い訳があまりにも醜いものだったので、つい……」

「醜いとか言うな! こっちだって必死なんだよ!」


 この会話中には罰らしきものはないが、それでも油断していた時にやってくるのが神の手口である。だから翔太も気を抜くことができなかった。

 そしてこの時の彼は気づいていなかった、興奮していたため先ほどの言い訳が嘘だと自白していたことに。


 その時、アリスが二人の間に割って入り、話を本題に戻した。


「……それで本当は?」


 翔太に詰め寄るアリスはとてつもないプレッシャーを放っている。


「……だぁ~! そんなことよりも、ひとまず先にこれをギルドに届けないといけないんだよ!」

「そんなことって何よ!? そう言って誤魔化そうとしたって無駄なんだから! 大体、さっきから手に持ってるそれは何よ!?」

「これは……」


 結局、強引に話を変えるしかなかった翔太。

 すると彼の運が良かったのか、アリスから翔太が問題視している偽ポーションに注目した。


「ちょっと待ってください!」


 しかしここで翔太たちの勢いに流されて、もはや空気と化していたメイサが彼らに待ったをかけた。

 彼女が普段は物静かなだけに、その雰囲気に圧倒された翔太とアリスはきょとんとしている。


「その件について話があるので、私についてきてください」


 メイサは氷のように冷たい声音でそう告げると、ギルドの出口の方へ歩き出した。

 翔太たちはそんな彼女の雰囲気に驚き、互いに顔を見合わせてどうしようかと困惑したが、すぐに彼女の後をついていった。


    ◇◆◇


 一言も発さずに歩き続けるメイサの後をついていくと、翔太たちはとある小屋の前に到着した。

 そしてメイサはその小屋のドアを開けると、翔太たちに小屋の中へ入るように促した。


 そうして翔太たちが入ると、中はシンプルな家具のみで揃えられている。それを見た翔太はメイサがここで暮らしているのだろうと思った。

 ただ、ベッドらしきところには小さなぬいぐるみが配置されており、女の子らしい一面が見える部屋である。


 翔太がそんな風に部屋の中を見渡していると、メイサから注意を受ける。


「そ、そんなにまじまじと見られると恥ずかしいのですが……」

「あっ……すみません」


 そんな翔太を見つめるアリスは再び彼を訝しんでいた。その視線はかなり険しいものである。


 ここで余談だが、彼らの待遇はこの街ではかなり上等なものである。それというのも、メイサの家については彼女のファンならば誰でも知っていることだが、中に入ることはおろか近づいただけでも、その者は異端審問にかけられてしまう。

 そんなこの街の暗黙のルールの中で唯一許されているのは、メイサ自身がその者を招き入れた場合だけである。


 そんなことなど知る由もない彼らはメイサが出した茶を飲んで一息つけている。翔太はその時間を使って、先ほど自分が見たものをアリスとテイルに説明した。


 そうして説明を終えると、翔太はすぐに本題に入った。


「それで、このポーションのことなんですが……」

「……結論から言います。そのポーションは本物です」

「でも……」

「私の言葉が信用できないのなら、お試しになっても構いません」

「……それが一番手っ取り早いみたいね」


 翔太の質問に、メイサは端的に答えた。

 そんな彼女の言葉を理解したアリスは自分のナイフを取り出して小さな傷をつくろうとした。しかしここで翔太が彼女の手を止める。


「何やってんだよ? アリスだって女なんだからさ……」

「……あ、ありがとう」


 翔太の思わぬ言葉に、アリスは頬を紅く染め、俯きながら礼を言った。

 それというのも、アリスは翔太から今まで仲間として見られていたことは多々あったが、女として見られていたことをこんな真剣な表情で言われたのは初めてだったのだ。

 しかもこんな不意打ちのような形で言われては、もはや彼女に平静を保ったまま彼に感謝を伝えることなどできるはずもなかった。


 そんなアリスの心情などつゆ知らず、翔太は彼女からナイフを受け取ると、自分の指先に小さな切れ込みを入れた。

 針に刺されたような痛みの後にそこから紅い液体が滲み出てくる。


 そうして、傷が出来たことを確認した翔太は先ほど問題となったポーションを手に取った。

 ただ、翔太はすぐにそれを使おうとはしなかった、と言うよりは使うことができなかった。何しろ、もしもこれが本当に何かしらの劇薬だったとしたら、そんなものを傷口にかけてしまっては相当な激痛が彼を襲うことになるのは明白である。

 そう考えてしまったため、翔太はそのポーションを使うことを躊躇ったのだ。


 しかしアリスに待ったをかけた手前、このまま何もしないという選択肢は無く、話も進まないため、翔太は早々に覚悟を決めてポーションを傷口に使った。

 すると、傷薬というだけあって傷口に沁みる感覚はあったが、それでも瞬く間に傷口が塞がった。


 つまり、メイサの言うことは本当だったということである。


「疑ってすみませんでした」

「いえ、いきなりあんなことを信じろと言う方が無理な話ですから」

「……では、なぜあなたは傷ついたのですか?」


 翔太はメイサに謝罪を入れると、問題の核心をついた。

 しかしメイサは動揺することなく、むしろ翔太を試すような口調で言葉を返した。


「……翔太さんはその答えを何となく分かっているのでは?」

「そうなの?」


 メイサの言葉を聞いて、アリスは驚いた様子で翔太を見つめた。

 それに対して、問題を投げ掛けられた翔太は一点を見つめながら一考している。


 薬というものは使い方によっては毒になるもの。

 ポーションが生者を生かすものならば、それで傷つく者の正体とは生者の反対に位置する者ではないか。


 そう考えた翔太は、かなり漠然とした答えを述べた。


「……メイサさんは生き物じゃない、とか?」

「随分、大雑把な答えですね」

「何のヒントも無いなら、これが限界ですよ」

「ちょっと、どういうことなのよ?」


 翔太の答えの意味が分からなかったアリスは再度、彼に尋ねた。

 すると、彼の代わりにメイサが答えを言った。


「……翔太さんの言う通り、私は生者ではありません」

「えっ? でも……」

「もちろん、死んでいるというわけではありません。いわば、半死半生の存在なんです」


 そう言うと、メイサは自らの過去を掻い摘んで話した。


 曰く、メイサはとある事故で大怪我を負ってしまい、死にかけていた時に、運が良いのか悪いのか、死霊術に精通している魔導師の男と出会ったとのこと。その時の彼女は既に話すことも儘ならない状態で、意識を保つことで精一杯だった。

 それでも彼女は残り僅かの力を振り絞って彼の腕を掴み、助けを求めた。ただ、彼女には既に余力はなく、彼の腕を数秒掴んでいただけで、一言も発することができずに、腕を離してしまったのだ。


 ばたりと倒れたメイサを見て、男は彼女が死んだと思い、その場を立ち去ろうとした。

 しかしその時、彼の頭の中に「死にたくない!」という声が響いた。その声に驚いた男は辺りを見渡すが、今死んだ女性以外は誰の姿もない。そしてもう一度だけ「私は死にたくない!」と強く懇願する声が彼の頭の中に響く。

 それが、彼女が初めて“祈る(プレイ)”を使った瞬間だった。


 そうして、彼に助けられて「生」を与えられたメイサは生物でもなければ、死者でもない存在となったのだ。


「つまり、メイサさんはゾンビということなのか?」

「……概念だけで言えばそれが一番近いんですけど、私はあんな腐った死体とかではないですよ」


 メイサの話を聞いて翔太は感じたことをそのまま告げると、彼女は頬を膨らませて抗議した。

そんなメイサの態度に、翔太は自分が言ったことは彼女が気にしていたことだったのかもしれないと反省すると、慌てて言葉を付け足した。


「まぁ、確かにメイサさんってなんかいい匂いするし……」


 翔太の言葉を聞いて、メイサは俯いた。

 メイサから腐臭はしないという意味で言ったのだが予想と違う反応をしている彼女に、翔太がどうしたのかと尋ねようとした時、隣に座っていたアリスから殺気に似たものを感じ取った。


「……セクハラ」

「何で!? とくに他意はないし、誉め言葉として言っただけなのに!?」

「翔太様、駄目ですよ~。そういうのは言葉を受け取った側がどう感じたかによって変わっちゃうものなんですから」

「マジか!? すいません、メイサさん! 謝りますから許してください、悪意はなかったんです!」


 アリスとテイルに煽られた翔太は急いでメイサに謝罪をした。

 しかしメイサは俯いたまま、返答する。


「……結構です」

「はぅあ!?」


 メイサの言葉から、ショックを受けた翔太は自分が終了したことを悟った。

 そんな意気消沈している翔太とは裏腹に、メイサは笑みを浮かべるとさらに言葉を続ける。


「謝罪は結構です」

「……えっ?」

「ですから、あなたからの謝罪はいりません。そもそも謝る理由がありません」

「いや、でも、さっき黙ってたのは怒ってたからじゃ……」

「どこに怒る理由があるんですか? さっき黙ってたのは、その……男の方からそんなことを言われたのは初めてだったので……」

「……ぷふっ」


 どこか恥ずかしそうにしながら話すメイサを見て、翔太は失笑した。


「……何がおかしいんですか?」

「いえ別に、この街の人から賞賛を受けているのに意外だなと思っただけですよ」

「確かに、街の人たちからは『聖女』とか『女神』だなんて呼ばれていますが、それは私には似合わないというか……」

「むしろ皮肉ですね」

「……はい」


 この街の女神様の悩みを聞いた翔太はそう言って、再び笑みを浮かべるのだった。


前書きの方が内容が詰まっている件について……

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