ソール(漸)
ソールの大きな壁が見えてきた時、ふわふわとした謎の浮遊物体と遭遇。翔太はそれをレイスだと考えると、モンスター扱いで即攻撃するが、物理攻撃(“反射壁”)が効かず為すすべなく退散するしかなかった。その時にテイルには笑われ、アリスに冷たい目(呆れ)で怒られた。
もうすぐソールに着くというところで、とある男女が話をしていた。両者は互いに笑顔だったが、片方はご機嫌を窺うかのようにしており、もう片方は今にも爆発しそうな雰囲気を醸し出していた。
同じ笑顔にもかかわらず、両者には明確な差が出ている。
「……それで? 私に何か一言あるわよね?」
「すみませんでした!」
感情が分かりやすいほど表に出ているアリスに、翔太は見事な九十度の謝罪を見せた。
彼女に叱られるのは何度目だろうか。そんなことを考えながら、翔太は頭を下げていた。
彼女が怒っていたのはもちろん、翔太が安易な行動をしたことである。今回は無傷で切り抜けられたが、もしも相手に戦闘意欲があったらどこか負傷をしていたかもしれない、さらには致命傷を受ける可能性もあったのだ。
彼女が心配していたのは、その事を考慮していたからである。
「はぁ……まぁ、あんたが反省しているなら、それでいいわ。……それにしても、あんたの行動って当たり外れが大きくない?」
「……人は間違いを経て、成長していく生き物だからな」
「調子に乗るな!」
「すみません」
「翔太様ってば、尻に敷かれていますね~」
「「そういうのじゃないから!」」
どうにか落ち着いた二人はいつもの調子に戻った途端、茶々を入れるテイル。翔太とアリスはテイルの言葉の意味を理解すると、両者共に赤面しながら大声で否定した。
そうして、テイルはひらひらと舞うように翔太の八つ当たり(てれかくし)を避けると、無駄のない動きで翔太の内ポケットに飛び込んだ。
そんなテイルの相手をするのに疲れた翔太とアリスは彼女を放置して、ついに念願のソール入りを果たすことにしたのだった。
◇◆◇
ソールを守る巨大な門の前に到着した翔太たちはそこに在中している門番にカヌチからの依頼状を提示した。
この行為は自分たちの身元証明である。そうしなければ尋問とカヌチへの確認作業など長い間勾留されることになるのだ。
そうならないために、翔太たちはカヌチのギルドで発行された証明書を見せている。
「……確かにこれはカヌチからの依頼状ですね。では、ここを通ることを許可します」
「ようやくか~」
門番とのやり取りで蓄積していた気疲れが噴き出してきた翔太はおもわず本音が出てしまった。そんな翔太の気持ちを察したのか、門番も笑顔を見せた。
「あなたたちはあのイエローフォレストを抜けてきたんですよね? だったら疲れて当然ですよ。中々この依頼を受けてくれる人がいないので、本当に助かります」
「いえいえ、こちらも高い報酬を受け取るわけですから」
「そうなんですか? この依頼は割に合わないという人が多いんですが……」
「色々と節約しましたからね」
「はぁ、節約ですか……」
門番の賞賛に翔太がドヤ顔で返答すると、門番は不思議そうな顔をした。するとそこで話を切り上げた。
「では、ここで長話もなんですので、お手数をおかけしますが、早速持ってきて頂いたものをこの街のギルドの方へ届けてもらえますか?」
「分かりました」
「それでは、ソールに入るのは3人ということでよろしいですね?」
「「えっ?」」
ようやく本題に入った翔太たちだが、ここで門番から聞き捨てならない部分があった。
今この場にいるのは門番二人と翔太、アリスの計四人しかいない。そして門番の二人が認識しているのは翔太とアリスの二人だけ。
つまりもう一人、翔太たちが認知していない誰かがいるということである。
それについてどうしても無視することができなかった翔太は恐る恐る門番に尋ねた。
「……あの、街に入るのは俺とアリスの二人だと思うんですけど……」
「えっ? でもお二人の後ろに……ほら、もう一人いるじゃないですか……」
見間違えではないと告げる門番に、翔太は最悪の展開を想像した。
死者が徘徊する森という、いわば心霊スポットのような場所に入ったのだから、あれが生じても不思議ではないだろう。
俗に言う、「お持ち帰り」というものである。
アリスも似た想像をしたのだろう、翔太と同様に青ざめた表情をしていた。
しかし残念なことに、人間は何か分からないことがあったら、たとえそれがどんなに怖い事だと分かっていても確かめたくなる生き物である。
二人もそんな例に漏れず、今すぐ逃げ出したい気持ちを抑え、探求心に背中を押されるようにゆっくりと後ろを振り返った。
すると、そこにいたのは――
「私でした~! ねぇねぇ、びっくりしました~?」
白いワンピースを着た、人間バージョンのテイルだった。
彼女は門に到着する前にそっと翔太の懐から抜け出し、スタンバっていたのだ。
テイルは翔太たちが期待どおりの反応をして嬉しかったのだろう、悪戯に成功した子供のようにそれはもう大層喜んでいた。
そうして、悪ふざけが過ぎる妖精に断罪の鉄拳が二発振り下ろされたのだった。
◇◆◇
ソール。
そこはポーションと呼ばれる回復薬を生産している街である。その技術力から、この世界の発展の最先端にいる魔法都市スペランディアもこの街を重要視している。
「いたた……場を和ませるための、ほんの冗談でしたのに……」
「いや、テイルにとってはほんの冗談でも、こっちは本当に怖かったんだからな?」
「まったくよ。あのレイスが追いかけてきたかと思って、ひやひやしたんだから……」
二人のお叱りの拳骨を受けた個所を押さえながら、テイルはソールについて翔太たちに説明した。
そんなテイルに同情することなく、翔太たちはソールの中を歩いていた。
門の前で一騒動あったが、結果的に何事もなく無事に門をくぐることができた翔太たちは今、報酬を受け取るためにギルドに向かっている最中である。
その途中で見た街の外観は住宅と店舗を除いて、大きな工房が一つだけとカヌチとは異なるものだった。
あの大きな工房でこの街の特産であるポーションが作られていることが容易に推測できる。
そんなことを考えながら歩いていると、翔太たちはソールのギルドに到着した。
そこは今まで見てきたギルドの中でも清潔さが良く分かる場所だった。様々な分野で活躍している冒険者が利用している一般のギルドとは異なり、ソールのギルドはポーションの運搬など商業に関する活動が中心であるため、来客を意識した企業の窓口に近い雰囲気である。
ただ、今の翔太たちにそこまで観察するほどの精神的余裕はないため、彼らは到着するとすぐに受付に直行し、運んできた小瓶を渡す手続きをした。
「依頼された小瓶を持ってきました……」
「あ、はい! この度はありがとうございました!」
「いえ、これも仕事なので……」
「でも、既にご存じだと思いますが、今回の依頼は冒険者の方々にあまり人気のない依頼なので、本当に助かります。流石、噂の冒険者ですね」
「……噂?」
「はい。あのイエローフォレストを抜けてきた、物好きな冒険者とこの街でも噂になっていますよ」
「酷い言われ様だな……」
はきはきと元気に話す受付嬢に、翔太は少し苦い顔をした。しかしそれは悪口ではなく、むしろソールの人たちにとっては感謝と尊敬の表れである。
「でも、本当にすごいことですからね。……どうですか、本格的にこの街の運搬役を担ってくれませんか? 給料もそれなりにはずみますよ?」
「「結構です」」
「そうですか……」
翔太とアリスは受付嬢の勧誘を即答で断った。
翔太もこの依頼に関しては、チームワークで楽々とこなすことができたから悪い話というわけでもないのだが、レイスという攻撃が全く通用しない奴がいる以上、また同じ依頼を受けるのに抵抗があったのだ。
そこで思い出したかのように、翔太たちはイエローフォレストでスケルトン以外にもレイスが出たということをギルドに報告した。
その時の受付嬢のすごく嫌そうな表情は中々忘れられないだろう。ただ、ただでさえ依頼の受注率が低いのに、レイスという特定の攻撃方法でしか倒せない相手までいるとなれば、この依頼を受ける人がさらに減ってしまうということを考慮すれば、受付嬢の表情にも納得である。
そんな受付嬢の心中を察した翔太たちは同情の念を禁じ得なかった。
「……では、少し早いですが、これが今回の依頼の報酬です」
「やったー!」
感情が諸に出ている受付嬢は低いトーンで報酬の話に移った。
そこで念願の報酬に喜ぶテイルを横目に翔太が報酬を受け取ると、受付嬢は最後の確認を取った。
「では最後に、あの依頼状にも書いてあった通り、この依頼には出来上がったポーションを馬車まで運ぶ手伝いも含まれていますので、三時間後にまたここに来てください」
「分かりました」
最後の依頼の確認をした翔太たちはそれまで休憩を取ることにした。
いつもより仕事をしたテイルはようやくご飯にありつけると、非常に喜んでいた。そんなテイルを見ると、いつもならば翔太は「また食費が……」と嘆くところだが、今回は翔太たちも彼女と同じ考えである。
そうして、ギルドを後にした翔太たちが街の中を散策していると、ある人だかりを見つけた。
次回の投稿が遅れるかもしれません。この頃は比較的に安定していたのに……




