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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第4章 死者の導き手編
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思わぬ強敵(霊)

翔太たちはイエローフォレストに入った。その際、翔太の“反射壁”とアリスの防御、そしてテイルの索敵能力により、寄ってくるスケルトンたちを遠距離からほとんど一方的に攻撃。イエローフォレストを楽々と攻略。だから翔太は調子に乗っていた。

 翔太たちがイエローフォレストに入ってから三時間ほど経った頃、ついに黄色い木々の隙間から人工物がちらほら見え始めた。

 それはちょっとのことでは越えられないほど巨大な壁だった。あれさえあれば、スケルトンの大群が来ても(ソール)が陥落することはないだろう。


 目的地が見えたことで、翔太とアリスはこれでようやく不気味な森とおさらばできるという実感が生まれた。

 当然それは良いことであり、そのおかげで翔太にも心の余裕というものができていた。


 そんな時だった、あれと出会ったのは。


「あれ? 今の……」

「どうしたんだ、テイル?」


 最初にその存在に気づいたのは、周囲の索敵をしていたテイルだった。


「いえ、何か変なのがあっちにいたんですけど……」

「変なのって?」

「私って風の流れの変化から物の形や位置を把握しているんですけど、なんか向こうにいるのって風に当たるとまるで笊みたいな反応なんですよ」

「……実体がないってことか?」

「正確にはあるんですが、固体と言うよりは気体に近い感じで……なんかふわふわしている感じです」

「本当になんだよ、それ?」


 テイルは自分の知りえる情報を翔太に話すと、前方を指差した。

 翔太はそんなテイルの話を聞いて、如何にも嫌そうな顔をした。何せ、この森はただでさえ謎が多いのに、ここに来て正体不明の存在が現れたとなれば、少なくとも良いことが起きるとは思えない。


 ましてや、テイルがその変なのがいると言って指差した方向というのは、ちょうど翔太たちの進行方向。

 こんな御膳立てが済んだみたいな現状から、彼はまず間違いなく面倒事になると確信したのだ。


「……別のルートで行くことはできるか? 極力、面倒事は避けたいんだけど……」

「主人公の自覚無しですか……まぁ、私も面倒なのは嫌なんでそうしたいところですが、そこ以外のルートだと何度かスケルトンと接触することになりますよ?」

「……えっ? それだけ? だったら迂回してもいいんじゃ……」

「先ほどの3倍ほど多くいますが……」

「このまま行くしかないのか……」


 テイルの情報から、翔太はこれからどうするか考えた。

 このまま行けば、テイルの言う変なのと遭遇することになる。だからといって、迂回すればスケルトンたちとの長い戦闘が始まってしまう。


 翔太としても、スケルトンと戦うことはそこまで苦ではないのだが、数が多いということはスケルトンも散開している可能性があるのだ。

 翔太の“反射壁”は一度に一つしか発動できない。だからスケルトンが広く展開してきた場合、いくら遠距離から攻撃できるとはいえ、次の攻撃へのタイムラグが生まれてしまうのだ。

 そしてそのタイムラグにより、スケルトンたちの接近を許してしまうと近距離での戦闘が始まるだろう。そうなっては、翔太たちの強みが消えるうえにイエローフォレストの必勝パターンとも言える最悪の展開になってしまう。


 この他にも、迂回すれば余計に体力を消耗し、時間がかかってしまうだろう。それもまた、イエローフォレストでは避けなければいけない事態である。


 これらのことを考慮して、翔太がアリスたちと相談した結果、翔太たちは進行方向を変えずに進むことを選択したのだった。


    ◇◆◇


 テイルが報告してから少し歩いたところで、翔太たちはようやくそれを目視した。


 彼らの目と鼻の先にいるそれは綿飴のようにふわふわとした外見をしているが、その身体は半透明のためおよそ生物とは思えなかった。

 上部にある3つの穴が人の目と口のように見えるのはシミュラクラ現象のせいなのか、はたまた本当にそういう生物なのか判断が難しい。だからこそ輪をかけて不気味に感じる存在だった。


「……あれってレイスかしら?」

「レイスって、あの幽霊みたいなモンスターのことか?」


 判断に困っていた翔太が物陰から注意深くそれを観察していた時、同じく物陰に隠れているアリスがふと呟いた。


「えぇ、多分そうだと思う。だから……」

「だったら、問題ないな!」


 アリスから確認を取った翔太は堂々とそれの前に姿を現した。

 本来ならば、翔太の行動は敵前ですることではないだろう。しかし今回に限っては、彼は違う考えを持っていた。


 彼が知っているレイスはゲームの中でもモブキャラ扱いであり、今目の前にいるやつも如何にも弱そうな見た目をしている。

 最初は未知という名の恐怖があったが、正体さえ分かれば後は問題ないと判断したから翔太は姿を現したのだ。


「“反射壁(リフレクション)”!」


 そうして、飛び出してきた翔太は先ほどのスケルトンと同様に、目の前のレイスに向かって先制攻撃を繰り出した。その勢いから、初撃で決める気満々なのがよく分かる。

 しかし、世の中そう上手くはいかない。


 なぜなら、翔太の“反射壁(リフレクション)”が当たったと思ったのに、レイスは全くの無傷だったからだ。最初は翔太も攻撃を外したかと思い、もう一度“反射壁(リフレクション)”を発動させたのだが、やはり一度目と同じ結果に終わった。


「……えっ? なんで……」


 予想だにしない結果に、あれだけ堂々と出てきたのに攻撃が当たらないというのは筆舌に尽くし難いほどの羞恥とも戦う羽目になった翔太は半ば放心状態になっていた。


 そうして、何事もなかったかのように空中をふわふわと泳いでいるレイスと、呆然としている翔太との間で気まずい空間が形成された時、今度はアリスが物陰から飛び出してきた。


「人の話は最後まで聞きなさいよ、この馬鹿! レイスみたいな実体を持たない奴には物理攻撃は効かないから、魔法や聖なる加護を得たもので攻撃するのが常識でしょ!?」

「……あれ、そうだっけ? あはは……」

「笑い事じゃない!」


 アリスの指摘に、どこかゲーム感覚だった翔太はようやく正気を取り戻し、とりあえず笑って誤魔化した。


 そう、これはゲームではなく紛れもない現実。

 ならば、実体のないものに物理攻撃が効かないのは当たり前である。翔太はなぜそんな当たり前のことに気づかなかったかと自分を責めた。


 そうして、冷静さを取り戻した翔太はここでアリスのある言葉に着目した。

 それは「聖なる加護を得たもので攻撃する」という部分だった。これはつまり、そういったものならば、実体のないモンスターにも有効打を与えられるということである。


 そこで翔太は懐からあるものを取り出した。

 それこそ、翔太が得た特質な才能(アビリティ)について記載されているカードだった。これは翔太が神になるために持たされたものの一つ、つまり神というこの世で最も聖なる者に関連する道具である。

 性格はともかく、そんな聖を体現するような者からもらった道具なのだから神聖な力を帯びているはずと翔太は考えたのだ。


「だったら、これでどうだ!」


 そう考えた翔太は手にしているカードを強く握りしめると、余裕綽々と言わんばかりに空中を漂っているレイスに向かって全力で殴りかかった。

 しかし現実は厳しかった。


 募る思いを乗せた翔太の拳はレイスを何の抵抗もなくあっさりと通過し、互いに何事もなく終わったのだ。

 そうして、再び周囲に居た堪れない空気が戻った。


「……えっ?」

「神の試練に関することは私たちだけの秘密ですので、そのカードは文字が浮き出るだけの紙であり、別に聖なる力なんてものは籠められていませんよ」


 もはや現実に打ちのめされそうになっている翔太の元に、テイルが補足の説明をした。

 確かに、彼女が神候補に関する情報を翔太以外の人に悟られないようにしているのは分かっている。特質な才能を当てる時に周りの人が感知できない雷で正誤を確認しているのが良い例である。

 だからこそテイルの言い分にも納得できるところもあったのだが、やはり神候補である自分に神の加護的なものが一切ないと言われれば、流石の翔太もショックを隠し切れなかった。


 感情が分かりやすくて、もはやネタの宝庫みたいになっている翔太を見たテイルはただただ楽しそうに笑みを浮かべていた。


 そんなテイルに対して、アリスの視線は冷たかった。

 何しろ、神候補について何も知らない彼女から見れば、彼は注意した傍からまた同じ間違いをしたのだ。もはや、怒りを通り越して呆れていたのだ。


 そんな彼女の気持ちに気づいた翔太は必死に弁解しようとしたが、アリスの言い分があまりにも正論過ぎて何も言い返せなかった。

 そもそも神候補に関する情報抜きで話せる事ではないので、端から翔太は何も言えないのだ。


 それはさておき、そんな調子の翔太たちに困っていたのかは分からないが、翔太たちがやり取りしている間、レイスに動く気配はなかった。

 アリスの冷たい視線を受けながらも、そのことに気づいた翔太は決心したかのように叫んだ。


「逃げるぞ!」


 そう言った翔太はそこから先ほど見た壁に向かって全速力で走って行った。

 そんな翔太の行動に慣れたのか、アリスもとくに困惑する様子もなく、「やっぱり……」と溜息をつきつつ彼の後を追いかけた。


 翔太は走りながら、張りつめていた緊張の糸が切れたことで生まれた余裕が油断と過信につながってしまったことにようやく気付き、心の中で反省していた。

 そうして、傷心している翔太の肩の上に飛び乗ったテイルはそんな踏んだり蹴ったりといった彼を見て、再び失笑したのだった。


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