イエローフォレスト(嫌)
暴走した翔太だったが、アリスによって正気を取り戻す。しかしもう使えなくなったアリスの服と装備を新調したことと、翔太が道具を少しだけ買ったことで所持金が残り僅かになった。それにより翔太たちはギルドにいる。
そんなこんなで、金欠になってしまった翔太たちは金を稼ぐためにギルドで依頼を受けることにしたのだ。
翔太個人としては新たな特質な才能を身につけたいから、次の街へ向かいながら行える依頼があれば良いなと少し期待していた。
「これなんてどう?」
翔太がそんなことを考えていると、アリスが彼に一枚の紙を手渡した。
彼女が渡した紙は依頼書と呼ばれるもので、冒険者はこれを見て受けるかどうかを判断している。
翔太はアリスが選んだ依頼がどんなものかを確認するため、受け取った依頼書を見てみた。
果たして、その内容とは?
「hhdfjsdh:lvjbvjbhd
hdkjwfhwbhvjdbkbd
hcsjbfvfvjvkfds・・・・
「うんうん……」
wjgddgcsldfl。skvs
hjdsjfdvlgsbjhgtlmj・・・・
「ふむふむ……」
※hbwjfwjdcbwmkjq・・・・」
「……分かるか!」
「急にどうしたの!?」
翔太は一応最後まで依頼書に目を通すと、いきなりそれを机に叩きつけた。
本来ならば、彼の行動は「いきなりどうしたんだ?」と怪訝な目で見られてもおかしなことではないが、今回の場合は彼の言い分も尤もである。
それというのも、翔太にとってここは異世界、ならば前の世界とは文化も言葉も異なっていて当然である。ならば文字が読めなくても何らおかしなことではない。
しかし、翔太はこんなことでは焦らない。
なぜなら、こういった非常事態のために彼女がいるのだから。
そういうわけで、テイルに通訳してもらうことにした。
「……もしかして、翔太って字が読めない?」
「いや、そういうわけじゃないよ! ちょっと待ってろ……テイルさん、これなんだけど通訳してもらっていいですか?」
アリスの問いかけに翔太は作り笑いを浮かべると、彼女に気づかれないように小声でそっとテイルにヘルプを求めた。
すると、テイルの態度が途端に変わった。
「はぁ……ええっと、ここはですね……」
「いやなの!?」
「いえ、別にそういうわけでは……」
「いや、明らかに面倒くさそうにしてたよね!? 『なんで私がそんなことをしなくちゃいけないの? 馬鹿なの、死ぬの?』って顔してるじゃん!」
翔太の言葉に、テイルは再び溜息をついた。
「まぁ、半分は合っていますね……」
「やっぱり面倒くさいじゃん!」
「そっちではなくて……もう一度よく見てください」
テイルはそう言うと、翔太に呆れたような視線を送りながら依頼書を返した。
翔太は渋々依頼書を受け取るが、テイルの行動の意図が分からず反応に困っていた。
「いや、渡されても俺に読めるはずなんてないのに……」
そんな文句を垂れながらも、翔太はもう一度依頼書に目を通した。
すると、目を見開くほどの出来事がそこにはあった。
「依頼内容:小瓶の運搬
カヌチで製造した小瓶を
隣町のソールへと届け・・・・
「……おぉ?」
報酬はソールのギルドにて渡します。その際、
多少の運搬の手助けも行ってもらいます・・・・
「おぉ……」
※なお、運搬にかかった費用はギルドでは負担しませんので・・・・」
「おぉ~! なんか読めるぞ!? ……もしかして俺って……」
「天才じゃありませんよ」
「……せめて最後まで言わせてくれ」
なぜか翔太はこの世界の字を読むことができたのだ。
本来ならば、ここで「なぜ字が読めるんだ……」と悩む場面だが、翔太にはそうなった心当たりがあった。
「なぁ、テイル。……これってもしかしなくてもお前たちの仕業だろ?」
「はい」
「すげーあっさり認めたな。まぁ、それはいいとして、俺に何をしたんだ?」
「簡単ですよ。翔太様がこの世界に来た時にあなたの身体を少し弄っただけです」
「えっ!?」
ここにきて衝撃の事実が発覚し、翔太は驚きの声を上げた。
「それってつまり人体改造ってことじゃ……」
「いえいえ、翔太様の身体をこの世界に少しだけ適応させただけですよ。例えば今みたいに文字や言葉が分かるようにしたとか、運動神経を少し発達させたなど色々ですが……」
何の悪びれもなく答えるテイルに、翔太は驚くどころか一人納得していた。
確かに心中ではかなり驚いているのは事実だが、それでも翔太自身、戦いのたの字も知らない自分が今まで生き残れているのはおかしいと感じていたのだ。運が良かったというのもあるが、それでもテイルの説明が一番納得できるものだった。
ただ、その説明に筋が通っているかと言われると素直に首を縦に振ることはできないのだが、そこは触れないほうがいいだろう。
それはさておき、ここで翔太に新たな感情が沸き起こった。
「……知らない間に身体を弄られたってキャトルミューティレーションと何ら変わらないじゃん。 ……怖っ!」
「そんな怖がることないですよ~。まぁ、身体機能を底上げするかなどは迷いましたが……」
「迷ったの!? 俺の命が懸かっていることなのに!?」
「じゃあ、改造しない方が良かったですか?」
「もう改造って言っちゃったよ、この人」
「結局のところ、そのおかげで翔太様も生き延びれたのですから、そこは感謝してくださいよ~?」
「……素直に感謝しづらい」
テイルのドヤ顔に、半分呆れていた翔太だったが内心では「身体のどこかに神になる試験を放棄したら爆発する爆弾とか設置されてないよな?」と恐怖していた。そんな翔太に意味深な笑顔を見せるテイルに、翔太はさらに恐怖が増すことになった。
そうして、ようやくここで本題に戻る。
「2人でこそこそ何やってんのよ?」
「あ……いや、なんでもないよ。それよりもアリス、グッジョブ!」
「ようやく求めていた反応が返ってきた……」
翔太はいつものごまかしの笑顔をアリスに向けた。
しかし、翔太の言葉もあながち嘘ではない。
それはアリスが持ってきた依頼書に「報酬はソールのギルドにて渡します」と記されていたからである。
つまり、この依頼は新たな街へ向かいつつ報酬をもらえるという、まさに理想的な依頼ということである。
「今の反応から察するに、翔太は字が読めたってことでいいのよね?」
「あぁ、ばっちりだ!」
「……なんかその答え方はおかしな気もするけど、それならいいわ」
このときのアリスは、人それぞれ生き方が異なるため、翔太が文字を読めなくても仕方がないと考えていた。冒険者たちの間で詮索屋が嫌われることは知っていたが、もしかして自分は翔太の触れてはいけない過去に触れたのかと内心不安だったのだ。
しかし当の本人にそれらしい反応が無かったため、それも杞憂に終わった。
そうして、翔太たちはこの依頼を受けることを決めたのだった。
◇◆◇
「さて、どうしたものか……」
受付嬢から依頼について詳しく聞いた翔太たちだったが、そこで翔太は頭を悩ませていた。
いつもならば、ここでアリスが怪訝な表情で「またか……」と翔太の行動を気にするところだが、今回は彼女も同様に悩んでいる。
それというのも、受けようと思っていた依頼に色々と問題があることが発覚したのだ。
最初に断っておくと、それは重量制限の話ではない。それに関しては、むしろ想像より楽なものだった。
翔太も最初は運搬という文字から重い物を持たなければいけないと考えていたが、受付嬢から渡されたのは、2個分のリュックだけだった。その大きさも想像していたものよりも小さく、中学生が使っているものほど。
しかし試しにそれを持ってみると、見た目とは裏腹にそれなりの重量があった。それでも、持てないほどではなく、持ちながらの移動もそれほど苦ではないといった感じである。
受付嬢曰く、このリュックは入れたものの大きさを小さくする魔道具だという。つまりこのリュックの中には小さくなった大量の小瓶が入っているということである。
だから荷物に関しては、問題はなかった。
また報酬に関しても、他の依頼よりも額が1.5倍ほど高い。翔太としては、むしろなぜ他の冒険者がこの依頼を受けないのか、この時は不思議でしょうがなかった。
問題があったのは目的地であるソールへの運搬ルートだった。
直線距離に関しては、ここカヌチからソールまでは馬車で一日ほどという、他の街と比べてもかなり近い距離にある。
問題というのは、カヌチとソールにあるイエローフォレストと呼ばれる森林があることである。
イエローフォレストは文字通り木々の全てが黄色の森林であり、発生するモンスターの強さもそこまでではない。
しかしそこは多くの冒険者からとても嫌悪されている場所である。
なぜ冒険者たちがそんなに嫌がっているのか、その理由が翔太たちの頭を悩ませている問題と密接に関わってくる。
まず1つは、大量のスケルトンが発生するからである。
アンデッドであるスケルトンがどこにでもあるような剣や弓矢を使って攻撃してくるだけならば冒険者も大して問題にはしないが、とにかく数が多いのだ。正確には、スケルトンとの遭遇率が異様に高い。
それというのも、すでに死んでいるスケルトンは生者の気配に敏感であるため、一度でもスケルトンに察知されると、あっという間に囲まれてしまうのだ。
スケルトンに疲労という文字はないため、持久戦に持ち込まれるとかなり厄介である。
ただ、この話を聞けば誰だって「それならばスケルトンが活発しにくい昼に入れば良いのではないか?」と考える。
当然、翔太もそう考えて受付嬢にそのことについて尋ねたのだが、ここで受付嬢は困ったような笑みを浮かべた。
それというのも、イエローフォレストで生まれたスケルトンはなぜか昼夜関係なく動くからである。
その原因はギルドでも調査中だが、未だに分からずじまいでギルドもほとほと困っていたのだ。まさに謎に包まれた場所なのである。
2つ目は、森に入ると方向感覚が狂ってしまうからである。
森を突っ切るだけならば3時間ほど歩けばいいのだが、なぜか冒険者など人が入ると方向感覚が麻痺したかのように、真っ直ぐ進んでいたつもりがいつの間にか横にずれていたりするらしいのだ。
当然、森に入った者たちの中にはただ闇雲に進むのではなく、木に何らかの印をつけながら進んでいった者たちもいた。しかし彼らがふと引き返してきた時、まるで誰かに消されたかのようにその印が消えていたらしい。
そんな時に無尽蔵に沸いてくるスケルトンに襲われでもしたら、まさに踏んだり蹴ったりである。しかも、それが大量となれば軽くトラウマになってもおかしくはないだろう。
それならば、いっそのことその森に入らずに迂回して行けばいいのだが、そうは問屋が卸さなかった。
それというのも、イエローフォレストは街に並行して広がっている森林、つまり森を迂回するにはそれ相応の時間がかかるということである。
馬車に乗って行った場合、カヌチからイエローフォレストの端まで2日、そこからソールまで2日、計4日間かかってしまう。
そうなってはその分の食料や馬車の運賃がかかり、その分を報酬の分から差っ引いた場合、翔太たちの手元には他の依頼の報酬の半分以下の額しか残らない計算になる。
これが他の依頼よりも報酬が高い理由である。
つまり翔太は今、危険を承知で高い報酬にするか、それとも安全を優先して安い報酬にするかの二択で迷っているのだ。
しかしここで翔太はあることを思い出した。
「……あっ! そういえばテイルって、エンジュマウンテンに行った時に最短の下山ルートを知っているみたいな話をしてたよな?」
「はい。私の頭の中にはこの世界の地図が一通り入っていますからね」
翔太の言葉に、テイルはドヤ顔で答えた。
すると、翔太はそんなハイスペックなテイルにある確認を取った。
「だったら、イエローフォレストを抜ける最短ルートも知ってるよな?」
もし翔太の言う通りならば、今ある問題の半分を解決できることになる。
スケルトンとは戦闘になるが、幸いと言うべきかスケルトンはあまり素早いとは言えない。だから出会った瞬間、先制攻撃をかまして後は逃げに徹すれば極力被害を抑えられるだろう。
翔太はそんな考えのもとテイルに尋ねたのだが、当の本人は途端に嫌な顔をした。
「確かに、できるかできないかと言われればできますが……あそこは諸事情でそういうのは面倒なんですよね~」
「諸事情って?」
「今はお答えできません」
「なんだそりゃ?」
なぜか首を縦に振らないテイルに、翔太は困った表情を浮かべた。
そこで翔太はアプローチを変えることにした。
「……そうか。じゃあ、俺たちはひもじい思いをしなければいけなくなるな~」
「……それはどういうことですか?」
能力を出し渋っているテイルに、翔太は意味深な言葉を告げた。その瞬間、テイルの表情が真剣なものへと変わった。
テイルがそれに食いついたのを確認すると、翔太は笑みを浮かべて言葉を続けた。
「そんなたいしたことじゃないさ。ただ、テイルができないって言うなら俺たちは4日間かけてソールに行くっていうことになる。……でもそうなったら今持ってる食料だけだとソールまでもたないなと思ってな」
「……具体的には?」
「もって3日分、御者の分も負担するとなると2日分ってところかな? そうなれば、俺たちは最低でも1日は何も食べずに過ごさなければいけないってわけだ」
「ここを出る前に足りない分を買っておくというのは……」
「そのお金のために俺たちは依頼を受けようとしているんだろ。それに借金をするにしても、俺たちは特定の場所に留まらない旅人だぞ、そんないつ返すかも分からない人に貸してくれる人がいると思うか?」
苦悶の表情を浮かべているテイルに現実を教えた翔太はここで最後の一押しを加えた。
「でも、テイルが案内してくれるなら食料の心配をしなくて済む。……それに、早くソールに着けば、その分早く報酬をもらうことができる。つまり……」
「……つまり?」
「その分早く美味しいご飯にありつけるってことだ」
テイルにとって、翔太の提案は衝撃的だった。
今更だが、翔太が持っている非常食は最低限の栄養を確保できるが、決して美味いと言えるものではない。彼女にとって、それを連続で食べることはあまり喜ばしいことではない。
しかし森を突っ切ることを前提とした場合、カヌチからイエローフォレストまで約半日、そこから3時間ほどでソールに到着できる。
つまり、時間によってはあの非常食が1回だけで済むということである。
その考えに至ったテイルは先ほどとは打って変わり、途端に目を輝かせた。
「……分かりました! 私やります!」
「いいのか? 無理しなくてもいいんだぞ?」
「何を言うんですか! 私を誰だと思ってるんですか! 翔太様のナビゲーターですよ、任せてください!」
やる気に満ちた目をしているテイルはそう言って、快く案内を引き受けた。
交渉とは、いかに相手にメリットを提示できるかが重要である。翔太はそれを理解していた。
ようやくテイルの扱いが分かってきた翔太はテイルが案内してくれることをアリスに伝えると、次に今後の予定を考えた。
そうして、翔太たちはカヌチからイエローフォレストまでは馬車を使い、そこから先は徒歩で向かうことに決めた。
その結論に受付嬢が「本当に大丈夫ですか?」と心配そうに尋ねたが、翔太は自信満々に「大丈夫です」と答えた。
念のため、太陽が出ている時間帯にイエローフォレストに入りたいと考え、イエローフォレストの手前辺りで野宿することに決めた翔太たちは、すぐに動ける馬車が無いかを受付嬢に尋ねた。
すると、昼頃に一台だけ動ける馬車があるということで翔太たちはそれをチャーターして、ギルドを後にした。
◇◆◇
出発までまだ数時間あるため、翔太はシシハとイシハに別れの挨拶をするために鍛冶屋アルバンに向かった。
そして到着すると、早速シシハに今日の昼頃に街を出ることを伝えた。
翔太の言葉に流石のシシハも「ずいぶん急だな……」と驚いていたが、それでも「気を付けて行って来いよ」と少し別れを惜しんでいるかのようなトーンで送り出してくれた。
その頃、アリスもイシハに抱き着き、元気が出る成分を摂取し、満足げな表情をしていた。
イシハはというと、アリスから解放されると小動物のようにすぐにシシハの後ろに隠れたのだが、それでも顔をちらっと出して「またね」と小さな声で言った。
なんとも愛らしい姿に、翔太たちも顔の筋肉が緩んでしまう。
ただ、シシハが最後に言った「間違いは侵すなよ」という言葉に、翔太とアリスは途端に笑顔から苦笑いに変わった。しかしそれも考えようによっては良い思い出である。
だからもう触れないでおこう。
そうして、お世話になったシシハに感謝を伝えた翔太たちは新たな街ソールを目指して、カヌチを後にしたのだった。
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