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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第4章 死者の導き手編
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受け継がれる能力(狂)[後編]

鍛冶屋で新たな武器である短剣をゲットした翔太は街のはずれでその性能を確かめようと試し切りを行った。しかし翔太はその短剣の受け継がれる能力(サクシード)‘狂化’を使ってしまい、アリスを攻撃した。そして地面に押し倒されたアリスにとどめの一撃を加えようと短剣を振り上げた。

 いつの間にか、彼の景色は鮮血を頭から掛けられたように真っ赤に染まっていた。

 そして今、その隙間からは1人の女が見えている。


 なぜ自分がこの女を殺そうとしているのか、その経緯がどうも曖昧になっている。ただ、その女から攻撃の意志を感じたことは覚えている。


 ならばこちらも攻撃しないとやられてしまう。


 その女が何かを言っているようだが、その言葉を頭が上手く認識できない。しかしこの女には何らかの策があり、時間稼ぎでそんなことをしているのかもしれない。


 だから一刻も早くこの女にとどめを刺さなければ。


 記憶の混濁に加え、翔太の意識は常に戦闘へと向けられていた。

 攻撃の意志がある者は全て敵だという強い思い込みと、敵を排除するための強い力を持っているという事実が彼の判断力を鈍らせ、冷静なまま敵を殺すという考えを持たせていた。


 そして今まさに最後の一撃を加えようとした時、彼の目にある光景が映った。


 まず最初に見えたのは、縦に切り裂かれた服から露わになっていた彼女の白い肌。それは穢れを知らない無垢な白。局部こそ見えはしないが、だからこそ惹き付けられるものがある。

 また、彼の赤い視界だからこそより鮮明に、より美しく見える。


 次に見えたのは、わずかに紅くなっている頬と潤んでいる瞳。その本当の意味が哀しみだとしても、彼には別の意味として見えていた。


 そこには1人の男として、また1匹の雄として扇情的にそそる女がいた。

 愛らしさを感じさせると共にどこかいじらしさも感じるような、はたまた一人の男として守ってあげたい気持ちと心の奥底にある男の嗜虐心を同時に刺激するような姿に、翔太は完全に見惚れていたのだ。


 ただ、翔太はそんな女性に向ける言葉を多くは知らなかった。

 だから今の気持ちをたった一言で表現した。


「……キレイ、ダ……」

「……え?」


 命の危機に直面した場面で、彼から発せられた言葉はほんの一瞬だけ2人の行動を停止させた。互いに状況を把握できなかったのだ。


 翔太は自分の素直な気持ちを告げると、力を失ったかのようにその手から短剣が抜け落ち、重力に従って地面へと突き刺さった。

 そして、その音が2人は同時に意識を現実に戻した。


 その時、互いに今何が起こったのかという疑問が生まれるが、2人は即座にその思考を捨て去り次の行動に移った。


 反応は2人ともほぼ同時、そんななか翔太はいつの間にか手から落ちていた短剣を拾おうと手を伸ばした。

 いくら手から離れたとはいえ、アリスの薬のほうがより遠くに弾き飛ばされているから自分の方が早いと彼は確信しての行動だった。


 それに対してアリスが手を伸ばしたのは弾かれた強力な眠り薬ではなく、懐にある当初使おうとしていたやや強めの眠り薬だった。

 その行動が翔太の予想の裏をかこうとした機転なのか、それとも彼を必要以上に傷つけたくないという思いなのか彼女自身もはっきりしていない。


 とにかく、紙一重の差で早かったのはアリスだった。

 その結果、翔太は短剣を手にすることなく、戻りかけた意識を闇に落としたのだった。


    ◇◆◇


 翔太がその時感じたのは、脳に直接メントールをぶち込まれたかのような刺激だった。


「ぐぁっ! なんだ今の……」


 完全に予想外だった刺激で叩き起こされた翔太が条件反射のように勢いよく起き上がると、そこには悪戯に成功した子供のように喜んでいる妖精がいた。


「おはようございます、翔太様!」

「……今のは何だ?」

「アリス様の気付け薬です」


 テイルが手にしていたのは黄色い液体が入った小瓶だった。

 翔太はそんなテイルの答えに、彼女に「もっと優しく起こしてくれ」と抗議しようとしたが、ここであることを思い出した。


「……アリスは!?」

「そっちの木陰に隠れていますよ」


 そう言ったテイルが指差した方向を見ると、彼女の言う通り綺麗な銀髪が木の陰から見え隠れしていた。

 翔太の様子を窺っているかのような動きを見せるアリスに、彼もどうしたのかと声を掛けようと思ったが、途中でやめた。

 改めて考えてみると、暴走してアリスを襲ったのだから彼女が警戒してもおかしなことではない。そう考えた翔太は少し時間を空けてからアリスに声を掛けることにした。


「いや~、それにしても‘狂化’の力はすごかったですね」

「……その様子だとやっぱり傍観してたんだな」


 そんな翔太の気持ちを察したのか、テイルはいつもと変わらない軽い口調で能力を評価した。

 それに対して、翔太の声には怒気が含まれていた。


「見てたんだったら、アリスに手を貸すことだってできたろ?」

「おや? 暴走状態の時の記憶があるんですか?」

「あぁ、俺も驚いたことに頭だけはすっきりしてて……って話題をそらすな!」

「でもそれって、翔太様が勝手に暴走してアリス様を殺しかけたってことですよね? 私に非があるようには思えませんが?」


 テイルの正論に翔太はぐうの音も出なかった。しかしそれでも翔太は心の中で思っていたことを口に出した。


「……でも助けようと思えば助けられたんだろう? もし今回のことでアリスが死んでいたら、お前はどうするつもりだったんだ……」

「その時は、それもまた翔太様の人生と言うことで……」

「テイル、今日の飯抜き!」

「なぜですか!?」

「お前の罪を数えろ」


 翔太の突然の「飯抜き」宣言にテイルは今までで一番のショックを受けていた。

 翔太自身、この宣言がちょっとした八つ当たりであることと、今回の事件が自分の軽はずみな行動のせいというのは十分に理解している。

 それでも毎回自分だけ避難しているこの薄情な妖精には罰が必要だろう。


 しかしここで木の向こうから姿を現したアリスから待ったがかかった。


「なら、翔太も今日は飯抜きね」

「なんで!?」


 罰を告げる声がした方向に目を向けると、そこには開けている部分が見えないように服の前を抑えているアリスがいた。

 しかも彼女の顔は鬼も逃げ出すような怒りを含んだものではなく、非常に穏やかな笑顔だった。


 しかし翔太は知っている。このような状況でそういった顔をした人間は割と本気で怒っているということを。


「お前も罪を数えろ」

「すみませんでした……」


 だから翔太はアリスの言葉に反論しなかった、もといできなかった。


    ◇◆◇


 翔太から上着を借りたアリスと、彼女に怒られて精神的にかなり疲労している翔太とテイルはひとまずシシハのもとに戻った。

 何はともあれ、実験結果として見れば武器の性能を十分に確認できたのだから良好と言って間違いではないだろう。


 そうして鍛冶屋に到着した翔太たちは躊躇うことなくその扉を開けた。

 しかし後に翔太は、なぜこの時ある程度体裁を整えてから入らなかったのかと少し悔やむこととなる。


 扉を開けると、そこには都合よくシシハとイシハが彼らの目の前にいた。


「今、戻りました~」

「おう、おかえ……」


 帰ってきた翔太たちに「おかえり」と言おうとしたシシハだったが、そこで彼の声が止まった。

 彼は優秀な鍛冶職人である。だから人一番目利きには自身があったのだ。


 そんな彼が見たのは、疲弊しているうえに服がぼろぼろになっている2人。しかもアリスに至っては上着で見えないようにしているが、服が裂かれている。

 そして何よりも、2人がわずかに頬を赤らめながらも、どこか気まずそうにしていること。

 そこから彼は一つの答えを導き出した。


「……ついに襲ったか」

「「違います!」」

「ってか『ついに』って何!?」


 翔太とアリスはシシハの答えを即座に否定した。それに対してシシハは驚くこともなく大人の対応で、彼らを否定しなかった。


「まぁ、男が魅力的な女にそういうことをしたいと思うのは生物的におかしなことじゃないからな」

「いや、それはそうですけど、これはそうじゃなくて……」

「えっ!? あんたやっぱりそういう目的があったの!?」

「『やっぱり』ってなんだ!? 違うから! あれは本当に偶然だから……」

「男なら仕方ない部分だってあるさ……今更隠さなくてもいいぞ」

「何ですか、その『俺は分かってるから』みたいな優しさ! だから違いますよ……」


 アリスの勘違いとシシハの優しさで話がぐちゃぐちゃになってきたところで、純粋無垢な声がその会話を一時中断させた。


「ねぇ、おじいちゃん。『襲った』ってな~に?」


 可愛い孫であるイシハのその一言でおじいちゃん、もといシシハの目つきが変わった。


「お前ら! わしの孫の前でなんということをしてくれたんじゃ!」

「いや『襲った』って言ったのはシシハさんでしょ!?」

「やかましい! とにかくそういうのはもっと場所を選んで……」

「だからそれは誤解だって……あ~も~! 話が進まねぇ!」


 そんな翔太の心からの叫びも届かず、シシハの謎の説教と誤解を解くのに時間がかかった翔太たちはさらに疲労が蓄積していった。

 それでもなんとか誤解を解きながら、短剣の性能と危険性をシシハに伝えた翔太たちはそこで一段落することにした。


 ただその休憩中に、短剣に名前を付けたらどうだという話になってアリスから「狂襲の(ビースト)」という案が出た時は流石の翔太でも心にくるものがあった。

 当然、却下しようとしたがアリスの「あら、ぴったりじゃない」という言葉の裏に潜む「肝に銘じておけ!」という意味に気づいてしまっては、翔太も戒めとしてそれにするしかなかった。


 そうして報告も終わり、アリスはひとまずシシハの所から服を借り、新たな服を買いに出かけた。当然、翔太とテイルもそれに付き合わされる羽目になった。

 そこでアリスは今後必要になるであろう鎖帷子を新調した。その予想以上に高いお値段に翔太は絶句した。


 さらに追い打ちをかけるように、夕食抜きの翔太とテイルの前で飯テロをしたアリスはようやく2人を許し、罪の意識から解放した。

 翔太とテイルはこの時のアリスの笑顔を二度と忘れないだろう。


 そうして、次の日の朝に翔太たちはいつも通り食事をとった。しかしここで翔太が突然驚きの声を上げた。

 それは自分たちの所持金が残り僅かになっていたからである。


 昨日まであんなにあったのになぜと考える翔太だったが、よくよく思い出してみるとアリスが服と装備を新調したときに翔太も少しだけ道具を買っていたのだ。

 まだ大丈夫だろうという過信が招いた事態だった。


 そうして、翔太たちの休暇は突然終わりを告げたのだった。


とりあえず回想終わりましたが、このぐらいの長さなら分けなくても良かった気がすると作者自身、思っています。でもこれを一話にするのは精神的に疲れる気がしたので止めました。

こんな作者ですが、これからもよろしくお願いします。

それと唐突ですが、プロローグ(4)を読んで「短っ!」と思った方、ポイント評価お願いしまーす。

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