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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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空回りとほんの少しの変化(進)

タオ、翔太と話す。翔太の言葉でタオは救われ、改心した。

 翔太が部屋を出た後すぐに、扉の前にいたジルバと出くわし「私の顔ってそんなに怖いか?」と真面目なトーンで聞かれた時は流石の翔太もかなり慌てたが、なんとか誤魔化して逃げるようにその場から立ち去った。

 その後、今までの態度が嘘かのようにタオは素直に聴取に応じ、調査も円滑に進んだ。そして翔太がタオと話してから何日か経った後、彼の身柄は魔法都市スペランディアが預かる事が決定した。


 その話を聞いたアリスたちは少し驚いた表情をしていたが、翔太はそこまで驚いてはいなかった。これがいわゆる司法取引だということを察していたからだ。

 タオは聴取の際に翔太の助言通り、これからは手足を失った人に必要な義手や義足を作りたいと述べていた。ジルバもそれを最初に聞いた時は当然疑ったが翔太から裏を取り、なおかつタオの真剣な眼差しを見て判断した結果、司法取引と言う形を取ったのだ。

 それと付け加えるならば、スペランディアの者たちが引き取るということはタオの技術が喉から手が出るほど欲しいものであるのと同時に、その技術が他に流れるのを阻止するためであろうことはなんとなく予想はできる。


 そうして、多くの被害者を出しながらも数々の冒険者を恐怖させた事件は幕を閉じた。ただギルド側が、結果的に殺された者たちの家族に事の顛末を説明すると、当然彼らはタオの死罪を求めた。

 しかしそれはタオも分かっていたことであり、彼も今更被害者たちに謝罪しようとは思っていなかった。


 それは彼らに罪悪感が無いというわけではなくむしろその逆、彼は一生その罪を背負い、償う人生を選んだのだ。一生後ろ指を指されながら生き続けるということがどれだけ辛いものか筆舌に尽くしがたいだろう、それでも彼は苦痛が伴う人生を選んだのだ。


 これが人族のためにその身を捧げた男が選んだ道だった。


 もちろん、翔太もこうなることは予想していた。しかし人は普段は痛みを嫌うくせに、罪に対する罰を受ける時は苦痛を求めるものだ。そしてタオもそんな痛みを求めていたことをなんとなく察していたのだ。

 だからこそ翔太はタオを非難する声に対しても何も言わず、無言を貫き通した。それが彼のできる唯一の応援だった。


 そうして、牢の中にいるタオのことを考えていると翔太は自分が哀愁を感じていたことに気づいた。なぜそう感じていたのか、本人も分からない。

 ただもしかしたら、タオのことを本当に友人だと思っていたのかもしれない。そう考えると納得している自分がいて、翔太は内心驚いていた。


    ◇◆◇


 タオが移送される当日、外には仰々しいほどの装飾がされた馬車が用意されていた。それがまるで有力者に対する扱いのように豪華なものだったため、翔太たちも最初にそれを見た時は違う用事で来た馬車だと本気で勘違いしていた。


「随分派手な移送ですよね……」

「少なくとも罪人が乗るものではないわね」

「なんだか別の意味で護衛が必要になりそうだね」


 エミルとアリス、ハルトがそれぞれの感想を口にした。


 この時ハルトが困ったような表情をしたのは、ハルトとエミルの二人がタオの移送の際の護衛につくからだ。


 彼らにとっては里帰りのようなものだが、正しくは事件の当事者としてスペランディアの人たちに話をするためである。

 それと言うのも、スペランディアから「タオを移送する時に事件の当事者である翔太たちにもスペランディアに来てほしい」という要請がきていたのだが、それを聞いた時翔太が困った表情をしたのだ。翔太としても「魔法都市」という言葉はとても魅力的だが、鍛冶師のシシハに特注で武器を造ってもらっているためどうしようか悩んだからである。

 その時、ハルトが翔太が何か悩んでいることを察して「自分たちが行くから」と翔太たちの召集を断ったのだ。


 そうして、ハルトとエミルの二人がスペランディアに行くことが決まり、その道中ではタオを護衛してくるように言われたというわけである。


 そして、もうまもなく彼らが出発するため、翔太たちは彼らを見送りに来ていた。


「改めて、あの時はありがとうございました」

「いやいや、僕たちも君たちには何度も助けられたし……」

「それはお互い様ですよ、ハルトさん」

「でも、最後の方は君がいなかったら僕たちも今頃どうなっていたか分からないよ」


 翔太は自分たちの代わりにスペランディアに行くハルトたちに改めて礼を言った。それに対してハルトも翔太たちへの感謝の気持ちを爽やかな笑顔で伝えた。

 そんな楽しく会話をしながらも、翔太は思ったことがあった。


 それは最初の頃と比べて、ハルトと話せるようになったことである。出会った時はエミルの後ろで小動物のように震えていたのに、今ではこんなにも社交的に話せている。

 翔太はそんなハルトの変化に驚きつつも、自分の事のように喜んでいた。しかしそれにしても今日のハルトはいつもより輝いているような、妙に張り切っている感じで翔太もそこだけは妙だと思っていた。


「アリスさんの多種多様な支援に、テイルさんの空間を把握する能力にも助けられました。……本当にありがとうございました」

「え……あ、はい。こちらこそありがとうございました……」


 ハルトは翔太との会話を中断すると、今度はアリスとテイルの手を取り、先ほどと同じく笑顔で感謝を伝えた。そんなハルトの行動にアリスとテイルも驚き、流石の彼女たちも反応が少し遅れていた。

 彼女たちもハルトの様子がおかしいことに気づいたのだろう。そうなれば当然、翔太たちよりも付き合いの長いあの人もその事に気づいてもおかしくはない。


「あの、ハルト? どうしたんですか、今日のあなたは変ですよ?」


 エミルはハルトに不安そうな声色で尋ねた。彼女はいつもと違う彼を純粋に心配していたのだ。しかしそんなエミルの気持ちとは裏腹に、ハルトは高らかに答えた。


「確かに今日の僕は僕らしくない、それは自覚してるよ。でも決めたんだ。僕も変わらなきゃいけないってね」

「それはどういう……」

「エミル……いつも思っていたけど、言えなかったことがあるんだ。でも、今こそ君に伝える!」

「えっ……」


 そう言うと、ハルトはエミルの華奢な肩を掴み、自分の元へ引き寄せた。そんなハルトの頬はうっすらと紅みを帯びていき、彼の頑張りが目に見えて分かる。そんなハルトの反応を見て、エミルもつられるように少しずつ頬を紅く染めていく。


 そして一度深呼吸をすると、ハルトは真っ直ぐな瞳でエミルを見つめながら彼女の顎を指で軽くクイッと持ち上げた。

 それは世間で言うところの顎クイである。

 それを見た時アリスたち女性陣はもちろん、同性である翔太でさえ感嘆の声を漏らしてしまうほど、魅惑的で大胆な行動だった。


 そしてハルトはその状態を維持したまま、エミルに自分の想いの全てをぶつけた。


「……こんな僕をいつも支えてくれてありがとう。でもこれからは僕も君を支えていく、どんなことがあっても今度こそ君を守る。だから僕と……」


 それは一人の男の誓い。

 自分に自信がなかった少年の中に溜まっていた感情が心の殻を破り、外に飛び出したのだ。それはまさに「今のままでは駄目だ」と強く思った少年が、変わるために出した男の答えだった。


 それに対してエミルは硬直して何もできなかった。

 ハルトが心の優しい男の子であることは彼女が一番よく知っている。しかし他人に対してはどこか一線を引いて心の距離を取っていることもまたよく知っていた。

 もちろん、他人と言ってもエミルは例外であり、ハルトも彼女とは距離を取ろうとはしなかった。しかしそれでもどこか遠慮しているような行動が多かった。

 だからこそ、今の直球な言葉はエミルにとって衝撃的なものだった。その時、その内容を考えるよりも先に、ハルトの成長に感動していたのが彼女らしいところだ。


 しかし彼女は利口だ。感動の最中、ハルトの言葉の意味を考えた彼女はその瞬間、心中でかなりのパニック状態に陥った。

 何しろ、今まで気の弱い弟のように思っていた男の子から突然告白されては流石の彼女も、彼がいつから自分のことをそう思っていたのか、この状況で彼に何て言えばいいのか、そんな疑問と焦燥が頭の中で錯綜してしまっても仕方がないだろう。


 確かに、ハルトは紳士的で戦闘の時でも頼りになる存在である。しかしだからといって完璧と言うわけではなく、どこか支えてあげなきゃと思うような弱さも持っている。

 そんなハルトだからこそ、エミルも彼が冒険者になると決めた時に自分もなると言ったのだ。


 その時、エミルは自分のハルトへの想いに気がついた、というよりは再認識したと言った方が正しいだろう。そして今更だが、そう思うと必要以上に彼のことを意識してしまい、さらに顔が真っ赤になっていく。

 そうして、彼女の中で何かが爆発しそうになった時、


「……もう無理だ~!」


 先にハルトが爆発した。

 限界に達しようとしていたエミルを追い抜くほどの速さで、同じく顔を真っ赤にしたハルトが場の空気に耐えきれなかったのだ。

 自分で作った空気に耐えられなかったというのもおかしな話だが、彼はその場でしゃがみ込むと「やっぱり自分には似合わない、こんなこと最初から無理だったんだ」と激しく後悔していた。


 いつもの姿に戻ったハルトを見て、エミルは緊張が解けてつい失笑してしまう。


「ふふっ……」

「笑うくらい滑稽だったんだ! やっぱり僕なんて……」

「いえ、違いますよ。ハルトはかっこ良かったですよ」

「気を遣わなくてもいいよ。僕自身、空回りしてる自覚はあったし……」

「嘘なんて言ってません。本当にハルトはかっこ良かったです。さっきのは、そう……あまりのかっこよさに驚いちゃって動けなかったんですよ! ……それに嬉しかったです」

「……えっ?」

「小さな頃から私の後ろで震えていたハルトが、こんなにも男らしくなったと思うと嬉しくて……」

「えっ? そっちの方?」

「あ、いやそれもそうなんですが、その……私もこんな風に言われるのは初めてなので、どう返したらいいのか分からなくて……」


 そんなやり取りをするエミルとハルトは、いつの間にか先ほどのような緊張した空気ではなく、いつもの距離感で会話をしていた。

 翔太たちもそんな二人を見て、少し苦笑いする部分もあったがそれでも二人らしいと感動していた。


 人は、良くも悪くもそう簡単には変わらない。しかし変わろうとする強い意志があれば、いつか必ず変わることができる。

 そのせいで何度空回りしようと、ほんの少しの変化がその人を大きく変えていく。それもまた人の強さと言えるだろう。


 そうして、ついに別れの、出発の時間が訪れた。


「翔太君、本当にありがとう。君のおかげで僕は変わることができた。君と出会えて本当に良かった!」

「私も翔太さんたちに出会えて良かったです。このお礼はいつか必ず!」

「いえ、俺もエミルさんやハルトさんから多くのことを学ばせてもらいました。またいつか、一緒に冒険しましょう!」

「……冒険もいいけど、私的にはスペランディアでショッピングしたいな~」

「それと一緒に食べ歩きもしたいですね、翔太様!」

「……それは俺の懐事情が良くなったらということで」

「えっ、何? 翔太が奢ってくれるの? やったー!」

「えっ!? いや、この人数は無理だから……」

「やったー!」

「聞いて!」


 そんな会話を交えながら、翔太たちは最後に約束と熱い握手を交わすと、エミルたちはスペランディアに向かった。


「なんだか寂しくなるわね……」

「……そうだな。でも今生の別れっていうわけじゃないんだから、いつかまた会えるさ」

「たまには翔太様も良いこと言うんですね。かっこつけすぎな気もしますけど」

「『たまには』は余計だっつーの! 大体、テイルはいつも一言余計なんだ……」

「翔太様が怒った~」

「あっ、こら!」


 そうして遠くなっていく彼女たちを後ろ姿を見ていると、次第にその場は静けさを取り戻していく。そしてその静けさに哀愁を感じつつも、翔太たちもいつもの雰囲気に戻っていった。


 その時、一筋の光が空高く舞い上がる。そして次の瞬間、夜空に大輪の花が咲いた。

それは翔太がいた世界では花火と呼ばれるものだが、この世界では火の魔法を空に打ち上げて爆発させたものだ。

 しかしそれでも祭りの始まりには最高の合図である。


「確か、荷馬車にいたお姉さんたちがカヌチで祭りがあるって言ってたっけ?」

「お姉さんたちって、あの過激な衣装を着ていた女の人たちのこと?」

「そうだけど……あの~、アリスさん? どうしてそこで俺を睨むんですか……」

「……別に~」


 翔太がカヌチに初めて来たときのことを思い出していると、アリスが怪訝な目で翔太を睨んでいた。

翔太としても、なぜそんなことをされるのか身に覚えがないため反応に困っていた。


「お祭りですか~!? こうしてはいられません、早く行きましょう!」

「そっ、そうだな! 早く行こう!」

「あっ、ちょっと!」


 翔太がどうしようか迷っていると、テイルが一直線に屋台へ向かっていった。

 驚くべき速さで飛んでいくテイルに便乗して、翔太はその場の空気をうやむやにするようにテイルの後を追いかけ、窮地から脱した。

 そしてアリスもまた、逃げるように祭りの方に行く翔太の後を追いかけていった。


 そうして、祭りの喧騒に身を任せた彼らは次の冒険への英気を養うのだった。


読んでいただきありがとうございます。

唐突ですが、第3章が終わりました。次回からは第4章です。(それに関して、次回の投稿は遅れるかもしれません、すみません)

書いていて、エミルはハルトの姉的な存在で書きたかったんですが、自分で読んでみて、お母さん感の方が強い気が……気にしたら負けだなと思いました。

こんな自分ですが、これからもよろしくお願いします。

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