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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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目覚ましの刺激(痺)

自動で動く脱出ポッドが途中で故障。しかしそれを手動(ゴリ押し)で動かし、ようやく念願の地上に出てきた。その際、翔太は限界以上の力を使ったためその場で気絶した。

 パチパチという焚火の音で目が覚めた翔太が最初に見たのは、流れゆく雲で見え隠れしていながらもその存在感を見失わない満月だった。

 その輝きに目を奪われていると、その月を隠そうとする影が翔太に覆い被さる。


「やっと起きたみたいね」


 覗き込むようにして翔太が起きたのを確認したアリスは、安心したような表情を見せた。彼女の声で翔太もようやく頭が活動し始める。


 最初に理解できたのは、無事に地下から脱出できたということ。

 翔太が思い出せたのは茜色が差し込んだ時までであり、そこから先は記憶が朧気だった。しかしアリスの優しい微笑みを見れば、その後の結果は想像するに難くない。


 次に理解できたのは翔太の頭が今、アリスの膝の上にあるということだ。

 頭の裏に感じる、引き締まりながらも程よい柔らかさと人肌の優しい温もり、何より今の自分たちの体勢を考慮すれば察しぐらいはつくだろう。


 そう思った翔太は確認のために自分の頭の裏に当たるものに触れた。翔太の突然の行動に驚いたアリスは何事かと驚いた表情を見せるが、すぐに翔太が考えていることを察すると今度は悪戯っ子笑みを浮かべた。


「どう? 気持ちいいでしょ」

「……あぁ。すごく気持ちいいよ」


 翔太の言葉を聞いた瞬間、アリスは一瞬だけ固まった。しかしすぐに冷静になると、今度は瞬時に顔を紅く染めた。

 アリスは日頃から翔太に振り回されている節があると感じていた。その事自体はそこまで気にしているわけではないが、それでもこういう時ぐらいは一泡吹かせたいと思った。

 要は、女性ならではの小悪魔的な悪ふざけである。


 しかしアリスの思惑とは裏腹に、今の翔太は起きたばっかりで半分寝ぼけている状態。だから自分が何を言っているのかさえ認識しているかさえ、あやふやだろう。

 その結果、翔太は聞かれたことに対して、思ったことを率直に述べたのだ。


「っ痛!」

「……これで目が覚めたでしょ?」


 何か負けた気がしたと思ったアリスは一矢報いるような気持ちで翔太の額に軽くデコピンをくらわせると、そのまま顔を背けた。

 もちろん、翔太に勝った負けたというような気がないのはアリスも十分理解している。それでもアリスはあからさまに動揺している顔を翔太に見られたくなかったのだ。


 それに対して、翔太はなぜ起きたての自分がデコピンを食らわなければいけないのか、何か自分に落ち度があったのかと頭を悩ませていた。しかしいくら考えてもなぜアリスが怒っているのか分からない。

 そして最終的には、これが女心というものかと結論を出した。


 そんな見当違いに見当違いを重ね、的外れの答えを導き出すと、遠くから近づいてくる足音に気づいた。

 しかし翔太が起き上がってその事をアリスに知らせる前に別の声が彼らに届く。


「見てくださいよ、これ! 果物がこんなにいっぱい取れましたよ……って、翔太さん!? 良かった~! タオの施設から脱出した後すぐ気を失ったみたいで、私も心配していたんですよ。あ! 何か必要なものはありますか? 私にできる事があれば何でも言ってください」

「あ……はい」


 両手に大量の果物を抱えながら話し続けるエミルに圧倒された翔太は返事をする以外何もできなかった。

 翔太としてもエミルが心配してくれていたのは十分理解できる。しかし世話焼きが前に出すぎて、少し引いてしまったのもまた事実である。


 ハルトの苦労が少し分かった翔太は興奮状態のエミルに「じゃあ、ひとまず落ち着いてください」と苦笑いで伝えたのだった。


    ◇◆◇


 翔太に言われて、落ち着きを取り戻したエミルは少し反省していた。


「すいません、私としたことがあんなに取り乱してしまうとは……」

「いえ、そんな落ち込まなくても大丈夫ですから。……そういえばこの大量の果物はどうしたんですか?」


 予想以上に気分を落としていたエミルに、なぜか悪い事をしてしまったような気がした翔太は即座に話題を転換した。

 するとエミルもすぐに調子を取り戻し、翔太とアリスに収穫してきた果物のうちの一つを手に取って見せた。


「私もびっくりしました。まさかフギリ大森林にビリリの実があるなんて知らなかったので……」

「「ビリリの実?」」

「お二人は知りませんか? これはビリリの実といって……と口で説明するよりは食べてもらったほうが分かりやすいですよね。あ、毒性とかはないので安心してください」


 エミルに手渡された実はリンゴほどの大きさで、重量はそれよりも少し重いといった感じだが皮はそこまで固くなく柔らかい。正直なところ、今さっき自分が腹を空かしていることに気づいた翔太は今すぐにでも実にかぶりつきたい気分だった。

 しかしここで一つ忘れられない思い出が過る。


「……これってめちゃくちゃ酸っぱいとかないのよな?」


 翔太は怪訝な目で実を見つめながら、そんな独り言を呟いた。

 懐かしのアムリの実。それは翔太の中で、記憶に残るシーンベストファイブに入る出来事だった。酸っぱいものを想像しているのになぜか唾液が乾いていく、それほどまでに衝撃的だった出来事。

 しかしエミルは笑顔を崩さずに答えた。


「大丈夫ですよ。これはとっても甘い果実ですから。私もこの実は好きな方ですし」

「良かった~。何も聞かずにアムリの実を食べた時は本当に大変だったもんね」

「えっ? お二人ともあのアムリの実を食べたことがあるんですか?」

「いや、まぁ騙されたというか、遊ばれたというか……まぁ、そういうのじゃないなら大丈夫だろ。それじゃあ……」

「「いただきます」」

「えぇ、アムリの実に比べたら全然大丈夫な方ですよ」


 エミルの最後の言葉に反応する前に、翔太とアリスは安心しきった表情でその実にかぶりついた。

すると噛んだところから果汁が勢いよく吹き出す。それに驚いていると、今度は口の中に強烈な甘みが浸透していく。それはリンゴのような見た目と反し、ベリー系の果実の甘酸っぱさがあり、如何にも女性が好きそうな味だった。


「うま……」

「あま……」


 しかし、翔太とアリスがそれぞれ感想を言おうとした瞬間、彼らの口内に新たな刺激が現れ、途端に彼らの感想が書き換えられる。


「……んっ!? く~……効く~!」

「……ぶっ!? 何これ~!? 舌に微力の雷が流れたみたいな感じが……」

「その様子ですと、翔太さんはイケるクチみたいですね」

「やっぱりこうなるって知ってたの!?」


 エミルは悪戯が成功したときの子供のような無邪気な笑みを翔太たちに向けた。

 翔太たちが感じたのは舌へのピリピリとした刺激、翔太にとっては懐かしいとも言える炭酸飲料を飲んだ時の感覚だった。しかもその強さは強炭酸といったところだろう。

 その感覚が合わなかったのか、アリスはその刺激に耐えきれずに実を勢いよく吹き出していた。


「何これ? 雷でも吸収してんの?」

「あはは、違いますよ。詳しくは知りませんが、この果汁には舌にビリビリするものが含まれているらしいですよ」


 アリスが文句を聞きながらエミルもビリリの実にかぶりつき、翔太と似た反応をする。彼女もイケるクチである。


 ビリリの実はこの刺激さえなければ、特に女性が好みそうな果物である。しかしこの実は時折、突然謎の爆発が起こるため市場でも扱う店が少ない。何より、その刺激は完全に好みが分かれるため売れないときは全く売れず、そのまま廃棄されることが多い。

 だからエミルも珍しいと言っていたのだ。


「え~、味は良いのに……このビリビリが邪魔すぎる」

「慣れれば良いアクセントなんですけどね」

「……ん~! やっぱり私は無理かな……って翔太はさっきから何を考えているの?」


 女子二人が話をしている時、翔太はひたすら黙って考え事をしていた。

すると翔太は徐に懐からナイフを取り出し、エミルにお願いして魔法で水を出してもらうとナイフと手を軽く洗った。

 そして、魔法って便利だなと思いながら翔太はナイフをビリリの実に突き刺した。


「いきなりどうしたの!?」


 何も言わず、突然実に傷をつけ始めた翔太に驚いたアリスはそのまま質問した。すると返って来たのは、質問の答えになっているか判断できないものだった。


「いや、もう少し食べやすくしようと思ってな……」


 翔太はそう言いながら、実を貫通させないように細心の注意を払いつつ、食べ痕の近くに浅めの細い穴を作った。次に片手で実を支えながら、その穴を塞ぐようにもう片方の手をそこに置いた。すると何の前触れもなく、前後左右に実を振り始めた。

 その間、早くも翔太の奇行に慣れたアリスとエミルの二人は静かにその様子を見ている。


 そして少しの間、振り続けると突然その動きが止まった。アリスたちがどうしたのかと不思議がっていると、翔太は穴を塞いでいた方の手を実から離した。

 すると実から先ほどよりも大量の泡が小さな噴水のように勢いよくあふれ出した。そしてその放出が治まると、翔太は再びその実にかぶりついた。


 その瞬間、翔太は感動した。なぜならこの実に劇的な変化が起こっていたからだ。

具体的には、口の中に広がる甘酸っぱさは最初に口に入れた時と比べれば薄く感じるが、翔太にとってはこのくらいの甘さが程良くなっていた。むしろ最初の果汁が甘すぎたのだ。そして何より、最初の強炭酸が微炭酸に変化し、程よいアクセントになっている。それが今まで抑えていた食欲に火をつける。

 翔太は安心して食べられる果物に夢中になってかぶりついた。


 しかしその時、翔太はようやくアリスたちの視線に気づいた。二人の興味津々といった目で見られてしまっては、翔太も手を止めざるを得なかった。


「……食べてみる?」


 翔太は恐る恐る実を二人に差し出すと、最初にアリスがそれを受け取った。そしてまじまじとそれを見つめつつも、かぶりついた。

 するとアリスは途端に目を輝かせた。


「美味しい~! 何これさっきと全然違う! 何これ、何これ!」

「わ、私にも一口下さい!」


 無性にかぶりつくアリスの手から半ば取り上げるようにしながら、今度はエミルがその実にかぶりついた。

 するとエミルは翔太と同じ感想を口にした。


「確かに……甘味は薄くなってるみたいですが、前みたいな刺激が無くなって食べやすくなってますね。翔太さん、いったい何をしたんですか?」


 エミルの当然の疑問に翔太は少し困った顔をした。

 答えるだけならば「炭酸飲料と同じだから、振って中の炭酸を抜いただけだよ」と言えば良い。しかしそれは「炭酸」という考え方が前提であり、おそらくそういった概念はこの世界にはないだろう。


 翔太の予想では、ビリリの実は大量の二酸化炭素を吸収しながらも外に放出しない構造になっている。その構造の元、二酸化炭素を次々に吸収することで内部に強い圧力がかかることになる。その圧力により、噛んだだけで飛び出してくるほど潤沢な果汁に大量の二酸化炭素が溶けた結果、炭酸飲料のような果実ができたと考えられる。

 移送中に外部からの刺激が実に加わったことで中の炭酸ガスがあふれ出してしまい、その勢いにあの柔らかい皮が耐えきれなかったため四散したと考えれば、市場で爆発したという話も納得できる。


 しかしこの話をすれば、この世界にはない概念である「科学」の話になってしまう。だから翔太は悩んでいたのだ。

 その後、色々考えた翔太は諦めたかのような表情をしながら口を開いた。


「いや~、本当は中の果汁が多いから少し抜こうかなと思ってやってたんですけど、まさかこんな結果になるとは……オレモオドロキマシタ」


 翔太は全力で誤魔化した。科学で証明したものを科学的な知識抜きで話せなんて、足を使わず走れというのと同じで、根本的な部分が無いためできるはずがない。少なくとも翔太には無理だった。


「そうだったんですか? 私はてっきり狙ってやったことだと思っていましたが……」

「い、いや、そんなことはナイデスヨ? 全くの偶然ですよ!」

「それにしてもさっきから挙動がおかしいですよ?」

「俺の挙動がおかしいのは今に始まったことじゃないですから、アハハ……」


 自分で言ってて悲しくなってきた翔太は笑って全てを誤魔化した。

 エミルもそんな翔太の様子からこれ以上何かを聞くことはなかった。冒険者の間で相手の事を詮索するのはあまり良くない行動だと悟ったのだ。


 エミルの追及が終わり、なんとか事態を乗り切った翔太はなぜか生じた疲労を癒すため、再び自分の分を食べようとした。

 しかしいくら見渡してもその実が見当たらない。


「あれ? 俺の実は?」

「えっ? あ……」


 翔太が見たのはもはや原型をとどめていない、瓢箪型になっているビリリの実を手にしているアリスの姿だった。彼女にとってその味の変化は本当に画期的だったのだろう、翔太とエミルが話している最中、無我夢中で食べていたのだから。

 その光景を見た翔太はアリスに文句でも言ってやろうかと思ったが、その前から文句を言い続けている腹の虫を黙らせたほうがいいと判断した。というよりは、そもそも文句を言う力がなかったと言った方が正しいだろう。


 慌てて笑いながら誤魔化そうとしているアリスをよそに、翔太はそんなことを考えながら再びビリリの実を手に取った。

 しかしそこでも問題があった。


「……二人とも何してるんですか?」


 先ほどと同じ工程で炭酸を抜いた翔太を、アリスとエミルの二人が上目遣いで見つめていたのだ。

 美人二人の潤んだ瞳で、甘えるように見つめられては男としてそれを無下に断ることは難しいだろう。ましてや女性に耐性がなければなおさらである。


 ただ翔太としてもタオを救い出すときの影響により、自分の腕がたったこれだけの動きで悲鳴を上げているためこれ以上は本当に辛かった。

 しかしだからといって、今の翔太にその小悪魔的な二人に抗うことはできなかった。


 翔太はこういう時の女性はずるいと内心で不満を漏らし、溜息をつきながらも抵抗せずに実を渡した。


「……どうぞ」

「きゃ~! ありがとう、愛してるよ~! ……あっ」


 翔太から処理済みの実を受け取ったアリスはその場のノリでつい出てしまった言葉に思わず赤面し、視線を下に落とした。言う気はなかったのに軽はずみでこんなことを言って、翔太からどんな反応をされるか怖くて彼の顔を見ることができなかったのだ。


「はいはい、ありがとな。次はエミルさんの分ですね」


 しかし言われた当の本人はアリスの言葉をさらっと受け流すと、早々に次の作業に取り掛かっていた。


 アリスとしてはそれに安堵する気持ちもあったが、やはり何か悔しいと感じていた。人の言葉を何だと思っているのかと半分逆ギレ気味にもなった。

 だからアリスは翔太にそっぽ向きながら受け取った実にかぶりついた。


 そんな彼女に翔太も不思議そうな表情を見せるが、その事について特に何も言わず、エミルと自分の分を用意した。

 そうしてようやくその実にありついた翔太の表情には達成感が感じられ、大層幸せそうだった。


 そんな時、遠くから明るい声が聞こえてくる。


「翔太様、ようやく起きたんですね~。身体は大丈夫ですか?」

「腕が辛いこと以外はまあまあってところか。それよりもテイルこそ今まで何していたんだ?」

「色々です」


 そう言ったテイルの口元は火に照らされるとなぜか光っていた。その理由にすぐに察しがついた翔太は加工していないビリリの実をテイルに投げて渡した。


「お腹、空いてるだろ?」

「は、はい。そう、ですね……いただきます」


 そうして、翔太が気絶していたのにもかかわらず満足するまで森の果実を食べ漁っていた少女の幼い悲鳴が木霊することになるのだった。


読んでいただきありがとうございます。

どうも投稿が不定期になっていて、自分でも困っています。本当にどうしましょうか?

こんな自分ですが、これからもよろしくお願いします。

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