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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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脱出手段(円)

翔太はタオと共に仮初の身体から脱出。しかし仮初の身体が倒れたことによる衝撃で施設が崩れ始める。

 地下施設の崩落が始まり、困惑していたアリスたちに対し、翔太は冷静に辺りを見渡しながらその者に聞こえるように大声で呼びかけた。


「テイル、近くにいるんだろ? 教えてほしいことがあるんだ」

「どうしたんですか~、翔太様?」

「テイルさん!? いつの間に……というか今までいったいどこに?」


 いつも通り戦闘に全く関与しなかったテイルはとくに悪びれることもなく、翔太の呼びかけに反応した。突然現れたテイルに驚くエミルたちには今までどこにいたのかという疑問はあったが、深くは追及しなかった。そんなことよりも気になることがあったからである。

 それはこの状況で翔太が聞きたいことについてである。アリスたちはテイルが風を操ることができるということは知っているが、この状況でその力をどう活かすのかと考えてもそれらしい答えが浮かばなかったのだ。

 まさか風で瓦礫や土砂を弾いたり、受け流せるかなど非現実的なことを聞くつもりなのかという不安もあった。しかし翔太の今までの行動からアリスたちの想像を超えた考えがあるのではないかという少しの期待があったことも嘘ではない。アリスたちはそんな2つの感情が混ざった目で翔太を見つめていた。


 しかし翔太が聞いたことはアリスたちが予想していたものと全く異なるものだった。


「隣の部屋の風の流れについて教えてくれ」

「「「風の流れ?」」」

「おぉ~! 見事にハモりましたね」

「そんなこと今聞いてどうするんですか!?」

「すいません、今は説明している時間がありません。後、これお願いします」

「ちょっ……」

「それではご案内しま~す、ついてきてください!」


 翔太の質問に異議を唱えたエミルだったが、翔太とテイルは素早くその話を区切った。そして“物体引力(フックショット)”で忘れずに大剣を引き付け、ハルトに華麗にキャッチしてもらった後で、

気絶しているタオをエミルとアリスに預けると、テイルと共に一足先にタオの研究所に向かった。

    ◇◆◇


 戸惑っているエミルたちより一足早く隣の部屋である研究所に到着した翔太はこの部屋の風の流れについてテイルに教えてもらっていた。それに対して、後から到着し、その様子を見ていたエミルたちからは疑問の声が上がっていた。

 何しろ、崩壊が始まってからまだわずかな時間しか経っていないとはいえ、今はこの施設がいつ崩壊してもおかしくないという状況である。それにもかかわらず翔太は研究所内を見て周っているだけで何か行動を起こす素振りすらなく、緊張感がないようにも見える。


 しかしそんななか、アリスだけは気づいていた。それは翔太がミノタウロスを(結果的に)倒したときや山に巣くう盗賊たちを恐怖のどん底に陥れたときなどにあった、何らかの確信がある時の目をしていたからだ。

 翔太が今何を考えているのか、アリスには分からない。それでもその目をした翔太には必ず何かがあると、そう信じているアリスは最後まで彼に付き合う覚悟を密かに決めていた。


 そんな時、翔太が突然タオの机を物色し始める。翔太の行動に驚いた3人は当然どうしたのかと翔太に近寄って尋ねた。


「どうしたんですか?」

「いやこの机に起動させるためのスイッチみたいなものがないか探しているんですが、中々見当たらなくて……」

「……え、と?」


 翔太の言葉にアリスたちは疑問の表情を浮かべていた。何しろ、翔太の言葉にはその目的とその目的に行き着いた過程が抜けているのだ。当然理解できるわけがない。

 困惑しているアリスたちを見た翔太は察した様子で説明を続ける。


「……あ、すいません。テイルが今いるところにはおそらく地上までつながっている路があります」


 翔太は壁の方を指差しながらそう言った。エミルたちがその方向に視線を向けると翔太が言葉通り、その近くでテイルが飛び回っている。しかしそこには壁しかなく、翔太が言うようなものがあるとは到底思えなかった。


「……本当にあそこにあるんですか?」


 エミルが当然の疑問を口にすると、翔太は机の中を物色しながら答える。


「エミルさんはこの施設の入口を見つけたときのことを覚えていますか?」

「……それってあの焼失事件のことですか?」

「……いや、そっちじゃなくて扉を開けた時に風が吹きつけた時のことです」

「あ……そっちでしたか」


 地下から風が吹きつけたということはどこからか空気が流れてきているということである。エミルもその事には気づいていた。しかしそれはすでに彼女の中で解決していた。


「それは地上の空気を送るための孔があるからじゃないですか?」

「俺も最初はそう思っていました。でもそれ以外にもこの施設には必要なものがあります。例えば、タオは地上で調達した物資をどうやってこの部屋に持ってきたのか……とか」


 翔太たちが発見した道はせいぜい人一人が通れるぐらいの幅しかなかった。そのうえ梯子を使って降りる形式だったことを考慮すると、あそこから物を運び入れていたとは考えにくい。

 もちろん、あの道が魔法により物資を運びやすい状態に変形するという可能性も十分にある。しかしその場合、そこから研究所まで行くためには訓練所を経由する必要があるのだ。わざわざそんな二度手間みたいなことをするくらいなら、研究所に直接つながる道を作ったほうが理に適っている。


「ということはあそこにあるのは……」

「えぇ、あそこには地上からの物資をここに届けるための搬入路があるはずです」


 翔太がテイルに尋ねたこととは、この研究所から地上まで続く風の流れについてである。翔太はこの施設に研究所があるということを知った時から必ず搬入路が存在すると考えていた。そしてこの研究所にはそれと似た感じで、地上に続いている道があると確信していた。

 実際にそれはいくつもあった。だからこそ翔太とテイルはそれらしい装置がないかを探している。


 その時、遠くから喜びの報告が聞こえてきた。


「翔太様~、ありましたよ~!」

「本当!?」


 その報告を聞いたアリスたちは、今度はテイルの方へ向かった。そしてアリスたちが到着するのを待ってから、テイルはドヤ顔で発見した仕掛けを作動させた。

 すると崩壊とは異なる振動がその場に伝わると同時に壁が2つに割れ、中から10m四方の空間が出現した。そしてその空間内に予め設置していたと思われる灯りが灯り始め、その中を明るく照らしている。


「この空間の大きさから、この搬入路はここで作られたゴーレムや狼たちを地上に運ぶためにも使われていたんでしょうね……」

「ひとまずは脱出の手段を確保できましたね……って翔太さん?」


 その空間内を見渡し、冷静に推測しつつ喜んでいたアリスたちだったが、これを発見した立役者である翔太がいないことにようやく気づき、周囲を見渡した。

 翔太はまだタオの机を物色していたのだ。テイルが作動させた仕掛けで隠していた搬入口が開いたのだから、物色する理由はないはずなのに翔太はなぜ今もまだ物色しているのか。その疑問が晴れなかったアリスたちは翔太にどうしてなのか聞こうとすると、それより一瞬早くテイルの声がその場に届く。


「やっぱりこの搬入路は手動じゃないと動かせないみたいです~」

「「「えっ!?」」」


 翔太の返事よりも早く反応したアリスたちはその声がする方へ駆け寄ると、それを見て絶句した。

 そこにあったのは取っ手が付いた半径3m弱の円状のものだった。それは搬入路を動かす歯車を回すためのものだと簡単に推測できる。いくらハルトが腕力に自信があるといっても、力的にもサイズ的にもこれを動かすのはまず不可能だろう。

 つまり翔太たちではその搬入路を使うことができないということである。


「そんな……」

「ここまでですかね……」

「『諦めないで』って言いたいけど、これはどうしようもない……」


 突きつけられた事実にアリスは絶望していた。希望から絶望への落差が与える影響は大きく、それはエミルとハルトも同様だった。しかしその時ようやくテイルの声に返答する者がいた。


「やっぱりそうか~、テイルの言う通りだったな」

「……何でそんな反応なんですか?」


 テイルは風の流れを読むと共に、その風が触れた物の形などを詳細に把握することができる。その力によりテイルは搬入路が手動で稼働するものだと気づき、翔太にもその事を伝えていた。だからこそ翔太は搬入路が動かせない可能性も考慮していたのだ。

 しかし翔太の緊張感のかけらもない間の抜けた声を聞き、低めの声音で反応したのは一周回って冷静になっていたエミルだった。

 エミルはこうなったら降ってくる瓦礫を全て受け止めるつもりで身構えていた。しかし翔太がまるで他人事のような反応をしたため、軽い憤りさえ感じていた。


「翔太さんはいつまでそんなことをしているんですか!?」


 エミルはさっきからずっと同じことをしている翔太に八つ当たり気味に尋ねた。彼女自身、そんなことをしても意味がないことは理解している。しかしそれでもこの状況で全員を守れるのは“反射壁(リフレクション)”を持つエミルと翔太の2人だけ。それなのに翔太はそんなことは関係ないというような表情で無駄なことを続けている。エミルはそれが理解できなかったのだ。


 しかしそれでも翔太は手を止めなかった。そんななか、机の中をひとしきり調べ終えた翔太は、次に机の裏に手をつっこみ、見えない部分を探り始めた。すると、ふと手の先に何かが当たった。それは感触的に突起物なのは分かる。


「……おっ? もしかしてこれか?」


 そう言って翔太はその突起物に触れ、中にグッと押し込んでみた。その瞬間、翔太とその机を中心に直径5mほどの円が出現し、翔太たちは白い光に包まれた。


「えっ!? 何これ?」

「「翔太さん!?」」


 突然の出来事で驚いたアリスとエミルだったが、何があるのか分からない以上、迂闊に近づくことはできない。翔太の身を心配する2人はそれ以降何も言えず、ただ黙って眺めることしかできなかった。

 しかし次第に光が弱まっていくと、翔太が驚いた表情でその場に硬直しているのが見える。


「無事!? どこか怪我はしてない!? 今いったい何が……」

「俺は大丈夫だから、いったん落ち着け」

「でも……!」

「そんなことよりも……」

「あっさり流された!? 人がこんなに心配してるのに……」

「上を見てくれ」


 翔太が姿を現すと同時に、途端に口を開いたアリスは全速力で翔太に駆け寄った。しかし翔太はそんなアリスを落ち着かせるために話を転換させ、上を指差した。

 アリスはそんな翔太に納得いかない部分もあったが、それでも翔太が指差す方を見ると足元から溢れ出た円形の光が天井にまで続いていた。


「……これは何?」

「これは……って何!?」


 ふと漏れたアリスの声に翔太が答えようとした時、突然天井が崩れ、翔太たちに向かって瓦礫が降ってきた。


「このタイミングでか!? “反射(リフレ)……!」


 降ってきた瓦礫に対して、翔太は自分たちの身と仕掛けがある机を守ろうと“反射壁(リフレクション)”を発動させようとした。しかしその時、眩暈が起こって翔太はその場に膝から崩れ落ちた。翔太は度重なる疲労によりまだ力を回復しきれていなかったのだ。

 そのことに気づいたアリスは咄嗟に翔太の上に覆い被さるようにして翔太を庇おうとした。アリスは今の自分にできることはこれだけだと悟ったからだ。


 アリスの行動に驚いた翔太は慌てて止めようとしたが、そんな時間はない。その瓦礫が直撃すれば怪我では済まないだろう。しかしそれでもアリスは逃げようとしない。翔太は悔しい思いで拳を強く握りしめた。


 しかしその時、全ての瓦礫が空中で粉砕された。突然の出来事で何が起こったのか分からなかった翔太だったが、そこには2つに割れたハルトの大剣が転がっていたことから容易に推測できた。

 翔太の様態にいち早く気づいたハルトが咄嗟に大剣を投げたのだ。しかし今までの疲労が蓄積していたのか、大剣はその役割を全うするとそこで大剣は折れてしまった。


「翔太くん、アリスさん、大丈夫!?」

「俺たちは大丈夫です。それよりもすいません、俺たちのせいでハルトさんの大剣が……」

「気にしないでくれ。むしろ今まで僕たちの方が翔太君に助けてもらってきたんだから、これくらい大したことじゃないさ」


 遅れてやってきたハルトに翔太とアリスはお礼を言った。するとテイルが蝶のように飛んできて翔太の肩の上に止まる。


「これが翔太さんの探していたものですか~?」

「あっ、そういえばそれが本題でしたね」


 突然の出来事ですっかり本題を忘れていた翔太たちはテイルの言葉でようやく思い出すと、アリスに続いてエミルたちも今もなお光り続ける円の中に入り、翔太の説明を待った。


「それで翔太さん、これは何ですか?」

「これはおそらくですが、タオが用意していた脱出路です」


 翔太は今までのタオとのやり取りから、タオがどういう人間なのかをなんとなくだが理解していた。

 タオは研究熱心であり、常にあらゆる可能性を想定して動いている。翔太はそんなタオがいざという時の脱出の手段を確保していないわけがないと確信していたのだ。


「……それがこの魔法陣ってことですか」

「これが魔法陣……」


 翔太の説明に納得したエミルの発言により、翔太はようやく足元の薄っすらと見える紋様に気づき、それが魔法陣というものを知った。

 魔法陣は魔法を行使する際に発生するもので、この紋様を変換することで様々な種類の魔法を使うことができる。

 ただし、魔石で魔法の行使した場合は半透明である石の中に魔法陣が出現するため、表には出てこない。だから翔太は今まで魔法陣を見る機会がなかったのだ。


 薄っすらと輝く光の中、翔太たちはようやく脱出の手段を確保したのだった。


読んでいただきありがとうございます。

何か月ぶりのテイルの登場。やばい……テイルに怒られそう(怖)。

それとは別に、この作品を評価してくださった方々、ありがとうございます!

久しぶりに評価ポイント見てみたら、前より増えてて驚きと共に、純粋に嬉しかったです。

こんな風に作者の励みにもなるので、これからも評価お願いします。

こんな自分ですが、これからもよろしくお願いします。


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