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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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壁際の駆け引き(脱)[翔太サイド]

「実験結果(良)」からの続きとして読んでもらうと、話がつながります。

 タオを倒す策が思いついた翔太だが、今重要なことは攻撃ではなく脱出すること。何をするにも壁際という動ける範囲が狭い場所でできることは少ない。だからこそ翔太たちはまずこの状況をどうにかしないといけないのである。


 それは翔太以外の全員も同じ考えだった。しかし肝心な脱出するための策が思いつかない。今はまだタオが仕掛けてこないため考える時間が取れているが、それがいつまで続くか分からないため翔太たちは動けずにいた。そんな時、ハルトがタオに聞こえないように小さな声で全員に告げる。


「僕が囮になるから、その間にみんなはここから……」

「駄目です、危険すぎます! 私ならいざという時に対応できますから……」


 ハルトが現実的な提案をするが、真っ先に異を唱えたのはエミルだった。ハルトのことが大事というのがその見幕から伝わってくる。それには翔太たちも驚きを隠せなかったが、だからといってエミルの案に賛成するわけではなかった。


 確かにエミルならばタオの攻撃をなんとか躱せるだろう。しかしそれはタオがエミルの考えたとおりに動いた場合の話である。攻撃をして気を引くことができるのは知性が低く、考えなしに動くものだけである。知性があり、物事を考えるものに対しては余計な疑問を持たれるうえに、作戦を看破される危険性もある。


 仮に翔太がタオの立場ならば最初に狙うのはハルトだろう。ハルトさえ倒せれば翔太たちにダメージを与える術は無くなるからである。タオもそのことを十分に理解しているはずであり、そういった意味ではハルトの方が囮としての価値が高いと言えるだろう。


 ただ、人を資源のように扱う考え方は現実的だが、実行するにはそれ相応の覚悟がいる。ましてや無策で行うのは愚の骨頂である。だからこそ策が必要なのだが、翔太たちは肝心のそれが思いつかないため、とても歯痒い思いをしているのだ。


 ハルトを前に出しつつ、全員が壁際から脱出できるという都合が良すぎる策などあるのかと頭を抱える翔太は意味もなくハルトの方に視線を向けると、そこであることに気づく。


「……あれ? ハルトさんの大剣は?」

「あぁ、さっきのでつい手放しちゃって……ほら、あっちに飛ばされて壁に埋まってる」

「えっと……あ、あった。凄いな、あの攻撃を受けてよく原型が残ってるな」

「剣士が剣を手から離してしまうほどの衝撃……」

「……なんだよ」

「別に~」


 ハルトがいつの間にか大剣を手放していたことに気づいた翔太はそれについて尋ねてみると、ハルトは大剣が吹き飛ばされた方向を指さした。翔太が目を細めてその先を見てみると、確かにそこには大剣が壁に突き刺さっていた。


 ただその話をした時、アリスからの恨みの視線が翔太に刺さっていた。その視線に耐え兼ねて翔太が反応すると、アリスは尻の部分を手でさすりながらそっぽを向く。後でご機嫌取りしないといけないなと思った翔太は別の意味で頭を悩ませることになった。


 ひとまずアリスたちにタオが妨害してくることを想定しておくように伝えたあと、翔太は攻撃に必要な大剣を回収するために手を伸ばし、“物体引力(フックショット)”を発動させる。


 すると深々と突き刺さっていた大剣は意外にも壁からすぐに抜けて翔太の元まで飛来してくる。それを見た翔太はこういう時は便利だなと感心していたが、ここである問題が発覚する。


「あ、やばい。ハルトさん直接キャッチしてください!」

「えっ? うわ……っと!」


 問題というのは飛来してくる大剣の刃が翔太に向けられていたからである。持ち手の部分でもそれはそれで問題なのだが、それに関しては衝突の際に“反射壁(リフレクション)”を発動させてなんとかするつもりだったが、向かってくるのが刃だった場合は話は別である。


 重量により威力が増している突撃は持ち手の部分よりも1点に加わる力が強いため “反射壁(リフレクション)”をも貫く可能性が大きかったのだ。そのうえ、“物体引力(フックショット)”のせいで回避も不可能である。だからこそかなりのムチャぶりだが、翔太としてはハルトにキャッチしてもらうしか手がなかったのだ。


 ハルトはそんな翔太の突然のムチャぶりに驚きつつも、見事に対応して見せる。大剣と翔太の間に素早く移動したハルトは飛来してくる刃を一旦見送り、遅れてやってきた持ち手の部分を力強く握りしめると、わずかに力を加えて進路方向を変えると共に生じる力に抗うことなく自ら身体を回転させ、力をいなしてから大剣を受け取った。


「……すごい」

「流石です」

「助かった~」


 それを見た誰もが感嘆と安堵の声を上げた。それほどまでに完璧に対応してみせたハルトだったが、ここで彼にとって計算外のことが起こる。


「おっと!」

「あ、すいませ……えっ?」


 それはそんなハルトに見惚れていた翔太がつい“物体引力(フックショット)”を解除するのを忘れていたことである。そのため、ハルトが大剣を構えようとした時にも能力が発揮し、翔太のもとまで引き寄せられたのだ。そしてハルトもそれに反射的に反応して大剣を手放さないように強く引っ張った。


 そんなハルトの対応でやっと気づいた翔太は慌てて能力を解除しようとしたのだが、ただその時、翔太も全く予想していなかったことが起こった。


 それはハルトが大剣を持っている時、最初は大剣が翔太に引き寄せられるという特に変わった様子もない通常の反応だったのにハルトが大剣を引っ張った瞬間、翔太の身体が大剣の方に引き寄せられたのだ。


 すぐに能力を解除した翔太だが、今の引っ張られたような感覚がどういうことなのか考えた時、ある策を思いついた。それに関して翔太としては少し、いやかなり不安が残る策だという自覚はあるがよく考えてみると、不思議とすべての条件に合致している。不安要素が多い事に目をつぶれば、最善の策とも言えるだろう。何よりそれ以上良い策を思いつかなかったのだ。


 内心、深いため息をつきながら翔太はアリスたちに思いついた策を伝える。


「あの、一つ作戦を思いついたんだけど……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ひとまず翔太が思いついた策を全員に伝えると、アリスたちも流石に今回の作戦に不安の声を上げた。しかし翔太が説明した作戦には妙に現実味のあるところがあったため、これといった反対意見を出すことができなかった。大きな不安を残しつつも翔太の賭けに乗るしかない状況はまさに一蓮托生、アリスたちも腹をくくるしかなかった。


 しかしそんな状況でも、翔太の目には自信が漲っていた。一言で言えば希望を持っていた。時折タオの方を見ては少し厳しい表情を見せるがそれでも翔太の目は変わらない。危険が付き纏ううえに、失敗する可能性も高い作戦なのに、どうしてそんな表情をしていられるのか、アリスたちは不思議でしょうがなかった。


 それに対して翔太はアリスたちが考え事をしている間、タオが何もしてこなかったことに言い様の無い不気味さを感じていた。敵に武器を与えることが愚策だということはタオも認識しているはずなのになぜ何もしてこなかったのか全く見当が付かなかった。それが翔太の不安要素の1つになっている。


 それでも翔太は前に進むしかなかった――それが唯一の活路なのだから。


 今もまだ互いに頭の中で考えを巡らせている間、その場は静寂に包まれていた。しかしそれは波一つ立たない水面のような落ち着いたものではなく、噴火前の火山のような危険を予感させる。そしてその幕開けは何の前触れもなく訪れる。


「作戦通りお願いします、ハルトさん!」


 翔太の言葉に頷いたハルトは先行して前に進んだ。それとほぼ同時にタオも翔太たちに向かってくる。ハルトはタオの行動に少し驚きつつも、それでも止まらず走り続けた。そして次第に両者の距離が縮まっていくなか、先に仕掛けたのはタオだった。


 先に間合いに入ったタオは足を大きく踏み出し、地面と接触しそうなほど身体を傾けて超低空のアッパーカット気味の突きを繰り出した。不安定な体勢ながらもその攻撃は先ほどの掌打よりも力が籠っているうえに、その進行方向の先には翔太たちもいる。


 そんな壁にしか見えない攻撃が向かってくるなか、ハルトもいつもならば大剣を振りかざし、攻撃を逸らそうとしていただろう。しかし今回は違う。ハルトは迷うことなく進行方向を斜め前に変えて全力で回避した。


「……信じてるよ、翔太君!」


 その時初めてハルトもタオの攻撃が少し逸れていたことに気づく。タオの攻撃には明らかに逃げやすいスペースがあったことに気が付いたからだ。誘導されているのか、それともタオに攻撃の意志があったのかなどハルトの中でいくつかの疑問が生じるが、すぐに今の自分の役割を再認識すると、それ以上追求することはしなかった。


 そんなハルトの行動を見て翔太たちも動き出す。その際、翔太もハルトと同じようにタオがある程度逃げ場を作っていたことに気づいていた。あからさまな罠だが、今の翔太たちにとっては都合がいいものであるため、翔太たちも迷わずハルトと同じ動きを取った。


 互いに肩透かしを食らったような気分になった両者はそのまますれ違うように何事もなく通り過ぎていった。


 その時、タオは空振りした攻撃を中断せずに生じた力の流れを利用し、踏み込んだ足を軸にして回転すると足払いにも似た後ろ回し蹴りを放った。遠心力が加わったことで、さらに力を増した攻撃は横一文字に広がっており、一度攻撃を回避したハルトさえもその攻撃範囲に入れていた。


「何!? だがこれくらいなら……」


 その攻撃に先に直面していたハルトは最初は驚いたが、それでも冷静に対処した。ハルトは猛然と迫ってくる攻撃に対して、走るスピードを緩めずに突っ込んでいく。そして大剣を軽く地面に突き立てると、その持ち手の先を踏み台にして高く飛び上がった。タオの足を飛び越えるほどの高さにまで到達すると、ハルトは糸のような細いものを引っ張り、地面に突き刺さったままの大剣を回収した。


 ハルトもエミルのサポート無しでも動けるようにある程度訓練している。今の動きはその訓練で身につけた技である。


 忍者のように回避したハルトの洗練された動きは敵味方関係なく見惚れるほどに鮮やかだった。華麗に飛び越えたハルトはそのまま止まることなくタオから距離を取った。幸い、タオが追撃してこなかったためハルトもそれ以上のアクションをする必要がなかった。


 そしてタオから十分離れたハルトは大剣を両手で構え、自分にしかできない役目を果たそうと今以上に気合を入れた。


 一方、翔太たちは絶賛回避中だった。


「やばいよ、やばいよ! 急いで!」

「そんなこと言われなくても分かってるわよ!」


 翔太たちは今、連携して“反射壁(リフレクション)”を展開して即席の階段を作り、空中に避難しようとしていた。タオとは距離があったため流石に反応が遅れるということはなかったが、それでも押し潰すような勢いで向かってくる攻撃には驚きを隠せなかった。しかしその時、翔太とエミルは全く同じ方法で避けようとしていたため、その分早く対応することができたのだ。


 もちろん、タオが今の状態から足を上げて攻撃の軌道を変化させることも考慮して、少し高いところにまで移動している。その結果、タオの攻撃はまたしても轟音を上げながら空を切った。


 しかしタオの攻撃はそれでも止まらない。タオは再度身体を回転させて最短距離を駆け抜ける突きを繰り出した。今まで以上の威力に加速という要素が加わったその攻撃はもはや誰も手が付けられない一撃になっている。


 しかし、いやだからこそ翔太はここが勝負所だと直感した。


「作戦通りお願いします!」

「「了解!」」


 翔太の号令に対して、アリスとエミルも作戦を成功させるために再度気合を入れた。そして、呼吸を整えたい気持ちをぐっとこらえた翔太は助走をつけて、アリスとエミルを脇に抱えて空中に飛び出した。


 翔太がわざわざ身動きが取れない空中に飛び出したのはいくつか理由がある。まず1つ目は単純にタオを動揺させるためである。あえて自分たちには不利、タオにとっては絶好の機会を与えることでタオに余計な思考をさせ、若干のタイムラグができればそれだけでも作戦の成功率はかなり変わってくる。


 しかし翔太の狙いとは裏腹に、タオの攻撃は止まることも変わることもなく、真っ直ぐ翔太たちに向かってくる。その時点で翔太もタオが考えありでこの攻撃を選択したことを理解していた。ただ、翔太の本命はそこではなかった。


 頭の出来が違う格上に読み合いを仕掛けるのは良策とはいえない。だからこそ翔太たちは空中に飛び出してタオに狙い撃ちをさせるように仕向けたのだ。これが2つ目の理由である。


 全体攻撃の方が当たる確率は高く、翔太たちを倒すには十分な威力もある。しかし今までの攻防からその攻撃に確実性があるとはいえないだろう。そんななかでタオが次に選ぶとしたらどうするのか? 翔太は今までの攻撃からタオは逃げ場のない状況でのピンポイント攻撃が一番確実だと考えると推測したのだ。


 しかし当たり前のことだが、タオがそれ以外の選択をすることも十分考えられる。だから翔太は狙い撃ちしやすい状況を作ったのだ。そうでもしなければ、無限に近い選択肢から様々な手を読み合うような、翔太にとっては踏み込んでもどうしようもない世界に突入することになる。翔太はそれを回避したかったのだ。


 そして現在、翔太の考え、改め賭けは見事に成功し、まさにタオは狙い撃ちを仕掛けてきた。もちろん、それに対して翔太たちはそれを受け止める気は更々無く、回避の一手である。ただ、そんなことはタオも予測済みだろう。翔太が誘導できたのは攻撃の方向性だけであって、全てを読み切った訳ではない。ここからは出たとこ勝負になる。


 ただそんななかでも、翔太は笑みを浮かべていた。それは勝利を確信しているなどの高望みをしているわけではない。それでも笑い続けることで相手は少なからず動揺する。追い詰められてもなお、抜け目のない翔太だからこその発想である。


 その時、翔太たちの背後に“反射壁(リフレクション)”が展開される。それを発動させたのはエミルである。その時点でタオは翔太たちが先ほどと同様の避け方をすると判断するだろう。そして予想通り、タオは避ける方向に狙いを修正している。


 しかしその瞬間、翔太が発動させたのは“反射壁(リフレクション)”ではなく――


「“物体引力(フックショット)”!」


 その声と共に翔太たちはある方向に向かって飛んで行った。その進行先には当然、タオの拳があったが激突しそうになる瞬間、まるで野球のフォークボールのように動きが変化し、翔太たちはタオの腕の下をくぐっていった。


 また“反射壁(リフレクション)”のフェイントにより、拳は翔太たちがいる方向とは真逆の位置にあるため今から腕を振り回してもその拳が翔太たちに当たることは万が一にもありえないだろう。


「よし、作戦通り!」


 翔太はこの時、この駆け引きに勝利したと思い内心ガッツポーズをしながらタオを一瞥した。しかしそんな油断している翔太に予想外の出来事が起こる。


 タオが突き出した拳を引っ込めるように手首を返し、肘を前に突き出そうとしていた動きを利用して、咄嗟に翔太たちが今いる進行先に肘を置いたのだ。肘打ちではないため、翔太たちを潰す威力はないが、ぶつかれば昏倒するくらいの衝撃はある。そして今の翔太たちにはブレーキがないため、そうなると分かっていても止まることができない。


「あっ……やばい」


 つい出てしまった翔太の言葉にアリスは言葉を返すことができなかった。それほどまでに今の翔太たちは追い詰められていた。ここまでがタオの考えていたことだったとしたら、完全に翔太の負けである。そして翔太がその事を自覚したとき――


「“反射壁(リフレクション)”!」


 エミルのその掛け声とともに、翔太は“反射壁(リフレクション)”に足裏を小突かれた。その衝撃には敵を攻撃するような威力はなく、本当に小突いただけのものだがそれでも斜め後方に展開された“反射壁(リフレクション)”に押された翔太は激突する瞬間、ほんの少しだけ進行方向が斜めになった。


 その結果、翔太たちはタオの肘部分を紙一重で避けることができ、その後すぐに進行方向は元に戻った。非常に小さな変化だが、その微々たる変化が結果的に翔太たちの命を救ったのだ。


「今のはマジで危なかった……エミルさんのおかげで助かりました」

「いえ、これくらい私に任せてください!」

「何とも心強い……」

「2人とも、あれを見て!」


 移動中、翔太はエミルに礼を言うと、エミルも嬉しそうに胸を叩いた。それはエミルの姉御肌を垣間見た瞬間だった。その時、アリスが大声を出して2人の会話を中断させる。


 翔太たちが見た先には見事に転んでいたタオがいた。あれほどの遠心力が身体にかかっていたのだから不思議ではないが、翔太としては攻撃を躱した後、体勢が崩れたところに“反射壁(リフレクション)”で追い打ちをかけようと思っていた。しかし良い意味で予想外の出来事が起こったため、力を温存することができた。


 そのことで喜んでいると、少し遠くから翔太たちを呼ぶ声が聞こえてくる。


「おーい!」

「ハルトさん! お疲れ様です」

「確かにハルトさんが一番重労働だもんね」


 翔太たちの前にいたのは大剣を両手で持っているハルトだった。普段は片手でも軽々しく大剣を振るっているハルトが両手で重々しく持っていることに若干の違和感がある。しかしそれには理由がある。そしてそれこそが翔太の作戦の要である。


 “物体引力(フックショット)”は物を引き寄せたり、逆に翔太の身体をその物の方に引っ張ったりすることができる能力である。しかし後者の能力を使う場合、対象にした物が翔太より重たく無ければ使うことができないという条件がある。


 しかしハルトが大剣を引っ張った時はその条件を達していないのにもかかわらず、翔太の身体は確かに大剣の方へ引き寄せられた。その時、翔太は自分の理解がまだ足りていないことに気づいた。


 つまり“物体引力(フックショット)”の条件は重さを含めた全体的な力が翔太のものより大きかった場合というのが正しい解釈だったのだ。


 翔太が空中で移動できたのは大剣を“物体引力(フックショット)”の対象にしつつ、ハルトがそれを引っ張ることで、翔太たち全員の重さよりハルトの力の方が勝ったから発動できたのである。アリスが重労働と言ったのは翔太たち3人を同時に持ち上げるほどの力をハルトが使ったからである。その姿はまさに大物を一本釣りしている漁師そのもの。


 ただ全てがスマートに片付くというわけではない。ここで最後の問題が発生する。それは飛来してくる翔太たちを受け止めるものがない事である。翔太が考えていたのは壁際から脱出することだけで、脱出した後のことは考えていなかったのだ。だから翔太は覚悟を決めて、あの硬い“反射壁(リフレクション)”を発動させようとした。


 しかしその前に別の壁が翔太たちの目に現れる。


「“反射壁(リフレクション)”!」

「……これは?」

「この感触って……」


 勢いがついていた翔太たちを優しく包み込むように受け止めたのはエミルが発動させた“反射壁(リフレクション)”だった。そして勢いが死んだタイミングで能力を解除することで、翔太たちは弾かれることなく、その場に着地した。


 “反射壁(リフレクション)”といってもただ硬い壁を出現させるというわけではない。壁といっても相手の攻撃によってその用途は異なってくる。翔太が使っているのはあくまで能力の一端である。翔太がするべきことはその足りない部分を発見していくことであり、多くの物事を経験することである。


「良かった~。最悪、硬いものにぶつかって止まろうとしてたからな。アハハ……」

「『アハハ』じゃない! あんたはいつもそういうところを考えてないんだから!」

「確かに。翔太さんはかなり突飛なことは考えつくのに、こういうところは抜けてますよね」


 そんな翔太はアリスからは叱責され、エミルからは遠回しに変人だと言われるが、そのことに反論できないため、ただ笑って誤魔化すことしかできなかった。


 何はともあれ、翔太たちは無事壁際から脱出できたことにひとまず安堵した。しかし全てが解決したわけではない。アリスたちは大きく息を吐き、緊張した様子で武器を構え直した。


「よし、タオを倒す作戦をあるから皆聞いてくれ。……駄洒落じゃないぞ?」


 そんななか、誰もつっこまなかったことをわざわざ自分で言った翔太にその場にいる全員は反応できなかった。それは翔太の駄洒落があまりにも寒かったということではなく、その発言で緊張がわずかに解れたこととこの数瞬で策を思いついたことに驚いていたため、アリスたちの処理能力が追い付いていなかったのだ。


 それに対して翔太も返事が返ってこないことに焦りと後悔を感じていた。


読んでいただきありがとうございます。

今、ストックがほとんどなく、前に言っていた週一での投稿も難しくなっている状況。どうしようかな~

これからも投稿が不規則な感じになると思いますが、続けていきたいと思います。

ブックマークや評価をしてもらえると作者の励みになるので、是非ぜひお願いします。


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