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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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壁際の駆け引き(脱)[タオサイド]

タオが自分の身体の変化に気づく。翔太たちはタオの工夫された攻撃により、首の皮一枚つながっているような状況。そんななか、翔太はタオとの会話で策を思いつく。

 タオは驚いていた。最後の動きまでは相手の動きを誘導し、逃げ場に先回りした攻撃をするという、まさにタオが考えていた流れだった。それを翔太たちが自分たちへのダメージ覚悟のあんな方法で避けるというのは全くの想定外だった。少しイラついた表情を見せるタオだったが、それは薬の効果ですぐに鎮静化される。


「物事が思い通りに上手くいかないというのはやはり腹立たしいものだが、今の攻防で私に被害はなく、向こうには多少のダメージがある……このままゴリ押しすればいけるかな?」


 状況を改めて考えてみると、翔太たちには決定打とは言えないが大なり小なりダメージがある。しかも今は翔太たちを壁際に追い詰めている。つまり作戦の方向性は間違っていないということである。むしろ結果的に言えば翔太たちにダメージを与えているから、このまま行けば削り切れると判断しても間違ってはいないだろう。


 タオとしても大振りによる力技ではなく、ボクシングのショートパンチのようなスピード重視の攻撃のほうが有効なのは理解している。しかし問題なのは翔太たちとの身体差である。


 今のタオは15mほどの大きさになっているため、2mに満たない翔太たちには純粋に腕が届かないのだ。腕を届かせるにはその分前傾姿勢にならなければいけない。しかしそうなると、翔太たちにも反撃のきっかけをつくることになってしまう。


 翔太たちが巨大なものと戦う術を持っているとしても、タオにとってはほんの些細な問題だった。ただしそれはそんな小さき者が今の自分を倒せる力を持っていなかったらの話である。


 流石のタオも翔太たちの援護とハルトの攻撃を受けてはまずいと考えていた。だからこそ現状を維持する方向でいくつかの作戦を立案し、脳内でシミュレーションをしたタオは自分の強大な動きの流れにあえて逆らわずに旋回しながらの連打というスピードと力を上乗せすることができる手段が最も理にかなっていると判断した。


「あれは……」


 タオが次の攻撃の方向性をある程度決めた時、不意に翔太がタオのいる方とは別の方向に手を伸ばす。すると壁まで吹き飛ばされていた大剣が翔太の元まで飛んでいき、それをハルトがキャッチし、なぜか一回転していた。


「なるほど……あの力で大剣をぶつけたのか」


 今の翔太たちの行動で、タオは先ほどまで痛めていた腰の辺りに視線を向ける。タオはなぜあの時大剣が後ろから飛来してきたのか全く分からなかったが、今それを見ることができたため理解することができた。


「ふむ、翔太君が何らかの力で大剣を引き寄せたのは明白だな。それを直接ハルト君が受け取ったということだが、今のは翔太君がハルト君に渡したというよりは翔太君に向かって飛んでくる大剣をハルト君が掴み取ったという感じだな。……どうやら彼の力は物体を手元に引き寄せるが空間転移のようなものではなく、それ相応の運動エネルギーを伴って引き寄せるといったところか」


 本来ならば、相手に武器を取り戻す機会を与えるというのは愚策だが、この時のタオはいつもの癖で目の前の出来事をつい分析してしまっていた。薬による鎮静化で冷静になっていたからこそ起こったこと、何とも皮肉めいた話である。タオはそんな自分につい失笑してしまい、少なからず精神的な余裕が生まれた。


 今もまだ互いに頭の中で考えを巡らせている間、その場は静寂に包まれていた。しかしそれは波一つ立たない水面のような落ち着いたものではなく、噴火前の火山のような危険を予感させる。そしてその幕開けは何の前触れもなく訪れる。


 突然、タオとハルトが示し合わせたかのようにほぼ同時に動き出す。その事に驚きつつもタオは未だに翔太たちを分析し続けていた。先行してきたのはハルトだけ、今までと同様にハルトを前衛にして残りが後衛として援護するというフォーメーションというのは簡単に推測できる。


 だからこそ、タオはあえて先に攻撃を仕掛けた。攻撃可能範囲に先に入ったタオは足を大きく踏み出し、地面と接触しそうなほど身体を傾けて超低空のアッパーカット気味の突きを繰り出した。身体全体をしならせて力を上乗せした一撃は今までの攻撃よりもはるかに強力なものになっている。


 一度目は力任せに暴れ、二度目は相手の動きを誘導し追い詰めたが、どちらも失敗に終わった。それにもかかわらず、なぜその攻撃を選択したのか――それはタオが考え抜いた先に、ある結論に辿りついたからである。


 タオは愚かしいほどに真っ直ぐだった。そんな性格でもないのに、タオは自分がどの攻撃も常に翔太たちを仕留めるために放っていたことについさっき気づいたのだ。そんなに自分は焦っていたのか、そんなことすら気づかないほど余裕が無かったのか。今までのことを思い返し、自分を客観的に見たタオは何とも情けないと自己嫌悪に陥った。


 ならば無数の攻撃にいくつかフェイントを織り交ぜれば良いのかと言えばそうでもない。何しろタオは格闘とは縁遠い存在、後方で司令塔となっていることがほとんどである。タオはそんな自分に相手の動きに対して臨機応変に対応できる行動力と技術の使いどころを見極める経験、あえて付け加えるならば格闘技の才能や危険を察知する野生の勘もないことを当然理解している。


 そんな自分が児戯にも等しいことをしても意味がないということをすぐに理解できたタオは憂鬱な気持ちになるが、何事も実験あるのみと気持ちを切り替える。


 そんな気持ちで放った攻撃は当然、本命ではない。そのためハルトが攻撃を受けやすいように、最初から少し斜め方向に逸らしている。それでもタオの拳はハルトとその後ろにいる翔太たちをも巻き込む形に見えるため、ハルトにとっては受けざるを得ないという状況を作り出していた。そこまではタオの予定通りだった。


 ハルトが目前に迫り、この攻撃をハルトが力で横に流すという展開を予想していたタオだったが、その次の瞬間ハルトは迷うことなく進行方向を斜め前に変えて全力で回避した。この状況でハルトの予想外の行動には流石のタオも驚きを禁じ得なかった。


 前衛であるハルトが後衛を見捨てるように回避したことは、前衛という役目やハルトの性格から考えてもありえないことである。どうしてハルトがそんな行動を取ったのか、タオはまるで理解できなかった。


 互いに肩透かしを食らったような気分になった両者はそのまますれ違うように何の接触もなく通り過ぎていった。タオは多少の驚きはあったが、ハルトが眼前の攻撃に恐怖を感じ、思わず避けてしまったということならば理解はできた。そしてハルトが防御しないというならばある意味予定通り、そのまま後衛の翔太たちを攻撃しようとさらに腕を伸ばす。


 しかしタオがそうしようと翔太たちがいた場所を見た時、すでにそこには誰もいなかった。最初にそれを見た時は動揺したが、すぐに立て直したタオは翔太たちがどこにいるのか視界を広げると、ハルトと同じ方向に走り出していた翔太たちの姿を捉えた。


 その瞬間、タオはハルトが後ろに仲間がいるにもかかわらず回避したのが翔太の入れ知恵だということにすぐに気づいた。そうでもなければ前衛が咄嗟に避けた攻撃を後衛が驚いた様子もなく動けるはずがないからである。そして今は翔太たちがハルトの動きに合わせて動いたと推測できる。


「なるほど、確かに君は奇策を練るのが得意だったな。……だが甘い!」


 翔太の奇策にタオは半分感心していたが、策を考えているのは翔太だけではない。タオは空振りした攻撃を中断せずに生じた力の流れを利用し、踏み込んだ足を軸にして回転すると足払いにも似た後ろ回し蹴りを放った。遠心力が加わったことで、さらに力を増した攻撃は横一文字に広がっており、一度攻撃を回避したハルトさえもその攻撃範囲に入れていた。


 ハルトに対しては二重の意味で避けられない本命の攻撃を放ったタオはその瞬間、勝利を確信し、翔太たちからは見えない内部で笑みを浮かべていた。翔太の奇策を正面から叩き潰したことも考えれば、もはや笑みを止めることはできなかった。


 タオの後ろ回し蹴りが迫ってくると、流石のハルトも最初は驚いていた様子だった。しかしそこでまたしてもタオの予想外の出来事が起こる。それはハルトが猛然と迫ってくる攻撃に対して、走るスピードを緩めずに突っ込んでいったからである。そしてそのまま大剣を軽く地面に突き立てると、その持ち手の先を踏み台にして高く飛び上がった。


 タオの足を飛び越えるほどの高さにまで到達すると、ハルトは糸のような細いものを引っ張り、地面に突き刺さったままの大剣を回収する。忍者のように回避したハルトの洗練された動きは敵味方関係なく見惚れるほどに鮮やかだった。


 そんなハルトに目を奪われていたタオは少しの間、見ていることしかできなかった。タオとしてはハルトは無駄だと知りつつも、諦めずに仲間を逃がす時間稼ぎの盾になると思っていたが、またしても回避の一手。まさかハルトが仲間を見捨てたという考えの現実味が出てくる。


 再び肩透かしのようなものを受けたタオだが、すぐに気を取り戻すと空中にいるハルトを狙い撃ちにしようと拳を握りしめるが、咄嗟に中断した。空中でうまく身動きが取れないであろうハルトを追撃したい気持ちはあったが、体勢が不安定なタオは攻撃に十分な力を加えられない。


 つまりハルトと翔太たちのどちらにも中途半端な攻撃を仕掛けることになる。そしてそれにより生じた隙を翔太が見逃すはずがなかった。ましてや攻撃に関して1番警戒しているハルトが近くにいるのならばなおさら危険である。だからタオはハルトを見逃した、いや見逃すしかなかったのだ。


 ただタオの攻撃はまだ終わっていない。その先には翔太たちがいる。翔太たちはハルトのように驚きを隠せている訳ではなくかなり動揺していたが、それでも翔太とエミルで“反射壁(リフレクション)”を階段のように展開し空中に避難していたため、何とかタオの攻撃範囲から逃れていた。


 結果的に、タオの攻撃は再度轟音を立てながらも虚しく空を切っていた。しかしそれでもタオの攻撃は止まらない。むしろ今が攻撃を当てる最大のチャンスだと考えていた。タオは回転する勢いを止めずに再度拳を握りしめ、最短距離を抜ける突きを繰り出した。


 未だに壁際から脱出できておらず、翔太たちを空中に誘導できた時点でタオにとっては作戦成功と言って良い状態である。多少の誤差はあるが、ここまでくれば微々たる差である。当然、翔太たちの捨て身の回避方法も忘れていない。その対策として、攻撃の軌道を変化させやすい突きを選んでいた。


 翔太たちが咄嗟に“反射壁(リフレクション)”を発動させて自分たちの身体を弾いたとしても、タオは腕をたたむことでいつでもその動きに対応できるようにしていた。タオの今の身体に骨はないが芯のようなものがあり、それで身体を支えている。だから人形のように人体を無視した動きはできないが、二流の武術家のような動きくらいはできる。


 対人戦において体当たり気味の肘、もしくは腕の一部をぶつけても本来ならば手打ちのように十分な威力は出すことができない。しかし今のタオには体格差というアドバンテージがあり、翔太たちにとっては掠っただけでも十分なダメージである。この攻撃はタオにとって一撃で確実に潰すか、瀕死ではないが戦闘不能状態になるか、それだけの違いしかなかった。


「これで終わりだ」


 もはや決定的な一手を指すことができた時点で勝利を確信したタオはふと翔太たちを見てみると、翔太は怪しい笑みを浮かべていた。しかしそれでもタオは全く驚かなかった。翔太の笑みの意味をまだ避けられると勘違いしているからだと考えているからである。勝利を確信しているタオだが、拳が翔太たちに近づくほどに自分の鼓動が高くなっていることに気づいていた。


 これは我慢比べ――どちらが先に動くか、それにより結果は大きく異なってくる。ただ、言うまでもなく不利なのは翔太たちである。この駆け引きでタオがダメージを受けることは何もないのに対し、翔太たちは文字通り命がかかっている。その精神的な負担は大きな差である。


 だからこそタオも翔太たちの動きを見逃さず、確実に撃ち落とすために翔太たちが先に動くのをただひたすら待っていた。時間の流れが遅く感じるほど、タオは眼前の敵に集中し、絶好のタイミングを狙っていた。


 そしてその時が来る。翔太たちはタオの拳が届く前に自ら前に飛び出すと、翔太かエミルかのどちらかが彼らの身体の横辺りに“反射壁(リフレクション)”を発動させた。その瞬間を何度も見てきたタオは発動する際の兆候がなんとなく分かっていたため、進行方向を予測することができていた。しかし次の瞬間、翔太がアリスとエミルを小脇に抱えると、タオが予想していた動きとは違い、タオの腕の下をくぐるように翔太たちが突然高度を落とした。


「何!? だがこれぐらいなら……」


 “反射壁(リフレクション)”によるフェイントに見事に騙されたタオは最初は急激な進行方向の変化に驚いたが、腕の下をくぐるような動きならば、まだ対応可能だった。突き出した拳を引っ込めるように手首を返し、肘を前に突き出そうとしていたタオは咄嗟に翔太たちが今いる進行先に肘を置く。


 半ば反射的な行動のため正確な攻撃とは言えないが、それでも翔太たちが躱しきる前に動けたため、このまま翔太たちが激突するのも時間の問題だった。


 純粋な攻撃よりも威力は劣るが、それでも翔太たちが昏倒するぐらいの衝撃はある。そしてそのまま壁の方に押し戻し叩きつければ、動けなくなった翔太たちを再び狙い撃ちにできる。近くにいるはずであろうハルトのことを警戒していないわけではないが、このチャンスを逃すわけにもいかなかった。ハルトの一撃は強力だが1、2発ならば攻撃を受けてもあまり問題はないと判断した。


 しかしタオはその考えが甘かったと後悔することになる。それは激突寸前の翔太たちの背後に“反射壁(リフレクション)”が展開されたことから始まる。


「このタイミングで何を……」


 なぜこのタイミングで発動させたのか一瞬分からなかったタオは致命的な見当違いをしていたことに気づく。それは“反射壁(リフレクション)”による方向転換が1回だけと決めつけていたことだ。もちろん翔太たちが何度も方向転換をするということはタオも考え付いていた。


 しかし何度も方向転換するということは“反射壁(リフレクション)”の衝撃をその身で何度も受けるということである。タオの攻撃を受けるくらいならば、ましなダメージだがそれでもダメージは蓄積するもの、それを翔太たちが何度も行うとは考えにくかった。


 タオの目の前で起こったのはそんな考えを否定するものだった。展開された“反射壁(リフレクション)”がアリスとエミルを小脇に抱えている翔太の足の裏を小突く。それだけならばただの加速にしかならないが、その“反射壁(リフレクション)”は翔太の真後ろではなく、斜め後ろの方向に展開されている。


 つまりある程度角度をつけた状態で翔太たちを押したことになる。それにより移動方向にほんの一瞬だけ変化が生じる。その微々たる変化はタオの攻撃から逃れるには十分なものだった。舞い散る木の葉が風圧で舞ったように目の前の障害物をひらりと躱すと、翔太たちは再び高度を落としつつどこかに向かっていった。


 “反射壁(リフレクション)”による衝撃を0か1としか考えていなかったタオにとって完全に計算外の事だった。それに気づいたときには翔太たちはとうに攻撃範囲外にいる。いくら自分の身体を自在に操ることができるタオでも、回転したことで生じた遠心力も掌握できるわけではない。そんな大きな力に振り回されたタオは翔太たちの姿を捉えているにもかかわらず何もできない自分に苛立ちを覚える。


 しかしここで気になるのは翔太たちの着地先である。そもそも最初に翔太たちが方向転換したとき、それに必要な“反射壁(リフレクション)”はフェイントに使っていた。だとしたらどうやって空中で移動したのか、そんな疑問がタオの頭の中に浮かんでいた。


 どうしても分からなかったタオは翔太たちの着地先を目で追った時、目の端で大剣を両手で持って構えていたハルトの姿を捉えた。しかも刃が向けられているのはタオではなく、飛んでくる翔太たち。これだけの情報があればタオも翔太が何らかの方法でハルトの方へ移動したということを理解するには十分である。


 見えない糸でつながっているかのように引き寄せられている翔太たちの姿を見て、歯痒い思いをしているタオはそのことに気を取られてうっかり体勢を崩し、派手に転倒した。


「ふぅ……何をやっているんだ、私は」


 あまりの醜態にタオは溜息交じりに思わず本音が出てしまった。完全に翔太にしてやられたという事実から叫びたくなるほどの悔しさがこみあげ、今にも爆発しそうになっている。しかしそんななか、高揚している自分がいたことに気づいた。


 これほど誰かと真剣に心理戦を繰り広げたのはタオにとって初めての事、しかもそれが楽しかったからだとすぐに気づいたタオは言葉に詰まり、言葉に言い表せないほど複雑な気分になる。思わず頭を掻き毟りそうになるが、今はそれもできないため再び溜息をつくことしかできなかった。


読んでいただきありがとうございました。

投稿がかなり遅れてすみません。中々時間が取れずに、少しずつ書いていたら今のような現状になっていました。反省します。

それはさておき、次回は前にもあった[翔太サイド]を投稿します。それを含めて後3~4話ぐらいで一区切りつけたいと考えています。

こんな自分ですが、これからもよろしくお願いします。

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