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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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実験結果(良)

薬を使用し、タオは全ての狼とゴーレムたちを吸収し肥大化する。その圧倒的な力で翔太たちに襲い掛かる。

「ここはどこだ?」


 目が覚めたタオはひとまず周りを見渡すが、真っ暗で何も見えない。身体を動かそうとしても、腕や足、その他全部に重りがついているように反応が鈍く、思うように動かせない。そんななか拳を握ろうとした時、感覚の違いに気づいた。うまく言えないが、それはいつもそこにあるものが今は別の位置にあるような不思議な感覚。


 言い様の無い感覚に戸惑いながらも、どうしたものかと悩んでいたタオはそこでやけに自分が落ち着いていることに気づく。すぐに自分が注入した薬の中に鎮静剤が含まれていることを思い出すと、それで納得したタオは本当にすることがなくなった。仕方なく自分の状態を確かめようと、そっと目を閉じて手を伸ばすようにゆっくりと神経を辿るように全身の具合を確かめた。あわよくばそれで自分の全体像が認識できれば良いと考えていた。


 そこで予想外の出来事が起こる。タオは少しずつ自分の身体を把握するつもりで確かめていたのだが、その瞬間頭の中に流れてきたのは自分の詳細な全体像。突然のことで驚いたタオだが、そこは冷静に対処し自分の身体が何倍にも大きくなったことを認識すると、同時に身体の動きが鈍い理由も判明した。自分の身体を動かすのに一苦労しているのに、自分の中身を知るのは驚くほど簡単というのはなんだか皮肉のようにも思える。今のタオは人間でもできる事と生物では難しいことがあべこべになっていた。


 この間、約20秒の出来事である。自分の身体がどうなったのかを知ったタオは次にどうやって身体を動かすかを考えた。こんな状態で翔太たちと戦っても、身体の動きが鈍いという弱点を突かれ、ジリ貧になるのは火を見るより明らかだった。再びどうしたものかと悩んでいると、身体の内部を探った時にいることに気づいた狼とゴーレムたち、正確に言えばその脳の存在を思い出す。


 人間の脳は自分の身体に能力以上の負担がかからないようにするため、無意識に制限をかけている。タオが今の身体をうまく動かせないのもそのためである。ある程度訓練すればそれなりに動けるようになるだろうが、それには時間がかかりすぎる。つまり今の状況は、自分の脳だけではその処理ができないから動けずにいるということ、ならばその処理ができるように処理機能を向上させればいいだけの話である。そう考えたタオは早速即興で擬似的な神経を作り、身体の中にある脳に接続するとそこを中継して腕や足に命令を送る。


 タオは練習がてら試しに動いてみると、さっきまでの鈍さが嘘のように身体が軽くなっていた。しかも人間だったころよりも自由に身体を動かせるのだ。身体能力の向上だけではなくその感覚までもが強化されていた。そんな嬉しい誤算が発生すると、余裕ができたのか今まで真っ暗だったタオの視界が開け、内部に光が差し込んだ。


 やっと周囲の状況を確認することができたタオは周囲を見渡し状況を確認した時、翔太たちの姿を捉える。準備が整ったタオはやっとこれで翔太たちをものにできると思い、内心喜びに打ち震えていた。しかしタオはすでに自分の考え方が変化していることに気づいておらず、その変化に疑問すら持っていなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 タオの身体を旋回させた攻撃をなんとか躱した翔太たちだったが、その場から動けずにいた。本当ならば合流したいところだが、下手に動けばそれが攻撃開始の合図になってしまう。なぜかタオが止まっている今がチャンスなのは理解しているが、何の策も無しに動いては次の攻防で敗北するのが目に見えていた。


「“反射壁(リフレクション)”!」


 そんななか先陣を切ったのは翔太だった。翔太はタオの黒い宝石のような目の部分を“反射壁(リフレクション)”で攻撃し、あわよくばそれで隙が作れたらと考えていたのだが、そんな甘い考えは全く通用しなかった。“反射壁(リフレクション)”を展開させたときの衝撃は見た目は地味だが、重量級の相手の足を払うぐらいの力はある。それにもかかわらずタオは何事もなかったかのように平然としていたのだ。


 事実、タオが今いる場所は巨大ロボットでいうところの操縦席、目の部分はモニターのようなもの、身体であって身体でない部分である。そんな痛覚がない部分を攻撃してもタオに痛みはなく、その部分も頑丈なため身体に響くような衝撃波も全く来ない。それは大の大人に幼児がデコピンをするのと同じだった。むしろ攻撃した側が小動物のように思えて可愛く見えてくる。


 ただし目の前の小動物みたいなものはやけに頭が回り、予期せぬ行動を取るうえに、自分を倒せる牙を隠し持っているかもしれないと考えたタオは有効手段を模索する。先ほどの攻防で言えば、高密度な物理攻撃を仕掛ければ翔太たちも反撃が難しいことは証明済み、攻撃に関してはこのままで問題ないだろう。ならば重要になってくるのはどうやって攻撃を当てるかということになってくる。攻撃対象が多い事と翔太たちが予想以上に素早かったことを考慮すると、純粋に手数が足りないのか。そんなことを考えながらタオは攻撃方法を考えていた。


 それに対して翔太もタオが行動に移す前に何らかの手を打とうと必死に考える。先ほどの攻撃から今の自分やエミルの攻撃ではタオにダメージを与えるのはほぼ不可能、しかも下手な攻撃は逆に利用されてしまう。ならばタオの防御を破ることができる可能性を持っているのはハルトただ1人ということになる。攻撃の主軸をハルトにして、翔太とアリス、エミルの3人がその援護にあたる形を取るのが最善と言えるだろう。


「あとはタオ自身を無力化できるものがあれば……」

「これは使える?」


 先ほど考えた布陣はタオの外殻を壊すためのものである。翔太が悩んでいたのは壊した後のことだった。それは内部にいるタオ本人をどうにかしなければ問題は解決しないということである。まさか「動くな!」と言ってタオがそれに素直に応じるとも思わない。だから何らかの手段でタオを気絶させるのが一番手っ取り早いと考えたのだが、首の裏をトンするアレは難易度が高いうえに、そもそもタオの原型が残っているかさえ怪しくなってくる。翔太がそう考えている時、アリスが懐から香水のようなものを取り出し、翔太に見せた。


「これは?」

「特製の麻痺薬よ。一嗅ぎで2~3日は動けなくなる、わたしのとっておきよ!」

「すごいのは分かったから、噴射口をこっちに向けないでくれ」

「大丈夫よ、ここを引かない限り出ないから安心して!」

「そう言いながら引き金に指をかけるな!」


 アリスが取り出したものはまさに翔太が今考えていた作戦に必要なものだった。後はこれをハルトに渡して、外殻を壊すと共に散布してもらえればいい。ただよほどの自信作だったのだろう、アリスが目を輝かせながら薬のことを説明していたがその間ずっと噴出口が翔太に向けられていた。危険物を向けられ、あまつさえ発射準備が完了しているため気が気じゃなかった翔太はそんなアリスに落ち着くように言った。何はともあれ問題が1つ解決したと少し安心した時、何の前触れもなくタオが動き出した。


 タオは翔太たちに背を向けるようにして、エミルたちを先ほどと同じように攻撃し始めた。タオも翔太と同様にハルトの攻撃だけが自分に届きうるものだと考えていた。だからハルトたちを狙ったということは翔太たちもすぐに理解できた。しかしそんな岩盤崩落のような攻撃のなか、明らかに不審なことがあった。それはタオの攻撃が先ほどより緩かったことだ。緩いと言っても、翔太たちの所まで伝わる衝撃は攻撃の凄まじさを感じさせる。つまり攻撃力は先ほどとあまり変わっていない。違うのは攻撃の密度である。


 先ほどのタオの攻撃は4人まとめて相手にしても躱すので精一杯というほどの密度だったのに対し、今のエミルたち2人への攻撃は反撃ができそうに見える。明らかにタオが意図的に攻撃の手数を少なくしていると考えた翔太は“反射壁(リフレクション)”でタオを攻撃し、ひとまずタオの気を引こうとするが全く相手にもされない。本当にハルトを先に倒そうとしているのか、それとも別の考えがあるのか。そんな疑問が解決せず言いようのない不安がこみあげてくるなか、タオの攻撃の合間を縫ってハルトが振り下ろされたタオの足の側面部分を大剣で打ち抜き、払いのけた。それにより転ばずとも体勢が崩れたことで生じたタオの隙を見逃さなかったエミルたちは素早く移動し、翔太たちと合流した。


「エミルさんたち、大丈夫ですか!?」

「私たちは大丈夫ですが、今の動きは……」

「うん、まるで誘導されているみたいだった」

「タオの意図は分かりませんが、今はひとまずこの状況をどうにかしないと……」


 心配していた翔太たちと合流したエミルたちはタオの行動に疑問が晴れないなか、どうするか話し合おうとした。しかしその瞬間、タオは自らの肉体を引き千切り、翔太たちに向かって投げつけた。近くに投げられそうなものがないから遠距離での攻撃はないだろうと考えていた翔太たちは完全に不意を突かれた。本来ならば“反射壁(リフレクション)”で防ぐところだが、その攻撃も防げるかどうかわからない。それを見越していたのか、翔太たちの身体は反射的に回避運動をしていた。


 翔太たちは再び翔太とアリス、エミルとハルトのペアに分かれるように散開した。しかしその時、翔太は投擲物が少しおかしい事に気づく。無造作にものを投げた場合、普通はそのまま叩きつけられるように着弾するだろう。しかし今向かっている投擲物は螺旋状に回転している。その証拠に投擲物であるタオの肉体の一部の縁の部分が回転により生じたであろう遠心力で周囲にまき散らされている。


 投擲物に回転がかけられていると考えた時、翔太は回避運動を取っている自分の身体に急ブレーキをかけると同時に同じ方向に退避しようとしているアリスの腕を引っ張り、エミルたちの元に急いで向かった。その動きとほぼ同時に投擲物は曲がり始め、最終的に翔太たちが退避しようとしていた場所に着弾した。その一部始終を見ていたエミルたちは驚きのあまり、何も言うことができなかった。あれほど巨大なものが曲がったというのは、エミルたちにとっては魔法による操作としか思えなかったが、タオがそれらしい動きをしていなかったため、なぜ曲がったのか理解できなかった。文字通りの魔球である。


 それに対して、なんとか回避できたため翔太たちもひとまず安心という表情を見せる。翔太としても半分賭けだったが、翔太たちが退避した先であるエミルたちの方に曲がっていた場合はエミルと協力して二重の“反射壁(リフレクション)”で防御しようと考えていたが、生じた余波がその威力を物語っていたため、受けなくて済んだことは何よりの幸運だった。


 しかし全員が驚きと安堵で気を抜いたその瞬間、横から巨大な壁が轟音を上げながら押し寄せてくる。その壁の正体はタオの掌である。指と指の間がしっかり閉じられているため抜けられる隙間もない。


 タオはどう攻撃を当てるべきか考えていた。そして辿り着いた結論が翔太たちの動きをある程度誘導し、避けられない状況を作るというものだった。つまり翔太たちが回避した先を攻撃するということである。もちろん相手の動きを先読みするだけではなく、ある程度避けられる方向を限定することで攻撃の命中率は跳ね上がる。そして今まさに狙い通りのことが起こっている。タオは自分が考えたことが順調に進んだこととそれを実現できる身体を手にした喜びを勝利の余韻のように味わっていた。


 タオの作戦通り、エミルとハルトは先ほどの投擲を避けた際の重心移動の影響が残っていてすぐに動ける体勢ではなく、翔太とアリスも避けるので精一杯だったため着地後のことを考える余裕がなかった。つまり今の翔太たちはこの攻撃を躱せる状態ではなかった。しかもタオはその攻撃を平手打ちのようにしているため、その攻撃範囲は拳での攻撃よりも遥かに広い。さらに地面とほぼ接するぐらいの超低空で向かって来ているためしゃがんでやり過ごすこともできない。


 そんな攻撃を前にしている翔太が何よりも驚いたのがタオの体勢である。タオの身体は見た目こそ人のようだが、骨がないためどんな体勢になろうとおかしくはない。しかしあの巨体を片足のみで支えると共に地面とほぼ平行になるように身体を傾けているタオのバランス感覚はあまりにも規格外だった。


 エミルたちはこの時、ようやくタオの意図を理解できた。タオは最初の攻撃であえて隙を作ることで翔太たちを一か所に集めた。次にそれによる気の緩みを最大限に生かして防御できないであろう攻撃を仕掛け、翔太たちの行動を制限する。そして最後に回避先を予測して回避できない状況を作り出し、まとめて翔太たちを倒す算段だった。それに見事にはまってしまったエミルたちは焦燥に駆り立てられるが、この状況ではもうどうすることもできない。ある者を除いて、その場にいる誰もが終わったと思った。


「ごめん、みんな! “反射壁(リフレクション)”!」


 そんななか、翔太は焦っているアリスたちに向かって叫ぶと同時に“反射壁(リフレクション)”を発動させた。誰もが翔太が無駄だと悟りつつもこの攻撃を防御するために発動させたと思い、エミルも翔太の諦めない心を見習い発動させようとする。しかしその瞬間、翔太たちは現れた“反射壁(リフレクション)”に弾かれる。突然の出来事にアリスたちも防御できず直撃した。ハルトに至っては思わず大剣を手放してしまった。


 しかし弾かれたことで翔太たちの身体はタオの攻撃範囲から押し出され、間一髪避けることに成功した。ただ生じた風圧に吹き飛ばされ、翔太たちは壁に叩きつけられる。それでも壁に激突する直前、エミルが発動させた風の魔法により多少なりともその勢いは軽減されていたため、翔太たちは気絶することなくなんとか立ち上がることができた。


 タオの攻撃範囲に取り残されたハルトの大剣はタオの掌打が直撃し、その方向に勢いよく吹き飛ばされ、大きな音を立てて壁に突き刺さった。一歩間違えればあそこにいたのは翔太たち、いや当たった瞬間挽肉にされていただろうから、その飛沫と言った方が正しいだろう。そう考えると翔太たちは本当に躱せて良かったと心からそう思った。


「いった~い! いきなり何すんのよ!?」

「いやあれは仕方がなかっただろ! みんな助かったんだからそれでいいだろ」

「確かに助かったのは事実ですが、結構痛かったです」

「先に謝ったので許してください」

「はぁ……まさか今のを避けるとはね。確実に当たると思ったんだが、中々しぶとい」


 翔太の“反射壁(リフレクション)”で思いっきり尻を強打されたアリスはそこをさすりながら翔太に抗議している。エミルもそれに続くが、助かったことも事実だからそれ以上言わないことにした。そんな時、その場全体に響くようなタオの声が聞こえてくる。


「随分その身体を使いこなしているんだな」

「それでも君たちを捕まえられないんだから、私もまだまだだな」

「……それにしてもずるいよな、その身体。こっちの攻撃を全く寄せ付けないほどの頑丈さを持ちながら、バレリーナのような柔軟性とバランス感覚もあるなんて、もはやチートじゃねえか」

「ちーとというのはよく分からないが、この身体も言うほど完璧ではない。現に私の衣服が今も乱れているというのに、この腕ではそれを直すことすらできない。とても歯痒い気持ちだよ」


 翔太が矛盾しているようなことを言うタオと会話するなか、タオのそんな自慢と皮肉を込めた言葉を聞いた瞬間、翔太の頭の中で考えていたことがこの状況を打破する作戦として一つにまとまった。その作戦は非常に、主に翔太が危険だがそれ以外思いつかない自分に内心「馬鹿野郎!」と叱責するが、そもそも考えている時間がなかった。だからこそ翔太は溜息をつきたい気持ちをぐっとこらえ、希望を含んだ力強い目でタオを睨みつけた。


読んでいただきありがとうございます。

どんどん評価お願いします。内心どきどきしながら待っています。

これからもよろしくお願いします。

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