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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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覚醒した騎士(越)

広い場所(実験所兼訓練所)まで退避した翔太たち、”反射壁”で出口に蓋をする。ハルトとエミルがタオと同じ魔法都市スペランディア出身だと知る、さらに強い狼たち登場、状況悪化。

 “反射壁(リフレクション)”は想像力が大事である。何かから大事なものを守る、敵を拒絶することから生まれたこの特質な才能(アビリティ)だからこそ、能力者のイメージがそのまま強さに反映される。


 しかし、いやだからこそ今回はその強さが仇になった。狼たちの勝ち鬨のような雄叫びに恐怖したエミルはほんの一瞬だけ、心が挫けそうになった。その気持ちが伝わり、“反射壁(リフレクション)”に亀裂が生じ始める。


「おや? 案外簡単に壊れるもんだな」

「しまった!」


 タオの言葉で気づいたエミルが慌てて立て直そうとするが、狼たちは亀裂が生じた部分を集中して攻撃しているため崩壊は時間の問題だった。その亀裂が次第に大きくなっていく感触がエミルの手に伝わる。エミルは翔太にヘルプを求めるが、ハルトを庇いながら狼たちの相手をしているため交代できる隙がなかった。


「すみません、これ以上もちません!」


 その瞬間、“反射壁(リフレクション)”が砕け散り、狼たちが次々と訓練所に流れ込んでくる。再び狼たちに囲まれた翔太たちはハルトを守るように背中合わせに並んだ。しかし先ほどと違うのはこの状況を打開する策が全く思い浮かばないこと、翔太の表情にも焦燥の色が見え始める。


「今度こそ終わりだな」


 タオはその言葉に何も返せない翔太たちを見て勝利を確信した。冷静に考えればここは自分の隠れ家であるため最初から自分に地の利はある、さらに戦力も十分揃っている。最初から負けるはずがない戦いに勝ったことにタオは少し喜び、安堵の表情を見せる。


 そんな今の自分に足りないものを挙げるのならばそれはもはや戦力ではなく、十分な知識と独創的な発想だった。タオは研究を進めていくなか、自分の限界を密かに感じ取っていた。このまま研究を続けても十分な成果は得られるだろう、ただそれは自分が追い求めていた理想とはわずかに違うものになる、なぜかそんな確信に近いものを感じ取っていた。ならばその「わずか」を埋めるためにはどうすればいいのか、タオは必死に考えた。そして導き出した答えが、自分と同じ方向性を持ちながら自分とは異なる発想を持つ者との共同研究だった。


 そんな長年求めていた存在が今自分の目の前に、手が届くところにいる。多少問題はあるが、常識にとらわれず独創的な発想で自分なりの答えを導き出す翔太はまさにうってつけの存在だった。


 ただやはり翔太が協力的でないことはタオにとって最大の問題だった。どうすれば素直になってくれるのか、その答えは案外すぐに出た。それは人質を取る事、もちろん人質にとる3人も他のものと同様に脳を抜き取り、今度は本当に丁重に保存しておく。それを見せれば翔太も協力的になるだろう。そして翔太は関係のない人まで助けようとするタイプの人間、だからこそ自分とは異なる考えを出せる。翔太の重要性を再確認したタオは、アリスたちを無力化するために狼たちに次の命令を与えた。


「翔太君以外の者の手足を奪え」


 もちろん、タオは初めからアリスたちの手足全てを奪うつもりは無い。すべて奪っては間違いなく死んでしまい、そうなっては元もこうもない。タオの狙いは翔太に仲間が傷ついていく様子を、圧倒的な力の差を見せつけることだった。タオも翔太ならば、切りのいいところでギブアップしてくれるだろうと確信していた。そうすれば侵入者排除と人材確保を同時に行うことができる。それがタオにとって最も合理的な判断だった。


 タオの命令で襲い掛かってくる狼たちの猛攻を凌ぐのに、さすがのアリスたちも精一杯だった。もちろん翔太も参戦しているが、手数の差で押し負けているため攻めに転じることができずにいた。


 そんななか、ハルトを必死に守っていたエミルの守りが突破される。エミルは“反射壁(リフレクション)”と敵を足止めする魔法を併用して戦う、戦闘支援を得意としている。だから前線で戦うならば防御に徹するが、数で向かってくる敵を倒すには決定打が不足していた。


 エミルはそれでも数匹の狼を足止めしているが、全てを止めきれなかったため何匹かがハルトに向かって襲い掛かる。ハルトは大剣を振る素振りすら見せず、ただ怯えていた。ハルトの頭の中はすでにあの時の恐怖に支配されていた。幼い子供に戻ったように頭を抱えて助けを求めた時、ふと誰かが自分に抱きついた。


「大丈夫……絶対に私が守るから」


 目の前に複数の狼、そしてエミルの言葉であの時の悲劇をデジャビュとして思い出したハルトの視界はスローモーションに切り替わり、連射画像のように現実がゆっくりと再生される。それはタキサイキア現象という脳の画像処理の遅延によって生じる現象だが、ハルトはそのことは知らない。それでもこのままでは死ぬということは理解できたハルトだったが、その時身体が硬直するような感覚に襲われた。


 その正体が恐怖だということにすぐに気づいたハルトだったが、何に恐怖したのかすぐには分からなかった。この状況なら最初に思うのは自分が死ぬという危機感だが、そうではなかった。それは遅くなった世界で見たエミルの必死にこらえようとしている様子、自分だって怖いのにそれでも自分のことを守ろうとしている彼女が自分を庇って傷を負うこと、彼女を失うという未だ感じたことのない想像の恐怖だった。


 それに気づいた時ハルトは思い出した、幼い頃自分を庇って傷を負ったエミルを見た時に感じたものの正体、そしてなぜ自分が強くなりたいと稽古を積んできたのかを。それは自分の大切なものを二度と傷つけさせないために、その人だけは何があっても守れるような強さがほしかったからだ。


 しかしタキサイキア現象は決して脳の処理機能が早くなったわけではなく、実際には視覚に既に入っている映像がゆっくりと再生されているだけ。つまりハルトが今気づいた、いや今思い出した想いで大切なものを守ろうと行動に移しても当然間に合わない。これだけはっきりと認識しているのに自分の腕さえもまるで言うことを聞かず、狼たちの攻撃のほうが早いということが嫌でも分かってしまう。どれだけ強く願おうと必ずしもその想いが通じるわけではない、それが現実というものだ。それを悟ってしまったハルトは静かに目を閉じ、心の中で何度も謝罪の言葉を呟いた。


「諦めるな!」


 エミルに直接謝ることさえできないと絶望していた時、その声が鮮明に聞こえてきた。それに反応して閉じていた目を開けたハルトの視界に映っていたのは、体当たりで狼たちを蹴散らす翔太の姿だった。しかし翔太の腕には狼の爪が食い込んだようで腕から血が流れ出ていた。翔太も初めて感じる切り裂かれた時の焼かれたような熱い痛みに腕の震えが止まらなかったが、それでも強く拳を握り自分を鼓舞する。


「いつまで震えてるんだ!? 男を見せろ!」


 翔太の自他共に呼びかける言葉でハルトの中で何か熱いものがあふれてきた。自分が何をしたいのか、それを自覚したとき人はその道を信じて進むことができる。もう大切なものを傷つけさせないために、大剣を強く握りしめる。


 その時、四方八方から狼たちが翔太たちに向かって飛びかかる。何せ、ただでさえ戦線が崩壊しかかっていたのに誰かを守ろうと持ち場を離れれば、当然戦線は崩壊する。2人とも“反射壁(リフレクション)”を発動中だったため、自分の身を守る事さえできない。そんな状況で誰もがもう駄目だと絶望したときだった。


「伏せて!」


 その声に反応した翔太とアリスは疑うことなく地面に伏せた。その直後、轟音と共に狼たちが吹き飛ばされた。自分の頭をわずかに掠ったその一撃に内心怯えていた翔太だったが、それにとやかく言うつもりはなかった。そこにいたのはエミルを優しく抱えながら、大剣を構えていたハルトだった。その姿は以前の自分に自信が無くびくびくしているものではなく、守るべき者のために覚醒した騎士のような堂々とした覇気を纏っている。


「今のは警告だ。もう一度僕の大切なものに危害を加えようとしたら次は本当に斬る!」


 さきほどハルトが放った一撃は大剣の腹の部分で狼たちを薙ぎ払っただけで、多少の骨折と打撲で済む致命傷にはならない一撃だった。それでもハルトのその言葉と闘志だけで狼たちは次々と後退していく。それは反撃の狼煙が上がった瞬間だった。


読んでいただきありがとうございます。

ブックマークや評価していただいた方、本当にありがとうございます。とても嬉しかったです。

これからもよろしくお願いします。

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