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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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四面楚歌(吠)

翔太が奇襲を仕掛ける。タオが思った以上にできる人だった。なんとか狼たちの包囲網を突破。しかしハルトがトラウマ思い出す。

 俯いているハルトは目を閉じ、深呼吸をする。ハルトは今の自分がすべき事が、少しでも早く立ち直り仲間の力になる事だと理解していた。翔太たちもハルトが必死に切り替えようとしている姿を見て、少し安心している。


 しかしそんな安まる時間は長くは続かない。突然、翔太たちが走ってきた道の暗がりから怪しい眼光が現れ、次々と増殖していく。そして反響した声が翔太たちの耳に届く。


「さっきは見事だったよ、翔太君。しかしここは鬼ごっこをするには狭いとは思わないか?」


 タオの言う通り、タオのアジトはさっきの研究用の機材が置かれている場所と、今翔太たちがいる訓練兼実験所の2つだけしかない。翔太たちが入ってきた入口も今は土壁に飲み込まれたかのように閉じている。つまり翔太たちにこれ以上の逃げ場はない。


 しかし翔太たちも最初から敵のアジト内を動き回ることがどれだけ危険なことかは理解していた。ただ翔太たちが今いる場所ではさっきの場所とは違い、ゴーレムたちも制限なく力を発揮できるということを今さっき思い出した翔太はそこに関してはノープランだったためどうしようかと頭を悩ませていた。それでもさっきの場所とは違いここではタオの背後が取りやすいというのもまた事実である、とポジティブシンキングをする翔太は自分を納得させるようにして切り替えた。詰まる所、翔太たちに今必要なのは逃げ場ではなく作戦を考える時間である。


「確かに俺たちを捕まえるという点では鬼ごっこっていう言い方は的を射ているな。そういえば……」

「悪いが時間稼ぎに付き合うつもりはないよ」


 翔太の狙いを見抜いたタオが翔太の言葉を遮るのとほぼ同時に暗がりから数匹の狼たちが解放されたように次々と飛び出してくる。


「「“反射壁(リフレクション)”!」」


 飛び出してきた狼たちを押し込めるようにはじき返したエミルの“反射壁(リフレクション)”の後に、翔太も同様に発動し、蓋のように入口を封鎖した。狼たちが体当たりしたり、爪で切り裂こうとしているのが感覚として翔太の手に伝わる。痛みではなく、くすぐったいに近い感覚に少し戸惑う翔太だったが、今はそれどころではなかった。


「悪いが地の利を生かさせてもらったぜ!」

「……それを言うのはまだ早いんじゃないかな。この道が私が研究資料をあの部屋に入れるのに使っているということを忘れていないか?」


 そう言うとタオは指を鳴らす。するとそれに反応してさっきの細い道の幅がさっきより何倍以上も広くなった。しかし次の瞬間、目の前の光景に驚いたのは翔太ではなくタオだった。


「これは!?」


 タオが驚いたのは翔太が発動した“反射壁(リフレクション)”が広がった幅よりもさらに広く展開されていたからだ。タオが言っていたことは翔太が予想していたパターンの一つだったため、翔太はそれを見越して“反射壁(リフレクション)”の横幅を通常より広く展開していた。


 ただ、その分“反射壁(リフレクション)”の厚さは薄くなっている。翔太としては“反射壁(リフレクション)”は能力者のイメージによって大きさや形を変えられるという認識だった。しかし正しくは予め決まった大きさがあり、それから厚さや大きさをイメージで決めるというものだった。つまり“反射壁(リフレクション)”を厚くしたいならその分大きさが小さくなり、大きくしたいならその分薄くなる。これがこの特質な才能(アビリティ)がBランクの所以である。


 翔太が使用して初めて分かったことを冷静に分析していると“反射壁(リフレクション)”越しに声が聞こえてくる。


「私も君がそういう思考の持ち主だということを忘れていたよ」

「だから言ったろ? 地の利を生かさせてもらったってな!」


 翔太がさっきの皮肉のお返しと言わんばかりに自信満々に答えると、タオが苦い顔を見せる。しかしタオもすぐに冷静さを取り戻すと分析し始める。


「……この盾のようなものはさっきと比べて薄い気がするのは気のせいかな? おそらく大きさによってある程度の制限がかかるってところだろう。ならばさっきのと比べてかなりもろいはず……」

「その割には壊すのに随分手間取ってるように見えるぜ?」

「確かにそうだが、こっちにはまだ兵力が残っている。このまま持久戦になれば兵力や食料がある私の方が有利だと思うが…どうかな?」

「それこそどうかな? 俺たちが既にあんたを倒す作戦の準備に取り掛かっているとしたら持久戦も何もないだろう? それで決着だ」

「それはブラフのつもりかな? どっちにしろここを突破すれば君たちに逃げ場はない。そっちもこれを作れるのは翔太君とそこにいるエミル・ホロウの2人だけみたいだし、突破するにはさほど時間はかからないだろう」


 タオのその言葉で初めて会話が途切れた。翔太が何も言えなかったのはタオがなぜエミルの名前を、しかもフルネームで知っていたのか分からなかったからだ。今までの会話で自己紹介したのは翔太だけ、多少名前を呼び合ったりしたことはあったがそれでもタオの前でエミルのフルネームは言っていない。何度思い返しても分からなかった翔太は内心激しく動揺していた。


「はっはっは! やはりそうだったか。……それにしても翔太君は意外とボロが出やすいんだな、実に分かりやすい!」


 タオの勝ち誇ったような上機嫌の笑い声が聞こえてくると、今度は翔太が苦虫を潰したような表情を見せる。タオの口ぶりからカマをかけられたことを知ったからである。しかしそれに気づかれた以上隠す必要はなく、むしろ会話を長引かせるチャンスかもしれないと考えた翔太は少しの沈黙の後、口を開く。


「……何でエミルさんの名前を知っているんだ?」

「そりゃあ知っているさ、そこにいる大剣を持った青年はハルト・コマンドだろう?」

「私たちはあなたのような人は知りません!」

「確かに君たちとは直接顔を合わせるのはこれが初めてだ。私はコマンド家主催のパーティーで知り合った君たちの親から君たちの話を聞いたのさ」

「……コマンド家?」

「おや……もしかして翔太君は彼女たちが何者なのか知らないのか?」


 エミルが力強く否定するが、それでもタオの言葉にはなぜか信憑性がある。その時聞いたハルトと同じ名前のコマンド家というフレーズが気になり、つい口に出てしまった翔太にタオが鋭く反応した。


「ハルト・コマンドはスペランディアの中でも有数の貴族、コマンド家の三男、ホロウ家は代々そのコマンド家を守護する一族だ。……しかし仲間に隠し事とはね」


 エミルとハルトがタオと同じくスペランディア出身だったことに少し驚いた翔太だったが、正直なところだから何だと大して気にすることではなかった。しかしエミルとハルトは違った。彼らの中にはあった仲間に隠し事をしていたことへの罪悪感に苛まれていた。その動揺が表に出ていたのだ。


 タオも内心ではこれでエミルたちの動きが少しでも鈍くなればいいと考えていたが、予想以上の結果に驚いている。


 そんな時、何か生温かいものが“反射壁(リフレクション)”に付着した感覚が翔太の手に伝わる。タオの話に気を取られ、狼たちの方の注意が逸れていたため何が起こっているのか分からなかった翔太はすぐに狼たちの方に目を向けた。


 するとそこにいたのは“反射壁(リフレクション)”に頭から突撃している狼たちだった。その証拠に“反射壁(リフレクション)”には複数もの血痕が付着していた。


「おい、お前らもうやめろ! そもそもこいつの言うことを聞く必要なんてない!」

「お前たちの願いを叶えられるのは私だけだ、だからこのまま続けろ!……それにしてもこいつとは失礼だな」


 先ほどのやりとりでタオが狼たちに口頭で命令していることから、狼たちに人の言葉を聞き理解する機能が残されていると確信していた翔太はそんな彼らに言葉をかけるが、それでも狼たちは止まらない。しかし翔太としては狼たちをどう説得するかよりも、なぜタオの命令に従っているのか気になっていた。


「……あの人たちの願いってなんだ?」

「そんなことを聞いてどうするんだね?」

「……」

「はっはっは、少し意地悪だったかな? まぁ考えればすぐに分かることだ。……私は『私の研究に協力して別の人材を集めれば彼らに元の人間の姿に戻す』と言っただけだ」

「勝手に人の脳を奪っておいてその言い草か?」

「私としては資料は多いにこしたことはないし、こうすれば収集も捗るというものだ。こういうのを一石二鳥と言うんだろうな」


 翔太の問いに答えるタオは再び上機嫌そうに高笑いをする。それでも世の中何事もギブアンドテイクだと言いたげなタオの考えが少し理解してしまった翔太はなおも苦い表情を見せる。


「まぁ、とりあえず彼らを説得するのは諦めた方が良い。彼らの目的は自分の身体を取り戻すことだけ、そしてそれができるのは私だけだ」

「一つだけ聞かせろ、ここはさっきの研究所とここ以外の場所はあるか?」

「……ないな」


 翔太の問いにどういう意味なのか分からず困惑していた。ただすぐにその問いの意味に気づいたタオは静かな口調で告げる。タオのその答えに翔太は何も返答せず、ただ静かに拳を強く握りしめる。またその表情からは怒りと悔しさがひしひしと伝わってくる。


「今の質問はどういう意味なの?」

「……今は言えない」

「どうして!?」

「……エミルさん、すみません。お願いします」

「分かりました、“反射壁(リフレクション)”!」


 翔太の言葉の意味が分からなかったアリスが翔太に尋ねる。しかし翔太はその意味を断固として話そうとしなかった。追及するアリスの話を一方的に打ち切った翔太はさっき話し合った通り、エミルと交代する。アリスが納得していないことは分かっているが、翔太には今この場でその意味を言えるわけがなかった。


 なぜならさきほどの問答で狼の身体に移植された彼らの元の身体は既にこの世にないことを知ってしまったからだ。目の前にいる狼たちは見ただけでも10匹以上いる、つまりその人たちの身体を保存する場所も10人以上が余裕で入るスペースでないといけないということである。ましてやギルドが把握している行方不明者約30人のことも考えれば、かなりの大きさが必要である。


 しかしさっきまでいた研究室にはそれらしいものは全く無く、まさか何が起こるか分からない実験所に彼らとの唯一の交渉材料であるものを置いておくわけがないだろう。ならば考えられるのはただ1つ、彼らの身体は既に無いということである。この世界にはありえないことも可能とする魔法という便利なものがあり、タオがそれで身体を保存している可能性も十分考えられるが、その場合タオが彼らの身体をわざわざ保存しておくメリットは何なのか?


 翔太の中での結論は既に決まっていた。アリスがそんな不安そうにしている自分のことを心配しているということも分かっているが、今自分が考えたことを彼らにも聞こえるこの距離で話すということは、今も自分の身体を取り戻そうと必死に痛みを我慢して生きている彼らの希望を断つことと同義である。翔太は助けようとしている者たちに現実という絶望を与えることに耐えられなかった。


 もちろん、これはタオが言ったことを信じた場合の話であり、タオが嘘をついていて実は彼らの身体をちゃんと保存している可能性も十分にある。それでもそうではなかった場合、本当に彼らの身体が残っていなかったとしたら翔太は彼らに何て言えばいいのか分からなかった。


 そしてそんな彼らの状況を理解してしまい、彼らの必死な姿を見ていられず“反射壁(リフレクション)”を解こうとまで思ってしまいあやうく仲間を危険に曝そうとしたうえに、そんな辛いものをエミルに押し付けるようにして彼らから目を背けた翔太は激しく自己嫌悪に陥っていた。


 その時翔太たちの背後から足音が聞こえてくる。何かと思って振り返ると10匹以上の狼たちが群れを成すように集団で翔太たちの方に向かって走って来ていた。


「効率良くいかしてもらうよ、翔太君」

「くそ! こっちは俺とアリスで対処します、エミルさんは引き続き足止めをお願いします!」


 翔太の指示に従うアリスとエミルは互いに自分の役割をこなそうと身構える。ただ指示を出した本人はつくづく不幸な彼らのことを考えてしまうとどうしても戦いたくないという気持ちが大きくなり、自分たちを殺そうとしているのだから逆に殺されても仕方がないと切り替えをしたつもりなのにそれができていないことに言い様の無い不安が押し寄せていた。


 それでも仲間を失いたくない翔太は動けない程度に無力化しようと、向かってくる狼たちに“反射壁(リフレクション)”を発動した。その攻撃で気絶すれば良し、しなくても警戒して近づきにくくなりその間にタオをどうにかして倒せばなんとかなると考えた翔太だったが、そう上手くいくことはなかった。


 それが勘なのか、避け切れないタイミングで発動したはずの“反射壁(リフレクション)”を先頭の狼が紙一重で回避すると、狼たちは先頭の動きに従い散開して翔太とアリスに襲いかかった。


予想だにしない動きで驚いた翔太に向かって5匹の狼が飛びかかる。翔太はぎりぎりまで彼らを引き付けると再び“反射壁(リフレクション)”を発動した。今度は回避できず5匹のうち4匹は“反射壁(リフレクション)”に激突し、自らの勢いではじき返される。しかし残りの1匹は“反射壁(リフレクション)”の大きさでカバーできず、ついに爪が届く距離まで接近を許してしまう。咄嗟にナイフで爪での攻撃を防御するが、勢いに押し返されそのまま倒れた翔太は狼にマウントを取られた。狼の荒い息遣いが分かり、彼らがどれだけ必死なのかが余計伝わってくるが、今の翔太にそんなことを気にしている余裕はなかった。反射的に懐から棒手裏剣を取り出し、狼に向かって投げつける。


 今の翔太に棒手裏剣を狙ったところに当てる技術はないが、それでもこの近距離ならばどんなに下手でもどこかに当たる。そのことを理解できている(ひと)だからこそ、過剰に上体を逸らして躱した。翔太はそれによって生じた隙に足を入れ狼の腹部を力いっぱい蹴り上げた。そのまま突き放した狼に“反射壁(リフレクション)”で追撃するが、狼はそれをも俊敏に反応して躱す。ただ狼たちは警戒して翔太から距離を取った。


 アリスは翔太のような防御手段は持っていないが、持ち前の技を駆使して狼たちに背後を取られないように立ち回りながらなんとか持ちこたえていた。翔太は“反射壁(リフレクション)”で牽制しつつアリスと合流する。


「大丈夫か!?」

「なんとかね……でも長くはもたないかも」


 アリスはそう言うとハルトの方を一瞥する。翔太もアリスの言いたいことは十分理解できる、しかし今のハルトは戦力に加えるのは不安要素があまりにも大きかった。


「翔太君、私の研究成果はどうだい? 今君が相手にしているのは捕らえた冒険者たちだ。彼らは一般人よりもはるかに性能が良い。だからいくら君達でも彼ら全員を無力化するのは難しいだろう?」


 翔太たちの反応を見て語り出すタオからは愉悦が漏れ出ていた。彼も一人の研究者、ならば誰かに研究成果を発表したかったのかもしれない。しかしそんなことを考えている余裕は今の翔太たちにない。


 一口に脳や神経と言っても人それぞれ身体のでき方が違うように、脳と神経もその経験によって性能が異なってくる。冒険者の脳と神経は商売人などの一般人のものよりもはるかに発達している。つまり集団先頭や咄嗟の判断力などタオを護衛している者たちよりもはるかに強い。


「見たまえ! 自分のためなら他人を容赦なく蹴落とす、まさに人間らしい姿じゃないか!」

「このクソ野郎が!」


 タオの皮肉を込めたこめた一言に翔太は悪態をつくしかできない。完全に追い込まれた翔太たちは互いの背を守るように武器を構える。そんな翔太たちを追い詰めるようにゆっくりと囲むように展開していた狼たちだったが、急にぴたりとその動きを止まる。そして少しの間、その場に静寂が訪れる。翔太たちもなぜ相手が動かないのか、その狙いが分からなかったため迂闊に動けなかった。


 誰かがつばを飲む音さえ明瞭に聞こえてきそうなほどの静寂のなか、突然狼たちは腹に響くような遠吠えを上げる。その音量は施設全体に反響し、実際の遠吠えしている狼たちの数以上の存在を感じさせる。そして翔太たちの中で今まで隠していた、否今まで気づかないふりをしていた恐怖が内側から押し寄せてくる。その恐怖は瞬く間に身体全体を支配し、翔太が気づいたときには足が震えて立っているのがやっとという状態だった。精神的にかなり追い詰められていた翔太たちにそれに抗う力はほとんど残っていなかった。


読んでいただきありがとうございます。

少し投稿が遅れてすみません。それと今回から前書きに前回の内容の小まとめを入れようと思います。

これからもよろしくお願いします。

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