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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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人間の研究(独)

 謎の男に導かれるまま先ほどの広い場所を後にし、2人が並んで通れるぐらいの細さの通路を行くこと数分、男が目の前の扉を開くと六畳ほどの広さの部屋に山のような紙の束に埋もれているテーブルとイス、来客用と思われるほこり一つない新品同然のソファーが一つ置いてあった。


「さぁ、あまり綺麗なところではないがゆっくりしていってくれ」


 男は自分のイスに座ると、友人に接するような態度で翔太たちにソファーに座るように促した。当然と言えば当然だが、警戒している翔太たちは一向に座ろうとしない。そんな翔太たちを見て男は小さく溜息をついてから口を開いた。


「私の名前はタオ・メイクン、魔法都市スペランディアで魔法の研究を行っていた。ここでは私の提唱した理論を証明するための研究を行っている」

「俺の名前は瀬田翔太、見ての通り冒険者だ」

「……素直だな、すぐに答えてくれるとは思わなかったよ。まぁしかし私も君がどんな人間なのか知らなかったからこんなことで驚くのは失礼かな?」

「いや別にそうでもないさ。その人の第一印象をどう思うかは人それぞれだからな。でもよく言うぜ、俺が『どんな人間なのか知らなかった』なんて、明らかに嘘だろ?」


 翔太のその言葉で先ほどまで営業スマイルをしていたタオの表情が初めて警戒の色を見せた。そして当然アリスたちも驚いている。


「……どうしてそう思うかね?」

「さっきの会話であんたは俺のことを『意外に礼儀正しい』って言ったよな? 出会ってまだ一言二言しか話していない相手なのに、その人がどういう人間なのか知っているのを前提にした言い方をするのはおかしいだろ?」

「それは君の見た目が礼儀正しい人には見えなかったからだ…と言ったら?」

「それは地味に傷つくなぁ。まぁ確かにこれだけなら第一印象と違うから驚いたって意味合いになるからおかしくはない。けどこの部屋に来る前の俺の最後の言葉、『俺たちを攻撃するつもりならそのチャンスはいくらでもあった』ってところをあんたは否定しなかった。つまり少なくともあんたは俺たちがここに侵入したときから俺たちの存在に気づいていたということだ。それで俺たちが、というよりは俺がしたことを見て、俺の第一印象が決まったんだろ?」

「私は概ね正解だと言ったんだ、君のそれはただの推測にすぎない」

「頑なだな。…けど俺たちがさっきの広い場所に出てどうしようか迷っていた時、やけにタイミングよく声をかけてきたよな? 偶然っていうのは良い言葉だよな」

「はぁ…分かった、分かった。待機させているゴーレムについている赤い石が目になっているんだが、君の言う通り私はそれを通して君たちが地上にある建物を調査しようとしていた時から君たちの行動を監視していた。しかし……ふふふ、翔太君が問答無用で建物を燃やしたときは思わず吹き出してしまったよ! あれは流石に予想できなかった」


 翔太の言葉で先ほどまで厳しい顔つきだったタオが再び笑顔に戻った。その笑いは他者を嘲笑うようなものではなく、意外性から生まれた失笑という印象だった。タオの反応に呆気に取られて反応に困っていたアリスたちは何も言えずにいる。しかし翔太だけは苦い顔をしていた。


「こんな地下に研究所を作るような奴に、そんな常識知らずみたいな言い方されるのは不愉快だ」

「それは仕方がないんじゃない?」

「アリス、お前はどっちの味方なんだ?」

「常識知らず…か、確かに君は普通ではないだろうな。だがそれだからこそ良い」


 翔太の言葉にアリスが冷静なつっこみを入れると、タオはその様子を見て微笑みながら思わせぶりなことを言った。そして徐に椅子から立ち何かのスイッチを押すと、突然その施設全体が揺れ始める。翔太たちが突然の出来事で動揺していると、部屋の壁がスライドし奥から怪しいガラスケースが姿を現した。


「あれは何? 気持ち悪い……」

「確かにあんなものは見たことがありません……」


 アリスとエミルが思い思いに述べていたのは、ケースの中にあった無数のしわが寄っている薄桃色の丸みを帯びたものから細い線が伸び、さらにその線からより細い線が無数に拡がっているもの。それが大事そうに保存されているため、アリスたちもそれがタオの研究に重要なものだということは理解していた。しかしその中でたった1人だけ周囲と違う反応を示していた者がいた。


「……お前、何してんだ」

「ほぅ、これを見た時大抵の人は彼女たちのように不気味だと感じるものだが…くくっ、翔太君はこれが何か知っているみたいだな、だからそんな反応をしている。……本当に君は素晴らしいな!」

「質問に答えろ!!」


 アリスでさえ見たことがない表情で激昂している翔太を見て一人を除いた全員が言葉を失っていた。ただタオだけは悪魔的な笑みを浮かべ、翔太だけを見つめている。


「翔太さん……これは何ですか?」

「……生き物の頭の中に入っている脳という部分だ」

「……頭の中?」

「これ以上ないくらい分かりやすい答えだな。君がどこで脳という概念を知ったのかは分からないが、そんなことはもうどうでもいい。…単刀直入に言おう、翔太君、私の助手にならないか? そうすれば私の研究もより良い進歩を遂げるだろう!」

「いきなり何を……」


 エミルは目の前のものが何か翔太に聞いてみるが、翔太が何の話をしているのか理解できなかった。しかしそれはこの世界では触れられていない部分、エミルが知らなくてもおかしくはなかった。ただタオが翔太を仲間に引き入れようとしていることは理解できたエミルはどういうことなのか聞こうとした時、その言葉を遮ったのは翔太だった。


「俺が『はい』とでも言うと思ってるのか?」

「確かにその様子だと了承してもらえるとは思わないが…これならどうかな?」


 タオがそう言うと壁の至る所から何匹もの狼が飛び出し、あっという間に翔太たちの周囲を取り囲んだ。アリスたちは咄嗟に身構えるが、翔太とタオだけは変わらず話を続ける。


「彼らは私を警護している者たちだ。さて、これは取引だ…と言いたいところだが、もはや君に選択の余地はないと思うのだがどうかな?」

「……あんたはいったい何の研究をしているんだ?」

「翔太さん!?」

「ははっ、確かに私がどんな研究をしているのかまだ言ってなかったな。…質問に質問を返すのはあれだが、君はあそこにあるのは何の脳だと思うかね?」

「……人間の脳か?」

「正解だ! そう、私の研究は人間の脳を用いて新しい人間のあり方というものを研究している。さてここで再び質問させてもらおう。翔太君は自分のことを人間だと思うかね?」

「……どういう意味だ?」

「言葉のまんまだ。君は人間という種類の生き物なのかと聞いているのさ」

「……俺はれっきとした人間だ」

「どうしてそう思う?」

「人間の親から生まれてきたからだ」

「ならば人間とは何だ?」

「直立二足歩行をし、脳が発達している生き物。あと独自の言語と文化を形成している」

「意外に論理的な答えが返ってきたな……確かにその通り、人間とは他の生き物より比較的脳が発達している生き物のことを指す。ならば人間の言葉を使い、脳が発達している生き物は全て人間か?」

「……それは違う。エルフやドワーフは人間とは別の種族だからだ」

「そうだ! ならば人間を人間だと言える根拠は何だ? ……私はそれを心、感情だと考えた。そう、一番大事なのは自分を人間だと考える、その思考そのものだ!」

「じゃああんたは、人間とは自分のことを人間だと思い、感情によって行動する生き物だと言いたいのか?」


 会話を続けていくうちにタオは生き生きとし、言葉にも熱がこもるようになっていった。その姿は先ほどまでの大人らしい落ち着いたものではなく、目を輝かせながら話すのに夢中になっている子供そのもの。そんな彼だったが、翔太の言葉を聞いて一瞬話が止まった。


「あぁ、その通りだ。つまり人間は中身が重要なんだ。……ならば体はなんでもいいと思わないか?」


 先ほどまでの興奮が嘘みたいに落ち着いた様子で、静かな声で話すタオの言葉に全員が戦慄した。話の内容の一部しか理解できていないアリスたちですら、研究者特有の狂気じみた執着に似たものを感じ取っていた。そして翔太は行方不明者、死体を持ち去る狼たち、人間の脳など今までの出来事からタオが何をしようとしているのかを考えた。そしてある一つの結論に辿り着く。


「……まさか!」


 そう言うと同時に周囲を見渡す翔太の行動にアリスたちはどういう意味なのか分からなかった。しかしタオだけは違った、翔太の行動の意味が分かったからこそ、先ほどまでの無表情が少しずつ狂喜の笑みに変わっていく。


「私は人間の脳を他の生き物に移植し、それが人間の新たな可能性について研究しているのだよ! この研究が完成すれば人間は今の脆弱な身体を脱ぎ捨て、弱肉強食の世界を文字通り強者として生きていくことができる、なんと素晴らしいことか!」

「翔太さん、彼は何を言っているんですか!?」

「……かいつまんで話します。今俺たちの目の前にいる狼たちは行方不明になっている人たちだ。体は人じゃなくても彼らの中には人間の心が宿っている。おそらく狼たちだけでなく、あのゴーレムたちも……」

「やはり君の発想力は目を見張るものがあるな。…ちなみにどこで分かったのかな?」

「……きっかけはあんたがさっきの広い場所にいたゴーレムに『彼ら』と言っていたことだ。まぁ、その表現は人間以外の生き物にも使ってもさほどおかしくはない。けどそこにいる狼たちにも同様の表現をした後、『者』って言っただろ? 『者』なんて人を表す言葉を使うのは明らかにおかしい。それとさっきのあんたの話とを結びつけて考えたら、ありえない結論に辿り着いただけだ」


 この時もアリスたちは何も言えず黙ることしかできなかった。何せ翔太とタオの会話はもはやこの世界(リドル)の知識とは程遠いもので、まさしく未知の領域だったからだ。ただそれでも、ぐちゃぐちゃに頭の中を整理し、翔太とタオの言葉から今の状況を理解しようとしていた。そんな険しい表情を見せるアリスたちとは裏腹に、タオは感動に打ち震えていた。


 なぜなら今彼の目の前にいるのは自分が考えていたことをちゃんと理解でき、かつ自分と同じ結論に辿り着ける者、いわば自分と同種の人間だったからだ。タオがまだスペランディアにいた頃、彼は今の人間の弱さに絶望していた。だから強くなるにはどうすればいいか必死に考え、他の生物の体を利用するという結論に辿り着いた。しかしそれを学会で発表したとき、誰一人タオの話をまともに聞こうとする者はいなかった。タオはそれでも諦めず、魔法都市の最高機関に自分が考えた人間の進化のあり方について直談判までした。しかし返ってきた言葉は「狂っている」、「頭がおかしい」、そんな彼を否定するものばかりだった。そして彼はスペランディア内で「異端者」として周囲から奇異な目で見られた。


 ただ周囲の者たちは知らなかった、孤独感と怒りが逆にタオの闘争心に似た気持ちを駆り立てていたことに。やけくそになったと言われれば否定はしない、ただ誰も自分のことを理解してくれないのならそれで構わない、いつか自分が正しかったと認めさせてやる、そんな思いが募っていった。そしてそれ以降彼はスペランディアを離れ、たった1人で20年以上を研究に費やした。そしてその研究も第一段階を終え、第二段階に移っていたとき翔太たちと出会った。


「何がそんなにおもしろいんだ?」


 そんな怒りに満ちた翔太の言葉でタオは現実に戻った。ただそれでも自分はもう1人じゃない、理解者がいるという安心感は、彼が研究を行っていて初めて報われたという瞬間だった。


「いや、君の優秀さに感動していただけだ。…これは私の勘だが、君も私と似たようなことを考えたことがあるんじゃないのかな、例えば人間の限界とか?」


 タオのその言葉に翔太が険しい表情を見せるとタオはますます笑顔になる。翔太もタオほどではないが、人間が他の生き物より劣っていると思ったことがあった。それを顔に出してしまったのだ。


「これは自論だが、人の考えを理解できるのは頭の出来が良い者と、その考えと同じ発想に辿り着ける者、そしてその考えと同じ発想をしたことがある者だけだ。どうやら翔太君は最後者みたいだね……もう君を助手にしたいとは言わない、私と君はもはや同士、対等な関係だ。だから私と共に……」

「断る!」


 もはや確信に近いものを得て目を輝かせているタオが翔太に手を伸ばし握手を求める。アリスたちはタオの言葉と翔太の今まで行動から翔太の人間性が分からなくなり、本当に翔太はタオの言う通り彼に近い人なのかと不安になっていた。しかし翔太はそんな周囲の思いを裏切るようにその手を払いのけた。それには流石のタオも表情が険しくなる。


「なぜだ!? 君は間違いなくこちら側の人間なのになぜ君まで私を否定する!?」

「お前が何を思ってこんなことを始めたのかは知らないが、お前のやっていることはただ人を人じゃないものに変えているだけだ」

「……私は新しい人間のあり方、果ては人間の進化を模索しているだけだ! 君もあいつらと同じように今の人間に満足している愚か者なのか!?」

「お前は人を殺しすぎている……」

「私は誰も殺していない! 現に君たちの前には進化途中だが、れっきとした人間が大勢いるだろ!?」

「進化っていうのはその生物が生きるために変化していくものだ……」

「君は私が失敗したと言っているのか? だが進化には常に失敗がつきまとうものだ。それでも私は必ず成功させる、強い人間のあり方を確立させるから…君がいれば、より早く形にできる。だから……」

「違う、そういうことじゃない。進化はその生物が望んだから起きるものだ……お前が研究に使用した人たちは進化したいと心から望んでいたのか?」

「くっ、それは……」

「仮に望んでなかったとしたら、お前は人としての人を殺しているっていうことだ」


 タオが翔太たちの前で初めて感情らしい感情を見せ、矢継ぎ早に話していた。しかしタオは翔太の核心をついた言葉に返す言葉もなかった。彼自身、人の中身(こころ)が大事だと言っていた自分が人の心を殺しているという翔太の指摘に不覚にも納得してしまったのだ。だからこそ許せなかった、自分を理解できる者が自分を否定することを。


 翔太に裏切られたような気がしたタオは少しの間、呆然としていた。自分でも勝手に期待して勝手に絶望していることは分かっていたが、それでも自分が孤独だと思っていたタオにとっては翔太は初めて出会った理解者。そんな人に出会えて嬉しくないわけがなかった。


「……確かに君の言う通り、私は立派な人殺しだ。だがそれでも彼らはまだ死んでいない、彼らの心はここに残っている。そうだ……私はここで諦めるわけにはいかない」


 独り言のようにつぶやいたタオは手を高くあげる。その動きに反応して周囲の狼たちが姿勢を低くし、攻撃態勢に入る。それを察したアリスたちも再び構える。そんななか翔太は懐から何かを取り出した。


「動くな!」

「水を飲もうとしただけでそう怒鳴ることないだろ。さっきから長いこと話してるのに一向に飲み物が出てくる気配がないし、こっちはもう喉がカラカラなんだよ」


 侵入者の中で最も警戒が必要な翔太の動きをタオは見逃さなかった。翔太は取り出した透明の液体が入った容器を見やすいように高く持ち上げると、蓋を開けて一口だけ飲ませてほしいとアピールする。翔太の行動が何か分からず険しい表情を見せるタオだったが、アリスたちは既に気づいていた。何をするかまでは分からずとも、翔太がただ黙って捕まる気がないことだけ理解できればそれで十分、1人を除いて全員が覚悟を決めた。


「この状況でもまだ軽口が叩けるなんて、呆れを通り越して感心するよ。それでもこっちとしてもこのまま君を逃がすわけにはいかない。だから君を殺して君を手に入れるとしよう。……こうなることは君が望んだことだ、受け入れてもらおう」

「それも断る!」


 翔太の力強い返答を聞いたタオは無言で手を前に出すと、狼たちが翔太たちに向かって飛びかかる。それとほぼ同時に翔太は先ほど取り出した燃水を口に含むと、出火器の火をつけ前方の狼たちに向かって思いっきり燃水を吹き出した。その瞬間、タオを含めた前方にいる狼たちに火炎が放射され、人としての生存を賭けた戦いの火蓋が切られた。


読んでいただきありがとうございます。

今回は会話が多いです。自分でも少し多すぎるかなと思っていますが、今の自分の文章力ではこんな感じかなとも思っています。

これからもよろしくお願いします。

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