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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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翔太の印象(想)

 翔太が放火してから20分ほど経ったころ、すでに焼け崩れた建物はただの瓦礫と化し、そこからはわずかな熱しか感じない。しかし炎よりも熱い感情を持っている者がいた。


「私たちに何の相談も無しにいきなり火をつけるなんて、あなたはどうかしてますよ!」


 怒り心頭のエミルはすでに説教モードに入り、誰も止められない状況になっていた。エミルが怒っていたのは翔太が調査対象である建物を燃やしたことではなく、翔太がチームである自分たちに何も言わず行動したことだった。建物に関しては事前に翔太がテイルに頼んで気流を操作してもらったことで、火の手を加速させると共に舞い上がる火の粉により大森林で大火災が起こるという大惨事を未然に防いでいた。しかし一時的にとはいえ、翔太が取った行動は意図があったとしても自分勝手な行動、つまり自分や仲間の命を危険に曝す行為である。だからこそエミルもそのことについて激怒していた。


「とにかくチームとして行動する以上、これからは何の相談も無しに行動するのは極力控えてください!」

「……はい、すみませんでした」

「それで…翔太さんはなぜこんなことをしたんですか?」


 エミルの言葉の意味を理解した翔太は反省した様子で謝ると、次にエミルは燃え残った残骸の方を指さした。その顔は笑っていたが、まだ怒っていることが分かる。


「さっきあの建物の周りを見た時、他の人が近づいた痕跡がなかった。だから建物から出てきた奴がいれば、そいつは今回の事件の首謀者、もしくは関係者だと思ったんだ。それにあの建物から煙が上がれば、まだここに到着していない冒険者たちへの合図になると思ったんだ……」

「翔太さん…私たちがさっき言っていたことを気にして……」

「異議あり! エミルさん、騙されないで。私と翔太はエミルさんたち以外にもこの依頼を受けている人たちがいることをついさっきまで知らなかった、それなのに翔太は今朝に道具を調達していた、つまり翔太は初めからあの建物を燃やそうとしていたってことですよ」

「アリス、なぜそのネタを知っている!? …じゃなくて余計なことを言うな!」

「自業自得でしょ」

「しょ・う・た・さ・ん!」


 今だに来る気配がない他の冒険者たちの身を案じる翔太に少し感動していたエミルを現実に戻したのはアリスの一言だった。アリスは見事に翔太の発言の矛盾を暴き出し、してやったりという顔で翔太を見つめていた。アリスもエミルと同様に翔太の単独行動に少し困っていたため、この機会に反省してほしいと思っていたのだ。そして嘘を見抜かれた翔太の背後には「ゴゴゴ…」が聞こえてきそうな勢いで怒りを露わにしているエミルがいた。乾いた笑いを浮かべる翔太だったが当然説教タイムは延長され、説教が終わる頃には翔太は反省の色が見て取れるほどに消耗していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 エミルの説教により翔太が「敵がそこにいるって分かっているなら、その拠点を燃やしたほうが手っ取り早いし簡単だったから」という本当の動機を白状したところで、エミルは説教を終了した。翔太の行動は拠点を潰すと共に、炎に耐え兼ねて外に出てきた事件の関係者を捕まえる作戦だったということを聞いたエミルは一応翔太もこの依頼を達成するために考えていたことだと理解し、今回は厳重注意で留めた。


 しかし翔太としては説教の途中からエミルが「翔太さんも悪気があってこんなことをしたんじゃないんですよね?」という小さい子を諭すような言い方で接してきた時が一番精神的に応えていた。そしてその姿を見て笑いをこらえていたアリスとテイルに失笑されたことがとても恥ずかしかった。


「しかしこれだけ燃えてしまったら何も残っていませんよね……」

「翔太が言うところの事件の関係者もこの火事で逃げ遅れて焼死したってことも十分考えられるわね」

「……確かに僕たちからは誰かが逃げ出したところは見えなかった」

「翔太様……殺人に放火は重罪ですよ?」

「嫌な言い方するなよ! 確かにこの場合ならそう言えなくもないが、過ぎたことを言っても始まらないだろ? とにかくここから考えられるパターンは3つかな」

「3つ? 私たちが言ったことを含めても、まだ2つ別のパターンがあるってことですよね? 翔太さん、まだ何か隠して……」

「いやいやいや! そんな隠してるなんて、滅相もない! 今から言いますから、そんな目で見ないでください」


 燃え残りを見て各々が思ったことを口にしている時、翔太だけが違う考えを持っていた。そんな含みのある事を言う翔太をジト目で見ているのは、先ほど何度も言葉で丸め込まれそうになったエミルだった。エミルの疑いの眼差しを受けた翔太はさっきの説教を思い出し、包み隠さず自分の考えの全てを全員に説明した。


「まず1つ目はさっきみんなが言っていたとおり事件の関係者が焼死したパターンだが、燃え残った残骸の中にそれらしいものはなかった。何十人もの人が連れ去られているんだから、燃えたならその残骸をここにいる全員が見逃すはずがないだろ」

「……もし連れ去れていた人だけがこの建物にいて、燃えてしまっていたら? それにそもそもこの建物と行方不明者が関係しているのかさえ分かっていませんよ?」

「さっきも言ったけど、そもそも何十人もの人が連れ去られているとなると彼らを監禁するためのスペースが必要だと思うんだが、その点に関して言えばこの建物は小さすぎる。それにこの建物が目撃されたのと殺人狼が出現した時期がほぼ同じって時点で、そう考えるべきだろ。確かに直接的なつながりはまだ見つかってないけど、こういうときは最悪を想定したうえでどうするか行動することが大事だろ?」

「翔太さんの言葉って的を射ているから言い返せないんですよね……」

「なんだろう、誉め言葉と皮肉を同時に言われた気がするんだが…まぁ、それはひとまず置いといて2つ目は誰もこの建物にいなかったパターン。けどこれは正直どうしようもないよな、できることといえば何日かここで見張りをするぐらいかな」

「……そうなると僕たちは事件と何の関係もない建物を燃やしてしまった可能性があるってことだよね?」

「それこそ最悪のパターンじゃないですか~? それについて翔太様はどう思います?」

「うっ! そうだったら本当にどうしよう……まぁその時のことはその時考えよう!」

「『最悪を想定してどうするか考えることが大事』って言ってたのはどこの誰だっけ?」


 翔太は自分の考えをアリスたちに話すが、翔太の行動の問題点をハルトに的確に指摘され、テイルに煽られ、翔太はばつが悪くなり、それについて考えることを放棄した。そんな翔太の揚げ足を取るアリスの言葉を無視して翔太は説明を続けた。


「それもひとまず置いといて、最後に3つ目なんだが俺的にはこれが本命だ」


 そう言った翔太は建物の残骸に向かっていきなり“反射壁(リフレクション)”を発動させた。翔太の行動に驚いたエミルたちは翔太にどうしたのか聞こうとすると、それよりも早く翔太が口を開いた。


「少なくとも俺たちが対峙したゴーレムがこの建物と関係しているのは確かだ。じゃあ、あのゴーレムはいったいどこから現れたのか、なぜエミルさんたちはあんなでかい図体をしたゴーレムの存在に気が付かなかったのか? その答えは至って単純、エミルさんたちの見えないところにゴーレムがいたからだ」


 アリスたちは翔太のその言葉と、翔太がさっきから“反射壁(リフレクション)”が出た時の勢いを利用して残骸を押しのけている姿から翔太が考えていることに察しがついた。そして翔太が一通り残骸を周囲に押しのけた時、それは姿を現した。


「……これは扉?」

「あぁ、これは地下への扉だ! ……ふぅ、良かった」

「……今ホッとした?」

「い、いやいやいや! そんなわけないでしょ!? 俺が何に安心したっていうんだよ?」

「それは『扉だ!』ってドヤ顔しながらそれらしいこと言ってたくせに、そうじゃなかった時の恥ずかしさと気まずさは筆舌に尽くしがたいものですからね」

「いや別に…誰もさっき言ってた2つ目のパターンだったら取り返しがつかない大問題だったから本当に見つかって良かったなとか思ってないからね?」

「翔太様もまたベタなことしますね~」

「あの…そろそろ本題に戻りませんか?」


 アリスの指摘に激しく動揺している翔太を煽るテイルは実にいい笑顔だった。そんな盛り上がりを見せる翔太たちを現実に戻したのはエミルの一言だった。反応に困っているエミルに謝罪を入れた翔太たちはひとまず冷静に扉が開くかを確認した。しかし案の定、扉には鍵が掛かっており中には入れなかった。また扉に触れてみたり叩いたりしてみると、そのノック音が内部に浸透せずに弾かれるような感覚があった。


 この感覚は鉄製のものを叩いたときのそれと似たもので、この扉が鉄もしくはそれと同等以上の硬度を持つ材質で作られたものだと分かった翔太たちは他に何かないかと扉をよく見てみると、鍵穴らしき変わった形状の穴があった。そのことで頭を悩ませていた翔太だったが、そんな翔太をよそにアリスはあっさりとその鍵を開けた。その時のアリスのドヤ顔を翔太は一生忘れない。


 何はともあれこれで中に入れるようになった翔太たちはその重い扉をゆっくり開けると、そこから吹き出た風が翔太たちの髪をなびかせた。突風に驚いた翔太たちはおそるおそる覗いてみると、扉と同じ素材で出来ている梯子が地下深くにまで続いていたが、入口手前以外は真っ暗なため梯子があること以外全く分からなかった。


「このままここにいても仕方がありません…とりあえず中に入ってみますか?」

「ちょっと待った、その前に……」


 中に入ろうとしたエミルを引き留めた翔太は徐に立ち上がり、近くにあった手の平サイズの石と数枚の木の葉を持ってくると、それらにあの液体を振りかけた。翔太が使用したのは燃水と呼ばれるもので、油のように燃えやすいが水気のある滑らかな液体であり、先ほど翔太が建物を燃やすために使用したものの1つである。


 エミルたちが不思議そうに見つめていると、翔太は燃水によりぴったりと石にくっついている木の葉にこの世界で出火器と呼ばれる簡易ライターで火をつけると、それを地下に投げ入れた。


「翔太さん!? やはりさっきのでは物足りずまた燃やす気ですか!」

「人を放火魔みたいに言わないでください! こうすればこの入口の深さとか、中に火が燃え続けられるくらいの空気があるのか確かめられるでしょ!?」

「なるほど。私はてっきりここも問答無用に燃やす気なのかと……」

「あぁ…さっきから俺のイメージが常識外れの放火魔になっているような気がする」

「自業自得じゃない?」

「だ、大丈夫だよ! 翔太君の常軌を逸した行動にはちゃんとした意味があるのは分かってるから!」

「ありがとう、ハルトさん。……でもそんなにフォローになっていない」


 エミルの言葉に意外と傷ついている翔太にアリスの言葉がとどめとなり、ハルトの言葉が駄目押しとなった。そんな項垂れている翔太を見てテイルはただ嬉しそうに笑っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 地下に降りている途中で何かしらの罠があるかもしれないことを考慮して、元盗賊のアリスを先頭にし、アリスが所持していた光石の輝きを灯りにして降りていくと数分の後、足場がある場所に降り立った。その瞬間、壁に設置していた角灯が独りでに奥に向かって灯り始めた。誰かに監視されながら招かれているような不気味さを感じつつもその灯りが指し示す方に向かうと広い場所に出た。


 翔太たちがその場所がどういうところなのかを確認しようと周囲を見渡したとき、思わず全員が言葉を失ってしまった。翔太たちの目の前にあったのはかつて翔太たちが対峙したものよりさらに一回り大きいゴーレムが壁に埋まっていた。しかも1体だけでなく何体もいて、いつ動き出してもおかしくはない状況だった。翔太はこの時、自分の嫌な予感が的中していることを察していた。


 翔太が感じていた嫌な予感とはゴーレムが複数存在し、かつ消耗品のような存在ではないかということである。そう感じたきっかけは最初に戦ったゴーレムの弱点が足の裏にあったことだった。その位置を攻撃する場合、翔太たちが行ったようにゴーレムを転ばしてから攻撃するのがベストだろう。しかしそれとは別に翔太が思いついたのはゴーレムが踏みつけようとした時相打ちになるのを覚悟して足裏に刃を突き立てることだった。それを思いついた時翔太の頭の中によぎったのは「そんなことチキンな俺には無理だな」ということではなく、その行動を取った場合ゴーレム1体につき相手を確実に1人以上は倒せるということだった。


 もしゴーレムを造った人間がその行動を予想して弱点を足の裏につけたとしたら? 翔太がその立場ならどうするか、まず最初に思いつくのはゴーレムを大量生産すること。多少ゴーレムの戦闘力が下がってもいいから大量生産ができるのならば、身体のでかい奴が大勢という誰が見ても強いと言える状況になる。今回の戦闘では魔法に似た力が使える者が複数いたからどうにかなっただけで、もう1体ゴーレムがいたら死んでいたかもしれない。もしこの考えが正しかったらと考えるだけで頭が痛くなる思いだった。しかしこの時の翔太はあくまで自分ならこうするなという仮定に仮定を重ねた話だからこんなことはありえないだろうと思い込んでいたのだ。


 だからこそと言うべきだろうか、翔太はそのことを思いついていた分アリスたちほど驚きはしなかった。しかしそれでもこの事態がかなり悪いということは理解していた。翔太たちはこの時点で最早この依頼が自分たちだけではどうにもならないと判断し退却するか、もう少しだけ調査するか迷っていた。そんな時遠くから反響した声が聞こえてくる。


「私の招待なしでここに来たのは君たちが初めてだな」


 翔太たちがその声がする方に視線を向けると、白衣を身に纏った初老の男が翔太たちの方に向かって歩いてきていた。彼の服装を見た翔太の第一印象は魔法がある世界には似つかわしくない「科学者」だった。


「ふむ、何かしらの反応がほしいのだが……」

「……そうだな、招待状も無しに入ったことを謝罪したほうがいいかな?」

「ほぅ…こういう時は『お前は何者だ!』とかいう場面だと思うのだが、意外と礼儀正しい若者だな」

「……あんたが何者か聞いたところであんたは素直に答えてくれるのか? それともこっちが先に名乗ればいいのか?」

「君はずいぶん肝が据わっているな。ならばどうだろう、奥の部屋でもう少し話をしないか? 私も人と話すのが久しぶりというのもあるが、それ以上に君と話すのは中々面白い」

「そう言って私たちがついていくと思いますか?」


 突然現れた謎の男と翔太がなぜか淡々と会話を進めるなか、エミルが2人の会話に割り込んだ。謎の男は少し不思議そうな顔をした後、何かを言おうとした時それより前に翔太が口を開いた。


「分かった。確かにここで立ち話もなんだからな」

「翔太さん!? あなた何を言っているんですか!」

「やはり君は状況の理解が早いな、こっちも説明の手間が省けて助かるよ」

「エミルさん、いったん落ち着いてください。このタイミングで下手に逃げ出そうとすると間違いなくここにいるゴーレムたちと戦わなくちゃいけないし、それにもう遅いみたいだ」

「「「えっ?」」」


 興奮しているエミルをなだめるように話す翔太が指差す方を見ると、翔太たちがやってきた道が壁に埋もれるように閉ざされていた。


「一応君たちに気づかれないようにほぼ無音で閉じたのだが、翔太君…だったか、君は気づいていたのかな?」

「いや俺も今さっき気づいたんだが、そもそもあんたみたいなタイプの人間がそう簡単に侵入者を逃がすわけがないだろ? けどあんたも気づいているだろうが、俺たちがやろうと思えばいつでもあんたを攻撃できる。いわば互いの首根っこを押さえている状態ってことだ」

「それで私と対等だとでも言うつもりかな、私も彼らに指示を出せばいつでも君たちを攻撃できるというのに?」

「でもあんたにその気はないだろう? 俺たちを攻撃するつもりならそのチャンスはいくらでもあった。あまつさえ危険だと分かっているのにあんたは俺たちの前に姿を現した。なぜそんなことをしたのか、それは純粋に俺たちに興味が沸いたからだろ? だから話をしに来た…違うか?」

「やはり君はおもしろいな、翔太君。君の答えはまぁ、概ね正解だと言っておこう。では招待しよう、私の研究所へ」


 翔太の言葉を聞いて、不思議そうな表情から笑顔に変わった男は翔太たちに背を向け歩き始めた。その後をついていくように翔太たちは奥にある研究所へ向かった。


読んでいただきありがとうございます。

投稿が大幅に遅れてすみませんでした。

こんな自分ですが、これからもよろしくお願いします。

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