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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第3章 人間の研究者編
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目的達成と次の仕事(宿)

 ふと顔を上げると、至る所から上がる黒みを帯びた灰色の煙と炎のような茜色の空が広がっている。その二つが不思議と調和し、心のどこかで何とも言えない懐かしさに似たものを感じさせる。翔太たちが目的であるカヌチに到着したのは、そんな夕刻頃のことである。


 本来ならば距離的にカヌチに到着するのは夜頃になるはずだったのだが、いつの間にか戻って来ていたテイルがカヌチに向かう途中で先ほどの戦闘で逃げ遅れた人がいないか探していたという勇気がある御者を運良く発見し、その御者さんが翔太たち全員を馬車に乗せてくれたため予定よりずいぶん早く到着することができたのだ。


 翔太たちはその馬車の中で既にカヌチに到着した際にすることを確認し、今後の予定を話し合っていた。それによりエミルとハルトはカヌチにあるギルドに行き今回の成果について報告する、翔太とアリスは当初の目的通りミノタウロスの角をナイフにしてもらうという注文をした後、エミルたちが泊まってる宿で合流するということになった。


 カヌチに到着した翔太とアリスは早速エミルから自分たちが泊まっている宿の場所を教えてもらい、その場所を確認するとそこでエミルたちと別行動を取った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 エミルたちと別れた翔太とアリスは道すがら通行人にアムリ村の村長から教えてもらったアルバンという鍛冶屋がどこにあるか聞いてまわり、慣れない土地に苦労しながらも遂にアルバンらしき鍛冶屋に到着した。


「ここがアルバン……か?」

「……多分そうじゃない?この看板に大きくアルバンって書いてあるし、聞いた人たちの話ともある意味合致するし」

「しかし他の鍛冶屋と比べて、かなり印象が違いますね」


 思わず疑問形になる翔太とそんな翔太に歯切れの悪い返事をするアリスは疑いの目をアルバンに向ける。それはよっぽどのことで無ければ興味すら持たないテイルでも、反応してしまうものだった。


 翔太たちが疑問を抱き、反応に困っている理由は至って明白。それはアルバンの店の前に販売している武器が何かを記してある看板や、店の名前が大きな文字で刻まれている看板のことなのだが、それだけなら反応に困るどころかむしろお客に親切な良い鍛冶屋なのだが、驚いていることは看板の文字の色が桃色や黄緑色、黄色など鍛冶屋という雰囲気を感じさせない明るい色で表記されていることだ。


 奇を衒うという意味ならまず間違いなく他の店より人の関心を引いているだろう。しかし翔太たちがここまで来る時に見た他の鍛冶屋と言えば、「店の名前が分かればいいだろう」と言いたげな看板に、全体的に錆びれているが威厳のある店舗、見たい人だけそこに置いてある様々な武器を見てまわるというのが主な形だったことを考慮すると、アルバンは奇を衒いすぎているというのか、他の鍛冶屋と比べてかなりオープンな雰囲気である。


 翔太たちが聞いた話とはまさに「他の店とは全然違うから、店がどこにあるのかはすぐに分かる」というもの。その言葉の意味を理解した翔太たちは少し拍子抜けしたという面持ちで店に入って行く。


 店に入ると目に映ったのは何種類もの剣や槍、矢の他にも翔太の知らないものなど様々な武器が並べられていた。しかし店内にも関わらず店の人らしき姿が見当たらないため、翔太は仕方なく少し大きめの声で誰かいないか確かめる。


「すいませーん、誰かいませんか?」

「はーい!」


 翔太の声に反応して店の奥から元気な声が聞こえてくる。そしてその声に遅れて、鍛冶屋に似つかわしくないような十歳ぐらいの男の子がパタパタと足音を立てながら翔太の元へやって来た。しかし実際にその子が男の子なのか判別しにくいような中性的な顔立ちをしている。翔太が少し反応に困っているとその子の方から翔太に声をかける。


「おきゃくさまですか?」

「そうだよ。君はこの店の主人の息子さんかな?」

「ちがうよ、ここはおじいちゃんのおみせだよ」

「えっ?あぁ、そういうことか」

「可愛い~、もう我慢できない!」

「え?なに……わぁっ!やめ……おじいちゃ~ん!」

「アリス……お前はいったい何してるんだ?」


 純真無垢な声で男の子は翔太たちに声をかけると、翔太もしゃがみながらその子に目線を合わせてその質問に答える。それに対してその子は翔太の質問にあっているのか分からない答えを首をかしげながら答える。それでも何となく言いたいことが伝わった翔太はとりあえず大人の人を呼んでもらおうとした時、翔太の言葉を遮るように突然アリスがその子に飛びついた。その子も突然の出来事で避けることができずあっさり捕まってしまい、助けを呼んでいる。


「どうした、イシハ!」


 関わるのがめんどくさいなと思った翔太がそんなアリスたちを静観していると、イシハと呼ばれた子の悲鳴を聞いて店の奥からやって来たのは筋肉、とくに上腕二頭筋が異様に発達し、かなりの量の髭を蓄えている男。その姿は、街で出会ったら何も悪い事をしてないのに思わず道を譲ってしまうほどの威厳を感じる。さっきまでイシハに頬ずりしていたアリスだったがその男が現れた瞬間、今までで一番俊敏な動きでイシハから離れていた。


 アリスに解放されたイシハはその男の元へ一目散に逃げていき、足にしがみついている。目元を潤ませながらしがみつく姿はなんとも愛らしい、アリスが抱き着きたくなる気持ちも十分わかる。しかしその近くに鬼のような男がいるのだから不可能だろう。


「わしに用があって来たんじゃないのか?」

「え……はい、すみません!アムリ村の村長から勧められて来ました、これを渡すように言われています」


 そう言って翔太は男に手紙を渡した。男は少し怪訝そうな顔をしながら手紙を受け取り、軽く目を通す。


「……自己紹介が遅れたな、わしの名前はシシハ・フーゲン、こっちは孫のイシハ。改めてアムリ村を救ってもらったこと感謝する」

「いえ、あれは成り行きみたいな感じで……」

「フランク、いやアムリ村の村長とはもう何年もの付き合いになるが、鍛冶師のわしでは彼らの力にはなれずに悔しい思いをしていたんだ……」


 手紙の内容から事態を把握したシシハは自己紹介をし、翔太たちに礼を言うと共に自身の力の無さを嘆いていた。しかし当の翔太は村長の名前がフランクだったということを今知ったことよりも、「シシハさんのその発達しまくっている筋肉があれば盗賊団を討伐できたのでは?」と割と真面目に思っている。


 そんな翔太のことはつゆ知らず、シシハは心の奥底に溜まっていた嘆きを吐き出し続けた。そして三十分ほど語り続けた結果、全てを出し尽くしたかのようにすっきりとした様子でシシハは翔太からミノタウロスの角を受け取った。ようやく話が進むと思った翔太は次に値段交渉をしようとしたのだが、ここでシシハから待ったがかかる。


「今回、君たちは代金を支払わなくていい」

「え…とアルバンには初回サービスみたいなものがあるってことですか?」

「そんなことしたら店はすぐに潰れちまうよ。代金はフランクから受け取るって意味だ」

「村長から?……手紙にそう書いてあったんですか?」

「手紙には『今の私たちにできる精一杯のお礼として』とあった」

「お礼って、村ではご馳走を頂いたうえに、食べ物を分けてもらったのでこれ以上何かを受け取るわけにはいけませんよ!」


 翔太たちはアムリ村を出る際に村の人たちから保存が可能な食料をもらっていた。だからこそ翔太はこれ以上お礼の品を受け取るのは、貰いすぎではないのかというちょっとした罪悪感を感じていた。


「手紙に書いてあった通り、君は遠慮しすぎだな。君が今何を思ってそんなことを言っているのかは分からないが君より倍は生きて、多くのことを経験している人が君の行動に対してそれに見合う報酬を出すと言っているんだ、君はただ素直にそれを受け取ればいい。それでも何か理由が必要だと言うのなら、『こういう時は年長者をたてろ』」

「……分かりました。村長さんたちがここに来たら『改めてありがとうございました』と伝言を頼んでもいいですか?」

「それぐらいなら構わんよ。ただやはり君は……と言っても仕方がないか」


 反応に困っている翔太を見てシシハは溜息交じりに静かな口調で指摘した。シシハは「翔太が何を思って言っているのか分からない」と言ったが、出会って間もない翔太の内心を見透かしつつもフォローも忘れない「年の功」というものを翔太は肌で感じていた。そしてそれにより自分の心の中にある引っ掛かりが外れたような気がした。


 しかしそれでも「改めて」というまだ遠慮が残っている言い方をするうえに、棒手裏剣のような投擲用の小さな刃を五本ほど購入しようとしている翔太に、再び溜息をつきながらも、人がそう簡単に変わることができないことを知っているシシハは穏やかな笑みを見せた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 二日後に武器を完成させるという話になり、アルバンを後にした翔太たちは少ししてエミルたちが泊まっている宿「頑丈な鎚亭」に到着した。宿の一階の内装は酒場のような造りになっており、既に何人かが美味しそうに食事をしている。宿の中を見渡すと受け付けらしき場所にエミルとハルトの姿があった。二人の傍まで行くと翔太たちはエミルが翔太たちの部屋の手続きの交渉をしていることに気づいた。


「あ、翔太さん!ちょうど良いタイミングですね。ちょうど今部屋を取ったのですが、空き部屋があと一つしかなかったらしいので、運よく部屋が取れて良かったです」

「そうなんですか、部屋を取っていただいてありがとうございます」

「いえいえ。ではこれが部屋の鍵なので、ひとまず翔太さんたちも部屋に荷物を置いてきてください。その後私たちの部屋で作戦会議をしましょう」

「……ん?なんか色々おかしいような……」


 翔太たちに気づいたエミルが簡単に状況を説明する。しかし淡々と話を進めるなか、エミルに手渡された鍵と最後の言葉に違和感を覚えた翔太は少し間をおいてエミルに質問した。


「あの~受け取った鍵が一つしかないんですけど。それに私たちの部屋というのは……」

「……?あぁ、翔太さんとアリスさんの部屋は階段を上がって一番奥の二人部屋ですよ。私たちの部屋はそこから三つ隣にありますから、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」

「あ…いや、そういうことではなく……」


 翔太の質問に笑顔で答えるエミルだったが、翔太が聞きたかったことは年頃の男女が同じ部屋で一夜を明かすというのは社会倫理的に大丈夫なのかということだったのだが、エミルはそれに気づいた様子はなく懇切丁寧に部屋の位置を翔太に伝える。


 これは言うべきことなのかと翔太が迷っていると突然アリスに脇を小突かれた。翔太はそんなアリスの方に目を向けると、アリスは「それぐらい察しろ!」と言わんばかりの眼差しで睨みつけるかのように翔太を見つめていた。確かに男女が行動を共にしていたら「そういう関係」であってもおかしくはない。


 翔太はエミルたちへの気遣いが足りなかったと申し訳なさそうにエミルたちを見ると、不思議そうにしているエミルとは裏腹にハルトは顔を真っ赤にし、顔を覆っていた。その光景にアリスも「あれ?」というような表情をしているが、アリスはもとい翔太もすぐに察しがついた。


 もしエミルとハルトが恋人同士なら、ハルトたちは少し照れた様子で「そうだ」と答えるだろう。しかし実際はハルトは翔太たちが自分たちのことを恋人関係だと勘違いしていることに気づいたからこそ恥ずかしくなっているのだ。しかし翔太たちはそのこととは別にもう一つ気づいたことがあった。それはエミルがハルトのことを信頼していると言えば聞こえはいいが、要は異性として気にしていないということ。というよりは血のつながりがない姉と弟のような家族以上恋人未満の関係と言った方がいいだろう。それでもやっぱり同い年の男子と平気で部屋を共にするエミルのことを結論から言えばこうなる。


「エミルさん、マジすげーな……」

「貧相な語彙力ですね」


 翔太の発言の意図がすぐに分かったテイルはオブラートに包むことなく翔太の語彙力を評価する。「でもその通りだろ」とテイルとアリスに同意を求めながら翔太は部屋に向かった。


読んでいただきありがとうございます。

いつもながら投稿が遅れてすみません。今週は濃密で嫌な一週間だったのでとても疲れました。

これからもよろしくお願いします。

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