まさかの”特質な才能”(悦)
猛攻を凌いでいるが、何度攻撃しても動き続けるモンスターを倒す手段が見つからないためエミルたちは頭を悩ませている。そんな状況で活路を見出していた翔太だけが周りと違う表情をしていた。
ただしいつものようなあくどい笑みではなく、無いと思っていたものを見つけたことで驚きを通り越して呆れているような表情。しかも嫌そうに額に手を当て項垂れている。
「何か思いついたの?」
「……あのモンスターを倒せるかもしれないもの」
「えっ!?それは本当ですか!?」
翔太の表情からいつものごとく何かを思いついたのだと察したアリスは単刀直入に翔太に尋ねるが、当の翔太は歯切れの悪い返事をした。しかしその内容はここにいる全員の問題を解決するもの、それをさらりと言った翔太にエミルは思わず大きな声で反応してしまった。
しかしだからこそ疑問が生まれる。それはなぜ翔太に自信といった希望の色が見えないのかということだ。何かしらの打開策が思いついたとき、人は決まって笑みを浮かべるものだ。例外は多々あるが、どれだけ無謀な策を思いついてもその表情は挑戦的な笑顔か、思いついた策を実行するためどうするかという思い詰めた顔、どちらかの表情をするのかが普通だろう。
だが翔太の表情はどちらの表情でもなく、例えるなら嫌な上司から難しい案件を押し付けられた新人社員の内心のような、やりたくないけどやるしかないといった表情。
つまり翔太は打開策とその方法を思いついているのだが、それを実行するのを嫌がっているのだ。しかもその策以外それらしい策が思いつかないからそれを実行するしかないという状況。思わず溜息も出てしまう。
そんな翔太のはっきりしない態度に不快感を覚えたアリスはそのことについて強い口調で問い詰めると翔太は黙って地面に何かを描き始めた。そしてそれが描き終わると静かに口を開いた。
「あのモンスターの左足の裏にこの文字が刻まれていたんだ……」
翔太のその言葉を聞いたアリスたちが見てみるとそこには「emeth」という文字が書かれていた。全員がそれを見たのを確認すると翔太は説明を続ける。
「細かい説明は省くけど、この文字の最初の『e』の部分を消すとあのモンスターは倒せる……はず」
「確証がないわけね?」
アリスの問いかけに翔太は頷いた。しかしその時点で全員が翔太の嫌がっている訳を察した。
それはその方法に確証がないということでは断じてない、むしろ何かしらの突破口が見つかったのだから喜ぶべきことだろうが、問題なのはその文字が刻まれている場所だ。あのモンスターの左足の裏にあるということはあの巨体をもう一度、しかも意図的に転倒させなければいけないということである。
あの巨体を転ばせるには相当な力が必要なのは明白である。ハルトとエミルの連携攻撃でぐらつかせることはできるだろうが、転倒させることはおそらくできないだろう。それは攻撃していた本人たちが一番よく分かっていた。
さっきみたいにバランスを崩して転倒してくれれば話は別だろうが、それまで自分たちがあのモンスターの攻撃に耐えられるかとなると不安が残る。ましてや生物と言っていいのか分からないあのモンスター相手に持久戦をするのは嫌だというのが本音である。
エミルたちの連携にあと一手足りないという状況で、頭を悩ませている翔太はやはり自分がもう一度相手に触れて“物体引力”を発動させるしかないと考えたが、先ほどのように成功できるかと言われると微妙である。
今の自分にエミルのような力があればと考えた翔太が駄目元でエミルに聞いてみる。
「……いきなりだけどエミルさんのさっきの盾?みたいなのは特質な才能なのか?」
「はい、よく分かりましたね。さっきのは“反射壁”という特質な才能です」
「そうだよな、そんなうまい話があるわけ……ってまじか!?」
「はい、でもこれは私だけが使えるものなので……」
駄目元で聞いたことが翔太の望んでいた答えに、つい漫才みたいな反応をしてしまった翔太は歓喜の笑みを浮かべている。もちろんその後にエミルが言ったことは翔太の耳には届いていない。
翔太の頭の中には既に“反射壁”の能力とデメリットのことしかなかった。何せ自分がそれを使えるようになれば今までの問題が解決するかもしれないのだから、必死にもなる。
翔太は間近で何度も“反射壁”を見ていたため、その能力が「任意の場所に盾のような壁を作ることができる能力」というのはすぐに分かったが、デメリットが何なのかいくら考えても分からず翔太は再び頭を悩ませていた。
“反射壁”は盾や足場として利用するなど色々応用がきくのだ、そんな便利なものにデメリットなど存在するのかと考えていると、翔太はここで先ほどの攻防を思い出した。
それはハルトの攻撃を岩型モンスターが防御したときの一連の動きである。ハルトが攻撃しようと跳躍したときエミルは“反射壁”を足場として発動させていたが、岩型モンスターに反撃された時は盾として使いハルトを守っていた。その時ハルトは自分の目の前の“反射壁”に掴まることで地面に落下せずに済んでいた。
しかしハルトが“反射壁”に掴まっていた時、さっき足場として発動していたものがいつの間にか無くなっていたのだ。足場を残しておけばハルトも不安定な体勢にならず、もう一度攻撃できたかもしれないのになぜ能力を解除したのか。
「……“反射壁”は一度に一つしか出せないもので、別の場所で発動させたい時はその前に発動させていたものを解除しなければ使えない?」
「おめでとうございます、“反射壁”を発動できるようになりました!」
翔太が自信なさそうにそう言った時、突然懐にしまっていたカードが光り出した。そしてさっきまでどこにいたのか、テイルが翔太にお祝いの言葉と共に状況を簡潔に説明した。
翔太は思わずガッツポーズをし、頭を悩ます難問クイズに正解した大学生のように人目もはばからず盛大に喜んだ。この時アリスはまたこの謎のパターンかと可哀そうな人を見るような目で見ている。他の二人は謎の発光に驚き、何が起こったのか全く分からず呆然としている。
翔太はそんな三人などお構いなしに“反射壁”を発動させ、それを解除するといった動作を何度か行い、発動させるというのがどういう感覚なのかを確かめた。当然2人は、とくにエミルは目が飛び出しそうになるくらい驚いている。
何せ特質な才能はそれが宿った本人だけが使える特別なものというのが世間の常識で例外はないものだとされているのに目の前の少年はそんな例外のない常識をいとも簡単に覆したのだ。エミルの気持ちも十分理解出来る。
「よし、これであいつを倒せる準備が整ったぜ!」
高らかに宣言した翔太だったが驚きに次ぐ驚きで何も言えなくなっているエミルたちはそれに反応することができないため、その場は翔太の予想していた反応とは真逆の静寂に包まれる。
その後の翔太の間の抜けた「あれ?」という声だけがその場に残った。
読んでいただきありがとうございます。
今回は量がかなり少なくなってしまいました。自分の文章力が低すぎて悲しくなります。(笑)
これからもよろしくお願いします。




