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29、今思えば、お姫様

「女王様。ご報告が御座います」


「爺か、そなたの言い方では 是非にも聞くべき情報のようじゃな。聞かせてくれるか」


「はっ」


ファニルが迷惑な規模の魔法を発動させてから少しした頃、早くも魔族の王城には情報が伝わっていた。



「少し前に報告が入りました。交流している人族の国々の中心にあたる、かの角塔の近くに於いて戦略級の殲滅魔法が使用された模様です。詳しい情報は調査中ですが、規模と致しましては魔王様の御力に近いと思われます。使い手が何者かは調査中でございます」


「ふふっ、面白いではないか。人族で魔族クラスの使い手となれば あの女以来だな」


「アマレリア様の良き理解者でもあり、ライバルでもございましたな、お懐かしい。人族の寿命が短いのを残念に思ったのはあの時だけです」


「その私も今は魔王か、あれが魔族であったらと何度も思ったものだ」


魔力が高く、保有能力も高い魔族。彼等は生活の殆どを魔力に依存していた。ゆえに魔力の強さが個人の評価に大きく影響をする社会でもあった。

魔王となる者は当然最強を意味し尊敬される。


そんな魔族にとって脆弱な魔力しか持たない人族は本来 見下される存在であった。しかし 人の技術が魔法では手が出せない部分を補ってくれることが知れ、今では対等な立場での交流が成されるようになった。



「第二王女のマーマレーナ様が留学中の地でございます。もしや、今回の魔法は・・」


「それは無いな。あの子は父親に似た特性を持っている。魔力量は膨大だが使えるのは精々普通の魔法程度しかない。魔族としては弱く、人としては寿命など魔族の特徴を持つ・・不憫な子だ。あの子が落ち着ける場所が有れば良いのじゃがな」





コンコン☆☆



「母上はこちらですか?」


「レンリストか、この時間に参るのは珍しいの。何か有ったようじゃな」


王族専用のドアから王の執務室に入るのは第一王子のレンリスト。二代に亘り 女性が玉座に付いていたが、彼が次の王になる事は誰も疑わなかった。何故なら、その才能と人格が歴代最強の魔王となることを補償していたからだ。普通は起こりうる相続争いが全く無い事でも彼の人気の高さを伺わせている。


そんなレンリストは 気楽な今の立場を謳歌していたが、同時に魔王の右腕として様々な貢献をしていた。



「母上、辺境の貴族が魔物の大群を人族の地に差し向けたました。直接指揮を執らず 無関係を主張しながら救援を装って略奪する計画のようです」


「むぅ、それが事実なら外交上の大問題だが・・そなたが落ち着いているのは 心配いらぬ、ということで良いな」


「はい。魔物の大群と後方に追随していた貴族の部隊は 魔法の一撃で壊滅した模様です。上空より調査した諜報員の話では 証拠となる遺体も残らない有様 との報告ですので、後は我が国にて首謀者を消せば問題には成らないかと存じます」


「なるほど、後々面倒にならずに良かった。此度は魔法を使った者に感謝せねばならぬの。その田舎貴族に対しても手は打ったのであろう」


「少し前に屋敷ごと消し飛ばしてございます。後は母上に後任の領主を選出していただきたく存じます」


「わかった。この話はこれで終わりじゃ。記録に残す必要も無いぞ。関係者には 口外したくば命をかけろ、とでも言っておけ」


「御意。ではこれにて」


あっさり用件を済ませて退出する王子を見て、老練の宰相は舌を巻いていた。魔法が使われた情報が報告される頃には全てが解決していたのである。皇太子で普段はフラフラ気楽にしているが、それが可能なのは恐るべき実力が有ってこそだった。




**********




ツン☆ ツン☆


「もしもーし、生きていますかー」


誰かがレンジのほほを突いている。サトミが起こしに来たのだろうか・・それにしては変な起こし方だ。



「朝飯か?サトミ・・」


ペシッ☆


「バカ言ってないで起きなよ。空の上で寝るな」


流石に違和感に気が付いたレンジが目を開けると 視界いっぱいに町並みが見える。

どうやら シンビジウムの上空らしい。


上空?


そして、目の前には女の子が居る。

脳内のデーターと現在の状況を照らし合わせて・・訳が分からん。建物の屋根より少しだけ高い場所とは言え空の上なのだ。


自分が浮いているのは 飛行用の魔道具である木馬に乗っているからだ。では、この子は・・

彼女は単独で浮いていた。さすか異世界。レンジは理解する努力を放棄した。まぁいいや、の精神である。



「そう言えば、魔物の大群をぶっとばしてから記憶が無い。・・・・・っ、ファニル、大丈夫か?」


「あー・・、レンジさん。肉串 美味しかったですよぅ」


彼の背中に抱きついていたファニルの思考は別な意味でトリップしていた。どうやら 2人とも助かったようだ。



「2人して寝ぼけないでよ。何で学院の上に落ちてきたのかな?。皆で大騒ぎしてたんだからね」


下を見ると沢山の若者が騒いでいる。実のところ、下の人々は 少女が飛んでいる事に驚いている割合が多いのだが、彼女は気が付いていない。



「ファニル、とりあえず塔に戻るぞ。報告しないとならない」


「えっ、ちょっと。こらーっ」


学校がらみのトラブルに本能的に危険を感じた彼は逃げを選択した。ある意味では正解ではあるが、同時にミスもしていた。






「で、こちらのお嬢さんは誰なの?レンジ君」


「なんで、付いて来たんだよ。学校に帰れば良いだろ」


「えーっ、助けてあげたのに そう言うかな」


彼女は木馬に摑まってたので必然的に塔まで同行していた。だが、塔は基本的に部外者絶対立ち入り禁止区域なのだ。



「あなた、街の学生さんなら ココがどういう所か知っていますね。不法侵入したものは諜報とみなし拘束します。この子を独房に入れなさい。情報を聞き出した後で処刑します」


「ち、ちょっと。そんな事許しません。私を誰だと思っているんですか?!。国際問題になりますよ」


物怖じしない少女に懸念をいだくミアーシャではあるが、優秀な塔のスタッフは すでに調査報告書を携えてきていた。



「ミアーシャ様。これを・・」


「ありがとう。・・・ふっ、なるほど。魔国メルシアナ、第二王女のマーマレーナ姫。親は現王のアマレリア女王で、父親は・・彼ですか。なるほど、このタイミングで魔族のお姫様とはね」


渡されたデーターを読み上げるだけなのに 冷気をまとった様なミアーシャの言葉で恐怖を感じたマーマレーナはレンジの後ろに隠れてしまう。先ほどまでの強気な様子は微塵も無い。



「少し前の大爆発は知ってるわね。そこの2人が魔物の大群に魔法を使ったのよ。その魔物たちを差し向けたのが魔族の貴族という情報が入っているわ。そんな時に魔族のお姫様が偶然 塔に来たと言うわけね。はい、そうでしたか・・とお返しする訳が無いでしょう」


「し、知らないわよ、そんな事。勉強してたら この人が空から落ちて来たんだから。私に何かしたら戦争になるんだからぁ」


「心配しなくていいわ。この塔はね 秘密だらけなの。それが一切外には出ないようになってるのよ。貴方1人くらい消しても誰にも分からないから大丈夫なのよ」


これには レンジもファニルもビビッた。部外者という意味では 自分達も立場は同じなのだ。しかし、レンジ達は何も言われてはいない。




「うえぇぇーーん。いやだよぅぅ。助けてよぅ」


とうとう レンジにすがり付いて大泣きしている。



「ミアーシャさん。何で俺たちは信用されているんだ?。部外者だし、立場的には この子と変わらないと思うけど」


「大違いですよ。まず一つは貴方たちはシア様の招待客という扱いです。それは同時に貴方と仲間の方たちが同等の重い秘密を持つ立場である事を意味しています。自覚は無いようですが、レンジという存在はそれほどの大きな意味が有るのですよ」


レンジは自分の存在が危うい立場なのを薄々感づいていた。しかし、周りに居る子達まで同等の扱いなのには驚いている。改めて彼女達を守る決意をしていた。



「という事だから、早くその不審者を捕まえなさい」


「やだぁ」


「おぁーーっ、耳元で喚くな。お姫様、死ぬのが嫌なら俺と同じ立場にでも成るか?」


「どういうつもりなの?」


「殺すくらいなら俺がもらうよ。家の管理に人手も欲しいしな」


「「「「「「「!」」」」」」」


塔の少女達から別の意味の殺気が王女様にそそがれる。




「あうぅ・・。貰って家をまかせる・・それって、お嫁さん?」


「いくら君の意見でも同意はできんな。何を持って彼女を信用しろと言うの」


「この子を俺と奴隷契約させて守秘義務を持たせればいい。サトミの後輩だな」


益々、塔の少女達から嫉妬という名の殺気が湧き出てくる。



「ふむ、7人目か。家の手伝いが欲しいなら 塔の子達を貸し出してやってもいいぞ」


「え、そんなつもりは無いぞ」


そう、助けるのは気がかりな事が有るからだ。






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