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28、今思えば、なめられた

鋭い金属音が鳴り響き、何度となく火花が散り、そして苦痛に耐え切れず声がもれ 人が倒れる。

回復しては同じことを繰り返し、すでに三日になる。


学術都市シンビジウムの中心、白亜の角塔と呼ばれている建物にある訓練場で実戦さながらの訓練が行われていた。

レンジはローレシアの残した言葉に取り付かれたかのように 激しい剣術の訓練をしている。日々 ミアーシャから訓練を受けて慣れているはずの 塔の少女達ですら目を背ける痛々しい光景がくりかえされていた。


サトミが 毎日採取に出かけては回復薬を作る練習をしていたにも拘わらず、薬が足りなくなるほどだ。



「今日はこれで終わりだ。これでも色々忙しい立場なのでな」


「あ・・ありがとう・・ございました」


「そう言えば、私が訓練を引き受けた報酬を決めて無かったな。ちゃんと契約をしてから動かないと身の破滅だぞ、レンジ君」


「うっ、お、お手柔らかにお願いします」


そういえば、ミアーシャの教えに対する見返りが高いと聞いていた。



「では そうだな、サトミをもらう事にしよう」


「えっ、それはダメだ」


「ふふふ、良い反応だ。君にとって薬を作れる彼女は必要だからな。今直ぐ などと無茶は言わないさ。だが、いつか 彼女にはこの塔を任せたいと思っている」


「は?」


あまりの提案に レンジは座り込んだまま しばしミアーシャの顔を見詰めてしまった。塔は この街の中心であり、言わば領主の居城みたいな位置づけになっている。そのトップにサトミを立てようとしている。

レンジでも その意味するところは分かるのだ。



「本気・・みたいだな。あの子がエルフだからなのか?」


「それも少しは有るが、彼女はいずれシア様のような賢者になる。私の後を任せられるのは彼女しか居ないと思っているよ」


「確かに、知識を受け継いだと言ってたからな、可能性は有るけど」


「それだけでは無いさ。あの子には確かな良識があるし 優しさもある。あとは 政治的な強かさも必要だが、まだ幼いし時間が経てば自ずと備わるだろう」


「・・・分かった。本人の意思もあるから必ずとは言えないが、そうなる方が俺も安心だ。間違いなく俺より長生きだろうし、残されるあの子にとっても最良の選択に思えるよ」


サトミはローレシアから多くの知識を受け継いでいた。その中でも特別なポーションを作れるということは彼女の運命を左右するほどの影響力がある。今はごく少数の者しか知らないが作れる者が存在する事はいずれ知れるだろう。

レンジが無茶な特訓をしている理由の一つが彼女を守る為だ。



「それとな、これは是非ともお願いしたい事なのだが・・・」


「な、何かな?」


「そう 警戒するな。レンジは今のところ嫁は何人だ?」


「えっ?。えーっと・・予定を入れると6人かな。自分でも信じられない数だぜ」


出合った順に言うと、ファニル、ミャウラ、ペペルナ、ツツルフル、ククルチア、そしてサトミ。皆それぞれに魅力的な少女だし、個性もバラバラだ。むしろ、何故 自分が好かれているのか不思議でならない。



「不思議か?。そういえば、レンジ達の本の世界は女性と付き合うのが難しいらしいな。それでもモテる男はモテた、とも聞いた。女性の好みの問題だな」


「俺が好まれるタイプだと?。それこそ謎だ」


「私はこの世界しか知らないのでな 比較は出来んが、シア様の言葉をかりると、この世界の男共は思いやりが無い、らしい。おまけに、女性としての特性を尊重してくれない、とも言ってた」


「よくわからん」


「ふふっ。分かりやすく言えば、女性を守ってはくれないし、魅力を感じてドキドキしてくれない、体の調子が悪くても気遣ってくれない、などだな」


男女平等を突き詰めると女性にとって不利益な点も沢山でてくる。地球の女性は その点に成ると途端に女性を主張して話をそらし権利を守るたくましい面がある。



「それって、女性とか以前に人としておかしい気がするけど」


「それよ。君が好かれるのは、その点を当たり前に思ってて女性を気遣ってるからよ。この世界の女性はチャンスが少ない分 そういう男の気遣いには敏感なのよ。自分に気を使ってくれる、それだけで伴侶としての魅力は充分なの」


地球のように、思いやりが当然みたいになると 別の魅力が無いと女性に好かれないのかも知れない。良い人だった・・で終わる男の多いのはそのせいだろう。女性をからかう位の いわゆるチョイワルな男の方がもてる所以である。




「なるほどね、女の子は苦労してるんだな。地球の男達の苦労を思い出すぜ」


「ウンウン。分かってくれるか・・という訳でね、レンジは塔に居る少女達に大人気なのだ。是非、彼女達にも気を使ってあげてくれ」


「・・まて。まさか、それって・・何人居るんだココ」


「年頃の子だけで200ちょいかな。勿論 全てとは言わないさ。出来るだけで良い。私とシアの旦那だった彼は100人以上はいけたぞ」


「そんな数・・名前を憶える自信すら無い」


「いい気に成ってると100人以上の・・」ローレシアの言葉が予言のように思い出される。





###ピッ・・ミア様。緊急事態です。司令室までお越し下さい####


一瞬でミアーシャの顔つきが変わる。今は冷徹な指揮官の顔だ。



「レンジ君。一緒に来てちょうだい。たぶん その方がいいわ」


「俺は一応 部外者だろ、そんな場所に行っても良いのか?」


「それこそ、今更ね。貴方も この塔も秘密の塊でしょ、同じ穴のオークよ」


「・・まぁ良い、分かった。行くよ」


司令室は窓が無く 何階に有るのか不明だが、付近の地図が大きくテーブルに描かれている。周りの壁際には水晶が様々な場面を映し出している。中には動画となっている物まである。

10人以上のスタッフが情報を集めているようだ。

レンジが入ると一斉に視線が集まる。少し恐い。

何故かサトミが先に来ていた。



「あっちは何でここに呼ばれたの。ミアーシャさん」


「こういう時はな 目線の違う意見が意外と的を得るものだ。二人には参謀役になってもらう。その前に 何が起きたのか 端的に説明してもらおう」


「ハイ。今現在、塔の東 約20キロの地点にて 魔物およそ1万がこちらに向けて進撃中です。あと3時間ほどでシンビジウムに到達するもよう。冒険者ギルドを通じて進路に居る民間人を非難誘導中です」


「ふむ、大攻勢か・・なかなかの規模だな」


「あれっ?。ニニルケルナは倒したから 暫くは大攻勢は起きないはずなんだけど・・おかしいな」


「ん、ニニルケルナとは何だ?」


「例の魔物を集めていた植物みたいな魔物だ。隣の国のモルテーナ帝国では そう呼ばれていたぞ。向こうでは以前から知られていたらしい。一度に一匹?しか出なくて、周期は数年から数十年と離れているとか言ってたな」


「ほぅ。面白いな、交流が盛んになれば もっと新しい情報も得られそうだ。発見したお前達の評価も高くなるだろう。だが、それが本当なら確かにおかしいな」



「ミアーシャ様。別ルートですが、魔国にいる諜報員から情報が入っております。かの国の一部の貴族が不穏な動きをしている、との事です。シア様の訃報が流れた直後からなので要注されたし と言ってます」


「なるほどな・・」


「魔国って、やはり魔族とか魔王とかいて世界を支配しようとしているのか?」


「楽しく想像をしているようだが、魔族の国とは友好的な関係が続いている。おおかた、塔の技術に目の眩んだバカが居るのだろう。そういう所は人も魔族も変わらないと言うところだ」


「魔物の軍団はそいつらの差し金っていう訳か。シアが居なくなった途端という事は 要するにナメラレタというやつだな」


「ふっ、その点は言い訳できんな。シア様ほどのインパクトを持つ者など他にはおらんからな」


「むうっ、あったまくるね。一気にぶっとばしてやりたいわ」


「ふふっ、サトミは意外と勇ましいな。シアが見込んだだけはある」


「いや、悪くないぞ。シアさんも生きていたら同じように言ってたかもな」


レンジの言葉に室内の全員が驚いて見詰めている。さすがの彼女たちも大黒柱を失った後の初戦なので不安は消せずにいたからだ。確かにローレシアなら言うかも知れない と変に納得していた。





という訳で、レンジはファニルと一緒に 魔道具の飛行木馬に乗り込んで空を飛んでいる。

ローレシアが顕在なら執るであろう作戦を実行するためだ。今回ファニルが選ばれたのは 使える魔法の発動時間が短いからだ。

遅いとは言え 移動している魔物が相手、しかも飛行するものも多い。クラッカスの使う焔獄は停止している相手には無敵に近いが動く相手には不利なのだ。



「初めてレンジさんとお出かけですねー。役得です」


「なんか、殺伐としたお出かけ ばっかだよなー」


「それじゃあ、今度 平和なデートに誘ってくださいね」


「そうだな・・皆で出かけようか」


「えーっ、違いますよぅ。2人っきりのデートがいいんです」


などと、言いつつ ファニルは少し震えている。その手には塔から貸してもらった赤い杖がにぎられていた。




「見えてきた。・・・お手をどうぞ、ファニル姫」


「うふっ、あったかいですよ」


「まぁ、あれだ。こんな魔法 普段は使えないんだろ。思いっきりやってみな。無理して全滅させなくても良いぞ。塔に攻めても無駄になる、と思ってくれれば良いんだしな」


「ハイですよー」ニコッ


緊張が解けたようなファニルを見てレンジは安心してしまった。



「ではーーっ。それっ!」


「えっ」


最大級の魔法のはずなのに、殆どタメも無く いきなりぶっ放すファニル。彼女は魔法の分野では天才だったのだ。



カッッ


クックォォォォォォォォッッッッッッッ・・・


巨大なフラッシュライトを炊いたような音と、自分さえも消えてしまうような白い光に包まれた。


ヅッゴオオォォォォォォォォッッッッッッッゴゴゴゴゴー


「「うぎゃぁあああーーっ」」


次には、上も下も分からない衝撃に包まれて 自分たちまでも吹き飛ばされた。幸いにも空を浮遊していた為 素直に爆風に乗り、木馬自体が有る程度の高さを維持する機能が付いていたため地面に叩きつけられなかった。


2人が手を繋いで木馬にしがみついていた事も幸いした。またも、レンジは かろうじて命の危険を回避したのだった。当然2人はこの時大きくレベルを上げていたが、それどころではなく 気が付いていなかった。



この時の魔法によって魔物が全滅したのは勿論だが、近くの山は半分の高さの丘になり、10キロ以上離れていたにも関わらず、塔がグラグラ揺れて地震のようになった。


このハプニングによって、塔の力は抑止力を超えて恐れられ、諸国に警戒される破目になった。


ミアーシャは 各国に事情説明をする為に飛び回り 疲れ果ててしまったという。








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