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24、今思えば、次の一歩

「はぁ、あなた達はこの塔を混乱させる為に来たの?」


庭から移動して談話室みたいな部屋で一同は落ち着いた。

騒ぎの後始末に頭をかかえるローレシアは不機嫌だ。



「まぁ、そう言わないでくれ。皆は俺が死んだ事を遥々この街まで伝えに来たんだ」


「全てはレンジが原因なんだから 人事みたいに言わないの。貴方がレレンゲクロアに攫われたマヌケな話は その日のうちに私に届いているわ。ついでに生還したこともね」


「監視が付いていたのか・・それで俺たちがこの街に来たのも知ってた訳だ」


「少し違うわね。レンジを監視してた訳じゃなくて、私に関わる情報が集められていただけよ。周りの人たちが私を心配していてね・・過保護なんだから。当然プライベートな貴方の情報は入らないから 結婚の話も知らなかったわよ」


もしローレシアが望めば、レンジの夜のお楽しみまで逐一報告されていただろう。恐るべし塔の諜報部隊。



「それにしても、短い間に面白い仲間を集めたわね。特にあなた、ツツルフルさんは名前の後にピース姓が付いているって事は 私の夫の血を受け継ぐ直系なのね。あの人ってば、知らないところで子作りしてたなんて・・やるわね」


ローレシアには ひ孫まで居ると以前に聞いたことがある。ツツルフルは英雄の子供らしい、変だ・・年齢的に計算が合わない。彼女もエルフ並みに長生きな種族なのかもしれない。



「シアさま、これを」


「ああ、そうね。今回レンジを呼んだのはこれを返す為でもあるのよ。面白かったわ」


そこには彼が貸していたラノベが置かれていた。

隣には見たことの無い本?も置かれた。



「それでね、こちらが この本をこっちの言葉に翻訳して作られた本よ。流石に紙質とカラーイラストは再現出来なかったけど、今の技術で作れる最高傑作になったわ」


ポカーンと腑抜けて聞いているミャウラとペペルナとは反対に、ファニルとサトミは食い入るように見詰めている。読みたいオーラが溢れていた。



「へぇ、面白い紙を使ってるな。これはもらっても良いのか?」


「いいわ。でも貴方達以外には見せないでね。市販するつもりは無いから」


「なんで?売れると思うけど」


「今 売りに出せば衝撃が強すぎるわ。あちら(地球)では印刷物は読んで用が終わればゴミ箱に捨てられる位、安くて気楽なものだったけど、本来 印刷された書物は文明の最先端で高価な物なの。しかも緻密なイラスト入りなんて騒ぎになるのよ。もう少し時代が変われば売り出せるでしょうね」


「という事は、原本のこっちは もっと大変なのか?」


「神器扱いされるかもね」


当然、その後どんな騒ぎに成るか想像できる。

奪う為に命を狙われるのは序の口だ。



「原本は 塔に譲渡したいけど、受け取ってくれるかな?」


「いいの? 街が買えるほど価値が有るわよ。ふふっ」


「これが買い取られる前に、命が刈り取られるだろ。しかも、そうなって一番危ないのは 近くに居るこの子達だ、なら考えるまでもない」


レンジの答えを聞いてローレシアとミアーシャの2人は安心した。彼が目先の利益に振り回される人間なら 色々と方針転換をしなくてはならないからだ。




「それに 持ってても俺とサトミにしか読めないから宝の持ち腐れというやつだ。翻訳した方なら皆で読めるから有りがたい」


ガタッ☆


ローレシアが急に立ち上がって目を見開いている。

その目は サトミをガン見しているため、恐くなったのかレンジの後ろに隠れてしまった。



「これが読めるって・・それにサトミって、まさか そのエルフの子は・・」


「ああ、ローレシアさんの想像通りだぜ」


「そう・・・このタイミングでめぐり合えるなんて、今日ここに来てくれて感謝するわ。サトミさん」


「ほぇっ?」


「後でゆっくりお話しましょうね」


先ほどとは違い、まるで自分の子供を見るような優しい笑顔のローレシアに 訳が分からないサトミは とりあえず頷いていた。





「それと・・・鍛冶師のおチビちゃん、自分で作った武器が有るなら見せてもらえるかしら?」


「あたいはペペルナだ。おチビ言うな」


文句を言いながらも 恐怖を植えつけられた後なので声に力が無い。ツルツルの頭が小坊主のようで微笑ましい。


アイテム袋から取り出した片手剣を ローレシアが手馴れた感じで扱い、じっくりと見ている。ペペルナは試験会場の受験生のように緊張して結果を待っていた。



「驚いたわ。予想以上に良い出来ね」


「そ、そうかな・・へへっ」


「でも、これからレンジ君の為に武器を作るつもりなら、このままではダメよ」


「えっ、どうしてだ?」


「レンジ君、持ってる剣を見せてあげて」


「これをか?。いいのか」


「目標が目に焼きつけば 腕が上がりやすいそうよ。低い山の頂上で満足するよりも、高い山を目指して中腹まで上がったほうが高い場所に行き着けるらしいわ」


「良く分からんけど、まぁいいか。ペペルナ これが最高の剣らしいぞ」


「なんでレンジが最高の剣 持ってるかな」ぶつぶつ


全体のデザインや拵えは普通の剣と殆ど同じな為、最初は気楽に剣を抜き放ったペペルナだったが、刀身を見て凍りついたように固まった。そのまま動かず、何故か大粒の涙だけが顔から落ちていく。



「私の夫が作り上げた名剣の中でも10指に入る業物よ。良く目に焼き付けなさい。そうすれば自然にそれを目指すらしいからね。腕も格段に上がるわ」


「すごい、こんな・・見たこと無い」


(シア様も酷な事を・・あれを目指す前に心が折れた職人が何人居たことか。あの子、立ち直れるかしら・・)


長い付き合いのミアーシャも 無茶な要求を突きつけるローレシアに呆れていた。



「良い物を見た。絶対にこれに追いついてやる。そしたらレンジは あたいから離れられなくなるぞ」


「そう、その言葉が聞きたかったわ。ペペルナさん、貴方にも後で渡したい物が有るから そのつもりでね」


名前で呼ばれた上に、さん付けまでされたペペルナは大いにビビッた。

それにしても、何となくローレシアの様子が変だ、何かを急いでいるような感じがしている。


用事が有るというローレシアが退室した後、レンジ達は食堂に案内されて食事を取った。常に女性達の熱い視線に晒されて日焼けぎみなレンジである。

打ち合わせた訳でもないのに ファニルたち女性陣はレンジの周りを護衛するように布陣していた。




「はあっっ」


キイィン☆☆


「くっ、それっ」


キジッャン☆☆


激しく剣尖が交錯し 甲高い音と火花を散らしている。


食後、サトミとペペルナは ローレシアから大切な用事が有るという事で 恐る恐るミアーシャの後に付いて行った。安心させる為か ファニルが途中まで付き添っていくそうだ。


待っている立場の レンジとミャウラは暇を持て余し、体を動かす事にした。塔の内部には体育館ほどの広さを持つ室内訓練場まで存在していた。其処には何人かの少女が見た目にもキツそうな訓練をしていたが、案内役のクラッカスが何やら交渉すると大喜びで場所を開けてくれた。



「彼女達にお二人の練習相手に成らないかと 聞いてみたら引き受けてくれましたの。この塔の女性たちは皆かなり強いですから退屈はさせませんよ」


「私たちも まだまだ未熟ですが宜しければお相手して下さいませ」


「塔の女性が強いのは感じていた。此方から宜しくお願いするよ。それと、出来れば剣の基本的な動きも教えて欲しい、俺のは自己流なんで此のままでは いずれ行き詰る予感がするんだ」


「あ、それは私も知りたい。身体能力だけだと限界があるみたいなんだ」


「・・驚きました。お二人の考え方は 教官のミアーシャ様から私たちが最初に叩き込まれる心得なんですよ」


そんな訳で、レンジとミャウラは それぞれに塔の少女と模擬戦をしていた。


予想通り彼女たちは強い。レンジが上がった身体能力を生かして力と速さで攻めるが、少女は最小限の動きと力でそれをさばき、反撃してくる。


ミャウラも猫科のしなやかな動きと速さで攻めているが、ほんの少しタイミングを外される事で思い通りの動きが出来ずにいた。



「模擬戦は此処までにしましょう。次は基本的な動き方をお伝えしますが・・2人とも既に私たちの動きから それを手に入れているので時間はかからないと思います」


「ほんと、凄いですね。動きの基本を伝え終わったら 私たちでは御2人に勝てなくなるでしょう」


「そうか?。実感は無いけど、それを教えてもらえるなら塔まで来た甲斐が有るよ」


レンジたちの訓練はヨロヨロになったペペルナたちと合流するまで続けられた。


サトミは青ざめた顔をしている。何があった・・。










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