23、今思えば、大混乱
「おっ、良い匂いがする。スンスン・・・あれだ!」
「あっ、いけません!。ダメです、そっちは・・」
いきなりハイテンションで走り出したのはペペルナだ。
見た目が幼女なので 子供がはしゃいでいる様にしか見えないが、ドワーフなので これでも18歳の乙女らしい。
ペペルナとケモミミ少女のミャウラは 妹のファニルからレンジの生還を聞かされた。
しかし 喜んだのも束の間、ローレシアに呼ばれて角塔に向かったと知って焦りだした。あそこが独身少女の巣窟なのは周知の事実である。女のカンが告げていた、このままではレンジは帰って来れない・・と。
止めるファニルを伴って塔に突入を計るが、塔の女性たちは 地球の特殊部隊顔負けのツワモノが揃っている。少しくらい強い冒険者では太刀打ちできなかった。門の前で揉めている所に ミャウラとファニルの2人と面識のあるクラッカスが入館許可書を持って迎えに来たというわけだ。
ペペルナは走った。木の上には美味しそうな香りを撒き散らしている果実が生っている。その木は 小さな彼女でも登れる程度に 斜めに緩やかに枝を伸ばしていた。遠くから焦ったような声が沢山聞こえていたが、果実に目の眩んだペペルナにはどうでも良かった。そして・・
「はりゃっ?」
ドプッ・・・
見事に足を滑らせて枝から落ち、下にあった壷のような花?に落ちた。
そこにはネットリとした液体が貯まっていた。酸っぱい液体は体に絡みつき動きを阻害している。すべる壁面は上に登る事を不可能にし、呼吸が出来なくてジタバタしていると意識が無くなってきた。
(あたいは此処で死ぬのか・・)
そんな覚悟をさせられた時、急に体が下に引っ張られる感覚を受けた。
ドチャッ・・
大量のドロドロな液体と一緒に地面に投げ出された。
壷のような花?の底が切り裂かれ助け出されたらしい。
盛大にえづくペペルナに魔法で大量の水が浴びせられる。
「まったく・・。何をしてるんですか。世話がやけますの。ゴブリン落しに落ちるなんて、貴方の頭はゴブリン並みなのですの?。危なく溶かされて食べられる所でしたの」
「これもゴブリンを殺す罠なのですか?。ペペルナちゃん、これで二回目ねぇ、ゴブリンの罠に落ちるの」
「ゴホッ、ゲホッ。な、何でここに そんなのが有るんだよ。よくもはめてくれたな、あたいは悪くないぞ」
「これはセッケンの材料を採るための大切な植物なので 此処で育てられているのですの」
ペペルナはまだ水が浴びせられている。それだけ強い成分ということだ。本能からか 硬く目をつぶっていたため失明しないで済んだ。しかし、他の被害は防げなかった。
「ペペルナ、大丈夫か?。って、何、こんな所で裸になってるんだよ」
「レンジか?。・・へっ?はだか・・」
彼女は強めの酸によって服が全て溶け落ちていた。そして、髪の毛も眉毛も溶かされて無くなり、生まれたての赤ん坊のようになっていた。悲痛な叫びは乙女の悲しみを表している。
「うえーん、裸見られた。レンジぃ、責任とって結婚してもらうからな」
「何言ってやがる。前に自分から風呂に乱入してきて裸を見せつけて来ただろうが」
「むぅっ、これもみんな此の変な木のせいだ。責任者 出て来い」ブチブチ
「呼んだかしら、おチビさん」
物凄く楽しそうな顔をしたローレシアがいた。
「むむ・・乙女の髪の毛を奪った責任をどうしてくれる」
「そんなの、若いんだから直ぐに元に戻るわよ。それより、貴方が落ちた為に大切な壷が一つダメになったわ。損害額を支払っていただくわよ。この木から作られるセッケンは塔の大切な収入なんだから」
「ちぇっ、・・それくらい払ってやるよ」
「そうね、レンジの知り合いだし安くして・・金貨100枚でいいわ」
金額を聞いたペペルナはしばし固まってしまった。
「な、何でそんな家が買えそうな値段なんだよ。ぼったくってるのか、強欲エルフ」
今のセリフで場の空気に緊張が走った。塔の少女達が 神のごとく思っているローレシアを強欲と言ったからだ。
当のローレシアはさらに楽しそうにしている。
「貴方が落ちた液体を50倍くらいに薄めて防腐処理したのがお風呂で使うセッケンよ。一度に作れるものを売れば金貨10枚は下らないわ。この壷はもう使えないから切り落として新しいのが出来るのを待つわけだけど・・・2年はかかるわね。だいたいで20回分は取れなくなった計算ね」
矢継ぎ早に数字を言われて計算できず、ペペルナは大いに混乱した。
「だ、か、ら。金貨100枚でも半分の金額なのよ。分かった、おチビさん」
「あ、あたいは、これでも18歳だ。チビ言うな」
「あら、良かった。もう働ける年齢だったのね。お金が払えないなら奴隷落ちね、死ぬまで塔で働いてもらうから」
ガーン!という擬音をバックに背負って 愕然とするペペルナだった。
「ど、奴隷?」
「心配しなくて良いわよ。この塔で働く女性は皆 奴隷の契約をしてるから。まぁ、外には殆ど出られないから結婚は諦めてね」
「うっ、えぐっ。ううっ・・奴隷なんて嫌だよぅ」
子悪魔な時のローレシアは恐ろしい。だてに女性数百人を率いてきた訳ではない。
「あ、あたいはレンジと結婚して・・、鍛冶工房を手に入れて、幸せになるんだぁ・・レンジぃ助けてよぅ」
ザワッ・・と場の空気が動いたような気がする。
一つは鍛冶工房という単語。それを聞いたローレシアの表情が微妙に変わった。
そして 何より大きいのは、ドワーフ族である彼女を レンジが嫁にする可能性が有るのだ と知れたことだ。
彼が塔に入ってから燻っていた疑いは一気に真実味を増していた。レンジがかつての英雄と同じ特性を持っているかもしれない。それが事実なら、彼は種族を問わず何人もの女性を妻にし 幸せに導けることになる。
塔で働く女性達にとって、救世主の到来に等しかった。
「だめ。レンジは私のつがいのオス。既に大切な伴侶だから、あげない」
「「「「「「ええーっ、つがい・・って」」」」」」
ヴァサッッッ
ザワザワッ、ガヤガヤ、ヒソヒソ
参戦したツツルフルは多くの少女達に対抗心を燃やし、隠していた翼を広げてしまった。翼の有る獣人とすでにカップルだと公表してしまった為、場はさらにエキサイトした。
「もう、騒ぎになるから せっかく隠してたのに台無しね。早くも女の子に手を出してたなんて、有る意味 納得だけど。エッチな貴方らしいわ レンジ君」
「むっ、嫌な言い方するな。俺は別に遊びでこの子と結婚した訳じゃないぞ。ちゃんと好きだし大切に思ってる」
「「「「きゃーーっ。決定的だわ」」」」
イベントに飢えていた塔の女性たちは、庭で起こったアクシデントに注目していた。ほぼ全ての職員が聞いていた場でのレンジの発言は破壊力抜群だった。今や塔は大歓喜の宴状態になっていた。
「れ、レンジが既に結婚してた・・うそ・・」
「ええーっ、先を越されましたよぅ」
「問題ないよ。私達とも結婚してくれるならね」
白く燃え尽きたペペルナとファニルをよそに、ミャウラは冷静に現実的な意見を言っている。
「みんな、何を驚いてるのかな。レンジにぃちゃんは他にククルチアさんとも結婚したし、いずれは あっちとも結婚してくれるんだよ。いいでしょ」
妹キャラのサトミは笑顔でローレシアに自慢している。
子供の爆弾発言に、ローレシアの顔がひきつり、場はますます混沌としていくのだった。




