13、今思えば、遥かな大地
俺たちが倒した魔物は 騎士団と冒険者ギルドが協力して解体したらしい。
なんせ デカイ上に表面に寄生の魔物がはびこり、表皮も硬い為 作業員の苦労もハンパではない。肉などは、腐敗が始まると大変な事になるため 解体する側から競にかけられ 次々と売りに出された。当然、驚くほど安値で販売された為、都の人々に行き渡り大変喜ばれた。当然 解体するための雇用が生まれ関連した仕事も大忙しとなる。都は思いがけない好景気に活気付いていた。大きな災害は一転して大きな幸へと変わったのである。
そして、俺と 騎士団長のコルトスは呼び出しを受け王城に来ていた。ツツルフルは可愛そうだが飛獣のまま留守番しててもらう。人になれる飛獣などとバレたら大変な騒ぎになるだろう。強制的に没収されかねない。
そして、ここは謁見の間だ。威厳を示し、建物の雰囲気で虚仮威しをして、上から目線で話をする為の場所。悪い見方をすればそうなるかな。実際は必要な形式を整えるための場所かもしれない。
「コルトスよ、よく無事に帰ってくれた。報告書は読んだ、そなただけでも生きて帰れた事を心から嬉しく思うぞ。まして、帰る早々 都に降りかかる災厄を退けた、見事である」
「陛下よりお預かりした兵をムザムザ失いました事、死してお詫びをしたいと考えましたが、生き恥を晒してでも伝えるべき重大な情報を得ましたので 恥ずかしながら帰還いたしました。この上は如何様な処分であろうとも喜んで受ける所存でありました」
「この上 お主まで失ったら大きな国の損失である。死ぬ事まかりならんぞ」
「ありがたきお言葉」
公式の場でこのような遣り取りを見せて 罪無しと公言する事は必要な事なのだろう。良かったな、騎士団長。
「コルトス殿がもたらしたニニルケルナに対する情報は千金の価値が有りましょう。討伐の方法も 思いもよらない方法では有りますが納得できるというもの。次の機会には兵の損失を無くす事ができますぞ」
「宰相の言うとおりじゃ。して、ニニルケルナを討伐してのけた冒険者とはそなたで間違いないか?」
「はい、レンジといいます」
「ニニルケルナばかりか、都に迫ったバケモノまで退治してのけたとは素晴らしいの。見事であった」
「ありがとうございます」
この場は余計な事を言わず 形式に逆らわない方が無難だ。なんか、学校の職員室みたいなものだな。
「しかし、森を抜けた地にも国が有ったとはのぅ。まだまだ知らぬ事ばかりじゃわい」
「かの森は大変に大きいゆえ、その先まで赴く事は冒険者たちですら躊躇うくらいです。此度はその森を踏破してのけた訳ですから、その意味でもレンジ殿の功績は大きいかと存じます」
「ふむ、褒美を与えようと思うのだが 功績が大きくてな妙案が無い。何か欲しい物は無いか?。我が国の騎士と成るなら喜んで迎えるぞ」
貴族にしてやる、とは言わないようなので助かった。セコイ気もするが 向こうもそんな褒美は受け取らないと分かるから言わないのだろう。いい気になって貴族になっても続かないし、裏から手を回されて消される可能性も高いはずだ。この世界の事を何も知らないのに人の上に立てる訳が無い。
「お言葉に甘えまして一つだけ望みがあります」
「うむ、申してみよ」
「先日の騒ぎの首謀者で逮捕された商人のドブロクロという男は、死罪か犯罪奴隷に成ると聞いております。その者を自分の奴隷として いただきたく思います」
「キャッ♡。やはりそうなのね」
急にキラキラした目をして場違いな声を出したのは、王様の横で静かにしていた姫様だ。騎士の出で立ちが台無しな気がする。何か盛大にカン違いしているようだ。この世界にも腐った女子はいるらしい。
「ふむ、そのようなもので良いのか?。あまり褒美として相応しく無い気がするのぅ」
「いえ、自分も冒険者ですから金品の褒美にも魅力は有りますが、それらはその場限りのもの。いずれ自分も年老いて冒険が出来なくなります。その時までに食べて行けるだけの商人の知識を得る事は お金に換えがたい宝です。他人に教えを請うのは大変な苦労と成りますが、自分の奴隷からなら気楽に学べるというもの。こんな機会は二度と無いでしょう」
勿論 大ウソだ。商人なんてやる気も無いし出来るとは思えない。あの男の価値は飛獣である その一点に尽きる。
ウンウン。ワカッテルヨ。とニヨニヨして頷いている姫様がうざい。人型のツツルフルを見せ付けてやりたくなる。あんたよりカワイイぞ。
「うむ。お主は堅実であるな。それで良いなら叶えよう。望みのものを奴隷とし、旅費として幾ばくかの資金を与えよう。都を楽しんでいくが良い」
「はい。ありがとうございます」
(ふふふふ、良いものを手に入れたぞ)
宰相から冒険者ギルドに立ち寄るようにと聞いて、全ての用が終わった為 謁見の間から引き上げた。
こちらの国にもギルドがあるらしい。繋がりが無いのに同じような機関が有るのは驚きだ。
「コルトス殿、ご無事で何よりです。心配しましたよ」
「心配かけたな ススルナ殿。体は助けられて無事なのだが、心は既に一度死んでおるよ。わしにも褒美が貰えるらしいし、魔物の討伐で金が入るらしいからな。それで死んだ兵たちの家族を少しでも助けていくさ」
「そう悲観されますな、王が申された通り 貴殿の功績は国にとって計り知れない価値が有るものですよ」
「君にそう言われると少し楽になるぞ。魔法でも使われたのかな、宮廷魔術師殿」
ススルナは宮廷魔術師の1人。立場としては高くは無いが、16歳という年齢でその地位にあるだけで彼女の才能の大きさが伺える。騎士団長のコルトスは 若い彼女にとって数少ない話しやすい相手でもあった。
「冗談が言えるなら大丈夫ですね。ところで コルトス様、あのレンジという少年は何者なのですか?」
「ほぅ、君の目に適うとはレンジもやりますな」
「ふふっ、気には成りますよ。ただし、コルトス殿の申される意味とは違いますけど。
彼の魔力の総量は恐ろしいものです。魔族か それ以上と言えるレベルです。筆頭魔術師殿も青い顔をされていました。あの力を使って魔法を行使した場合、都そのものが消し飛ばされるかも知れません」
コルトスは愕然とした。この世界で強大な魔力を持つ者は 強力な兵器と同義である。もしも レンジが敵で有った場合、国に爆弾を持ち帰ったようなものだからだ。
「君がこの手の事で冗談を言わないのは知っているが、本当なのか・・。彼は魔法が一切使えないと言っていたし、昨日の戦いでも使っていなかった」
「あれで魔法が使えないのですか?。そちらのほうが信じ難いですが」
「どちらにしろ、彼はこの国にとって害にはならんさ。本当なら騎士団に入れたいくらいだ」
「コルトス様がそこまで気に入られるとは、ますます興味深い方ですね」
普段は年上の男性しか居ない様な城の中で、同じ年頃のレンジを見て嬉しくなる年頃の少女だった。
「あれは、何なのですか?」
「えっ、ああ。異国の方には珍しいのですね。あれはテーブル山脈と呼ばれている場所です。古い文献には アトラントの大地 と書かれており、私たちの祖先はあの土地から来たといわれています。ですが、詳しくは知られていません。飛竜や古代竜が住んでいると言われ 危険で近寄れない為です」
「竜ですか・・見てみたいですね」
「ふふっ、さすが冒険者様ですね。竜はともかく、城の者達は皆 この景色が好きなのですよ」
城から退出する廊下の窓から 昨日は見えていなかった景色が見えていた。不思議な風景である。山脈と呼ばれるが明らかに山ではない。浮遊大陸が落ちてきたかのように 大地に刺さっている感じなのだ。
案内役のメイドが誇らしげに説明してくれていた。
まさに 見果てぬ大地 そのものの様だ。




