出頭命令
出頭命令
モジャにくだされた命令には、本隊司令部へ出頭せよ。とだけ書かれていた。
本隊司令部への出頭というのはかなり大きな意味を持つ。だから、モジャは気持ちを引き締め、というよりなかば気が動転した状態で、所属する部隊の本隊司令部へと即時出頭した。
本隊司令部に到着し命令書を提示すると、モジャは司令部の奥の一室に通され。
「待て」
とだけ告げられたという。
そして、モジャはその命令を忠実に実行することになる。
待つ。ひたすら待つ。ただ待つ。
その間モジャの頭には、ラジオや新聞が告げる戦況のことや、実際に戦場と化すであろう故郷のことや、本土防衛に残してきた仲間達のことや、今日もきっとやってくるであろう空襲のことについてを、延々と考え続けていたという。
考えれば考えるほどわいてくる疑問。モジャはどれだけ待ったかわからないという。もしかしたら、とんでもない時間を待っていたのかもしれない。
だが、頭の中をぐるぐるとまわる不気味な思考は、その時間の長さを正確に把握できないほど、モジャの頭の中を駆け巡ったという。
どれほどの時間が流れたことか、ついにモジャが待つ一室の扉が音を立てて開かれた。
一分の隙もなく軍服に身を包んだ男が、護衛の兵によって開かれた扉から室内に入ってくる。
モジャに視線を投げることもなく、男はモジャの前の席につくと、引き出しから書類を取り出しそれに目を通しながら
「貴様がモジャか」
と言った。
「はい! モジャであります!」
答えるモジャ。
(私が口伝された内容では、モジャの所属部隊及び階級は終始不明である)
席についた男は視線を書類に落としたまま話だす。
(この男の名、また所属及び階級も口伝の中では終始言及されていない)
「本土決戦が近い」
その言葉に、モジャは頭を殴れたような衝撃を受けたという。
高度に文明化された飛行物体がその腹に、死を撒き散らす爆弾を満載し、日々来襲するようになってはいた。
だが、この故郷が、この本土が、決戦の舞台になるということは、理屈としては理解していたが、その事実を自身が所属する絶対的な存在から伝えられることは、それはそれは強烈な衝撃であったと同時に、絶対的な絶望を感じさせるものだったとモジャは後に語った。
その後に、男は長い話をしていたような気がするとモジャは言う。だが、その長い話の詳細を、モジャはほとんど覚えていないそうだ。
モジャが覚えているのは、最後に男が発したこの言葉だった。
「本土決戦に備え、戦力を結集する」
そう言って、男は目を通していた書類をモジャに渡した。
書類にはいったい何が記されていたのか?
記されていたのは、おびただしい数の武器が収められている武器保管庫の一覧だった。
そして、モジャに対する命令書が一通。その命令書には、本土決戦に備え戦力結集任務を受けたモジャに、軍民問わずあらゆる協力をさせる一文が添えられていたという。
武器保管庫の一覧と命令書を受領したモジャに、男は言った。
「急げ、本土決戦の日は近い」




