ピッチャーへの挑戦⑥
「明崎さん」
「ん?」
「すみません、もっかい見せてもらえますか?」
「ああ、いいよ」
古義から球を受け取って、明崎は心中でほくそ笑んだ。
ああ、"視る"んだな、と。
明崎の投球フォームをじっと見ていた古義は、転がり落ちたボールへと歩を進め「ありがとうございました」と拾い上げた。
その眼は普段の古義とは異なり、架空の何かを見つめるように焦点が固定されている。
彼には、自身の"イメージ"が映っているのだろうか。湧き上がる期待を表面に出さないよう必死に抑えながら、明崎は古義を見守った。
足跡の残る砂の上に、古義が立つ。構え、から、振り下ろし。
真っ直ぐに飛んでいった白球は、ポスン、と音をたててネット下に転がった。
「っ、しゃあ!」
勢い良くガッツポーズをした古義に、どこか唖然とした表情の明崎が「すごいすごい」と手を叩いた。
「三回目で真っ直ぐ飛んだか。オレの"もしかして"も捨てたもんじゃないな。……マグレじゃないといいけど」
「なんで最後弱気になんすか!? だいじょーぶです! リズムは何となくわかりましたから!」
(……リズム?)
疑問が浮かんだが、明崎がそれを尋ねる前に古義が再び構えの体制をとったので、明崎は黙ったまま次の一球を待つ。
放たれた白球は多少のブレはあるものの、十分合格点といえるべき軌道だった。その次も、その次も。ほら、というように続ける古義に、明崎は笑みを深めた。
本当に、モノにしている。期待通りだ。
十球ほど投げた頃、無言を貫いていた明崎をまだ疑っていると思ったのか、古義が「マグレじゃないっす」と不貞腐れるように眉根を寄せたので、明崎は「悪い悪い」と苦笑しながら謝罪した。
散々渋っていたわりには、随分とのってきたようだ。今の古義の意識は新しい技術への興味が勝っていて、練習を中断したまま立ち竦む蒼海の姿など、見えてはいないのだろう。
「いやー、もっとかかると思ってたんだけどな。なら次のステップいってみっか」
「っす!」
明崎は古義からボールをパシリと受け取ると、先程のように横向きに立った。
注がれる古義の視線は、真剣そのものだ。
「ピッチャーにとって、大事なのは振り下ろしの部分ってのは変わらない。でもそれだけじゃ駄目なんだよ。というか、実質的には振り下ろしのスピードが影響しているんだけど、ピッチャー自身が意識するのは腕の部分じゃない。むしろ、腕に意識がいくと肩や肘に余計な力が入って、柔軟性がなくなるだろ? そうすると、球の伸びが悪くなるからな」
「ん、んん……? 腕、じゃ、ダメなんすか?」
「そうそう。で、キーポイントになってくるのが、次のステップの"足の引きつけ"な。さっきと同じように肩幅よりちょい広めに足を開いて、前についた左足の膝の裏側……若干右よりのこの辺だな。そこに、右膝を……」
明崎は振り上げた右手を、下ろした。
「引き付ける」
ピシッ、と音を立ててネットに沈んだ球は、先程までとはあからさまに違った。
スピードも、重みも。ちょっと足の動きを付け足しただけだというのに、だからこそその動作の影響力がビシビシと伝わる。
(こんなに、かわんのか)
脳内で先程までの投球と比較する古義に、投げ終わった体制のまま、明崎が説明を続ける。
「体重の比率的には、前が七で後ろが三ってトコか。リリースと一緒に腰も回して、胸は正面を向く。まぁ、実際には向ききらないだろうけど、そういう意識ってコトな。……もっかいやるか?」
「お願いします」
どうやら今度は早速"視る"つもりのようだ。
あまりに強い眼差しに少しだけ緊張を覚えながら、明崎は足元近くまで戻ってきたボールを拾い上げた。
構えの体制をとり、すぅと息を薄く吸って、右腕を振り下ろす。同時に膝をくっと引き寄せ、飛んだ白球がネットに沈みそのまま地面へと落ちたのを確認して、投げ終わりの体制を解いた。




