ピッチャーへの挑戦⑤
(え、急にクイズ?)
突然尋ねられ、古義はしどろもどろ答えた。
「ええと……野球なら振り下ろしなんで、腕の回しを速くする?」
「ん、ほぼ正解だな。ソフトも同じく、"腕の振り下ろしを速くする"だ。ただちょっと違うのは、振り上げ、つまり、ぐるっと回す最初の部分は飾りみたいなもんなんだよ。勝負はてっぺんから手を放すまで。だからまずは、この部分を安定させる練習な」
そう言うと、明崎はネットに左肩を向けた形に体制を変えた。身体の正面は古義へと向けた、横向きである。
「足は肩幅よりも少し広めに、キャッチャー側になる左足のつま先は、時計でいうと二時くらいの位置に。ちょっと開く感じだな。で、グローブは真っ直ぐに伸ばして肩と同じくらいの高さまで上げる。右手を頭の上に持ってきて――」
ボールを掴んだ明崎の右手が、半円を描くように頭上から振り下ろされた。
正面のネットにポスリと白球が沈み、跳ね返って地面へと転がる。
「こんな感じだな。リリースポイント、って言ってわかるか?」
「あ、ボールを放すトコっすか?」
「そうそう、それは大体、右の太腿辺りだな。右の手首? っていうのか? 腕の端らへんを太腿に当てるって言う人もいるけど、オレは反対派。確かにその方がリリースポイントは掴みやすいかもだけど、当てるって事は、それまでの勢いを殺すことになるし、何より痛いしな」
苦笑した明崎はネットへと数歩寄り、転がっていたボールを拾い上げると、今度は古義へと歩を進め、グローブにポスリと入れる。
「なんとなく、わかったか?」
「……めちゃくちゃざっくりっすけど」
「いいさ。あとはやってみた方が早い」
明崎と場所を入れ替わり、古義は先程の明崎の体制を真似して横向きで立つ。
(えーっと、人差し指と、中指をかけて)
山のギザギザに添うように握りしめると、ゴムがピタッっと肌に吸い付く感触がした。そこで初めて、渡されていたそのボールがピッチング用のモノなのだと気がづいた。
(……でっかいな)
わかってはいたが、野球のように掌に収まるサイズではない。勢いですっぽ抜けないようにと強く握りしめ、グローブをはめた左腕を上げる。
右腕を、頂上に。そこから、回し落とす。
「っあ!?」
古義の掌を離れた球は目の前のネットを越え、ポーンと校舎前の水道へ転がっていった。
(やっちまった!!!)
「こりゃまた見事に飛んだな」
「っまっせん!」
「いーっていーって、よくあるコトだし、気にすんな」
ボールを追おうと動き出した明崎を追い抜いて、古義は急いでネットを回った。
その瞬間。
「古義」
横から飛んできた声足を止める。
「っ、伊集院!?」
「これ、同じピッチング用のやつだから」
呆れ顔の叶華が、ポイとボールを放った。
「はやく戻りなさい」
「わ、た、サンキュ!」
(……案外いいトコあんだなアイツ)
受け取ったボールを手に駆け足で戻ると、明崎は感心したように顎先に手をあてウンウンと頷いていた。
「いやー、マネージャーとかよくわからないから"好きにしていい"って丸投げしちゃったけど、よく動く子だな。これなら安心して次も飛ばせるな」
「っ、次はネットに当てます!」
グッと上げられた親指の前を通り、古義は再び先程の体制をとる。
ボールは上方へ飛んでいった。ということは、放すのが遅かったのだ。
リリースポイントは、右の太腿前。頭で"ココだ"と思ってからでは、遅い。
(もっと早くはなさねーと)
理屈ではわかっている。が、体現するとなると別の話しだ。
次こそ、と古義の放った二投目は早すぎたようで、今度はネットと地面の境目へガキリと食いこんだ。
(うーん、今度は早い、か)
もうちょっと遅くしないと、と思い至ったところで、古義にある考えが浮かんだ。
そもそも、"放す"という感覚で捉えているから悪いのかもしれない。
振り下ろしのタイミングから、"リズム"で覚えれば。




