ピッチャーへの挑戦④
「……ところでさ、伊集院ってなんか、センパイ達と話す時と俺と話す時で口調ちがくね? お嬢サマ言葉ってか」
「目上の方にはそうするよう、母に言われているから」
「あー……なーる。めんどくさくね?」
「もう染み付いたものよ」
(こりゃマジでビンゴかもな大道寺)
"伊集院"といえば、と語っていた友人を思い浮かべ、古義はお嬢様ってよくわかんねと胸中で首を傾げた。
明崎が小走りで向かってきたのは、更に数分が経過してからだった。
叶華と話す古義の姿をみつけるなり「ああー」というような笑顔を向けられたので、古義は叶華に適当に礼を言って明崎の元へ向かった。
明崎はやっぱりニコニコとしている。
「随分と仲良くなったみたいだな」
「同学年っすから。……変な勘違いしないでくださいよ」
「ん? 勘違いってなんだ?」
笑顔のまま問われ、古義は「いや、いいっす」とその話題を打ち切った。
多分、意図は通じている。敢えて言葉にしまうと、それこそまるで古義自身が意識しているように思われるのではないかと考えたからだ。
「それより、なんでオレこっちに呼ばれたんすか?」
いい加減訊いてもいいだろうと首を傾げた古義に、明崎がニィ、と口角を上げた。
「なぁ、古義。何事もまずはチャレンジって言うだろ?」
「え? は、はぁ」
「ちょーっと、ピッチングしてみないか?」
「……へ?」
(……ピッチング? って、あの、ピッチング!?)
起動停止となった古義が言葉を理解するよりも早く、明崎がその背を押した。
「ほい! 蒼海の奥空いてるだろ? そこに……って、ああ、ボールはこっちな。チェンジチェンジ」
「っ、ちょ、待ってください明崎センパイ! オレ、ピッチャーなんてムリっすよ! ピッカピカの初心者っすよ!?」
「わかってるって! だからとりあえずお試しだけ! な! 部長の頼みだと思って、ここはひとつ頼むよ!」
「うぐっ」
この部活では違ったとしても、これまでの経験ですっかり染み付いてしまっている"上下関係"が、無理やり古義を黙らせた。
部長の頼み、などと言われては、断れるはずもない。
マジで何考えてんだよ明崎センパイ! と心の中で叫びながら、古義はトボトボとネット裏を回った。
当然、そのネットに向かい球を放っていた蒼海の視界にも入るわけで。明らかな視線を感じながらも、古義はネットの終わりから「えいや」と投球場へ歩を進めた。
蒼海はまだ、通常の投球距離の半分適度の位置にいる。
古義はそれよりも更にネットに近い場所で立ち止まったが、背後から感じる不穏な空気に冷や汗が吹き出た。
(まーじーもぉーむーりー)
泣きたい衝動を必死に堪え、やっとのことでやってきた明崎を涙目で見遣ると、明崎は抱えていた防具一式をドサリとネット際に置き、朗らかな笑顔で近づいてきた。
絶対に蒼海の姿が見ていているだろうに、まったく動じた様子のない明崎に、古義は少しだけ恐怖を覚えた。
「ホントはさ、ちゃんと経験とか、知識があるやつに教えてもらった方がいいんだけど、まぁオレも一応勉強してはいるから」
(それよりも後ろが怖えーっす!)
気にしてほしいのはそこじゃない! と胸中で突っ込みつつも、古義は明崎が差し出した右手に、先程"入れ替え"と渡されたボールを乗せた。
受け取った明崎はくるりと回して、ボールに刻まれた二本の山を見せる。
「この山に指をかけて回転させるって仕組みは野球と変わらないな。握り方は定番のが何個かあるけど、最終的には自分が"かかりやすい"のが一番だから、その辺は追々で。とりあえず最初は、この二本の距離が狭くなってるとこに、人差し指と中指をかけるやつでやってみっか」
「っす」
「んで、基礎中の基礎。古義、ソフトボールのピッチャーが速い球を投げようと思ったら、何処を気にかけたらいいと思う?」




