古義の突撃とマネ志望④
「日下部ってさー、オレの何が気に入らないの?」
直球で尋ねた古義に日下部はハッと顔を上げると、複雑に顔を歪めて「別に……」と視線を逸らす。
これが全人類に対する日下部の"普通"だと言うのか。
「ウソつけ」
古義は即座に突っ込む。
少なくとも深間に対しては、"後輩"顔で尊敬の眼差しを向けていたくせに。
「なぁ、気に食わないトコあんなら言ってくれよ。直せるかはちょっと内容聞いてみないとわかんねーけど、出来る限り頑張るから」
「……じゃあ、話しかけないでよ」
平行線でしかない攻防。まさしくお手上げだと重い息を吐き出して、古義は口を噤む。
日下部は、どうしても古義との交流を避けたいらしい。その理由すら教えて貰えないのなら、正直、日下部の攻略は"無理ゲー"だ。
(諦めたほうがいいんかな……)
諦めは得意技だと自負している古義だ。このまま頑張った所で、互いにメリットはないのではないかと頭を掠める。
ふと、思い出したのは昨日のつっかかり。
"元野球部"。その単語を発した日下部の、蔑むような表情。
「……日下部ってさ」
その刹那。
「この教室に、"男子ソフト部"の人間はいる!!?」
「いっ!?」
教室内に響いた声に、何事かと扉を見る。
立っていたのは一人の少女。腰元まである長い赤紫色の髪は手入れが行き届いており、制服のボタンはきちんと上まで止めている。学校指定のリボンがかかる胸元は控えめといった所だが、スカート下から伸びる脚はスラリとしている。
その少女は唖然としながら向けられる教室中の視線に怯むことなく、額を隠す前髪の下で気の強そうな瞳をキョロリと動かすと、「ハズレ、ね」と残念そうに呟きさっさと去っていく。
と、直ぐに廊下から「この教室に、"男子ソフト部"の人間はいる!!?」と同じ台詞が聞こえるので、きっと古義のクラスも同じ状態になっているのだろう。
「……なんだ? アイツ」
古義が呆然としながら呟くと、
「……さぁ?」
不可解そうに日下部が応える。
つい、だったのだろう。お? と古義が視線を移すと「しまった」と言うように日下部は口元を抑える。
「っ、とにかく、同じ部活だからって僕はお前と"仲良しこよしゴッコ"をするつもりはないから」
そう言ってビニール袋にゴミを突っ込み、日下部が立ち上がる。
「おい、ちょっと!?」
古義の静止に振り返る事無く、足早に教室を出て行ってしまった日下部に「あーあ」と古義は頭を掻く。
("仲良しこよしゴッコ"、ねぇ)
青春マンガで見るような、熱い友情を指しているいるのだろうか。
だが話しかけるなと言うのならば、言葉を交わした時点でその"ゴッコ"になってしまうのだろうか。
(わっかんねー)
とりあえず、今は大人しく退散するが吉だろう。
「イテテ」と零しながら古義は立ち上がり、自身の教室へと向かう。
あの時の元野球部、という言葉に込められた意図も、訊きそびれてしまった。
「なぁ、大道寺ー」
大道寺の席は前の扉から近い。
戦況を聞いてもらおうと呼びかけながら踏み込むと、その前の席に座り、じっと古義を見上げてくる少女。
赤紫の髪、気の強そうな吊り目。
「っ、さっきの!?」
思わず仰け反った古義に、大道寺が少し驚いたように「なんだ、知っていたのか」と言う。
「知ってるも何も、あんだけ大声出してたらそら見るわ! ってか、なんでここで座ってんだよ!?」
「男子ソフト部の人間を探していたようだったからな。古義がそうだと伝えたら、戻ってくるまで待つと」
「おまっ、よけーなコトを……っ!」
どう考えたって、アレは関わってはいけない部類だろう。
絶句した古義に、すかさず少女が「あら、"余計"とはどういう意味よ?」と剣呑に目を細めるので、古義は慌てて「いや! その! あははっ!」と笑って誤魔化す。




