古義の突撃とマネ志望⑤
「まぁ、いいわ」
腕を組み、ふぅ、と息をつく少女。なんだコイツ偉そうだな、と古義は頬をひく付かせたが、口に出す勇気はない。
少女はすっと立ち上がると、立ちすくむ古義を下から見上げる。
上目遣い、なんて可愛いモノじゃない。不敵な笑みを浮かべる様は、まるでどこかの"お嬢様"だ。
「古義、と言ったわね」
「へ? お、おう」
「私は四組の伊集院叶華。今日の放課後、男子ソフト部に連れてってちょうだい」
コレはお願いではなく命令だ。そう感じるに相応しい、強気な態度。
それら全てをひっくるめて古義が呆然と「……マジすか」と呟くと、それを了承ととったのか、少女は嬉しそうにぱっと目を輝かせると、「じゃあ、放課後に来るから待ってなさいよ!」と教室を出て行ってしまう。
「あ、おい! オレいいとは一言も――」そうではないと声を張るも、小さな背はとっくに見えない。
「……聞こえてないな」
「……終わった」
この世の終わりだとでもいうように、古義は両手で顔を覆いながら力なく空いた席に座り込む。
「もーホントなんなの……日下部はよくわかんねーしさっきのヤツもわけわかんねーし、わけわかんねー祭りかよ……」
「参加者が三人では随分と寂しい祭りだな」
「うん、突っ込みどころ違うかな」
さめざめと古義が言うも、大道寺はふと気づいたように「……伊集院?」と片眉を上げる。
「さっきの女子、伊集院と言ったか?」
「へ? あ、うん。なになに、大道寺のタイプ?」
「伊集院と言ったら、国内ホテル経営で有名な伊集院グループの娘じゃないか?」
「無視かーいって、なに? 有名なの?」
「『ホテルコルラート』って、聞いた事ないか?」
「コルラート? あ、確か母さんがブッフェ特集がどうだのだかで騒いでたような……ってアイツあそこの娘なの!?」
「恐らくな。父から俺と同じ歳の娘がいるとは聞いていたが、てっきり翡翠の方に行ったものだと……」
翡翠高校とは、学力、財力共に県内でトップを誇る、いわば"富裕層御用達"学校である。
古義も「一度覗いてみたかったの!」とはしゃぐミーハーな母に連れられ学園祭を覗きに行った事があるが、そこかしこから飛んで来るウフフ、アハハといった擬音にカルチャーショックを受けたのはいい思い出である。
ここ菫青高校も充実した設備と生徒の個性を重んじる校風の為か、稀にどこかのご子息やらご令嬢やらが紛れ込んでいるらしいと、巷では有名だ。
とはいえ、疎い古義の耳に入る程の大手企業のご令嬢なら、やはり翡翠を選ぶ方が自然に思える。
確認を取っていない以上、現段階では大道寺の憶測でしかないが、先程の高圧的な態度を思い返すと"そうかもしれない"が勝ってしまう。
「えー、じゃあ仮にアイツがそうだったとするじゃん? そんなお嬢様がむっさい男子ソフト部なんかに何の用なんだよ…」
益々深まった謎に古義が眉を顰めるも、大道寺は自分には関係ないとばかりに「さあな」と涼しげに言う。
「授業終わりに来るのは確定しているんだ。連れて行けはわかるんじゃないか」
「結局それか……」
完全に退路は絶たれた。面倒な事になったと古義は深い溜息をつく。
とりあえず連れて行って、日下部に聞きそびれた件も、あとで聞いてみよう。そう考えながら響いた予鈴に、古義はトボトボと自席へ戻った。
***
一年生の終業時刻はどのクラスも一緒である。
二年からは受験を見据えた選択制となるため、大学のように、生徒によって時間割にバラつきが出てくるのがこの菫青高校の特色である。
自身の希望する進路に近しい授業を重点的に学べると歓迎される一方、将来を明確に定めてきれていない生徒には懸念材料のひとつとなっている。




