古義の突撃とマネ志望③
(やぁーっぱこのままじっとしてても変わんないよなぁー……)
大道寺の意見はわかる。
今でこそ時折エスパーではないかと疑うくらい大道寺は古義の意図を察知してくれるが、中学時は勿論、この教室で出会って暫くはそんな事は少なかった。
相手を知ろうとするのなら、面と向かって話すしかない。
「……よっしゃ」
最後の唐揚げをひょいと口の中に放り込み、古義は空になった弁当箱の蓋をしめる。
モグモグと頬を動かしながら急いで弁当箱を袋に戻し、鞄へ突っ込むとガタリと椅子を鳴らして席を立つ。
「いっへふふ!」
何事かと怪訝そうに見上げる大道寺に言い置いて、オレンジのパックを掴み古義は教室を飛び出す。
その後ろ姿を見送りながら、大道寺は嘆息する。
席を立つのなら、口の中が無くなってからにしろ。
デザート代わりに入れたれていた栗まんじゅうを咀嚼し、空になった弁当箱の蓋を閉めて、コップを手に。そして思う。
何をするも構わないが、巻き込まれなければいいが、と――。
***
教室を飛び出した瞬間、古義はふと気が付く。
古義のクラスは三組、日下部はは二組。つまり、目的地はすぐ隣なのである。
敵地攻略の基本はまず偵察。姿を見られては困ると慌てて二組の壁に張り付き、顔だけを覗かせて教室内を見渡す。
昼時というだけあって、椅子や机を動かし集まっている生徒が多い。
ひとり携帯ゲームに勤しむ生徒や、気持良く夢の世界へ旅立っている生徒もいるが、見つけた目的の人物はそのどちらでもなかった。
(まだ食ってんのか)
机の上には白い袋と牛乳パック。手にしたパンを、黙々と咀嚼している。
友人は作らない主義なのか、偶々休みだったのか。どっちなのかはわからないが、とにかく今日は"ぼっち飯"のようである。
これは、チャンスかもしれない。ゴクリと飲み込んだ唐揚げ。
次いで刑事ドラマの張り込みさながら緊張の面持ちでオレンジをジュッと吸い込むと、古義は教室内へそっと踏み込む。
どうやら"ホシ"は食べる事に夢中で、古義の存在に気づいていないらしい。
抜き足差し足で順調に歩を進め、窓側の前から二番目に座る背の斜め後ろにしゃがみこむ。太腿が痛い。
「……米よりパン派ですか」
「っ!?」
ビクリと肩を跳ね上げた日下部は即座に振り返り、見上げる古義の姿を捉えると目を見開く。
「おまえ……っ!」
「古義だよ。古義和舞。なんて呼んでもいいけど、『かずちゃん』はナシな」
言いながら対面に移動し、前の席の椅子を引く。
背もたれにもたれかかるように腕を乗せて座る古義を、日下部がはギッと睨みつける。
「……何の用」
おおコワ。
予想はしていたが、やはり歓迎されてはいないようだ。
「日下部って、経験者なんだろ? いつから?」
「……中一」
「へー、ならもう四年目か。ちょうベテランじゃん」
「……蒼海さんや明崎さんは小学からやってる」
やはり、話を振られれば無視はしない主義らしい。
嫌悪に眉を潜めながらも返事を律儀に返してくる日下部に、やっぱり悪いヤツじゃなさそうだよなーと古義はその手元を見る。
どうやら今日のメインディッシュはコロッケパンらしい。菓子パンよりはボリュームがあるとはいえ、所詮はパンだ。古義は腹持ち重視の米派である。
そんなんで足りるのか? というのが正直な感想だが、無駄に突っついて逆上されても困るので、今回は流す事にする。
「なー、オレ初心者だし。休み時間にルールとか教えてよ」
「自分でルール本読めよ」
「読んでるけど、かしこまった文字ばっかりでさ。さっぱり頭に入ってこねーわ眠くなるわで進みません」
教師に宣言するように右手を上げて言う古義。
「その程度のやる気なら辞めちまえば」
食べ続けながら目も合わせずに言う日下部に、古義は「おおっと」と内心で呟く。
言葉のトゲがチクチクと刺さる。だが、ここで退いては、何もわからないままだ。




