古義の突撃とマネ志望②
「三年生がひとりだけの二年主力の部でさ。エースピッチャーの蒼海さんって人に、やる気が無いならすぐ辞めてもらう! 的な宣言されちゃって」
「ピッチャーって事は、勧誘の時に聞いた人か?」
「そうそう、すっげぇキレッキレのドロップ投げる人。どーもオレの事、いけ好かないみたいなんだよなー。まぁでも、本気だ! ってのをわかってもらえれば、和解出来そうな気がすんだよね。からその辺はながーい目でって感じかな。で、次」
モグモグと咀嚼しながら、古義は言葉を続ける。
「同じ一年がひとりだけいた。日下部っていう……二組っつってたかな? もーコイツがほんっと噛みつく噛みつく」
「は?」
「無視するわ嫌味言うわでとにかく嫌いだオーラ炸裂! 酷くね? オレなんもしてねーのにさ」
うっうっう、と泣くフリをする古義。暫くの沈黙の後、大道寺が
「そのテンションに……ついていけないんじゃないか?」と深刻そうな顔で言うので、
「ちげーわってかどーゆー意味だ」とすかさず返す。
「必要なら説明してやるが」
「いやいいや。なんかオレの心がバッキバキになりそう」
片手を上げつつ「ノーセンキュー」と深間を静止して、古義はパックのオレンジジュースを吸い込む。
疲れた時にはビタミンC。誰から聞いた情報だったかはもう覚えていないが、心地よい酸味がすっと身体中に染み渡っていく。
「あとは技術的な面の問題とか、レギュラー争いの問題とかまぁ色々あっけど、その辺はオレが頑張るしかないし。けどしょーじき、日下部の件はお手上げ状態」
「困ったもんだねー」とパックを置いた古義は、何個目かの唐揚げを頬張り始める。
その様子を思慮深く観察して、"お手上げ"と言いつつも何か考えてはいるようだと判断した大道寺は、それとなく切り出す。
「俺は野球もソフトも詳しくはないが、チームメイトと不仲でも問題ないモノなのか?」
「ん? んー……まぁ、バッテリーってワケでもないし、一応出来なくはないかなー……」
「ならそのまま、そっとしておく方がいいかもな」
「やっぱ大道寺もそー思う?」
「原因がわからない以上、安易に事を荒立てても利点は一切ないからな」
古義が日下部の問題を放置しようとしていたのならば、それが賢明だと後押しする大道寺の言葉に「だよな!?」と食い付いてくる筈である。
だが、「そうだよなぁー」と同意を示しながらも古義のは思案するように宙を見つめ、さしずめ"わかってはいるけども"といった風である。
(このまま大人しくしているつもりはない、という所か)
特に何を言うでもなく、大道寺はただ黙々と白米を咀嚼する。
会話の途切れ。話し好きの女子とは違い、特別珍しい風景ではない。
「……でもさ」
先に言葉を発したのは古義だ。
「今後三年間仲間としてやってくワケだし、そりゃ仲が悪いよりは良い方がやりやすいじゃん? この際、良いまでいかなくてもフラットっていうか、最低限の意思疎通はしたいって言うか。……生理的に受け付けないとかだったらどーしよーもねーけど、誤解があるなら解きたいし」
「……なら直接本人に訊くしかないだろう」
「……やっぱり?」
他に案はないのか、と言いたげな古義に、大道寺は軽く息をつく。
「いくらお前の思考パターンが単純で顔に出やすいとはいえ、"アタリ"が付けられるようになったのは、言葉を交わしてきた過去があるからだ」
「ちょ、なんか遠回しに"馬鹿だ"って言ってるように聞こえるんですけど?」
「少なくともお前に人の心を読む能力はないのだろう? なら直接言葉を交わす以外に、手立てはないな」
「さらっと無視ですか?」
おーい、と呼びかける古義には構うこと無く、大道寺は里芋を咀嚼する。
無視を決め込む大道寺に諦めたのか、「まぁ、いいけど」と呟く古義。




