古義の突撃とマネ志望①
「あああーー……痛ってぇ」
昼休みを告げるチャイムが鳴り、古義は机の上に倒れるように突っ伏する。
開いたままの教科書が胸元を押して痛い。だがその痛みよりも、身体を動かす度にミチチと走る内部の痛みの方が厄介だ。
見事な筋肉痛。引退を機に運動とは遠ざかり、不摂生に不摂生を重ねていた身体は思っていたよりも衰えていたようで、古義の身体はすっかり悲鳴を上げていた。
それだけではない。湯煎に浸かりながらのマッサージくらいでは疲労も抜けきらなかったようで、体重がいつもの二倍になったように重い。
受け止めてくれるのはお前だけだ! と机に懐き続けていると、頭上から呆れた声が降ってくる。
「……何をしている」
大道寺だ。顔だけで見上げると、紺色のランチョンマットに包まれた弁当箱と、いつも常備しているステンレス製の黒い水筒を手にしている。
そうだ、昼だ。昼飯だ。
自覚した途端、痛む腹筋に意気消沈していた腹の虫がぐうと鳴る。
「筋肉痛がちょうヤバイ」
痛みに耐えつつ古義がふぎぎと上体をあげると、大道寺は潰れた教科書の横に手にしていたふたつをトンと置く。
「筋肉痛という事は、必要な筋肉がつくという事だ。良かったな」
使用者の居なくなった前の座席をクルリと回し、座った大道寺。
その言葉に、横のフックに引っ掛けていた鞄から弁当箱入りの小袋を取り出した古義は、思いっきり顔を顰める。
「よかねーよ。コッチは歩くのも精一杯なんだかんな。通学路で他の生徒にスイスイ抜かれてくオレの気持ちがわかるか」
「わからないな。どうしても気になると言うのなら、動く歩道とその外だと思えばいいだろう」
「え? そーゆー問題? 気持ちの問題になっちゃう?」
教科書を机の中に放り込みながら古義が突っ込むも、大道寺は取り合うこと無くれんこんのはさみ揚げを口に運ぶ。そもそもこの会話に興味がないのだろう。
オレには死活問題だってのにと古義は口を尖らせ、開いた弁当箱から大好物の唐揚げを箸で掴み上げる。
たったこれだけで、手首から肩にかけての筋肉がピキリと泣き喚くのだ。これを"良かった"と思えるのは、余程の"M"だけだと溜息をついて、口に放り込む。
どうやら古義の両親は、息子が再び部活動に携わると決めた事ががよほど嬉しかったようで、昨日の夕食は唐揚げが山となっていた。
「明日のお弁当にもミッチリ詰めてあげるからね!」とご機嫌に笑む母の顔を思い出しながら、言葉通り、隙間を許さんとばかりにミッチリと詰められた唐揚げのひとつを今度は箸でブスリとさす。
やり過ぎだって、母さん。
だが潰れていても、唐揚げはやっぱり旨い。
「で?」
尋ねるような物言いに、古義は大道寺を見る。
「で?」
「その様子だと、無事入部はしたようだな」
「あ……」
言われて、そういえば大道寺への報告がまだだったと気づく。
相談に乗ってもらっていたというのに、うっかりしていた。
「悪い」と苦笑した古義に大道寺はフンと鼻を鳴らしたが、怒っているというよりは「まったく」といった風である。
「唐揚げいる?」
「いや、いい。……続けられそうか?」
視線を向けるでもなく、淡々とした問いかけに古義は「うーん」と曖昧に笑む。
「大道寺様のありがたーいお言葉の通り、ちゃんと腹くくって決めたから引退までキッチリやりきるよ。なんだけど、ね」
「なんだ?」
「ちょーっと問題が山積みというか、平積みというか……」
言葉を濁した古義に、言ってみろという大道寺の視線が突き刺さる。
どうせ誤魔化そうとした所で、大道寺は許してくれない。それに、前回のように、自分のちっぽけな頭だけで考えるよりはいい打開策も浮かぶだろうと、古義はポツリポツリと話し始める。




