明崎未咲④
「アイツ、他人の動きをコピーすんの得意っぽいんだよな。イメージングっていうか。今んトコ、オレの教えた投球フォームも数球で再現してみせたし、バッティングフォームもオレにそっくり」
今話せるのは此処までだろう。そう判断した明崎はキャッチャーメットを被り、置かれた簡易ホームベースの後ろにしゃがみ込む。
「よし来い」とミットを軽く叩き構えれば、渋々といった様子で蒼海はセットポディションへ。
その表情が険しいのは、明崎の告げた"事実"を整理しているからだろう。
(ま、だろうな)
蒼海は実際にその現場を見ていない。明崎だって、この眼で見ていなければ「そんな事あるのか」と疑念ばかりが頭を占めた筈だ。
蒼海はプレート上で軽く身体を前へゆすり、今度は後ろへ。勢い良く蹴られた右足と同時に、回された右腕から白い球が放たれる。
パシリッ! と届いた球には確かな迷い。どうやら蒼海も、古義の"可能性"に興味を持ったようだ。
こりゃこの後が楽しみだ、と口角を上げながら、明崎は蒼海へと球を投げ返す。
「さ! ちゃちゃっと初めますか!」
未咲が腕のストレッチをしながら戻ってきたのは約十分後。
部室の鍵を救急ボックスへ収める彼女は、黒地に濃いオレンジのラインが入ったジャージに足元は運動靴と準備万端である。
「ボールバック!」
ピッチング練習を切り上げた明崎の合図で、守備陣は各々が手にしていたボールを埋め込まれたホームベース目掛けて転がす。後方には緑のネット。集まる球を明崎は次々とキャッチャーミットに乗せ、瞬く間に白い山を作る。
蒼海は堂々とした足取りで内野陣の中心、白線で描かれた円の中央に埋め込まれた白いプレートの元へ。
「っ」
ビクリ、と。その姿に肩を跳ねさせた古義に、宮坂が「どうした?」と不思議そうに眉根を寄せる。
もはや反射のようなモノだ。「あ、いえ、何でもないっす!」と慌てて否定した古義に、「そうか?」と宮坂は訝しげに見るがそれ以上の追求はなく、古義と転がし合っていたボールを明崎の方へ軽く放る。
転がっていく白球の先では未咲が銀色の細くて短い、所謂ノックバットと呼ばれる専用バットを手にバッターボックスに立っている。少し離れた位置に"マシ"だと言われたボールの入る袋をが置かれているので、きっとノックではそちらを使うのだろう。
「っし、始まるぜ」
宮坂がぐるりと首を回す。
「オレからやっから、古義はそっから見とけよ」
「お願いしあっす!」
ライトの定位置に着いた宮坂の邪魔にならないようファールラインの外へと距離を取り、古義はぐるりと守備陣を見渡す。
サードに深間、ショートに高丘。目の前のファーストには風雅が立ち、セカンドでは小鳥遊がふわふわと髪を揺らしている。隣のセンターには岩動が構え、その奥に足首を回している日下部が見える。
自己紹介時の通りだ、と妙な納得を覚えながら視線を未咲へ。先程まで肩にかかっていた髪は、後頭部で一つに結い上げられている。
「じゃ、まずはノーアウトランナーなし!」
未咲の高らかな宣言の後、キャッチャーマスクを軽く上げた明崎が声を張る。
「オールファースト! 外野深めはバックセカンな!」
「ハーイ!」「オッケーだ!」「了解」。様々な了承が重なる中、明崎はマスクを戻すとホームベースの後ろにしゃがみ込む。
蒼海のセット。勿論その手にボールはない。身体を軽く前後に揺らし、腕を回して前方に飛ぶ。
そのモーションに合わせ未咲は右手にした球を軽く目の前に放ると、すかさずノックバットのグリップを握り、一振り。
カキーン。地面を強く跳ねる球は風雅と小鳥遊の間を駆け抜け、宮坂目掛けて一直線に伸びてくる。
「だと思ったぜ!」
吐き捨てるような言葉と共に、前方へ数歩詰めた宮坂は先程古義に教えてみせた捕球体制でしっかりと球をグローブへ収める。
そしてすぐさまステップを踏み、一塁ベース横に佇む風雅へと返球を。
パシリ。片足を一塁ベースへ、もう片足は宮坂の方へ踏み出しながら風雅が余裕の表情で受け止める。




