明崎未咲③
「んじゃ姉貴が戻るまで各自ボール回しでもしててくれ。オレはちょっと恭の球受けてくる」
「ハーイ!」
了承の意を返す部員達と同じく、古義も頷いて明崎に背を向ける。
と、「ああ、古義」と呼び止められ、再び振り向く。
「はい?」
「うちん中で捕球から返球までの動きが一番綺麗なのは、高丘だから。よく見とけ」
「っ、あざす!」
そっと教えられた手本。
さすがは部長、フォローが細かい。確かに古義はまだ、捕球から返球までのステップや流れは教えてもらっていない。
もちろんやりやすい型は個人によって様々だが、それでも手本とするイメージがあるのと無いのとでは、吸収に差がでる。
(やっぱ明崎センパイって優しい……!)
ニカリと笑う明崎に頭を下げ、少し離れた位置でボールを片手に古義を待つ宮坂の元へと駆け出す。
「何言われた?」と尋ねる宮坂に「アドバイス貰いました!」と返しながら、向かうのは一塁ベースと二塁ベースの奥、レフトだ。
「……深間さん」
古義達が去るのを見送り、明崎は深間に目配せする。
了承を示すように頷いた深間に明崎も頷き、一人ピッチングを黙々と続ける蒼海の元へ。
(さて、どーなるか)
アドバイス、なのは間違いないが、それだけではない。
古義が忠実に"アドバイス"に奮闘してくれれば、これで明崎と深間の"憶測"に答えが出るだろう。
「……何企んでんだ」
呆れ声で息をついたのは近づく明崎に気づいた蒼海。
「あ、顔に出てた?」と笑顔でキャッチャー用具を着ける明崎にジト目で頷く。
「別に企んでるってワケじゃないんだけどな」
(……嘘つけ)
明崎と蒼海の最初の出会いは小学生の時。異なる地域チームに所属しており、大会の決勝戦でよく顔を合わせる敵として互いの存在は認識していた。中学時も同様に、学区が近く隣の中学同士だった明崎と蒼海は練習試合を組まれる事も多かった。というより、そもそも"男子ソフトボール部"が存在する中学が少ない為、選択肢も限られていたのだろう。とはいえ、小学生時から一目置いていた存在が再び"勝利"の前で待ち構えている。蒼海と明崎が互いを好敵手と認識するのに、時間はかからなかった。
そして。この菫青高校で、初めてバッテリーを組んだ。密でなくとも、これまで互いを分析していた年月は長い。蒼海も、明崎も、一年という期間以上に互いを理解していると思っている。
因みに、時々明崎の試合に顔を出していた未咲が初めて手伝いに来た際に、蒼海に向かってあっけらかんと「ああ、あの腹の立つドロップの」と言い放ったのはいかにも"らしい"エピソードである。
ともかく。明崎の"あの顔"は、何かしら腹の内に隠している時にする顔だ。それも、明崎にとっては非常に興味深い類の。
「……なんなんだ」
その顔のまま構えられても気が散ってしょうがない。
眉根を寄せながら尋ねる蒼海に、明崎はどうしたものかと苦笑する。蒼海は他の部員とは違い、古義に興味は無い。話した所で、逆に機嫌を損ねられても困る。
とはいえ、このまま誤魔化した所でやはり機嫌は下降するのだろう。それならば。
数秒の逡巡の後、明崎は口を開く。
「オレ達もまだ憶測の段階なんだけどな。古義のヤツ、もしかした面白い"特技"を持ってるかもしれない」
「オレ"達"?」
「今んトコ感じてるのは、オレと深間さん」
「……」
示した名前に蒼海は眉間に皺を刻みつつも、無言を貫く。明崎個人の意見なら「勘違いじゃないのか」と即座に否定の意が返って来たのは明白である。だが、深間の名が出たことにより"もしかしたら"と思っているのだ。蒼海の中で、深間は明崎の次に洞察力が優れていると認めた存在故に。
畳み掛けるなら今だろう。明崎は慎重に言葉を選び、かつ含みを持たせて自身の"憶測"を告げる。




