⑬電撃決戦ー3 決着
『白竜の翼』が白銀の輝きを取り戻し、天空城の絶対権限がドラグニル・テンペスト側へと完全に奪い返された瞬間、ノクスの長はすべてを失ったことを悟った。
彼の周囲を覆っていた禍々しい闇の魔力は霧散し、結晶の床へと這いつくばる。
「あり得ん……! 我が主から授かった深淵の術式が、白竜の遺産が、人間の羽虫どもに上書きされるなど……あ、あああああッ!!」
絶望と焦燥のあまり、ノクスの長は完全に発狂した。
彼は自身の残された命の灯火、そして肉体そのものをノクスの邪悪な禁忌呪詛へと変換し、異形の闇の怪物へと膨れ上がりながら狂い叫ぶ。
「ならば、お前たちだけでも道連れにしてくれるわぁぁぁッ!!」
どす黒い闇の波動が王座の間に吹き荒れ、最期の自爆攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、二人の若い戦士の覚悟が、その狂気を完全に置き去りにした。
「――お前の相手は、最初から俺たちだろ。」
アレンの低く冷徹な呟きが響いた。
フードの隙間から覗く赤眼が鋭く尖り、白銀の髪が激しく逆立つ。
衣服の袖を破って露わになった右腕の『白竜の聖鱗』が、すでに同化した『白竜の心臓』のまばゆい光と混ざり合い、臨界点を超えた純白の魔力をパチパチと周囲に放っていた。
アレンがバルドに叩き込まれた実戦剣術の型へと深く腰を落とす。
その隣へ、大剣を両手で固く握り締めたエルザが並び立った。
「アレン、貴方の行く道を遮る闇は、私がすべて焼き尽くす……!」
エルザが痛々しい怪我の激痛を強靭な精神力で完全にねじ伏せ、その全身から、バルザックを討ち果たして復讐を終えた彼女が宿す、未来を拓くための純粋な『気高き烈火』を爆発させた。
紅蓮の炎が大剣の身を包み、真空すらも焼き焦がすほどの熱量が王座の間を満たしていく。
「走りなさい、アレン!!」
ドッ!!!
エルザの叫びとともに、アレンの姿が戦場から完全に消え去った。
アレンは白銀の閃光と化し、ノクスの長が放とうとしていた闇の自爆呪詛を物理的にではなく、速度そのもので切り裂きながら懐へと肉薄した。
あまりの神速に、長は叫ぶことすらできず、ただアレンの血のような赤眼が迫り来るのを呆然と見つめることしかできない。
「――終わりだ」
アレンの白銀の魔力を宿した愛剣が、ノクスの長の巨大な闇の核を正確に貫き、一瞬で真っ二つに一閃した。
「おおおおおおおッ!!」
その一閃に寸分違わず連動し、背後から跳躍したエルザの大剣が、天から地へと振り下ろされた。
彼女の宿す気高き烈火の奔流が、アレンによって切り裂かれたノクスの長の肉体を、そして王座の間に残っていた邪悪な闇の残滓のすべてを、一欠片も残さず包み込んでいく。
――ズガァァァァァァンッ!!!
白銀の衝撃波と紅蓮の爆炎が融け合い、天空城の最奥をまばゆい光で満たした。
断末魔の叫びを上げる暇すら与えられず、すべてを弄んだノクスの長、そして生き残っていた闇の精鋭たちは、その魂の根底から完全に焼き尽くされ、塵へと還っていった。
爆炎が静かに収まり、エメラルドグリーンと白銀の結晶が美しく輝く王座の間へと、静寂が戻ってくる。
アレンは愛剣を静かに鞘へと収め、荒い息を吐きながらフードを深く被り直した。
その隣で、エルザは大剣を床に突き立て、相棒としての誇らしげな、頼もしい笑みをアレンに向ける。
「クク……、ハハハ! 見事だ、邪悪の根を、これ以上ないほど美しく叩き潰したな!」
甲板で戦況を見守っていた覇王イグニスが、巨体を揺らして獰猛に笑い、カイルもまた「僕のナビゲートがなくても十分だったね」と微笑みながら魔導端末を閉じた。
烈火の竜王国ドラグニル、そして天嵐の王国テンペストを長年苦しめ、民を人質に取っていたノクスの邪悪な手先たちは、二人の若き戦士の牙と炎によって、今ここに完全なる結末を迎えたのだった。




