⑬電撃決戦ー2
――ズガァァァァンッ!!!
【熱嵐の槍】が穿った亀裂を突き破り、アレンとエルザは凄まじい衝撃とともに天空城の黒紫色の結晶床へと着地した。
アレンの【世界一の超神速】による突入の余波で、周囲の大気が激しく爆ぜ、白銀の衝撃波が王座の間の回廊を駆け抜ける。
「ハァ、ハァ……ッ! 成功、ね……!」
アレンの腕からしなやかに飛び降りたエルザが、即座に身の丈を超える大剣を引き抜いた。
痛々しい負傷を気力でねじ伏せ、その瞳には竜人族特有の苛烈な闘志が燃え盛っている。
「チッ、着地が少しばかり荒かったな。」
アレンはフードの隙間から赤眼を光らせ、愛剣を逆手に構えて周囲を油断なく睨みつけた。
直後、彼らの背後の空間がカイルの術式によって歪み、巨体を揺らす覇王イグニスと、魔導端末を抱えたカイルが一瞬遅れて転送着陸を果たす。
「クク、アレンの速度に合わせるのは骨が折れるな! だが、待たせたなノクスの蟲ケラども!」
イグニスが全身から紅蓮の炎を噴出させる。
「――馬鹿な、あの結界の『隙間』を一瞬で駆け上がってきただと……!?」
回廊の奥、奪い取った『白竜の翼』の祭壇の前に陣取っていたノクスの長が、信じられないものを見る目で絶叫した。
彼の周囲には、主砲の爆発を生き延びたノクスの竜神族の精鋭たちが、不気味な闇の武器を構えてアレンたちを包囲していた。
「おのれ……! ネロ様の『操り人形』が、これ以上我らの邪魔をするなぁ! 者ども、その小僧から『白竜の心臓』を抉り出せ! 殺せぇッ!」
狂った号令とともに、闇の精鋭たちが一斉に牙を剥いた。
彼らが放つのは、空間そのものを腐食させるノクス特有の黒紫色の闇魔術。
「カイル、イグニス様! 雑魚は任せて!」
エルザが先陣を切り、気高き火の魔力を大剣に爆発的に纏わせた。
「バルザックを討ち、復讐を終えた私の剣は……今度はアレンの、皆の道を拓くためにある! 燃え尽きなさい!!」
エルザの放つ純粋な烈火が一閃され、襲いかかってきた闇の暗殺者たちを正面から力任せに焼き払う。
「ふむ、これだけの高密度魔力空間か。僕の魔導演算の腕の見せ所だね。」
カイルは冷徹な平和主義者の目をギラつかせ、端末から無数の迎撃数式を展開。
ノクスの竜神族が放つ強力な闇の雷撃を、最小限の魔術障壁で精密に霧散させていく。
「アレン達が道を拓いた! ならば、俺がその邪悪の首を直接噛み砕いてくれるわ!」
イグニスが咆哮とともに巨体を突進させ、大剣を激しく振り下ろした。
その圧倒的な覇王の劫火がノクスの精鋭たちの陣形を瞬時に粉砕していく。
そして――。
「……おい、お前の相手は俺だろ、トカゲの野郎!」
ドッ!!!
アレンの姿が、ノクスの長の視界から完全に消失した。
「な……どこへ――」
長が冷や汗を流して周囲を見回した瞬間、彼のすぐ背後の大気が、白銀の輝きとともに爆発的に鳴り響いた。
アレンの血のような赤眼が、冷酷に長の喉元を捉えている。
天空城の最奥、奪われた『白竜の翼』を巡る、ノクスの総力戦が今ここに幕を開けた――。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アレンの【超神速】の刃がノクスの長の死角を捉え、エルザの苛烈な烈火とイグニスの覇王の劫火が闇の精鋭たちを圧倒する。
その狂騒の渦中、カイルは、一切の動揺を見せず『白竜の翼』の祭壇へと滑り込んでいた。
「――まったく、創造主の遺産を黒紫色に染め上げるなんて。ノクスの美意識ってやつは、どこまでも非合理的で悪趣味極まりないね。」
カイルは冷徹な平和主義者の目をギラつかせ、煙を吹く魔導端末のキーボードを驚異的な速度で叩き始めた。
彼の目の前で、どす黒い闇の鎖に縛られた『白竜の翼』が、苦しげに不気味な咆哮をあげて宮殿をきしませている。
「おのれ……! あの魔術師を止めろ! 祭壇に近づけるな!」
アレンの超神速の猛攻を死に物狂いで捌いていたノクスの長が、カイルの意図を察知して絶叫する。
生き残った闇の暗殺者たちがカイルの背後へと殺到した。
「させないわ!!」
その行く手を阻んだのは、大剣を横一文字に薙ぎ払ったエルザだった。
気高き火の魔力が赤黒い炎の壁となり、暗殺者たちを力任せに焼き払う。
「カイル、あんたは自分の仕事に集中して! 後ろは私が死んでも守り切る!」
「感謝するよ、エルザ。……さて、始めようか?」
カイルの魔術回路が祭壇の制御盤へと完全にバイパス接続された。
彼が狙うのは、天空城のシステムを乗っ取っているノクスの闇コードの完全破壊。
そして、汚された『白竜の翼』の呪詛解除である。
キィィィィィィィン――ッ!!
「アレン様! 君の右腕の『白竜の心臓』の周波数を、僕の数式に一瞬だけ同期させろ! 創造主の純粋な魔力コードを、この『翼』に直接叩き込む!」
「チッ、注文が多いな、カイル……ッ!」
アレンはノクスの長を剣筋で牽制しながら、右腕を掲げた。
『白竜の聖鱗』がまばゆい白銀の輝きを爆発させ、カイルの端末を経由して、祭壇へと一本の光の奔流となって突き刺さる。
『警告:外部魔力コードの侵入。ノクス闇回路にエラーを検知――』
「数式を反転する! ノクスの鎖よ、白銀の光の中に消え失せ給え!」
カイルが不敵な笑みを深くし、最後のエンターキーを強く叩きつけた。
バリィィィィィィィンッ!!!
天空城の最奥に、ガラスが砕け散るような美しい音が響き渡った。
『白竜の翼』に絡みついていた禍々しい黒紫色の鎖が一斉に弾け飛び、霧散していく。
次の瞬間、どす黒く染まっていた巨大な翼が、本来の、神々しいまでの純白と白銀の輝きを取り戻した。
『――宮殿の制御権、および『白竜の翼』のコードを再取得しました』
城全体を覆っていた黒紫色の結晶が、瞬時に元の一エメラルドグリーン、そして白銀の光へと上書きされていく。
ノクスの闇によって乗っ取られていた天空城の絶対権限は、カイルの知略とアレンの心臓の力によって、今度こそ完全に奪い返されたのだ。
「な……、我がノクスの闇が、完全に消滅した……!?」
奪われた翼の祭壇を見上げ、ノクスの長が絶望に顔を青ざめさせ、その場に崩れ落ちた。
「クク……、ハハハ! 見事だ、カイル! 敵の退路と力を根底から断ち切ったな!」
イグニスが獰猛に笑い、抉れた胸からノクスの残党を威圧する熱波を放つ。
『白竜の翼』は解放され、天空城の制御も取り戻した。
絶体絶命だった戦況は、完全にアレンたちの勝利へとひっくり返った。
あとは、この世界の歪みを生み出し続けるノクスの長へ、最後の引導を渡すだけだった――。




