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⑬電撃決戦ー1

 カイルのカウンターハックによって天空城の右翼部が大爆発を起こした瞬間、それは地上への凄まじい『副産物』をもたらした。

 

爆辞に巻き込まれ、あるいは燃え盛る城から弾き出されたノクスの残党、そして城内に蠢いていた無数の不気味な闇の魔獣の群れが、雨あられとなって地上ドックへと降り注いできたのだ。


「――チッ、空からゴミが降ってきやがった! ドラグニル軍、レジスタンス! テンペストの民の避難完了まで、この防衛線から一歩も退くな!」

 

 黒狼の血を引くレジスタンスの将、ガロウが、鋼鉄の義手をきしませて怒号を飛ばす。

 

ズガァァァンッ!! とドックの床を砕いて着地した巨大な魔獣が、その鋭い爪を避難が遅れている住人たちへと振り下ろそうとした、その刹那。

 

ガロウが地を蹴り、身の丈を超える岩石を纏わせた大剣でその爪を真っ向から受け止めた。


「人間の街を、これ以上お前らの思い通りに荒らされてたまるかってんだよ!」

 

顔の左半分の火傷痕を凶暴に歪め、ガロウは力任せに大剣を跳ね上げる。ノクスの魔獣の巨体が宙に浮いた瞬間、その首元へ向かって、影から一筋の冷徹な刃が滑り込んだ。

 

――ザシュッ!!

 一切の気配もなく現れた第四師団長バルドムの短剣が、魔獣の喉元を正確に切り裂く。

防魔隠密衣『夜帷』をなびかせ、彼は次々と影から影へと滑るように移動しながら、ノクスの残党の喉を射抜いていく。


「アレン様が上空へ突入するための足場は、我ら第四師団とレジスタンスが死守する。影の役目、ここで果たさずしていつ果たす!」


「ハハ、手際が良いなバルドム! 影のトカゲと黒狼が手を組めば、ノクスの蟲ケラどもなどただの餌だ!」

 ガロウが豪快に笑い、鋼鉄の義手から全魔力を爆発させて、周囲の魔獣を巻き込む土盾の防壁を展開する。


 ドックの全域で、怒濤の防衛戦が展開されていた。

避難誘導を終えたドラグニル軍の残兵たちや、正気を取り戻したゼピュロスを信じて武器を取ったテンペストの一般兵たちも、かつての敵味方の垣根を越えて肩を並べ、ノクスの闇に立ち向かっている。


「風の兵たちよ、怯むな! 私たちの王は甦った! あの闇の城を撃ち落とすまで、この地を死守するのだ!」

 

前線で声を張り上げる兵士たちの闘志は、かつての盲信ではなく、確かな希望に満ちていた。

 

地上ドックが獣の牙と影の刃、そして兵士たちの勝鬨によって固く守られていく。

 

その確固たる防衛線の真ん中で、イグニスとゼピュロスの二人の王が、いよいよ天空城の最下部へ向けて【熱嵐の槍】を起動させるための魔力を極限まで高めていた。

上空への突入の瞬間は、もうすぐそこに迫っていた――。 



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 地上ドックがガロウとバルドムの死守によって強固に保たれる中、ついに二人の覇王の魔力が臨界点を超えた。


「――征くぞ、ゼピュロス! 我らの双璧の力を、あの黒い城の喉元へ叩き込んでやるわ!」

 

全身から凄まじい紅蓮の炎を噴出させるイグニス。


「ああ。完璧な算式に基づき、天嵐の道を構築しよう。……イグニス、火力を私の風に同期させろ!」

 ゼピュロスがエメラルドグリーンの瞳を鋭く光らせ、両手を天へと掲げる。


 ドォォォォォォォンッ!!!

 

 イグニスの絶対的な『熱量』と、ゼピュロスの大気を統べる『風力』。

かつて大陸を震撼させた二つの最上級魔術が螺旋を描いて融け合い、天空城の最下部にある唯一の「隙間」へ向かって、天を衝く巨大な光の柱――【熱嵐の槍(サーマル・ランス)】となって撃ち放たれた。

 

 それは、周囲の真空の結界を力任せに抉じ開け、上空の闇の城へと垂直に伸びる「絶対安全の突入路」だった。


「――今だ、アレン!抉じ開けられた時間はコンマ数秒、一瞬でも遅れたら大気の摩擦で塵に還るよ!」


 ハッキング用の魔導端末を抱えたカイルが、冷徹な平和主義者の目をギラつかせて叫ぶ。


「……ハッ、コンマ数秒もありゃ、俺にはお釣りがくるよ!」

 

アレンはフードを風にたなびかせ、赤眼を鋭く尖らせた。


「エルザ、掴まってろよ。」

「ええ……! あなたの『超神速』、特等席で見届けさせてもらうわ!」

 

エルザが大剣を背負い、アレンの首に両腕を回してその体に強くしがみつく。

彼女の全身から溢れる炎の魔力が、アレンの右腕の『聖鱗』の負担を外部からしっかりと抑え込んでいた。


 アレンの右腕に宿る『白竜の心臓』が、上空の『翼』と呼応して白銀のまばゆい輝きを爆発させる。

 バルドに叩き込まれた実戦剣術の型――大地を爆破するような踏み込み。


 ドッ!!!

 

 次の瞬間、アレンの姿が地上から完全に消失した。

それは、世界を構成する数式すらも置き去りにする、文字通り世界一の超神速。

 

 アレンはエルザをその腕にしっかりと抱いたまま、紅蓮とエメラルドグリーンが渦巻く【熱嵐の槍】の光柱の中を、重力を完全に無視して天空へと駆け上がった。カイルのナビゲートの数式が、アレンの超神速の軌道を狂わせることなく、光の最深部へと滑り込ませていく。

 

キィィィィィィィン――ッ!!

 

一瞬、光速の壁を超えた衝撃波が周囲の空間を激しく歪めた。

 

アレンの視界の中で、迫り来る黒い天空城の最下部――主砲の暴走で引き裂かれた巨大な亀裂が、猛烈な速度で迫ってくる。


「終わりにしてやる、ノクスの竜ども……!」

 

アレンの血のような赤眼が、闇の城の心臓部を正確に捉えていた。

エルザの火に守られた白銀の閃光は、真空の結界を文字通り一瞬で突き破り、大爆発の炎が未だに残る天空城の内部へと、電撃のように突入していった――。


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