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⑦白銀の矢

 上空のシルフが堕ち、国境でガロウとバルドムの猛攻がテンペストの魔力処理を極限まで搾り取った――まさにその瞬間、ドラグニル王宮の最奥にて、世界のシステムを書き換える「特異点」が完全に臨界を迎えた。


「――全回路同調完了! さぁ!出力最大(フルスロットル)でいってくれ給え!」

 魔導障壁の前に立つカイルが、冷徹な目をギラつかせながら叫ぶ。

彼の展開する膨大な魔術数式が、アレンの右腕の『聖鱗』と白竜の『心臓』の力をテンペストの巨大結界へと正確にバイパス誘導していた。


「ぐ、あああああッ!!」

 アレンの口から、引き裂かれるような咆哮が漏れる。

フードが吹き飛び、露わになった神秘的な白銀の髪が、漏れ出る魔力の嵐に激しく逆立った。

 衣服の袖を破って現れた右腕の『白竜の聖鱗』。

そこから溢れ出るのは、世界の創造主の力そのものである圧倒的な白銀の光。

あまりの熱量にアレンの肉体が焼き切れそうになった、その時。


「アレン! 一人で背負うなと言ったはずだ!」

 竜人族の少女、エルザが痛々しい怪我を顧みず、その背中からアレンの右腕へと両手を添えた。

彼女の気高き「火」の魔力が、アレンの右腕の暴走を外部から無理やり押さえ込み、一つの安定した『矢』の形へと収束させていく。

「君の行く道を遮る風は、すべて私が焼き尽くす! 走れ!アレン!!」

「……ハッ、お前たちのそのお節介、嫌いじゃない!」

 血のような赤眼(赤眼)を鋭く見開き、アレンはバルドに叩き込まれた剣術の型を構えた。

狙うは、遥か彼方、テンペストを覆う巨大結界の「核心」。


ドッ!!!

 

 次の瞬間、アレンの姿が戦場から完全に消失した。

それは、彼が元来持つ「無駄のない見切り」と、白竜の魔力が掛け合わされた、文字通り世界一の超神速。

アレン自身が一本の【白銀の矢】と化し、マグマリアの空からテンペストの国境防空網へと向かって、光速をも超える速度で一直線に天を衝いた。


 ――キィィィィィィィィンッ!!!

 

 テンペスト第二師団長ニルヴァが誇る「大陸一の防空網」が、接近するアレンを『敵』として感知した。しかし、アレンが纏うのは創造主の魔力コード。

防空網の自動迎撃システムは、それを「排除すべき敵」か「保護すべき創造主」か判別できず、数式が異常な速度で自己矛盾のループを起こし始める。


『エラー:未知の魔力コード。処理能力限界。数式を再計算――』


「そこだ、撃ち抜け!アレン!!」

カイルのナビゲートが、防空網がパニックを起こした最大の『隙間』を指し示す。


「おおおおおおおッ!!」

 アレンは超神速のまま、巨大なエメラルドグリーンの結界の核へと、白銀の右腕を突き立てた。

 

バリィィィィィィィィンッ!!!

 

物理的な破壊ではない。

概念的な「バグ」によって、完璧だったはずのテンペストの防空網が、ガラスが砕け散るような音を立てて全域で強制シャットダウン(機能停止)に追い込まれた。

常に国境に吹き荒れていた永久の嵐が、嘘のように一瞬でピタリと止む。


「な……何だと……!? 我が数式が……防空網が、自壊した……!?」

 国境でガロウの大剣を受け止めていたニルヴァが、生まれて初めてその冷徹な顔を驚愕に引きつらせて絶叫した。

 

天嵐の防壁は崩壊した。


防空網が完全に沈黙する、わずか数十秒の空白。

アレンが切り開いたその絶対的な勝機を、背後に控えていた覇王が逃すはずもなかった。

「クク……、見事だ! 征くぞ、テンペストの心臓部へ!」

 王宮のドックから、イグニス王の巨大な竜王艇が、地響きのような轟音を立てて発進する。

 崩壊した風の結界をすり抜け、ドラグニル本隊を乗せた漆黒の船体が、ついにテンペストへ向かって強襲の牙を剥いた――。


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