⑥天地混戦ー1
ドラグニル本隊が【白銀の矢】による防空網突破の準備を進める中、北部『テンペスト』との国境地帯は、文字通りの戦意と魔力の坩堝と化していた。
――ズズ、ズガァァァンッ!!
地中強襲艇の乱入によってニルヴァの完璧な数式に穿たれた「亀裂」。
そのわずかな空白を縫って、黒狼の血を引くレジスタンスの将、ガロウが率いる残兵たちが地表へと躍り出た。
「ガロウか。予定より早い合流だ。」
『夜帷』を翻し、音もなく敵の死角から滑り出てきた第四師団長バルドムが、血の混じった息を吐きながらガロウに合流する。
「王宮の仕込みが完了した! あとは俺たちがここでどれだけ暴れ、風の鳥公どもの耳目を引きつけられるかで勝負が決まるぜ!」
ガロウは顔の左半分の火傷痕を凶悪に歪め、鋼鉄の義手をきしませて身の丈を超える大剣を引き抜いた。
「バルドム! 陽動の死闘といこうじゃねえか!」
二人の歴戦の将の合流に、第二近衛師団長「天障の智将」ニルヴァの冷徹な目が、不快そうに細められた。
「泥犬どもが、どれだけ数を集めようと数式の解は変わらん。……ハヤテ、全域の酸素をさらに絞れ。ノクスの者達も地中のネズミをすべて炙り出せ!」
ニルヴァの背後に控える不気味なノクスの竜神族たちが、ニルヴァへの嫌悪を隠しもせず、しかし破壊の愉悦を浮かべて闇の魔力を解放し始める。
「了解、ニルヴァ。……でもさ、僕、この濁った空気はやっぱり嫌いだな。」
第三近衛師団長「千刃の風使い」ハヤテが隻眼を細め、背負った多数の透き通るような風の短剣を虚空へと解き放つ。
「『断頭の暴風』――千発じゃ足りないよね。一万発で刻んであげるよ!」
瞬間、国境全域の酸素が完全に消失し、不可視の刃の豪雨が大地をズタズタに引き裂きながらガロウたちへ襲いかかった。
レジスタンスの兵たちが窒息の苦しみに声を上げ、不可視の刃に切り刻まれていく。
「クソが!くっ……ッ!」
ガロウは肺を圧迫する真空の苦しみに耐えながら、岩石を纏わせた大剣を地におろし、土盾の防壁を展開して刃の豪雨を防ぐ。
しかし、ニルヴァが統括する「大陸一の防空網」からの自動迎撃の光条が、その土盾をも精密に射抜いて粉砕していく。
「ガロウ、耐えろ! 奴らの連係の起点は、あのインテリの杖だ!」
バルドムの姿が陽炎のように揺らぎ、ハヤテの放つ真空の檻の隙間を縫って、ニルヴァの懐へと音もなく肉薄した。
短剣の切っ先が、ニルヴァの喉元へと突き出される。
「浅い。」
ニルヴァが魔導杖を軽く一振りすると、バルドムの目の前に強固な風の障壁が展開され、短剣が火花を散らして弾かれた。
「数式を乱すノイズ(隠密)など、私の計算を狂わせるには値しない。」
「――なら、この力任せのノイズはどうだ!」
障壁の背後から、風を引き裂く咆哮とともにガロウが跳躍した。
鋼鉄の義手に全魔力を込め、全体重を乗せた大剣が、ニルヴァの障壁へ真っ向から叩きつけられる。
バリィィィィンッ!!!
ニルヴァの絶対的な結界に、初めて派手な亀裂が走った。
「何……!? 亜人の腕力で我が結界を……!」
「驚くのはまだ早いぜ、鳥公!」
ガロウが結界を強引に抉り開けたその瞬間、背後の影から再びバルドムの『影の刃』が、ニルヴァの死角を完全に捉えて滑り込んだ。
「あはは! ニルヴァ、危ないよ!」
ハヤテの不可視の刃が横から割り込み、バルドムの短剣を強引に弾き飛ばす。
国境は、完璧な数式を操るテンペストの二人の師団長と、それを執念と牙で食い破ろうとするガロウ・バルドムの、一歩も退けない泥沼の乱戦へと突入していた。
すべては、本隊の【白銀の矢】が天を穿つ、その一瞬の空白を作り出すために。




