⑤緊迫の作戦会議
「――レジスタンスたちが国境の残兵を率いてバルドム師団長の『影』に合流した。これで、国境のニルヴァとハヤテを引きつけるための『陽動』の準備は整ったと言えるね。」
作戦室のテーブルに広げられた、テンペストの立体魔力地図を見下ろしながら、ガロウの不在を埋めるようにカイルが冷徹な声で言った。
テンペスト国境を覆うのは、第二師団長ニルヴァが統括する「大陸一の防空網」。
そして、それを超高速で巡回するシルフの突撃大隊。
ただ正面から突き進めば、たとえ覇王イグニスや軍神ヴァルキアスであっても、数式のように冷酷な迎撃術式の餌食になる。
「問題は、僕たちがどうやってその防空網の『奥』、テンペスト国内へ潜入するかだ。バルドムたちが国境で風の目を突いてくれているとはいえ、本隊が移動するための巨大な穴を空けるのは容易じゃない。
……何か手はありますか、イグニス様?」
カイルの問いに、巨体を預けた覇王イグニスが、微かな熱気を体から漏らしながら獰猛に笑った。
正気を取り戻したその赤眼が、アレンの右腕をじっと見据える。
「カイルよ。奴らの防空網は、この世のあらゆる魔力と飛行物質を自動で撃墜する『完璧な数式』だ。だがな、数式である以上、それを超越する【絶対的な特異点】を叩き込めば、網そのものが処理しきれずに自壊する。」
「絶対的な特異点……」
エルザが呟き、アレンの顔を見る。
「そうだ。アレンの右腕にある『白竜の炉心』。そして、すでに同化させた白竜の『心臓』の熱量。
……それはこの世界のシステムを作った創造主の力そのものだ。テンペストの風王ゼピュロスが編み出した防空網といえど、創造主の魔力コードを『敵』として認識・処理する数式は組まれておらん。」
イグニスは大きな手を地図の上に叩きつけた。
「作戦計画はこうだ。まず、ヴァルキアスとレイラが上空のシルフを完全に引きつける。同時に、国境ではバルドムとこの後国境に合流予定のガロウが地中と影からニルヴァの結界の基部を揺るがす。
敵の処理能力が極限に達したその瞬間――アレン、お前の『心臓』の魔力を一瞬で全解放し、防空網の最も巨大な結界の『核』へ向かって、光速をも超える【白銀の矢】となって突撃する。」
「……なるほどね。アレン様の超神速と白竜の魔力を掛け合わせ、テンペストの防空システムを物理的にではなく、概念的に『バグ』らせて強制シャットダウンさせるわけだ!」
カイルが顎に手を当て、不敵に微笑む。
「それなら、僕の魔導演算で魔力軌道をサポートできる。防空網が完全に機能停止する時間は、おそらく数十秒。その一瞬の隙に、イグニス様の竜王艇でテンペスト国内へ一気に強襲をかける。」
「はぁ、簡単に言ってくれる。あの不気味な心臓の力を無理やり引き出すのは、右腕が引きちぎれそうになるんだけどな。」
アレンはため息をつきながらも、フードの隙間から血のような赤眼を鋭く光らせた。
嫌がりつつも、その言葉には確かな覚悟と、養父に叩き込まれた戦士の冷静さが宿っている。
「アレン、右腕の負担は、私が『火』の魔力で外部から抑え込む。一人で走らせはしない。」
エルザが大剣を床に突き立て、頼もしい相棒としての笑みを向けた。
「よろしい。では、これよりテンペスト墜としの作戦を開始する。風の王に、真の覇王の進軍を拝ませてやろうぞ!」
イグニスの力強い覇気が作戦室を満たし、ドラグニル本隊の、テンペスト潜入に向けた大いなる一歩が定まった。




