④上空乱戦ー2
上空で火花を散らす、レイラの細剣とシルフの蒼き刺突。
カイルの遺した「熱の揺らぎを捉える」教えによって、レイラはかろうじてシルフの神速を捌いていた。
しかし、限界は近かった。
自身の速度をさらに引き上げたシルフの軌跡は、もはや無数の蒼い絶技の檻となり、レイラの肉体を確実に削り始めていく。
「これで終わりです、レイラ……!」
シルフの冷徹な宣告。
彼女の纏う風が極限まで圧縮され、レイラを完全に消滅させるべく、光速手前の突撃へと移行する。
さらに最悪なことに、シルフが引き連れてきたテンペスト第一近衛師団(突撃大隊)の精鋭たちが、雲海を割って一斉に姿を現した。
彼らは神速の風を纏い、地上のガロウ率いるレジスタンス、そしてイグニスへ向けて、一斉に急降下爆撃の陣形をとる。
退路を断たれた国境のバルドムに続き、マグマリアの王宮もまた、完全な包囲網の中に堕ちようとしていた。
万事休す――その絶望の戦場に、天をも焦がす『光』が降り注いだ。
――ドォォォォォォォンッ!!!
天空から放たれた、数条の超高熱の光条。
それが、レイラへ突撃しようとしていたシルフを力任せに弾き飛ばし、急降下していたテンペストの精鋭たちの陣形を、一撃で消し飛ばした。
「――我が第一師団の空域で、随分と好き勝手に風を吹かせてくれるではないか?」
轟音の向こうから、重厚で威厳に満ちた声が響き渡る。
白髪交じりの髪を夜風になびかせ、光を収束させた巨大な魔導槍を携えて現れたのは、ドラグニル第一師団長――「極光の龍神」ヴァルキアスだった。
「ヴ、ヴァルキアス様……!?」
レイラの目が驚愕に見開かれる。
彼はレイラの直属の上司であり、その鋭い洞察力ゆえに、裏でガロウと繋がっていることが露見すれば即座に処刑されるであろう「最大の壁」だった男。
そして、イグニス王とは500年来の主従関係にあり、かつて白竜アルヴァが生きていた頃から仕え続けている「軍神」である。
ヴァルキアスは、深淵の闇に呑まれて変貌したイグニスの凶行を、決して良くは思っていなかった。
しかし、王への絶対的な忠誠という重い軍律が、彼の足をこれまで縛り続けていたのだ。
だが今、正気を取り戻した覇王の咆哮を、そしてこの窮地を聞きつけ、軍神が本来の威厳を取り戻して戦場へ復帰した。
「シルフと言ったか。テンペストの風がどれほど速かろうと、我が主の頭上を汚すことは許さん。……光の速度に、ついてこられるか?」
ヴァルキアスが魔導槍を構えた瞬間、彼の周囲の大気が、超高熱の極光によって白銀に染まる。
イグニスへの絶対忠誠を誓う古強者の参戦に、シルフのクールな顔が初めて引きつった。




