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④上空乱戦ー1

 バルドムからの通信を終えた覇王イグニスが、半壊したバルコニーから熱い視線を上空へ向けた、その時だった。

マグマリアの赤茶けた雲海が、一筋の鋭烈な「蒼い光」によって真っ二つに切り裂かれた。

  

テンペスト第一近衛師団長、「神速の蒼翼」シルフ。

  

 超薄型の軽量鎧を纏い、自身の速度を光速の手前まで底上げした彼女の突撃は、迎撃の隙すら与えない。

王宮の屋根がその風圧だけで爆散し、凄まじい衝撃波が城内を揺らす。


(非合理な命令なのは分かっている。だが、アレンという少年を回収し、他を消滅させるのが王命……!)

 シルフが超高速のまま、王宮の最奥へとその牙を剥こうとした、その瞬間。

 

――ガギィィィィィンッ!!!

  

 鼓膜をへし折らんばかりの激しい金属音が、轟音の鳴り響く上空に炸裂した。

 シルフの神速の突撃を、真正面から受け止めた一振りの細剣。

それを構えていたのは、かつてイグニスの本陣を守る最精鋭・第一師団の「遊撃隊長」でありながら、王の狂気に絶望して祖国を裏切り、救った竜神族の女性――レイラだった。


「――お前か、レイラ。我がテンペストの『風』を阻むか、ドラグニルの犬が。」

 刃を交えたまま、シルフのクールな瞳がレイラを射抜く。


「私はもう、狂った王の操り人形ではない! シルフ、お前こそ気づいているはずだ! ゼピュロス王の命令が、愚策であり、いかに歪んでいるか!」

 レイラは叫びながら、細剣を力任せに跳ね上げる。

かつてレイラは、イグニスが深淵の闇に呑まれ、亜人の女子供を灰にせよと命じる姿に絶望した。

だからこそ、同じようにゼピュロス王の変貌と非効率な虐殺命令に疑問を抱いているシルフの「迷い」を、剣筋から敏感に感じ取っていた。


「……王の数式は絶対だ。バグなど存在しない!」

 シルフは自らの胸の葛藤を圧し殺すように冷たく言い放つと、空中を蹴って一度後退。

直後、その姿が視界から完全に消失した。

 ドッ、と空気が爆ぜる。

光速の手前にまで加速したシルフの軌跡が、上空に無数の蒼い残像を描き出す。


(いったいどこだ……。カイル、お前の知恵を借りるぞ……!)

  レイラは目を凝らし、かつて共にダブルスパイとして暗躍した親友、カイルの言葉を思い出していた。


『いいかい、レイラ。風の神速ってのは、空気の密度の歪みだ。目じゃなく、大気の「熱」の揺らぎを捉えるんだよ。』

 第三師団の主席魔導参謀でありながら、イグニスの焦土兵器計画を止めるために命を懸けた、あの軽薄で冷徹な平和主義者の教え。


「――そこかっ!」

 レイラは背中の竜翼を広げ、大気の熱を捉えて細剣を背後へと一閃した。

  

 激突。


シルフの超高速の刺突が、レイラの細剣の腹に火花を散らして弾かれる。

「私の速度に、反応しただと……!?」

驚愕するシルフを、レイラは鋭い眼光で見据えた。


「シルフ! 私達はかつて、反乱を通して真の正義を学んだ! イグニスの狂気を止めるために、反旗を決意した者達と手を組んだんだ! お前も、その曇った目で王の命令に従い続けるつもりか!」

 

 王宮の地上では、顔に大きな火傷を持つ黒狼の獣人ガロウが、鋼鉄の義手をきしませながら、レイラの上空戦を冷徹に見守っている。

 かつてレイラに命を救われ、カイルと共に取引をしてダブルスパイの関係を結んだレジスタンスの将。

彼の存在こそが、裏切り者と呼ばれたレイラの、今の強さの証明だった。


「私は……、私は騎士だ! 王の駒として、戦場を駆けるのが私の矜持……!」

シルフの声が、激しい風の中で初めて揺らいだ。

しかし、騎士のプライドが彼女に撤退を許さない。

シルフは周囲の風の魔力を極限まで圧縮し、レイラを完全に消滅させるべく、さらなる加速の構えをとる。

 天空を舞台にした、革命の翼と、盲信の蒼翼の決戦。

 二人の竜神族の女傑が、マグマリアの空で再び交錯しようとしていた――。


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