③緊急通信
地中強襲別動隊の乱入が引き起こした凄まじい爆音と土煙。
それが、ニルヴァの完璧な防空数式を一時的に狂わせ、ハヤテの『真空の檻』に確かな亀裂を生じさせていた。
「ハァ、ハァ……ッ!」
肺に飛び込んできた冷気混じりの空気を乱暴に吸い込み、バルドムは辛うじて立ち上がる。
別動隊が稼ぎ出したのは、わずか数十秒の空白。
しかし、影の役目を担う彼にとって、それは十分すぎる時間だった。
バルドムは『夜帷』の袖から、赤黒く脈打つ小さな魔石を取り出した。
マグマリアの王宮、それもイグニス王へと直接繋がる、最高機密の暗号通信魔石である。
彼は血の混じった唾を吐き捨てると、魔石に指先を押し当て、自身の魔力を込めて起動した。
「――イグニス様。第四師団長バルドムです。聞こえますか?」
ノイズの向こうから、地響きのような低い、しかし確かな覇気を孕んだ声が返る。
『……バルドムか。国境の手際はどうだ。』
「状況は最悪、かつ……これ以上ない好機です。」
バルドムは周囲の戦況に鋭い視線を走らせながら、早口で、しかし冷徹に現状を伝えた。
「カイルの術式は正確でしたが、敵の警戒網はそれを上回っていました。現在、テンペストの『天嵐近衛騎士団』が迎撃に出陣。
第二師団長ニルヴァ、および第三師団長ハヤテが国境警備塔にて、我らの退路を完全に断ち切っております。」
『何だと……?』
「ですが、先ほど地中からレジスタンスの別動隊が合流。現在、ニルヴァの防空結界の基部を物理破壊すべく、激しい乱戦に突入いたしました。敵の陣形は乱れています。
……そして、最も警戒すべき報告が。」
バルドムは上空を見上げ、雲海を割ってなおも加速する「蒼い一筋の閃光」を凝視した。
「第一師団長『神速の蒼翼』シルフが、こちらの本隊を無視し、超高速でマグマリア方面へと単独突撃を開始しました。目的は恐らく、アレン様の回収、および王宮の壊滅。……数分のうちに、そちらへ到達します。」
魔石の向こうで、イグニスの息を呑む気配がした。しかし、覇王の口から出たのは、焦燥ではなく獰猛な笑みだった。
『……クク、ハハハ! テンペストの風王め、我が首を飛び越えて、アレンを狙いに来たか。面白い。
バルドムよ、そのまま国境のトカゲどもの首を統合しろ。王宮の『風』は、この俺が直々に叩き落としてやる!』
「御意に。……武運を。」
通信が切れると同時に、魔石が役目を終えて砂のように崩れ落ちる。
バルドムは再び短剣を逆手に握り直し、土煙の向こうで魔導杖を掲げるニルヴァの背後へと、音もなくその影を滑り込ませた。




