②危機一髪の援軍
カイルの術式をへし折り、バルドムたちの退路を断ったのは、第二近衛師団長、「天障の智将」ニルヴァだった。
「この術式ログ、確かに見事な計算だ。だが、我が防空網の数式を書き換えるには数手足りん。」
ニルヴァは魔導杖を静かに地面に突き立て、冷徹な目でバルドムたちを見下ろしていた。
彼の背後には、なぜか竜王ネロが治める常夜の竜王国の紋章を衣装につけた竜神族たちが数人、監視のように控えている。
ニルヴァ自身、実のところテンペストの国政に数百年前、突然介入してきたこの手先たちを酷く嫌悪していた。
しかし、これがゼピュロス王の「高度な計算」によるものなのだと、自分に言い聞かせるようにして感情を殺している。
「捕縛、または抹殺。どちらでも構わん。我が結界の塵となれ。」
ニルヴァの合図と共に、大陸一と称される防空結界から、自動迎撃の光条がバルドムたちへ降り注ぐ。
さらに不運なことに、この国境警備塔には第三近衛師団長、「千刃の風使い」ハヤテもいた。
彼は隻眼の奥に仄暗い虚無を宿し、背負った多数の透き通るような短剣を虚空へと解き放つ。
「王の命令だからね。みんな、ここで窒息して消えてよ。」
ハヤテの操る『断頭の暴風』が千発同時に放たれ、広範囲の酸素が瞬時に奪い去られる。
「く、は……っ!?」
退路を断たれ、完璧な結界の光条と不可視の刃に包囲された第四師団の隠密班、そしてレジスタンスの精鋭たちが次々と膝を突く。
バルドムもまた、防魔隠密衣『夜帷』で風をいなしきれず、真空の檻の中で圧倒的な窒息の苦しみに視界を火花で散らせた。
完全に嵌められた。
退路はなく、頭上からは神速の蒼い光――第一近衛師団長シルフまでもが、最前線へ突撃してこようとしていた。
万事休す。
誰もが死を覚悟したその瞬間――。
――ズ、ズズ……ッ!!
ニルヴァの構築した完璧な「大陸一の防空網」の、そのさらに『真下の地面』が、凄まじい地鳴りと共に爆散した。
「――おいおい、風の鳥公ども! 上ばかり警戒して、足元が留守になってるぜ!」
吹き荒れる土煙の中から現れたのは、巨大な魔導掘削艇と、そこから飛び出してきたレジスタンスの地中強襲別動隊だった。
先頭で岩石を纏った巨大な戦斧を掲げるのは、レジスタンスでも一、二を争う荒くれ者の豪傑ドワーフのグラン。
さらにその後方からは、地中から風の結界の「基部」を直接物理破壊するための、新たな協力者たちの姿もあった。
「バルドム!俺たちの隊長と 覇王イグニス様からお前の救援を任された! ここは俺たちが食い止める、お前たちはその影で風の目を突け!」
地中からのまさかの奇襲に、冷徹だったニルヴァの目が初めて驚愕に見開かれ、ハヤテの不可視の刃が土盾によって弾き返される。
絶体絶命の戦場に、逆転の土煙が舞い上がった。




