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カイルの独白①

 深夜の第三師団、主席魔導参謀室。  

地脈の熱エネルギーを感知する魔導端末の微かな駆動音だけが、静寂に溶けていた。


「……役者は揃った。だけど、あまりにもパズルのピースが歪(いびつ)すぎる。」 

 カイルは外套を椅子の背にかけ、冷えたコーヒーに口をつけながら、空間に投影された幾つもの魔導数式と大陸地図を睨みつけていた。 

彼の視線の先にあるのは、レジスタンスに流した軍の機密情報。

そして、独自に解析した白銀の少年——アレンの右腕のデータだった。

 

「右腕の炉心は、白竜の『心臓』と融合し、同調し合っている。……だが、そもそもおかしいだろ。いくら白竜の力を受け継ぐ後継者として選ばれたからって白竜の力がこれほどまでに自然で安定した状態で人間の肉体に宿っている?どんな器だったとしても人間に竜の力を扱うことは難しい....いやできないはずだ。」 

 カイルは指先で宙をなぞり、思考を整理するように、この世界に隠された「不可解な謎」を書き出していった。


①『深淵の闇』の正体

 「まず、彼の肉体(器)白竜の力を執拗に狙う『深淵の闇』。世間じゃ御伽話の悪霊か何かに思われているが、魔導幾何学的に見ればあれはただの自然発生したエネルギーじゃない。明確な意志と、世界そのものを侵食する強烈な『指向性』を持ったナニカだ。

……まるで、この世界のシステムそのものが生み出した『拒絶反応』の塊、あるいは、かつて世界から抹消された『古い神話の残滓』。あれがアレン様を『器』として求めているのは、彼の失われた『禁忌のミドルネーム』が、深淵の闇をこの現世に完全定着させるための『鍵(コード)』だからじゃないのか?」





②『白竜王』の沈黙と孤立


 「そして、第二の疑問。なぜ『白竜』は、イグニス様を含む他の五竜王に、深淵の闇の脅威や聖地の封印について一切知らせなかった?竜王たちが結託していれば、深淵の闇などとうに滅ぼせたはずだ。それをしなかった……いや、できなかった理由は一つしかない。白竜は、他の竜王たちを『信用していなかった』んだ。もしかすると、深淵の闇を呼び込んだ元凶、あるいはそれと結託している裏切り者が、五竜王の中にいると確信していたから。だからこそ白竜は、誰にも真実を告げず、ただ一人で聖地を封印し、その鍵(アレン)を隠すしかなかったんだ。」


③『禁忌の書状』と『聖地の歪み』

 「だが、最大にして最悪の謎はここからだ。すべての始まりは、我が国のトップに届いたあの『禁忌の書状』。白竜の封印の地を記し、イグニス様に聖地の綻びのこと、アレン様らしき少年が聖地から連れ出されたことを記したあの差出人不明の書状。

……一体誰が、そんな真似をした?イグニス様やバルドル師団長も知らない様子だったが、そもそもイグニス様は洗脳されていたから分からなかったのか?それに誰も入れないはずの聖地の結界から『弾き出された』と言っていた。

だが、逆だ。結界に人為的な『歪み』を生じさせ、アレン様を聖地から連れ去った、あるいは外へ逃がした者が確実にいる。その人物こそが、彼を拾って育てたというあの男——『バルド』なんじゃないのか?ただの人間が、聖地の境界近くで幼子を保護できるはずがない。バルドは何者だ?なぜアレン様の正体を知りながら、彼をひっそりと守り、戦い方を教え込んだ?バルドはそもそも師匠の知り合いで傭兵だったんだろ?師匠もあまりそこの情報は知らないみたいだったし。それとも、彼を世界の表舞台に引きずり出すために配置された『観察者』……あるいは、すべての糸を引く『黒幕』そのものなのか……?」


「……はは、そんな仮説は笑えないね。」 

カイルは自嘲気味に笑い、手元の端末の画面を消去した。 

導き出された推論は、どれもこの世界の崩壊を予感させるものばかりだった。

しかし、彼の冷徹な平和主義者の血は、恐怖ではなく、奇妙な高揚感に湧き立っていた。

「真実……本当は、もっと巨大な神話の掌の上で踊らされているだけかもしれない。アレン、君の失われた名前、存在が、この世界の絶望の引き金になるか、あるいは——」 

カイルは窓の外、黒く淀む北の夜空を見上げた。 

「ボクは、不合理な結末(バッドエンド)が大嫌いなんだ。世界が溶けるのも、誰かが仕組んだ神話の通りに破滅するのも、どちらも反吐が出るほど美しくない。」 

カイルは立ち上がり、机の上の魔導端末を無造作にポケットへねじ込んだ。

迷いはなかった。

彼がアレンたちという「不確定要素」に賭けたのは、単なる気まぐれではない。

それこそが、この歪んだ盤面をひっくり返す唯一のイレギュラーだと確信したからだ。


「待ってなよ、白銀の主役(アレン)。君が自分の『本当の名前』を知ったとき、絶望して泣き出すか、それとも運命ごと世界をぶん殴るか……。 特等席で見物させてもらうために、ボクもしっかり『参謀』としての仕事を全うさせてもらおうか。」 


カイルは不敵に微笑むと、気配を消して、暗い執務室を後にした。

最後まで読んでいただきありがとうございます♪

 明日からエピソードストックの関係で更新頻度が下がりますが、毎日投稿は続けるので引き続き応援よろしくお願いします!

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