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幕間⑨「仕返しの算段と計算破綻?」ー2

 その頃、王宮の作戦室。

カイルは、円卓の上に何十重にも展開した青白い魔法陣の文字列をスクロールしながら、優雅に温かいお茶を口に運んでいた。


「――うん、テンペストの風の結界の周波数の解析は、ほぼ98パーセント完了だね。これなら、僕の美しい大隊長殿の飛竜の翼を傷つけることなく、最も効率的な軌道でアエロガルドへ――」

 バン!!! と、作戦室の重厚な黒鉄の扉が、理不尽なまでの物理的怪力によって、文字通りベースごと吹き飛ばされた。


「おやおや、一体何の爆発の計算ミスだ――」

 カイルが驚いて眼鏡のブリッジを押さえながら振り返った瞬間、彼の視界は、怒りによって文字通り「烈火の如く」燃え盛る、広大な翼によって完全に埋め尽くされた。


「カイル・ゾルディン――ッ!!!」

 そこに立っていたのは、顔を耳の裏まで真っ赤に染め上げ、ヴァルキアスの魔導槍から、バチバチと超高熱の白光レーザーの火花を撒き散らしているレイラだった。

そのプレッシャーは、先日の常夜の巨神をも凌駕しかねない、本物の「武門の怒り」そのものだった。


「ひ、大隊長殿……!? 君、魔力残量がほぼゼロのはずなのに、なんでそんな神話級の出力を叩き出しているんだい!? 計算が合わないよ!」

 カイルは生まれて初めて、本気の冷や汗を流しながら椅子ごと後方へと飛び退いた。


「黙りなさい! 君が次のテンペストの作戦で、私と二人きりで狭い隠密空間に閉じこもるような、破廉恥で非効率なトラップを術式に組み込もうとしているログは、すでに完全に検知されているわ!!」

「は、い……!? 狭い空間……破廉恥……? 何を言っているんだい、そんな非合理的な数式、僕の脳細胞が組み立てるわけが――」


「言い訳は無用よ、この魔導オタク!! 私の翼の治療にかこつけて、余計なデータを収集していたのでしょう! ドラグニルの軍律の重さ、その身に刻んで、システムごと再起動(デリート)してあげるわ!!」

「待って、レイラ! 誤解だ、それは僕の計算式じゃない! 誰がそんなバグの情報を君に吹き込んだんだい!?」

 カイルは必死に手を振るが、レイラの魔導槍の先端には、すでに空間を融解させるほどの絶対的な光が収束していた。


「――問答無用ッ!!」

 

ドガァァァァンッッ!!!


 作戦室の窓から、凄まじい白光の爆発と、カイルの「ぎゃああああああああっっ!? 術式の上書きが間に合わないよおおう!!」という、情けない悲鳴がマグマリアの朝空へと木霊していった。




 作戦室から少し離れた回廊の窓際。

エルザは、遠くから聞こえてきた大爆発の音とカイルの悲鳴を耳にしながら、フッと、これ以上ないほどに晴れやかな笑みを浮かべた。


「ふふん、私の勝ちね、眼鏡男。」

 エルザは手首の鱗を満足げに光らせ、自らの大剣の柄をポン、と叩いた。

カイルにちょっかいを出された仕返しは、これで完璧に果たされた。あいつの冷徹な頭脳の計算式を、レイラという最強の燃料を使って内側から完全にバーストさせてやったのだ。これでもう、次の旅路の道中で、あいつが自分とアレンの関係をからかってくる余力など残っていないだろう。


「何が勝ち、なんだ? エルザ」


「――っ!?」

 突如として、背後の影から響いた、低く、どこまでも冷徹な声に、エルザはびくぅぅぅっ!!! と身体を跳ね上げた。

振り返るとそこには、純白の魔導衣の袖をなびかせ、血の赤眼を静かに開けたアレンが立っていた。

彼の右腕の炉心は、完全に最適化された白竜の輝きを静かに放っている。

「ア、アレン……!? 君、いつからそこに……っ!」

エルザの顔が、今度はカイルの時とは全く異なる、純粋な乙女の動揺によって瞬時に真っ赤に染まった。


「今、作戦室の方から強烈な火の魔力の爆発を感じたから、見に来ただけだ。」

 アレンは赤眼を作戦室の方角へ向け、それからエルザの真っ赤になった顔を、じっと見つめた。


「レイラがカイルを物理的に排除しようとしているな。……エルザ、お前、また手首の鱗が熱く発光しているぞ。顔の血行も異常だ。……カイルの治療の計算式が、まだお前の体内の竜炎に馴染んでいないのか?」

アレンは本気でアレンの身を案じるように、至近距離まで顔を近づけ、その血の赤眼の奥にある、琥珀色の眼光を一直線にエルザへと向けた。


「あ、う……、ううん、何でもないのよ、アレン! これはね、ちょっとした『環境保全』のための、私なりの計算の整理だから……っ!」

 エルザは真っ赤な顔のまま、アレンのあまりの不器用な近さに心臓を爆発させそうになりながらも、その温かい手を、無言で彼の手へとそっと重ねた。


「……そうか。お前が問題ないと言うなら、俺は何も言わない。……行くぞ、エルザ。ガロウたちも待っている。」

「え、ええ……! どこまでも、君の隣で剣を振るうわ、アレン!」

 カイルへの完璧な仕返しを終え、二人の絆をより一層強い、誰にも引き裂けぬ黄金の焔へと変えたレジスタンス連合軍。

彼らはこれより、それぞれの名誉、血統、そして胸に秘めた愛のすべての因縁を懸けて、次なる冷徹なる合理主義の王ゼピュロスが待つ『嵐の竜王国テンペスト』への道を、力強く踏み出すのだった。


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