幕間⑤「実年齢は何歳?」
アレンの衣服に端を発した、レイラの「空間隔離魔法」と実は重度の着せ替えマニアであるというギャップに一通り苦笑したあと、カイルが、
「おやおや、隊長殿。そうやってすぐに若い僕たちを怖がらせようとするんだから。」
と、わざとらしく肩をすくめた。
「若い、だと? どの口が言ってやがる。カイル、テメェらは確かもう百歳を疾うに過ぎてただろ。軍の主席魔導参謀なんて大層な肩書を持っちゃいるが、世間じゃ立派なおっさん、いや、じじいの領域だ。」
ガロウが鼻で笑うと、カイルは「ひどいなぁ!」と大裟裟に胸を押さえた。
「まだ百十二歳、ですよ! 1000年以上の寿命を持つ僕たち【竜神族】からすれば、隣のレイラ大隊長と同じ、働き盛りのピチピチな同い年です。人間でいえばまだ二十代半ばの若者さ。それに、そんなことを言うなら、ガロウ。あんたはいくつになったんだい? 見た目はもう完全に隠居間近の老兵だけどさ。」
「ガフッ、俺はまだ三十五だ! 亜人(獣人)の年齢を、百歳超えの長寿の竜神族の基準で測るんじゃねえ。働き盛りってなら、俺の方がよっぽど全盛期だ、このモヤシ野郎が。」
三十五、というガロウの言葉に、アレンは少し意外そうな顔をした。
顔の左半分を覆う大きな火傷の痕、歴戦の将としての凄まじい威厳、精度高く作られた鋼鉄の左義手。
そのあまりに無骨で完成された佇まいから、アレンは勝手に四十か五十を過ぎたベテランなのだと思い込んでいたのだ。
「……なぁ、エルザ。ガロウって、思ったより若いんだな。それに、カイルとレイラの方が……その、圧倒的に年上なんだな。」
アレンが小声で耳打ちすると、エルザはどこか誇らしげに、だが同時に少しだけ複雑そうな表情で頷いた。
「ああ。ガロウがバルザックに故郷を焼かれ、幼い私を拾ってくれた時、この人はまだ二十代の半ばだったんだ。自分のことで精一杯なはずの若さで、義足をきしらせながら私を育ててくれた。……だからこそ、私はこの人にどれだけ感謝しても足りないんだ。そして、あそこの竜神族の二人は……見かけこそ私たちと変わらない二十代にしか見えないが、軍の上層部で数十年にわたって切磋琢磨してきた本物の化け物(天才)たちだ。生きてきた年数が違う。」
「なるほどな……」
アレンは納得すると同時に、目の前の大人たちの年齢差と、それぞれの生き様に思いを馳せた。
カイルとレイラは、実年齢百十二歳。
見た目は瑞々しい二十代の人間そのものだが、一世紀以上の時間を共に生き、長年ドラグニル軍の過酷な権力闘争の中で生きてきた。
表舞台で真の正義を貫こうとする「光」のレイラと、裏社会で頭脳を巡らせる「影」のカイル。
その関係性は正反対だからこそ、百年の時を経て背中を預け合える『光と影』の絶対的相棒へと昇華しているのだ。
「ちょっと、そこの年少組。何をこそこそと話しているのかしら。」
二人の私語に気づいたレイラが、大真面目な顔のまま、どこか拗ねたように腕を組んだ。
「カイルの言う通り、私とカイルは百十二、ガロウは三十五だ。歳の差など、イグニス王の狂気を止めるという大義の前には些細な問題だろう。それとも何か? 十代の君たちから見て、やはり私たちは……その、お婆さんとお爺さん、に見えるのか?」
「いや……見た目は完全に同世代にしか見えないから、正直脳がバグりそうだけど……」
アレンが素直な感想を漏らすと、レイラはどこか満足そうに、ほんの少しだけ嬉しそうにフッと口元を緩めた。
「フン、当然だ。私は第一師団の遊撃隊長だからな。美貌の維持も戦術の一環だ。」
「あーあ、レイラってばアレン君に同世代って言われて嬉しそう。百歳超えてるのに可愛いねぇ。」
「カイル、貴様……っ! 次の一言を口にしたら、今度こそ処刑するぞ!」
「はいはい、お熱いことで。」
ガロウがやれやれと首を振り、再び地図を鋼鉄の指先で叩いた。
カイルとレイラの、一世紀の経験を宿した若き最高位の知性と武。
ガロウの三十五歳という歴戦の経験。
遠い血縁である白竜への帰属意識を、人間であるアレンへの信頼に変えた二人の「影の守護」。
そしてアレンとエルザの十代の爆発的な力。
チグハグに見えるが、なんともバランスが取れたパーティの結成だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
少しでも『面白い』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】を★★★★★にして応援していただけると、執筆の励みになります!




